君にありがとう

「ねえ、英二」
 部屋のドアがノックされて、下の姉がドアを開けて、自分を呼ぶ。
「何だよ? 姉ちゃん」
「……ちょっと、協力して欲しいんだけど? 今、良い?」
 可愛く、上目遣いに言って来る姉に、何故だか悪寒を感じた英二は、思い切り首を横に振って、取ってつけたように、教科書を取り上げる。

「ダメ! オレ、今宿題中だし」
「嘘つきなさい! さっきまで雑誌読んでダラダラしてたでしょう!」
「……だから、これから宿題すんの!」
「良いから来なさい!」
 頼みから命令に変わってる辺り、既に自分に拒否権がないと言うことになる。
「何だよ、一体!!?」
 首根っこをつかまれて引きずり出されて、英二は姉の部屋へと連行された。

「……! ま、まさか……また?」
「しょうがないでしょ! 私だってね、中学生を連れて行きたくなんかないんだけど、代役なんて急遽立てること出来ないのよ!!」
「……だ、だから、これで何度目か判って……」
「その度に、あんたに報酬支払ってるでしょ! ほら、グズグズしないで、着替えて着替えて!」
「い、いやだ!」
「……」
 いつになく、強硬に首を横に振る英二に、姉は首を傾げた。
「じゃあ、暫く、朝ごはんの当番代わって上げても良いけど? もちろん、別に何か奢るわよ」
「……」
 いつもなら、これで食いついて来るはずなのに、英二は少し黙り込んで、返事をしない。
「英二?」

「――イ・ヤ・だ!!」


 拳を握り込んで、力強く言う英二に、ハッとした姉が意地悪く微笑んだ。
「ふーん……じゃあ、この写真、オチビチャンに見せて上げようか?」
「……へ?」

 取り出された一枚の写真。

 大きく目を見開き、わなわなと震える英二は、既に相手の術中に嵌っていた。
 そして、更なる弱みを増やす結果にしかならないことを、今現在強要されていたのである。










  ☆  ☆  ☆


「ちわっス」
 リョーマは、部室のドアを開けて、小さく挨拶を呟いた。
「オッス! 越前」
「よう、越前」
「やあ、越前くん」

 それぞれに、挨拶を返されて、リョーマは軽く頭を下げる。
 だけど、一番に挨拶して欲しい人が来ない。
 居ない訳ではない。
 ロッカーの前で、ノロノロと着替えをしている姿を確認している。
 いつもなら、着替えの途中だろうと、平気で自分を呼んで笑顔を向けて来るのに、今日は来ない。
 それだけで、リョーマの機嫌が、少し下降する。

 無言のまま、自分のロッカーに向かい、中に少し乱暴気味にカバンを入れると、英二が視線をこちらに向けた。
「……はあ……」
 自分を見て、深々と溜息をつく英二が、さらにリョーマの神経に障る。
「何それ?」
「へ?」
「人見て、溜息つくって何?」
「え? あ、いや、別に、おチビ見てため息ついた訳じゃ……」
「……」
 言い訳をする英二を、不信な目で見つめて、ふいっと視線を逸らして、黙々と着替え始める。
「あの、おチビちゃん?」
「……」
「だから、違うって! 別のこと考えてたからさー」
「……」
「……ねえ、おチビちゃんってばー」
ばん!
 乱暴にロッカーを叩きつける様に閉めて、リョーマはさっさと歩き出す。
「……おチビ〜〜〜」
「……少しは反省したら?」
 素っ気無く言って、あっさりと部室を出て行くリョーマに、英二は愕然と目を見開いて、次に項垂れた。




「……ホント、英二って、肝心な時に要領悪いよね?」
「要領が悪いんスか? 単に相性が悪いだけなんじゃ……?」
「ああ、そうかも知れないね」
「越前って、英二先輩のこと恋人として扱ってるようには見えないっすよね」
「不二〜!! 桃っ!!」
 怒鳴る英二も、だが迫力に欠けている。
「……冗談っすよ。英二先輩……」
「はあ……でもなぁ……これだけは、おチビに知られたくないよ〜〜」
 大きく息をついて、項垂れる英二に、不二と桃城が、キョトンと顔を見合わせた。

「何、一体どうしたのさ?」
「そっすよ。いつもの英二先輩らしくないっすよ?」
「……おチビ狙ってる二人には教えないっ! ってか言える訳ないじゃん」
「じゃあ、英二、誰にも相談出来ないね」
「……」
 あっさり返された不二の言葉を、英二なりに受け止めて、脳に浸透させて解釈する。

「どう言う意味だよ〜〜〜!?」

「言葉通りの意味。みんな越前くんのこと狙ってるの知ってるでしょ?」
「……〜〜〜〜〜良いよ。どうせ、相談したってどうにもならないし……」
 イジケモードに入って、グチグチと言う英二に、たまりかねたように、手塚が口を挟んだ。
「テニスをする気がないなら、帰っても良いぞ? だが、後日、グラウンドを30周してもらうがな」
「……げっ! やる気はあるよ!!」

 言いながら、ラケット片手に部室を飛び出した。


 そうして、リョーマの姿を探してコート内で、部活の準備をしているのを見て、声をかけるのを躊躇った。





「あ、いたいた! 英二くん!」
 能天気な女性の声に、英二はギクッとしたように肩を竦めてから、その方向を向いて、青ざめた。
「な、姉ちゃんの友達……?」
「憶えててくれたんだVvv」
「でも、本当に中学生だったんだねえ」
 当たり前じゃんと心の中で、突っ込みながら英二は、数歩後退った。
「何で、ここに?」
「……そうそう。今日はさ、夏海がガッコ来てないのよね。で、これ渡しといて欲しいんだけど」
「そう言えば、君に迫ってた木田くんが、次いでに、君にこれを渡してくれって言ってたんだけど」

 一人が、少し大きめの封筒を差し出し、もう一人は、小さな名刺を差し出して来る。
 姉への預かり物なら受け取っても良いかと、手を出したところで、自分より下方から、先に手が伸びて、名刺の方を取り上げられた。

「……木田晃一。誰っすか? エージ先輩?」
「げ……お、おチビ? あっちでコートの準備してなかった?」
「……してましたけど。こっちが気になったんで。……で、これ誰ですか?」
「……ね、姉ちゃんの知り合い。そう、姉ちゃんにこの名刺も渡すように頼まれたんだよ」
「えー? これは君にだよ? 英二くん」
 何とか取り繕うとする英二の努力を無駄にするかのように、名刺を持っていた女性が、否定を口にした。
「へえ……。コイツ、エージ先輩に気があるんだ?」
「……みたいなの。でも、さすがに英二くんが男の子だって気付いてはないけどさ」
「……え?」
「……あ、君、英二くんの後輩くん? 後輩くんに見せたら、先輩の威厳台無しかな〜♪ でも、見てみる?」
 言ってることと、やろうとすることが、はっきり言ってチグハグである。


 英二はこのまま、気が遠くなって倒れるか、一層、全ての記憶が消えてしまえば良いと、後ろ向きなことを考えてしまった。


「これ! 昨日の、合コンに来てた英二くんなんだけど。この隣が木田くんね」
 何も知らない姉の友人は、嬉々としてリョーマにその写真を見せていた。
「……へえ、エージ先輩ってこう言う趣味があったんですか?」
「……ちっがう! 姉ちゃんに無理矢理連れて行かれたの!! ただの人数合わせだよ!!」
「でも、この場に行ったんだ。エージは……」

 小さく呟かれたその言葉は、英二の耳にははっきり届かなかった。
 だけど。
 その語調が……。
 あまりにも小さく、弱々しいものだったから、英二はリョーマに問い返していた。

「おチビちゃん?」
「……ああ、練習始まる。罰走はごめんですから」
 そう言って、写真と名刺を英二に押し付けると、リョーマは軽やから足取りで駆け出した。
「あ、待ってよ! リョーマ!!」
「ああ、英二くん。これ! もしかして、私たち余計なことしたのかな?」
「……これは、姉ちゃんに渡しときますけど。でも、別に今日じゃなくたって、明日だって良かったはずなのに……」

 彼女たちが、わざわざ青学に来たのは、自分をからかうためとしか思えない。
 それでも、姉の友人だから……無理をしてでも付き合ったのだ。

「オレのこと、からかいたかったんなら、それは別に良いけど。リョーマ傷つけるんなら、もう来ないでよね」

 そう言って、一瞥をくれると、そのまま、コートの方へと駆け出した。





「やっば……英二くんってやっぱ男だったんだ」
「……同一人物とは思えないけど……」
「夏海も酷なことするよねえ」
「あんなにカッコ良いのに。女装させるなんて勿体無いことするよね?」





 などと言いながら、女子大生3人が帰ったことを、英二は当然知らない。








     ☆  ☆  ☆


「おチビ!」

 結局。
 柔軟の時も、ランニングの時も、打ち合いが始まってからはもっと、声をかける間もなくて。
 やっと重なった休憩時に、英二はリョーマに声をかけていた。

「……」
「……言い訳かも知れないけど、でも、本当にオレ、行きたくなかったんだよ」
「……」
「あの名刺の男だって、鬱陶しいだけで……。でも、おチビに会う前から、ちょくちょく小遣い稼ぎに、やってたことだったから……」
「……」
「おチビにバラすって……知られたくなかったんだ……」
「莫迦じゃないっすか?」
 リョーマはそう言って、それまで合わそうとしなかった視線を……初めて合わせた。


「おチビ……?」
「バラすって? そう言って、本当にバラされたからってどうだってんですか? オレは何も変わらない。エージは単に、自分のプライドを守りたかっただけなんだ」
「……!?」
「恥ずかしいから、情け無いから見られたくなかった? それは……結局、オレの前ではカッコつけてたいから、醜態をさらしたくないって言う、あんたのプライドだろう?」
「……」
「そのプライドを守るために、あんたはああ言う場所に、オレに黙って行ったんだ」
「……!」
「それって、オレに対する裏切りじゃないんすか? エージ先輩」

「あ……」
「……あんたは、オレを信用してなかったんだ」



 ハッキリと言い切って、リョーマはその場から離れた。
 英二には、それを追うことは出来なかった。



 図星だったから――
 自分の……自尊心の保身のため。
 リョーマに嫌われるかも知れないと言う名目を持って、自分のプライドを守ることだけを考えていた。

 リョーマが、そんなことで自分を嫌いになるかどうか。
 冷静に考えれば、判ることなのに……。


「オレって……ホント、莫迦……」






 自嘲気味に呟いて、英二は踵を返した。





     ☆   ☆   ☆



 桃城との打ち合いを終えて、リョーマは水飲み場で少し水を飲んだ後。
 コートを見返って、どこか不調気味の英二を見つめていた。




(傷付けられたからって、同じ刃をエージにも切りつけるなんて……オレもまだまだだね)

 言ったことを後悔している訳じゃない。
 でも……。
 もう少し、言葉を選ぶべきだったかも知れない。
 同じように傷付けてしまっては、結局、自分も英二がしたことと同じことをしたようなものだ。

「前向いて歩かないと、危ないぞ? 越前」
 その声に、ハッとして視線を前方に向けた。
 苦笑を浮かべて、大石が立っていて、リョーマは首を傾げた。
「今度はオレにぶつかるところだったんだよ。……こんなことばっかりだな」
 大石の言葉に、リョーマは少しだけ赤面して帽子のつばを下げて俯いた。
「英二と、喧嘩でもしたのか?」
「……別に」
「でも、英二も越前も……随分、落ち込んでるように見えるんだけどな?」

 落ち着いた優しい声音に、リョーマは小さく溜息をついた。

「比べるなんて莫迦らしいけど……。でも、エージ先輩と大石先輩が同じ年ってイマイチ、信じられない感じっすね」
「え?」
「それとも……大石先輩も、こと恋愛関係では、エージ並みに莫迦になったりするんスか?」
 先輩に対しての物言いではないが、他に言葉が見つからなかったんだろうと、推察する。
 口下手と帰国子女と言うことも手伝ってか、この後輩は言葉を綴ることがあまり得意ではないらしいから。

「そんなもんじゃないか? 越前だって、英二のことには莫迦になるだろう?」
「……」
 切り返されて、リョーマは口篭った。
「……侮れないっすね。……大石先輩と付き合ったら、楽だったかも」
 小さく呟いて、不敵な笑みを、その口許に浮かべる。



 本気ではなかった。
 話の流れの……例え話のようなもので。
 それが現実になるとか、望みとかそう言う訳では、決してなかった。




「……おチビ、それ……本気で言ってんの?」
 いつの間にか、打ち合いを終えた英二が、すぐ傍に来ていた。
「……」
 英二の声に、リョーマは別段慌てる素振りも見せずに、真っ直ぐに英二を見つめ返す。
「……おチビ?」
「だったらどうするの?」
「……っ!」

 ゆっくりと……英二が目を見開いた。


「越前……」
 さすがにマズイと思った大石が、口を挟むようにリョーマに声をかける。
「……本気だと……エージは思ったの?」
「……」
「……やっぱり、エージはオレを信じてない。エージはオレのことを、ちゃんと見てない」
 リョーマはそう言って、踵を返した。
「大石先輩……気分が悪いんで、帰るって……部長に言っといて下さい」

 そう言って、リョーマはコートを出て部室に向った。





「大石……」
 リョーマの姿が見えなくなって、英二がポツンと呟いた。
「……英二?」
「オレ、どうすりゃ良かったの?」

 信じてない訳じゃない。
 大好きで大切で、だから、カッコ悪い自分を知られたくなかった。
 情けない自分を見て、呆れられて、嫌われるのが怖かった……。


「……好きな人に、カッコ悪い自分を見られたくないって気持ちは、判らなくもないけど。格好に捉われ過ぎて、大事なことを見逃したら、本末転倒だと思うぞ?」
「……え?」
「……好きだから、カッコ悪いとこ見られたくない。出来ればカッコ良いとこだけ見てて欲しいってのは、英二の勝手な都合だろう? 第一、そんなことくらいで、変わる気持ちなんて、真実じゃないと思うし。それに……恋愛なんて、自分の一番カッコ悪いところを見せることだと思うけどな」
「……そ、そうなの?」
「カッコに拘る余裕があるのは……まだ恋に恋してる段階だよ。誰かを好きだと思ってそう思う自分が可愛いんだ。だから、格好に拘ってる。違うか?」
「……」
「オレとしては、たとえカッコ悪い自分を見ても、好きでいてもらえた方が嬉しいけどな。カッコ悪くて情けない自分を見ても、好きだって言って貰えたら、もっと自信が持てる……。それが、好きな人に対する信用にも繋がる気がするよ」
「大石」
「……自分の自尊心を守るか、相手の気持ちを守るか。本当に好きなら、どっちを選ぶべきだろうな? 英二」
「って言うか。英二散々、越前くんにカッコ悪いとこ見られてるじゃない? 何で今更気にするのさ?」
 不意に割って入った声に、英二がびくついたように、振り返った。
「ふ、不二? 聞いてたの?」
「聞こえたの……。英二は、カッコ悪いとこもカッコ良いところも、越前くんに見せてると思うけど? それでも、越前くんは君を選んだんじゃなかったのかな?」
「……あ」

 散々、醜態を晒して来た。
 好きだから。
 大好きだから、必死になってリョーマを捕まえようとして、情けない所も見せて来た。

 それでも、リョーマは自分を好きだと言ってくれていた。
 傍にいて、笑ってくれていたんだ。


「オレ、何か逆だよ。まだ、最初の頃の方が、なりふり構ってなかった……。何で、カッコなんか気にするようになったんだろう?」
「……まあ、確かに女装の姿を、恋人に見られるのは、限りなく恥ずかしいけどね」
「な、何で知ってるの?!」
「……前からやってたじゃない。あの時は、いい小遣い稼ぎになるんだーってかなり、乗り気だったけどね」
 そう言えば、そんな話を不二にしたことはあった。
 だけど、今回のことと、それを関連付けて考えるなんて……。
「不二って超能力持ってるの?」
「……そう思ってくれてても良いよ?」
 うっすらと目を開けて、不二が答えるのを見て、英二は慌てたように反転して駆け出した。

「大石! オレも体調不良で帰るって言っといて!」


 元気に言いながら、駆け出して行く英二を見送って……。


「相談には乗らないんじゃなかったのか?」
「……そのつもりだったんだけどね。あんまり、英二が莫迦だから」

 大石の言葉に、不二が苦笑を浮かべながら答えた。


「それに……。越前くんが、英二を望んでいる以上、手を貸さない訳には行かないじゃない?」
「そうかもな」


 そんなことを言って、二人は手塚の元に、英二とリョーマの早退を告げに向った。




 もっとも。
 英二は、明日の朝練で、グラウンド20周を言い渡されたりするのだが、それはまた別の話。(笑)






      ☆  ☆  ☆



 自宅の裏にある寺の鐘突き台の石壁に、いつものようにボールを打ちつける。




 こうしていると無心になれるから。
 何も考えなくて良くなるから。


『おチビちゃん♪』

 嬉しそうに楽しそうに、オレを呼ぶ貴方が好きだ。

『リョーマ!』

 真剣な表情と声で、いつもより低い声で、呼ばれるとドキドキする。


『バラすって言うから……おチビに知られたくなかった……』

 オレを信用してない。



 オレの知らないところで、知らない格好して。



 時間を過ごした……。






 ムカツク
 腹が立つ
 寂しい
 悔しい
 泣きたくなる






 なのに……





 どうして……?












 石垣の壁は、ボールがどこに跳ね返って来るのか、予想が付き難い。
 それを、全て返すために、ラリーを続けるために、リョーマの足は止まることを知らないが如く、走り続けていた。



「うわ……っ」
 さすがに薄暗くなって、ボールが見辛くなったところで、らしくない空振りをして、バランスを崩した。
 そのまま、地面に倒れ込み、リョーマは次に来る衝撃に身構えた。
 だが、衝撃を感じず、それどころか、暖かく柔らかなものに、包まれていることに気付いて、ハッと起き上がった。

「間一髪?」
「エージ?」
「……怪我してない? リョーマ」
「……してないッス」
「そう? 良かった」



 リョーマが立ち上がったところで、英二も反動をつけて起き上がった。

「どうしたんスか? いつからここに?」
「……んーと、一時間くらい前からかな?」
「ずっと……黙って見てたんスか?」
「そうなるね」
「……何か用っスか?」
「リョーマは……オレのこと信じてる?」
「……? 何を……」
「オレがあんな格好して、合コンとか行って……リョーマにバラされるのがイヤで、姉ちゃんの言うこと聞いて……自分のことしか考えてなかったオレのこと……それでも信じてくれてる?」
 英二の言葉を聞きながら、リョーマは考え込むようにラケットを動かして、ボールを叩き上げた。
 ポンポンと、ガットの上で弾ませながら、
「……信じるとか信じてないとか……そう言うんじゃなくて……」
「え?」
「――オレのこと全然信用してなかったんだって、ショックだったけど。……それで、あんなとこ行って、浮かれてはしゃいでたんだろうなって思うとムカツクけど……」
「別に、浮かれてもはしゃいでもないんだけど……」
 英二の言葉はあえて無視して、リョーマは自分の言いたいことを続けた。
「でも、それでも貴方を好きだと思う自分が悔しい……」
「え?」
 リョーマに無視されて、いじけていた英二が、その言葉にハッとしたように、顔を上げた。




「隣にいてくれるのは、貴方じゃなきゃ嫌だと思う自分が情けないっす」
「……で、でも、大石の方が……」
「本当に、本気にしたんスか?」
 いささか、呆れたように言うリョーマに、英二はキョトンと問い返した。
「……リョーマ?」
「――ムカツクし、悔しいし、腹が立つし、情けないし、惨めだし……。悲しいし、寂しいし、泣きたくなるけど……」
「……」
「……それでも、貴方じゃないとイヤだなんて、自分でもどうかしてると思う……」

 一際高く、ボールを打ち上げて、右手でキャッチする。
 そうして、英二に向かって苦笑を浮かべて、



「こうして、貴方が来てくれて、貴方に庇って貰って、貴方を感じられて……嬉しいから」



「リョーマ……」

 大きく目を見開く英二に、リョーマはもう一度苦笑浮かべて、自分から抱きついて見せた。

「リョーマ……ありがと」
「……何それ? 礼なんか言われることしてないけど?」
「……うん。でも……やっぱり、ありがとうだよ。リョーマ」


 まだ、好きでいてくれてありがとう。
 オレが傍にいることを……許してくれて、ありがとう。


「あ、明日付き合ってくれる?」
「え? 良いけど……リョーマ?」



 にんまり笑うリョーマに、英二は何故か悪寒を感じて、身震いしていた。








    ☆   ☆   ☆


「おーちーびー〜〜〜!!」
「何?」
「何で、オレがこんな格好しなきゃなんない訳?」
「……オレは、エージが男の格好のままで、オレが女装して、英二の彼女だから手を出すなって言うって言ったのに、反対したのは、エージじゃない」
「……うっ」
 だって、女装したリョーマが無茶苦茶可愛くて、誰にも見せたくなかったんだとは、言えない。
 言えばきっと、鉄拳制裁が待っているから(笑)


「あ、来た」
 英二が呟き、リョーマは不敵な笑みを浮かべて、英二の手を取った。
「でも、やっぱ似合うね、エージって、そう言う格好。だから、もう二度としちゃダメだよ?」
「……うぇ?」


 背伸びして……。
 リョーマは、掴んでいた手を引っ張って、英二の唇に口付けた。
 勿論……待ち合わせをしたあの男に、見せ付けるように……。


「これ、オレのなんで、手を出さないで下さいね」
「……リョーマ〜〜〜〜!!!」

 自分の立場に悩む英二の腕を引いて、リョーマは颯爽とその場を後にした。

あの……これ菊リョですか? リョ菊ですか?
私、判断に困ってるんですけども;;

気持ちはすっごく菊リョなのに、結果は物凄くリョ菊ちっく♪←……

ってか、リョーマさん照れない段階で既に、攻めのよう;;;;;;
ああ、こんなんで菊リョなんて言って良いんでしょうか?

でも、大石と不二にはちゃんと受けっぽいんだよねえ(−−;)
まあ、攻めに女装させた私も私だが(遠い目)
それが既に間違いの元……(汗)

可愛いリョーマさん書けなくて申し訳ないです(−−;)
いっそリョ菊にって思うんだけど、でも、リョ菊って考えると甘い気がするんですよね。

このままどっちつかずで行くのか?
せめてもう少し、攻めらしくなって下さい、英二先輩;;
後、勝手に英二の姉ちゃんの名前、入ってます。
下の姉が夏海。上の姉が春海。
で、上の兄が誠二、下の兄が玲二。
……いつか本物が出て来た時に訂正します〜

三男なのに、『二』がつくのは何故か? ってので。
ウチの父親は三男だけど『一』がつくよってなことで。
父の兄二人も『一』がついてるんです。
で、英二んとこはみんな『二』が付いてるってことで(笑)