貴方への贈り物





「……越前? 何やってるの?」
「不二先輩……」

 リョーマは声をかけて来た相手に対して、キョトンと問い返し、自分の現状を思い出して、思い切り赤面した。

「ま、越前なら、似合わなくはないから、あんまり不自然でもないけどね」
「どう言う意味ッスか?」


 と言うのも、場所が場所だからである。
 ここは、割と大き目の玩具屋だった。
 そして、リョーマがいたのは、プラモデルや、ゲームソフトエリアではなく、『ヌイグルミ売り場』だったのである。
 それで、それほど大きくはないクマのヌイグルミを持っていれば、リョーマでなくても赤面するはずである。
(あー、一人例外がいるか……)

 自分が『ここ』に来ている要因でもある彼の人を思い浮かべながら肩を竦めた。
「英二なら、喜びそうだね、そう言う可愛いの」
「…………………クマと猫どっちが良いと思います?」
「僕の意見でいいのかな?」
「……自分で決めます」
「だと思った」
 目的を知っている相手に、動揺を見せることもないかと、リョーマは肩を竦めて、問い掛けたが、不二の切り返しに、視線を逸らして呟いた。

「で? 不二先輩は何やってんですか?」
 それを言ってから、ハッとしたように、周りをキョロキョロと見回しているリョーマに、不二が声を上げて笑った。
「英二ならいないよ。何だか用事があるからって早々と帰ったし」
「あ、そうッスか……」
 ホッとしたように呟き、それから、怪訝そうに不二を見上げた。
「ああ、僕は……」
 言いかけた不二の背後から見知った顔が見えて、リョーマは目を丸くした。
「あれ、越前じゃないか」
「……大石……先輩?」
 呆気に取られているリョーマに、大石が複雑に笑って、
「妹に……頼まれたんだよ」
 と手に持った包みを軽く振って見せた。
「あ、はあ……」
 それ以上に、大石と不二が一緒にいることが、不思議なんだけどと、思いつつ、聞くに聞けずに、リョーマは言葉を飲んだ。
「越前は……ああ、英二に誕生日のプレゼントか?」
「え、まあ……そッス」
「越前が選んで買ってくれたものなら、とことん大事にするんだろうな。英二の奴……」
「………………」
「じゃあ、僕たちは行くね」
「じゃあな、越前。またな」

 並んで歩き出す大石と不二を見つめながら、リョーマは首を傾げて呟いた。
「ま、まさか……ね」


 頭をガシガシと掻きながら、リョーマは結局、迷っていた黒猫の方のヌイグルミを手に取ってレジに向かったのである。


(どっちにしても、中三男子に上げるものじゃないよな……)

 少しの苦笑を浮かべながら、それでも、これを喜んで受け取ってくれるだろう恋人のことを考えていた――


<Fin>