唯一の願い


「うー……遅いなぁ」
 寒さにやたら滅法、弱いおチビちゃんこと、越前リョーマとのデートは、冬になってからもっぱら午後だ。
 っても、何だかんだで部活があるから、滅多にデート出来ない訳なんだけど。
 今日は、竜崎先生の都合がつかずに、結局部活が休みになったらしい。

 帰り際、昇降口で見かけた桃が、おチビにそう言ってるのが聞こえて、オレは透かさず、明日……つまり明けて今日、会う約束を取り付けたのだ。


 しかーし!
 約束の時間は2時だったのに、今現在、2時半を大きく回ってるけど。
 一向に姿が見えない。
 待ち合わせで、待たされるのは、オレの方が多いけど、それにしても……。
 30分ってのは、今までで最長記録かも。

 携帯電話に電話しても、繋がらないし。
 おチビの家に電話したら、居ないって言うし……。

 何だか色々、考えて頭がグルグルして来る。
 もう、早く姿を見て安心したいと思いつつ、ふっと思った。

 いつまで、こうやって会えるんだろう?

 考えて、何か怖くなって、首を振って、目を閉じた。

 いつまでもずっと、一緒になんて、考えられないことは、十分判ってるけど。
 それでも、ずっとずっと一緒に居たいなんて、思っちゃダメなのかな?

 でもね。でもね。


 それが、今のオレに取って、ホントにささやかな願いでもあるんだ。




「何、ボーッとしてんすか?」
 不意にかけられた声に、オレはハッと我に返った。
「おチビ?」
「ん」
 そう言って、無愛想に差し出されたのは、ホッカホカのたこ焼きだった。
「ここに来る途中で売ってて。待たせたから、オレの奢りッス」
「マジ?」
「どう言う意味ッスか?」
「いや、何でもありません」

 慌てて首を横に振り、手渡されたたこ焼きの温かさが心地良かった。

「ね、一緒に食べよ? あっちに、東屋があったし!」
「……はいはい」
 そう言って、面倒臭そうにでも、オレの後について歩き出す。
「ああそうだ」
「……何?」
「遅れて、悪かったッス。出掛けに、ちょっと頼まれごとしたんで。それの押し問答が長くなって……」
「頼まれごと?」
「そう。この近くの家の人に届けてくれって。で、そっちの用事先に、済ませてたんで……」
「だったら、連絡くれれば良かったのに」
 携帯を掲げて言うと、リョーマはポンと手を打って、
「忘れてたッス」
「……やっぱりね」

 こう言うやり取りでもね。
 君と一緒にいる。
 それだけで、本当に幸せな気持ちになれるんだよ。

 だから。
 だからね。



 出来る限り……ずっとずっと一緒に居られるように。
 それが、オレの……。
 今、現在の……唯一の願いかも知れない。



 おチビと出来るだけ長く、一緒に居られますように。


<Fin>