ハロウィン・はろうぃん

 マンションの部屋で、久しぶりにゆっくりしていた克也と遊裏は、互いにデッキ調整(……他にすることないんですか?・笑)をしながら、ポツリポツリと話をしていた。

 そこで、インターホンが鳴り、遊裏が立ち上がって、電話の子機を取り上げた。
「はい」
『Trick or Treat?』
 流暢な英語が聞こえて来て、遊裏は目を丸くする。
 だが、声に聞き覚えがあって、遊裏はそのまま、問い掛けて見た。
「――リョーマ?」
『……あれ? 直ぐに判っちゃった?』
「それは、まあ……。でも、何なんださっきのは?」
『ハロウィンだよ! 遊裏ちゃん♪』
「英二? ああ、取り敢えず鍵を開けるから」
 遊裏はそう言って、パスワードを打ち込んで、受話器を戻した。
「誰?」
「英二とリョーマ。なあ、克也……ハロウィンって何だ?」
「……ハロウィン? ああ、あれだろ、11月1日万聖節の前日……異界の門が開かれるって奴……」
「……」
 克也の言葉に、遊裏はまた目を丸くして、じっと克也を見つめた。
 そんな遊裏に、苦笑を浮かべて克也は問い掛ける。

「何だよ?」
「君は……何でそんなによく知ってるんだ?」
「何でって……バイト先でハロウィンだってんでジャック・オ・ランタン作ったりしたからな。んで、由仁たちに聞いたんだよ」
「……ジャック?」
「カボチャの中身をくりぬいて、ロウソク入れる……まあ、提灯みたいなもんだな」
「ああ、夏祭りでたくさん吊るされてた奴だな」
「あれは、電球だけどな……」
 そこまで話すと、もう一度インターホンが鳴った。
 克也は受話器を取り上げず、キッチンの方へと駆けて行き、何かを持って戻って来た。

 そうして、ドアを開けて、
「Trick or Treat?」
 の声に、思わず克也は固まり、次に一気に吹き出し大爆笑した。





   



「そんなに笑うことないじゃん!」
「……だから、止めようって言ったのに……」
 小さくリョーマが文句を言う。
「まさか、その格好でここまで来た訳じゃないよな?」
 まだ、かすかに肩が震えている克也の問いかけに、猛然とリョーマが反発した。

「まさか!! マンションのロビーの陰で着替えたけど。恥ずかしいったらないよ!」
「それでも、付き合ってやるリョーマも……付き合いが良いな?」
 穏やかな声で、遊裏が言う。
 ちょっと複雑そうに遊裏を見つめ、それからハタッと思いついたように、リョーマは自分の恋人を見返った。
「……そうそう。付き合って上げたんだから、判ってるっすよね? エージ」
「……はいはい……ファンタ一週間分っしょ? 判ってるよ〜」
 言いながら、英二の手は、克也が持っていた籠に伸びて、中身を取り出し食べている。
 その扮装は、ネコ耳と猫手をつけて、頬っぺたにも猫ひげをつけてまるでネコそのものである。真っ黒な服を着て、どうやら黒猫のつもりらしい。(今は猫手は外している)
 リョーマの格好は、黒いマントととんがり帽子に、箒と言う出で立ちで、中々似合っているのだが……。
 だが、猫はリョーマの方が良いんじゃないかと克也は首を傾げつつ、別のことを問い掛けてみた。

「――それって、もしかして、魔女と黒猫?」
 克也の言葉に、リョーマが飲んでいたファンタを吹き出しかけた。
「何で魔女? 魔法使いって言ってよ!」
「魔法使い? 魔法使いの格好なのか?」
 『魔法使い』と言う言葉に顕著に反応したのは、当然遊裏である。
「魔法使い、好きなの?」
「ああ、コイツはほら、ブラックマジシャン使いだから」
「ああ、カードゲームね」
「そうそう。魔法使いっていうとあれが浮かぶんだよな?」
「……でも、何で箒を持ってるんだ?」
「魔女って言えば箒でしょ?」
 英二の言葉に、リョーマが憮然として、
「魔女じゃないってば!!」
と返す。
 そうして、憮然として、杖になるものがなかったんだと告げた。

 暫し、そんなリョーマたちを黙って見つめていた遊裏が、不意に、纏めたデッキから、ブラックマジシャンのカードを取り出した。
 すると、額に眼の紋様が現れて、カードからオーラが立ち昇る。
「こ、こら、遊裏?」
 克也は焦ったように声をかけ、英二はどこか楽しそうに身を乗り出した。
「……何何? 何がはじまるの?」
「ブラックマジシャン、召喚!」

 その声に、その場に長身の魔導師が姿を現し、リョーマも英二も驚きで目を瞠った。
「……………遊裏…………? 何のつもりだ?」
 ほぼ、脱力仕掛けながらも何とか、気をしっかり持って、遊裏の隣に立つマジシャンから、目を逸らしつつ、問い掛ける。
「……今日は、異界の門が開くんだろう? それでモンスターの扮装するのなら、本当にモンスタ−を召喚しても良いんじゃないか?」
「そう言う問題か!!!?」
「そうだ。君のレッドアイズも召喚してやるぜ!」
「げ☆ ちょっと待て!」
 テーブルの上にあった、克也のカードデッキから、レッドアイズブラックドラゴンのカードを抜き出し、同じように、召喚する。
 勿論、大きなままでは、この部屋の中には入りきらない。
 何だか、仔犬並の大きさのレッドアイズに、克也は何となく泣きたくなった(笑)

「うわあ、すっごい☆ ねえ、遊裏ちゃん! これ、映像じゃなくて本物?」
「ああ、取り敢えずな」
「そう言う問題じゃねえだろう」

 克也の叫びも無視されて、さらに召喚されたクリボーをリョーマが珍しそうに見つめ、手を伸ばしてコミュニケーションを図っている。
 何とも言えない様相を呈して来た、部屋の中に、克也は深い深い溜息をついて見せた。


 ――と。
 微かな羽音が聞こえて、頭の上に何かが乗る。
 それがレッドアイズだと気付いた克也は、諦めたように息をつき、そうして、笑って見せた。





  




「こんばんは〜遊裏くん、いる〜?」
 リョーマたちが来て二時間ほど過ぎた頃。
 そんな声をかけて、遊戯が勝手にドアを開けて、勝手に入って来て、リビングの様相に固まった。


 ブラックマジシャンがワインを飲みながら、その隣でマジシャンガールがケーキを食べ、楽しそうに話をしている。
 リョーマはソファの上でクリボーを抱き締めて、クリボーは気持ち良さそうに目を閉じているし、克也の肩には小さなレッドアイズが止まっている。
 エルフの剣士とホーリーエルフが仲良さげに少し離れた場所で話し込んで居て、ベビードラゴンが何故か英二に懐いていた。




「何、これ?」
「よう! 遊戯」
「何なの? 城之内くん!? 何でモンスターが実体化してるのさ?」
「……ハロウィンだからって、遊裏がさ……」
「……そう言う問題?」
「オレもそう思ったけど。まあ、遊裏も英二もリョーマも楽しそうだし……良いんじゃないか?」
「ってか、遊裏くんは?」
「え? さっきまでブラマジと一緒にいたけど?」
 キョロキョロ見回せば、ブラックマジシャンに凭れて遊裏は眠ってしまっていた。
「……ね、寝てる? この状態って遊裏くんの精神力で作り上げてるんだよね? 寝てていいの?」
「……大丈夫だろ? モンスターたちも暴走する様子ねえし」
「……………開き直ったね? 城之内くん」
 そう言いながら、まあ、今の状態なら問題ないかと遊戯は嘆息しつつ呟いた。

 最悪の事態になることが避けれれば……そう、あの人が来ない限りはきっと大丈夫……とは、遊戯の内なる声である。

「あたぼうよ! レッドアイズとこんな風に接触出来ることねえもんな! 楽しんどかないと損じゃん」
「……」
 不意に、遊戯はブラックマジシャンの前に、駆け寄り、声をかけた。
「ブラックマジシャン」
「……何ですか? もう一人のマスター」
 パッと嬉しそうに笑って、
「ボクも一緒して良い?」
「もちろんですよ」
 そうして、遊裏の反対側に座り込み、ブラックマジシャンに凭れかかる。
「へへ。夢見てるみたいだ」
「結局、遊戯も開き直ってるじゃん」
「だって、城之内くんの言う通りだと思ったんだもん」
 そう答えて、それでも心配そうに、遊裏に視線を向けた。
「大丈夫かな?」
「え? 何か問題あるの?」
 英二も少し心配そうに眉根を寄せつつベビードラゴンを抱っこしたまま、その頭に顎を載せている。
「……遊裏くんの精神力がね」
「でも、自分で言ってたよ? これ以上は無理だって」
 リョーマの言葉に、遊戯は少しホッとしてみせて。
「そっか。自分で判ってたんなら大丈夫かな?」
「大丈夫です。マスターは本当に無茶なことは、こう言う場面ではしませんからね」
 ブラックマジシャンの言葉に、遊戯も頷き目を閉じた。
(ちょっとだけ良いよね? うん。ちょっとだけ……)







「そう言えば……ユーリに用があったんじゃなかったの?」
「へ?」
 暫くして、クリボーを抱っこしたまま、ソファに寝転んでしまっていたリョーマが遊戯に向かって言った。
「……えーっと。あ……」
 思い出したらしい遊戯は焦ったように起き上がろうとした、まさにその時。
 荒々しい足音と怒声とともに、リビングのドアが開いた。
「遊戯!! いつまでここで油を売っている!!」

 そうして、異様な部屋の様子にも拘わらず、ずかずかと遊戯の前に行き、そうして初めて気付いたように、その場を見回した。
「……えーっと。そう、ハロウィンのお菓子、一緒に食べようと思ったんだけど、でも遊裏くん寝てるしね。うん、もう帰るよ。じゃあね、ブラックマジシャン」
 内心、かなり焦りつつ、舌打ちを漏らしながら、それでもそう言って、遊戯はそそくさとリビングを出ようとした。

 ――ヤバイ……。
 こうなるとヤダな〜と思っていたことが、まさに起きようとしている。
 危険信号が点滅するのを感じながら、遊戯は、とにかく海馬を連れて、自分たちの部屋に戻ろうと思った。

「待て、遊戯」
「……ダメ、帰るの! 海馬くん」
「……どうにも腑に落ちん。やはりここは……遊裏! 起きろ!!」
 無理矢理、眠っている遊裏の肩を揺すり、
「これがどれほど、非ぃ科学的だろうと、そんなことはこの際、どうでも良い。遊裏! 
このモンスターを召喚しろ!!
 実体化召喚は遊裏にしか出来ない。
 と理解したのだろか?(誰も教えてないのに)

 寝惚け眼の遊裏は、そのカードを受け取って、何も疑問に思わずしっかり召喚してみせた。
 少し眠ったおかげで、魔力は戻っていたらしい(笑)


 白銀に輝く肢体。
 荘厳かつ美麗な白きモンスター。
 海馬は嬉しそうな(笑)笑みを浮かべ、その小さな(笑)ブルーアイズを抱き上げた。







 悲劇……いや、喜劇の幕が上がったのはその瞬間だった。






 そう。
 天敵とも言える(かどうか知らない)ブルーアイズを目にしたレッドアイズが、克也の肩から飛び上がり、威嚇するように吠えたのである。
 その声に、ブルーアイズも反応し、海馬は面白そうに、だが厭味たっぷりに克也に視線を向けて言った。
「ふん。貴様の脆弱なモンスターが、主人に似て吠えているぞ?
「何だと?」
「どちらにしても、貴様のレッドアイズはオレのブルーアイズの敵ではないがな!!」
「……今は決闘やってる訳じゃねえぜ!?」
「だから、どうした?」
 不敵な海馬に克也は、怒りも顕わにレッドアイズに攻撃命令を出していた。
「レッドアイズ! ブルーアイズに攻撃だ!!」
「うわあ、ダメだよ! 城之内くん!!」
 遊戯の避けたかった事態へと物事はまさに向かっている。
 既に遊戯の制止など、克也は聞いては居ない。
「ワハハハ!! 返り討ちにしてくれるわ!! ブルーアイズよ、レッドアイズを粉砕しろ!!」
「だから、ダメだって!! 海馬くん!!」
 止める遊戯と、また眠りの体勢に入った遊裏と興味深々な英二とリョーマの前で。

 二匹の黒と白のドラゴンが互いの必殺技を繰り出した。












   














 翌日。

「ふわああ」
 大きく欠伸をして、起き上がり、伸びをしながら、遊裏は部屋の様子に目を丸くした。

「――一体、何があったんだ?」
 まるで台風が通り過ぎたようなとしか言いようがない部屋の荒れようと。
 その場に倒れている(寝ているようには見えない)見慣れた友人たちと相棒、そして最愛の恋人を見つめて、首を傾げる。

「き、貴様……起きるのが遅すぎるわ!」
 3000年来のライバルらしい者の声に、遊裏はさらに、首を傾げ……それからぽんと手を打った。

バカだな。オレが寝ている間に、攻撃命令を出したのか?
「…………」
「相棒に聞かなかったか? オレが起きていれば、きっちりそれはフィールド内、相手モンスターにしか効かないが……オレが眠ってしまったりして意識がなければ、現実にも被害を及ぼすって」
「……ああ。
ブルーアイズとレッドアイズが、攻撃を繰り出した後でな!!
 唸るように言う海馬を尻目に、遊裏は不敵な笑みを浮かべて、ボロボロの海馬を見下ろして言ってのけた。
自業自得だ。昨日は、決闘するために、召喚した訳じゃないのに……勝手に攻撃なんかするからだぜ!」
「……それだけか? 言うことは?」
「……怪我はたいしたことないんだろう? あ、救急車呼んだ方が良いか?

 あっけらかんと言う恋人の声を聞きながら、なんとしても止めさせるべきだったと克也は思い切り後悔していた。






















   



「って言うか、むしろハロウィンだって仮装してユーリのとこに来たのが、そもそも間違いだったんだよ」
「……そんなに怒らなくても……」
「かすり傷で済んで奇跡だったと
本当に思うんだけど?」
「そうだよね。……でも直撃受けたの、克っちゃん先輩とシャチョさんだけっしょ?」
そう言う問題じゃないの! 仮装なんかしなきゃ、ユーリだって、モンスター実体化召喚しようなんてきっと思わなかったんだよ!!」




 海馬Co.系列の医療センターに運び込まれて、海馬以外が同室に入院している状態である。
 とは言え、リョーマと英二は本当にかすり傷で、言うなれば検査のために入院してるだけで、明日には退院する。
 ――足の骨を骨折、肩を脱臼した克也は本当に、いい迷惑である。
 ちなみに海馬も同じような怪我をしているらしい。







 遊裏は――
 いつも通り元気に学校に向かい、遊戯はブラックマジシャンに守られたらしく、やはり無傷で(もっとも、攻撃の衝撃で、気を失っていたらしい;;)――ちっとも反省した様子の見えない遊裏に、心底から溜息をついていた。










「そりゃ、自業自得だからな。克也も海馬も」
 と不敵に笑っていたそうな(笑)

 勿論――
 英二とリョーマには、きちんと見舞いと謝罪をしたそうである。




<しょうもないままEND>











 全くの余談。
 この翌日。
 退院した英二を待っていたのは、リョーマに怪我をさせたと言う事実(たとえ、かすり傷であろうと)から来る、元レギュラー陣からの報復だった(笑)
 部活も引退したのに、何故か放課後、グラウンドを100周走らされ、スペシャル乾汁を飲まされ、激辛クッキーを食べさせられたそうな……。



 要するに――
 英二に取ってもいい迷惑で、自業自得なハロウィンだったようで……。







 青学に見舞いに来た遊裏と、ウェアに着替えたリョーマが、そんな英二を見ながら、口を揃えて言ったものである。


「「まだまだだね(な)」」




これは、ギャグです。
どれだけ
ギャグのセンスなかろうと、ギャグです。
コメディです。


だから、怒っちゃダメです!(汗)


って言うか、闇ちゃんにバクラのような
実体化召喚能力があるかどうかなんて知りません。
遊裏は全く悪びれてませんし、
克也はいつものようにカッコ良くないですね(滝汗)
って言うか……途中で書きたくなったの、
チビブルーアイズと、チビレッドアイズの決闘(笑)だもん☆ 
ハロウィンももう間に合いそうにもないですが、まあ、一日遅れってことで。
ハロウィン記念に楽しんで貰えたら嬉しいです☆