星降る夜に……2

「……はい……」
 枕元にあった携帯電話が煩く鳴り響く。
 相手を確認することなく、寝惚け眼のまま、リョーマは電話に出て。
『あ、おチビ? 寝てた?』
「……エージ? 何時だと思ってんの?」
『……まだ、10時だよ?』

 そう言うエージの言葉に、リョーマは少しだけ起き上がって、目覚し時計を見た。
 確かに、10時を少し過ぎた所である。

『ねえ、今から迎えに行くから、外に出てて』
「は?」
『良いから良いから! んじゃね☆』
 言うなり電話は切れて、リョーマは暫し茫然と携帯電話を見つめた。

「何? 何なの?」
 呟きながらも、起き上がって、服を着替えた。






 外に出ると、昼間は降っていた雨が上がっていて、晴れ渡る星空が見える。

「……あ、そっか」
 雨が降ってたから、計画は中止になったんだと思ってさっさと眠ってしまったけど。
 雨が上がって晴れたから、英二が電話をして来たと判った。

「おチビ!」
「エージ」
 珍しく自転車に乗って来た英二が、後ろに乗るように言って、笑った。
「どこ行くの?」
「童実野高校!」
「はあ?」


 英二の言葉に、リョーマは素っ頓狂な声を上げてしまった。










   ☆  ☆  ☆

「ああ、来た来た!」
「よう! 遅かったな」
「あのねえ、あっからココまでどれだけかかると思ってんの?」
「こんばんは、越前」
「どもっす」
「ふん。いつまでここに居る気だ?」


 いつぞや知り合った、武藤遊裏と城之内克也。それに武藤遊戯と海馬瀬人の4人が待っていて、海馬はその肩に何かを担いでいる。

「何だかんだで、付き合い良いんだね〜シャチョさん」
「そりゃ、遊戯が拗ねるからな〜(笑)」
「要するに、ユウギに勝てないんスね」
 好き勝手に話す輩を無視して、海馬はさっさと校舎へ入って行く。




 到着した屋上には、数本の笹が飾られて、それぞれに短冊や飾りが吊るされていた。
「あ、短冊持って来てない」
「あ、オレも……」
 リョーマの言葉に英二も同調し、思いっきりリョーマが呆れた視線を向けると、英二は空笑いをして誤魔化した。


「短冊ならあるよ。ほら」
 遊裏に渡された短冊とサインペンに、リョーマが肩を竦めて呟く。
「子供だましだけどね」
「イベントは楽しんだ方が勝ちっしょ?」
「勝ち負けなんかあんのか?」
「リョーマくん! 海馬くんが望遠鏡設置してくれたから、天の川見えるよ!」
 短冊に願い事を書いていたリョーマが、遊戯の言葉に顔を上げて、嬉しそうに笑って頷いた。
 そうして、短冊を吊るそうと見上げるが手頃な場所は埋まってしまっている。
「エージ」
 英二を呼んで、しゃがむように言うと、リョーマはその肩に乗り上げた。
「ちょっと、おチビちゃん?」
「動かないで!」
「そうじゃなくて……言ってくれたら、抱っこしたのに……(滝涙)」
「やだよ」
 そう言って、短冊を付け終わると、パッとそこから飛び下りた。
「何で?」
「恥ずかしい」
 一言の元に切って捨て、遊戯の元へと駆けて行く。




 英二の両側からぽんと肩を叩かれて、振り向くと。




「まあ、照れ屋な恋人持つと苦労するよな?」
「……照れてもらえるだけありがたいってことだ。気にするな」
「同情するな〜〜〜〜!!!!」



 それから、交替で望遠鏡を覗いて、天の川を見た後。
 屋上に座り込んで空を見上げる。
 英二の前にリョーマは座り、後ろから英二が抱き込むと、恥ずかしそうに仏頂面をしたものの、逃げ出すことはなかった。
 隣では遊裏が克也の肩に頭を寄せてたから、「まあ、良いか」と思い直して、思い切り英二に凭れ込んだ。


「綺麗だね」
「そッスね」
「晴れて良かったよね〜」
「――なあ、もし、一年に一回しか会えねえってなったら、どうする?」
「……オレ死ぬかも」
「……考えたくないな」
「オレ……無理でも何でも会いに行く……」
「オレもそうだな〜立ち止まって待ってんのは趣味じゃねえ」

 それぞれがそう言って、遊裏が少し離れた場所にいる遊戯に向かって問い掛けた。
「相棒は?」
「……海馬くんが来ない訳ないじゃん。そんなの全部、凌駕して絶対に来てくれるから、ボクは待ってるよ?」
「……当然だな」
「エージも、あれくらい言って欲しいッスね?」
「……う……」
 リョーマの言葉に、項垂れる英二に、明るい笑い声を上げて、
「冗談っスよ。エージはそのままで良いかも。……オレが絶対に会いに行くから」
「むー……リョーマだけに負担かけるのヤだな〜オレも会いに行きたいけど……」
「……ダメ。エージは動かないで待ってて下さい。じゃないと、またすれ違うッスよ?」
 苦笑を交えて言うリョーマに、英二も似たような表情を浮かべた。







「約束、憶えてるか?」
「え?」
「どこに行っても必ず、追いかける」
「……ああ」
「だから……そんなことになっても、必ず会いに行く努力する。ってもまあ、そんな罰を喰らうようなヘマもしねえけどな」
「罰?」
「仕事もしないで遊びまくってたから、天帝の怒りに触れたんだろう? どんなことにもケジメは必要ってこったよな?」
「それもそうだな……」








 静かに……降るような星の下で、互いに愛する人と過ごす……。
 今、自分たちが最高に幸せな時間を過ごしていることを、それぞれ実感していた。




「じゃあ、ボクたち先に帰るね!」
「え、もう?」
「モクバくんと一緒に、海馬くんちでも、七夕するんだ! じゃあね!」
「そうか。モクバによろしくな」
「うん! またね、リョーマくん。菊丸くん」
「そこの凡骨」
「……てめえ、いい加減呼び方変えやがれっ!」
「望遠鏡、持って帰って来い。……壊したら、弁償して貰うからそのつもりでな」
「……はあ?」

 克也が反論する前に、海馬はさっさと校舎内に入り、その後に遊戯も続いた。

「親切で言ってるんじゃないの?」
「はああ?」
「ほら、望遠鏡覗きたいなら、覗いても良いって」
「んな訳ねえ! アイツが親切心なんか出した日には……」
「出した日には?」
「世界が崩壊する!!」
「……言い過ぎじゃないか?(滝汗) 克也」
「でも、そう思うだろう? 遊裏!」
「でも、相棒にはいつでも親切みたいだからな……。ああ、まあ、克也やオレに親切にすることは確かに考えられないな」
「だろだろ? 絶対、何か企んでんだよ?」





 散々言った後。
 克也は丁寧に望遠鏡をケースに仕舞い、肩に担ぐと振り返った。

「そろそろ帰るか? もう、子供は寝る時間だぜ」
「むー二つしか違わないじゃん! 子ども扱いしないでよね!」
「でも、越前は寝てるんじゃない?」
「……あ」

 英二の胸の中で、スヤスヤと寝息を立てているリョーマに、克也も遊裏もそして、英二も笑ってしまった。



「自転車で帰るのはあぶねえな」
「でも、電車もないんじゃない?」
「オレらの家に泊まるか? 部屋はあるから」
「でも、明日学校あるし……」
「大丈夫。とっときの送りを用意してやる」
 ピースしながら言う克也に、英二はキョトンとしつつ、隣でクスクス笑う遊裏に、結局頷いてしまった。











 とっときの送り……。
 これに、英二もリョーマも盛大に喜び、辿り着いた青学テニス部は騒然となったものだった。
(制服は、何故か用意されてて、家に帰る手間は省けたのである)


ちゃんちゃん♪