幸せについて本気出して考えてみた

「何、ボーッとしてんの?」

 不意にかけられた声に、英二は、慌てたように振り返った。

 さっき、休み時間終了を告げるチャイムが鳴った筈で。
 何で、ここにこのコが来るんだろう? と英二は他人事のように考えていた。

「どうしたんスか? エージ先輩?」
 リョーマは、ジーッと自分を見つめる英二を不審そうに見つめ返して問い掛ける。

「……あ、何でここに、おチビ来たのかな? って」
「来ちゃダメだったっスか?」
 英二の言葉に、思わず、拗ねたように言うと、英二は慌てて首を横に振った。

「そうじゃなくて!」
「じゃあ何?」
「……今さ、おチビのこと、考えてたから……。『今、何してんのかな〜』ってボーッと……」
 そしたら、目の前に居るし。
 ビックリした。

 と、英二は笑った。


 その言葉に、リョーマは頬を染めて俯くと、そのまま英二の横に座り込む。


「で? 何しに来たの? もう、授業始まってるっしょ?」
「エージ、人のこと言えないじゃん」
「……そりゃ、まあ、そうだけど」
 座り込んで、自分に凭れて来るリョーマに、英二は目を丸くした。

「折角エージに会えたのに……寝るの勿体無いけど……」
「何? 寝に来たの? やばいじゃん、こんなとこで寝ちゃ!」
「そう?」
「そうだよ〜! それなら、部室の方がまだマシだって!」
「……何それ?」

 リョーマが軽く笑った。
 ふと……。

 英二の心に……何かが反応する。




「どうしたの?」
「……ん。ちょっと今、何か感じたんだけど……」
「?」
「何か、良く判んないや……。眠いの? おチビちゃん」
「んー……ちょっと。次、英語だし、何かかったるくて……」
「授業出てても寝てるんだろう?」
「……退屈なんだもん」



 リョーマの言葉に、今度は英二が笑う。


「あ……」
「ん? どしたの?」
「……オレも、今、何か感じた……」



 リョーマもそう言って、少し考えるように首を傾げた。

「――でも……やっぱ判んない……」
「リョーマも?」

 頷くリョーマに、英二はさらにゆったりとした笑みを浮かべて、「寝て良いよ」と呟くように言った。




「こう言うの……なんて言うのかな〜〜?」
 何だかんだと抵抗していたものの、暫くすると寝息を立て始めたリョーマに、英二は苦笑を浮かべた。






    ☆   ☆  ☆


「ねえ、何だと思う?」
 授業が終わったチャイムを聞いて、さすがに、起こさないとマズイかと。
 リョーマを起こして、ギリギリまで一緒にいたものの、チャイムと同時に、分かれてそれぞれの教室に戻って。
 英二は、隣の席の不二にいきなり問い掛けて居た。
「は?」
「だからさ。こう、リョーマと一緒に居る時……何か感じるんだけどね。ああ、違うな〜一緒に居なくても、リョーマのこと考えてると……そうなるんだけど、何だと思う?」

 英二の言葉に、不二は目を丸くして某然と見つめて、いきなり持っていたノートを丸めて、英二の頭を軽く叩いた。

「いった……何すんの?」
「そんな抽象的なことが、僕に判ると思うの?」
 ニッコリ笑って言ってるのに、周りの気温が急降下する。

「いえ……そだよね」
「……ホント、幸せだね、英二は……」

 何気なく呟いた不二の言葉に、英二はハッと目を見開いた。

「それだ!!」
「は?」
「【幸せ】だよ!! ああ、そうか! 【幸せだな〜】って思ってたんだ、オレ!」

 しみじみ呟く英二に、不二は思わず拳を握り締めてしまったものの。
 それを奮うことはせずに、大きく息をついて、肩を竦めた。


「僕が言いたかったのは、能天気だねって意味なんだけど……」
 聞いていない英二に、次に生まれて来る感情は、苦笑としょうがないなという気持ち。
「ねえ、英二」
「へ?」
「君……毎日、越前くんのことしか考えてないだろう?」
「……そ、そんなこと……」
 赤面して否定しようとする英二に、不二は意地悪い笑みを見せて、
「違うの? ああ、違うんだ。じゃあ、そのこと越前くんに言って良い?」
「不二〜〜〜!!!」
「冗談だよ」

 抗議の声を上げる英二に、今度は本気で笑って、不二は言った。
 教師が入って来て、授業が始まり、英二は何となく聞きながら、窓から空を眺めた。



 幸せ……なんて考えたことなかったけど。

 だけど……今、幸せだな〜って思うのは、リョーマがいるからだと思う。
 リョーマが傍にいてくれるから……。


 ふと、視線を感じたような気がして、英二は自分の視線を空から、地上に向けた。
 同時に。
 校庭に出ていたリョーマと目が合った。
 向こうはかなり驚いたように、目を大きく瞠り、英二もまた同じように驚いて目を瞠っていた。

 それぞれ、体操服に着替えて、バットやベースを用意している。

(あれ? おチビのクラス体育だったっけ?)

 疑問を感じながら、野球を始めるんだと、英二はそれを見つめていた。
 だが、教師らしい人物が現れず、生徒だけでチームを分けて、試合が始まった。
 それを観戦してるのは、着替えていない女子である。

(? 自習か何かな訳? でも何で野球?)

 1番2番と、三振に取られて、3番にリョーマがバッターボックスに入った。

(あのピッチャー経験者かな?)

 球速もあり、コントロールも良い。
 だが、さっきから見てるに、ピッチャーの男生徒はストレートしか投げていない。
(まあ、素人相手に、変化球は無理だよな)

 一球目。
 リョーマはそのまま見逃した。

 二球目。
 ただ、バットを構えて、じっとボールを目で追うだけで。

 ツーストライクに追い込まれて、リョーマは不意に、英二の方に目を向けて来た。

(へ?)

 にんまり笑って、リョーマはバットを構える。
 ピッチャーが振りかぶって、ボールが手から離れた。

 すっと、リョーマがバットを引いた。
 真横にスイングして、綺麗に芯がボールを捉える。

 ボールが、金属バットに当たる軽快な音が響き、それは、大きく弧を描いて外野、レフト方向に飛んでいく。
 バットを放り出して、リョーマが一塁ベースに向かって走り出した。

 素人の集まりであの当たりなら、ランニングホームランにもなりかねない。
 しかも、リョーマの足は、そん所そこらの奴らよりもはるかに早いのだ。

 あっと言う間に、二塁を回り、三塁ベースを蹴ったところで、ショートにボールが戻る。

 ホームに向かってボールが投げられた頃には、ホームベースを踏んでいた。

 審判をしていた生徒がセーフのポーズを取り、歓声が沸く。


 そんな中、平然としていたリョーマが、英二に向かって目を向けて来て。
 親指を立てて、にんまり笑って、手を上げた。
「うわああ……」
 思わず声を出してしまって、英二は口許を押さえてしまった。
 込み上げて来る笑いを……どうしようもなくて。


(惚れ直すってこう言うことか?)

 そう思って、それがまた【幸せ】だと言うことに気付いて、英二は視線だけを外に向けた。
 リョーマが守備につくとこが見えて、ああ、次はアウトになったんだなと気付く。



(リョーマの幸せって……何だろう? ねえ、リョーマ……聞いたら教えてくれる?)



 自分と同じなら良いのにと……考えたところで、とうとう全然授業を聞いていない英二に切れたらしい教師が、英二に向かって怒声を発して。

 結局――
 英二はそれ以上、リョーマの活躍を見ることが出来なかった。




 オレの幸せについて考えたら、いつもリョーマのとこに行き着くんだよね。
 リョーマの幸せは、どこに行き着くのかな?


(……オレのとこなら、オレまた【幸せに】なれちゃうね♪)



 教師に叱られても、問題を当てられても、課題を言いつけられても。
 不幸だとは思わない。

 だって君が居てくれるから――





(オレって単純かな?)

 苦笑を浮かべて、英二は部活が始まるその時間を楽しみに。
 黒板に書かれた問題を解いていた。

あははは、もう二度としない(滝汗)
ポルノグラフィティの新曲【幸せについて本気出して考えてみた】を聞いて出来た話です。
何か、訳判らん(滝汗)

歌や歌詞のイメージで話を書くのは苦手です;;

でも、幸せなときは幸せについて考えたり、しないんですよね。
自分の幸せには中々気付けなかったりして。
歌詞は書いてないですが、サビの部分に入る、1フレーズ手前くらい?(よう判らんての)
もちっとかな。
そのあたりとラストがイメージですけども;;
あ、2コーラス目の出だしなんかも、英二らしくてなんか好きです(^^;)