二人だけに、意味のある日 2 「え? 帰るの?」 いきなり、不二に「オレ、ちょっと家に帰るから」って言ったら、驚いたように問い返された。 「……ちょっとね、忘れ物したんだ……。でさ、おチビに……昼一緒出来なくてごめんって言っといてくれない?」 オレはそう続けて、自分の顔の前で両手を合わせて、隣にいる不二に視線を向けた。 「それは良いけど……。でも、何を忘れたの?」 「正確に言うと忘れ物ってか……まあ、良いじゃん。じゃあね!」 適当に誤魔化して、オレはそそくさと教室を出た。 おチビに、ちゃんと自分で断れなかったのは、心残りなんだけども。 でも、しょうがない。 朝もギリギリまでやってたんだけど、結局仕上がらなくて、姉ちゃんが続きやっとくから、昼休みに取りに来いって言ったんだけど、絶対ヤダ! ってそれは、断って、昼休みに一度家に戻って続きをすることにしたんだ。 だから、時間が一分一秒でも惜しいんだ。 ――いや、オレがそれを作るのは初めてで、失敗ばっか仕出かしたことも、原因なんだけどね……。 ちょっと甘く見てたね。 ある程度、料理が出来るからって、ちょっと甘く見てた。 どうせなら、放課後、おチビを家に呼べば、続きはゆっくり出来るんだけど。 でも、家じゃ二人きりになれない! もう、確実に。 ほんの数時間でも良いから、二人きりになりたいんだよね。 だったら、放課後の学校の方が、ずっと、二人きりになれる確率高いしね。 ってことで、オレは大急ぎで、学校を後にして、自宅に向かったんだ。 「ただいまー!」 言いながら靴を脱ぎ捨て、キッチンに飛び込む。 リビングの方から、今日は仕事が休みらしい、春海姉ちゃんが、出て来て、呆れたように肩を竦めた。 「あんた、本当に帰って来たの?」 「あったりまえー! 自分で作って学校に持ってくんだから!」 「……何も、そんなムキにならなくても。越前くん、家に呼べば良いじゃない?」 「ダメダメ。そしたら、おチビと二人っきりになれないじゃん! 絶対に、玲兄とか邪魔するに決まってるし」 それじゃ、意味がないんだって。 大勢の中で一緒にいるんだったら、いつだってそうだ。 部活に顔出したり、帰りにみんなとかち合って、一緒に帰ってみたり。 家に呼んで、一緒に過ごしたり、この前の旅行みたいな感じでもありだし。 もちろん、それでも楽しいんだけどね。 でも、だからこそ、二人きりになれることが少ないと思う。 いや、普段、意識してなかったら、結構、二人っきりだったりするんだけど。 意識すると、必ず邪魔が入るんだよね。 だから、意識して尚且つ、二人きりになるという、ささやかな野望達成(?)のためにも、今回は学校で、決行しなきゃなんない訳だ。 オレは冷蔵庫から取り出した幾つかの材料をテーブルに並べて、腕まくりをして、最後の仕上げに取り掛かった。 ――暫くして。 「英二……。もう、5時間目始まってるんじゃない?」 腕を組んで心底、呆れ返ってる春姉の声に、オレは時計を見上げた。 「あ、ホントだ。でも、もうちょっとだし!」 そう言って、オレは作業の続きに意識を戻した。 「……よっし!! でーきた!」 ホッと息をつきつつ、自分の目の前にある小さな丸い、チョコレートケーキに笑みを浮かべる。 これを作るのに、昨日も一昨日も失敗し捲くったんだよね。 で、ケーキのデコレーションがどうしても間に合わなかったんだ。 失敗した、全然膨らんでないスカスカのスポンジケーキとか、焦げ捲くったかったいスポンジケーキとか……。 家族に食べさせて、散々毒づかれたんだよね。 でも、もちろん、成功した奴は、食べて貰う訳にはいかないから、名誉挽回出来ないのが、ちょっと悔しかったりするんだけど。 不味いケーキしか作れないって思われるのは癪だから、また挑戦するつもりだったりする。 そんでもって。 夏姉に買って来てもらっていた、箱にケーキとロウソクを入れて、包装紙で包んでリボンをかけると、そっと、デイパックの中に入れて、もう一度、時計を見返った。 5時間目はもう、半分以上過ぎてる。 「あーもう、6時間目にかかっちゃうかなー?」 学校まで、走って行けば、20分くらいで着くけど、これを持って走る訳には行かないし。 最初から諦めて、出かけようとしたら、春姉が慌てたように、外に出掛ける支度をして、玄関に出て来てオレは目を丸くした。 「春姉?」 「……送ってってあげるわよ。そのままじゃ、6時間目も遅れるでしょ?」 「……へへ☆ ありがと、春姉」 多分ね。 昼休みにケーキを仕上げるために抜け出したって言ったら、あの子はすっごく、呆れたような表情を見せると思うんだけど。 でも、そのケーキを目にしたら、ほんの少し嬉しそうに笑ってくれるって知ってるから。 だから、ほんの少しでも良いから、今日のこの日を二人きりで一緒に過ごそうね! <Fin> |