「何やってんの? 邪魔なんだけど?」
「え?」









 初めてあの子を見た時。
 目の前が、物凄く明るくなったような気がしたんだ。









 勿論、ただの気のせいかも知れないんだけどね。


君の傍に居たいから

「……え? おチビちゃん、もう、精霊の森に行くの?」
 オレより、二つ年下の、ちょっとってか、かなり生意気な様子のこの子は、リョーマ=トゥース、11歳。
 このミレニアム・パレスで、最年少の部類に入る、本当に新入りの筈なんだけど……。
「魔法の基本は殆ど、親父に習ってるから。オレが欲しいのは、精霊との契約。その為の資格だし」
「で、でも、それでもなんか早くない? だって入所して4日……明日で5日か? それって驚異だよ〜」
「ふーん。あんたは?」
「……え? オレは……10日くらいかな〜オレも祖父さんに、色々前以て習ってたからね」
「人のこと言えないじゃん。普通は、半年くらいかかる物なんだろう?」
「……だけど、オレの半分だよ?」
 ひたすら感心していると、おチビは何だか嫌そうな表情になって、立ち上がった。

「人のことばっか、感心しててどうすんの? 第一、あんたもう魔道士なんだろう? でも、ここに常駐してる訳じゃない。一体、何しに来たのさ?」
「……あ、オレ、4日前から、ここ常駐の召喚士だけど?」
「は?」
「オレの剣にさあ、ベビードラゴンが入っちゃって。取り除いて、保護して貰おうと思ったんだけど、ちょっと気が変わってね。そのベビードラゴンと契約して、召喚士になっちゃった」

 にぱっと笑うと、リョーマは殊更嫌そうな表情を浮かべて、肩を竦めた。

「何それ? あんた、魔道士としての、プライドはなかった訳?」
「関係ないじゃん〜プライドも大事だけど、それよりも大事なものもあるんだよ?」
「へえ? それって一体何?」
「……んー例えば……自分の気持ちに正直になることとか!」
「……」
「オレはオレの気持ちに正直になって、召喚士になったの。だから、良いんだよ」
「変なの……」
「……精霊の森は、二人一組で行くでしょ? 誰と行くの?」

 話を元に戻して問い掛けると、リョーマは複雑そうに俯いた。

「現役の召喚士と一緒に行かない? オレの時は、ユーリが一緒に行ってくれたんだけど?」
「……ユーリさまもユーギさまもセトさまも、王都で開かれてる、国王聖誕祭に行ってて留守だから……」
「一級召喚士と特級召喚士だもんね。あ、オレじゃダメ?」
「……あんた、召喚士になったばかりで、ベビードラゴンしかモンスターいないんじゃないの?」
「あ……でも、魔道士てしての腕は確かだよ?」
「……他に行く奴、見つからなかったらね」

 そう言って、リョーマは食堂から出て行った。
 当然、一緒に行く相手は居ないだろうと、オレは思っていたし、まさに、その通りだったんだ。





 あまりにも早いペースで、【精霊の森】に行くことになったリョーマのことだから……。
 誰も、予想もしていなかったはず。

 あのユーリやユーギだって、一週間はかかったって言うから……。
 きっと、そのくらいに予想を立てて、ユーリかユーギが一緒に行くつもりだったんだろう。


 二人一組で行くのは、安全の確保のために、必要なことだった。
 もっとも半年なり、一年なり時間がかかってる場合は、同期生と一緒に行くことが多いんだけど。
 普通よりも早い段階で行く時は、現役の高位の召喚士が付き添うことになっている。


 勿論、ユーリやユーギ、セト以外にも、高位の召喚士はいるんだけど。
 みんな忙しいし、あまり面倒見が良くない。
 前述の3人は、ユーギがそう言う面で世話を焼くタイプだから、他の二人が釣られて、面倒を見る感じになっている。


 セトなんか、絶対にしそうにないけどな〜








     ☆   ☆   ☆


「おはよう、おチビちゃん」
「……っス」
「……今日もいい天気だねえ〜」
「嬉しそうっスね?」
「……そりゃ、おチビちゃんと一緒に出かけられるんだもん。嬉しいよん♪」
「……馬鹿馬鹿しい」

 リョーマは、魔法回廊の扉の前で立ち止まり、その前にいた魔道士に、回廊を使う旨を告げた。


 直ぐに、扉が開かれて、リョーマとオレが中に入る。
 行く先は精霊の森の傍にある、魔法回廊の塔。


 これは、行き先と対になる魔札を通して、互いに行き来出来る代物で、行き先はその魔札で決定することになる。
 とは言え、仕組みは詳しいことは判らないんだ。
 空間を歪める……風の精霊の力を借りて作られてるらしいけど。


 一瞬、浮遊するような感覚に捉われ、直ぐに元に戻る。
 そうすると、目的の場所に着いているんだけど……。




 回廊から出て、オレは窓から見える風景に、キョトンとなった。
 それは、リョーマも同じで。



 目の前に広がるのは、精霊の森の緑の海ではなく……。




 本物の、青い海原だったから……。



「どうなってんの?」
「間違えたんだよ! あの当番!!」
 怒りも顕わに言い募るリョーマに、そうだねとだけ相槌打って、取り敢えず戻ろうと、踵を返した。

「待て! 貴様ら、いきなり現れて何者だ?」
「へ?」
「……」
 この塔に勤めている魔道士二人が、ロッドをオレ達に突きつけながら、問い掛けて来る。

 一般客でさえ、それなりの料金を払えば使用できる魔法回廊だが……。
 大抵、魔法通信で前以て連絡されるのが普通だ。
 だから、連絡なしに、誰かが魔法回廊を通って現れたりすることは、先ずない訳で……。
 不審に思うのは当然かも知れない。

「あ、オレたち、【ミレニアム・パレス】から、間違えて来たんだ。本当は、【精霊の森】に行く予定だったんだけど」
「……精霊の森? お前らが、精霊と契約を結びに行くだって?」
「……ガキの癖に、偉そうなこと言ってんな! てめえらには、まだ早ぇよ!」
 確かに、オレ達より、この人たちの方が、10くらい上かも知れない。
 でも、年齢なんて関係ないだろうと、眉を顰めると、いきなりロッドで突き飛ばされた。
「偉そうだな? 少し痛い目みねえと判んねえのか?」
「……よくいるよね? 実力なくて、中々チャンスに恵まれなくて、だからって自分より弱い相手に、息巻いて退屈しのぎしようとする奴……」
「……リョーマ!?」
「……見苦しいよ? お兄さんたち。ちなみに言っとくけど。契約をしに行くのはオレだけ。こっちは、既に魔道士になってるよ? 召喚士としては、まだ3級だけどね」
「……何?」

 一言余計だと、心の中で突っ込みつつ、だけど相手二人は、嘲るようにせせら笑った。

「どこが魔道士だ? ロッドも持ってないじゃないか!」
「魔道士って、ロッドを持ってるって決まってるの?」
 リョーマのその質問が、オレに向けられたものだと気付いて、オレは頷いた。
「まあね。手の甲に記された紋様が、その手に持つロッドに注がれて、魔法を放てるんだ。勿論、そんな媒体がなくても大丈夫な人もいるけどね。んでも……オレの場合は、ロッドじゃなくて……」

 オレはおもむろに、腰の剣を抜いて、呪文を唱えた。

「風流波!」
 風が渦を巻いて相手方二人を飲み込んだ。
「うわああ」
「なっ? ま、魔道剣士?」
「そゆこと♪」
「……どこが違うの?」
「剣術も心得てるってだけだけどね。よく使うことが多いから、剣を媒介にしてるんだ」
「ふーん。……風ってことは、あんた、光属性?」
「そだよ。リョーマは、どっちなの?」
「……オレの声に答えてくれることが多いのは、炎の精霊……」
「……え?」
「行こう。エージ……精霊の森に」




 あ……。
 初めて、リョーマが名前を呼んでくれたことに気付いた。
 オレは嬉しくなって、ニッコリ笑って、魔法回廊の扉を開けようとした。






 瞬間。






 磁場が緩んだ。





 空間が捻じ曲げられて、大気の圧力を全身に感じる。

「リョーマ!」
「……っ!」
 オレは、慌ててリョーマの腕を掴んで抱き寄せた。
 そうしないと……。
 互いに、違う場所に飛ばされそうな……そんな感覚を憶えたから……。







 暫くして、顔を上げると、そこには、魔法回廊の扉もなく、塔さえも存在していない、草原の中にいた。
 場所は移動していない。
 草原から、下方に見渡せば、青い海原は変わらずに存在していたから……。

「何、これ?」
「……判らない。でも、これじゃ……【精霊の森】に行けないね」
 オレの言葉に、リョーマは困ったような表情を浮かべた。
「あ、リョーマ。あそこに村がある。この辺に、他に魔法回廊の塔がないか、聞いてみよう」
 そう言って、オレ達はその村に向かって歩き出した。




    ☆  ☆  ☆

「はあ? マホウカイロウの塔?」
「何だ、それ?」

 口を揃えて言う村人たちに、オレはここが田舎で、魔道士や召喚士に馴染みがないから、その存在が知られてないのかと、考えた。
「じゃあ、この村の近くかどっかに、魔道士か召喚士は居ませんか?」
 不意に、オレの前にいた小父さんの、態度が変わった。
「……知るか!」
 はき捨てるように言い、隣の兄さんが、眉を潜めて問い掛けて来る。
「あんな奴らに何の用があるんだ、兄ちゃんたち?」

 村人たちの言葉に、オレは眉を顰めた。
 魔道士や召喚士が、畏れられていることは知っている。
 それでも、自分たちを守ってくれる存在として、一般の人たちは、ある種の敬意を持ってくれているのも確かだった。

 だけど――

 この村の人たちは、魔道士や召喚士に悪印象を持っているような、感じを受ける。

「でも、オレ達も魔道士なんだけど?」
 リョーマがポツリと呟くように言った。
 とたんに、その場の空気が凍り付く。


「魔道士だと? てめえみてえなガキが?」
「……正確には、オレは、魔道士見習い。こっちが本物の魔道士」
 ご丁寧に、リョーマが言う。

「出てってくれ!」
「子供に見えたが、本当は子供じゃねえんだな!」
「……オレ達の村に何の用だ?!」
「魔道士なんざ、さっさと出て行ってくれ!」

 口々に、そう言う村人たちに、オレもリョーマも何も言えなくなって仕方なく、踵を返した。

 ふと。
 視界の隅に、オレ達とさして年の変わらない子供が、石を掴んで、オレ達向けて放り投げて来た。

「リョーマ!!」
 オレは、リョーマの腕を引き、その腕に抱き込んで、蹲った。
「え、エージ?」

 鈍い音が、オレの肩口で聞こえた。
 石をぶつけられたことに気付き、リョーマが大きく目を見開いた。

「エージ! 血が、血が出てる!」
「大丈夫。それより、早く行こう」
「でも……!」
 リョーマは、オレの肩越しに、石を投げた子供に視線を向けた。

「……どう言う権利があって、あんたらはオレ達を追い出す?」
「……魔道士なんざに、うろつかれると、困るんだよ!」
「この子は悪くないよ。あんたらが、この村に入ったりするから悪いのさ!!」
「リョーマ……良いから。早く行こう!」
 オレは、そう言って、リョーマの腕を引き駆け出した。



「何で、黙ってるんだ? アレは、不当な差別じゃないのか!?」
「……そだね。でも……今は、そう言う差別はないよ?」
「え?」
「……昔、祖父ちゃんに聞いたことがある。一人の魔道士が、自分の魔力を勘違いした方向に使って、人々を苦しめたって……」
「……」
「そのせいで、一時、魔道士は迫害されていた時期があったらしいよ。でも……」
「それって、歴史で習った」
「うん。もう、1000年くらい昔のことだよね?」


 嫌な考えが頭に浮かんだ。
 ここは、オレ達が生まれた、オレ達が生きていた時代じゃない。


 ざっと1000年は、遡った……昔に来ていると言うことに……。




「タイムスリップ? 時の魔術師でも近くにいたのかな?」
「……ああ、聞いたことある。悪戯で人を、未来だ過去だに放り込む、モンスター……」
「でも……相手に危害を加えることはないって話しだし。時間が経てば戻れるって……」
「……でも、悠長にしてたら、精霊の森に行けないよ?」
「……うん」

 本気で困った様子で、俯くリョーマにオレもどうするべきか、暫し考えた。

「……?」
 リョーマが不意に顔を上げた。
「おチビ?」
「……魔力の波動……。誰か、魔法を使ってる!」
 そう言って、リョーマは駆け出した。



 正直、オレはその時点で、リョーマの関知能力に驚いていた。


 だって……どれだけ魔力が高くても、精霊と契約していない内は、他人の魔力行使の波動を感じるなんて出来ないんだから……。


 ハッとして、リョーマが先に駆けて行った方向に、オレも慌てて後を追って駆け出した。



     ☆    ☆    ☆


「リョーマ!」
 小さな丘を駆け上がって、その上で立ち止まっているリョーマの肩を軽く叩いた。
「……あいつら……」
 そこでオレ達が見たのは、今では考えられない光景だった。

 数人の魔道士と思しき人間が、無抵抗の村人たちに、魔法を放って追い詰めて笑っているのだ。
「……アイツら、バカじゃない? 自分よりも弱いと判ってる相手に、魔法ぶっ放して、強くなったつもりでいやがる……」
 心底から、面白くなさそうに、リョーマが呟いた。
「まったくだね」
「どうする? エージ」

 ユーリやユーギなら、召喚モンスターを使って、旨くやるんだろうと思う。
 だが、オレが今契約してるのは、ベビードラゴン一体だけ。
 自分の無力さを感じた。
 でも、このまま放置するのも寝覚めが悪いんだ……。

 本当は――
 これは過去の出来事だから……干渉したらダメなのかも知れない……。
 だけど――






「リョーマはここに居て」
「え?」
「……出来るだけのことはやってみるよ」
 オレはそう言って、腰の剣に手を添えた。
「待って! エージ一人じゃ……!!!」
「大丈夫♪ そこで待ってなさい♪」
 リョーマを残して、オレは丘を駆け下りた。

「風飛翔!」
 身体が、浮き上がって高速で村へと向う。





 魔法が放たれた……その攻撃方向で地面に降り立って、更に呪文を唱える。
「風障壁!」
 壁と化した風に守られて、相手の攻撃は相殺された。

「……何だ、このガキ?」
「魔法を……無抵抗の人に使っちゃいけない……。こんなの魔道士として、常識なことだ!」
「……はあ? 何言ってんだ? 強い者が弱い者を狩るのは、与えられた特権だろう? てめえも魔道士なら、自分のストレス発散のために使えば良いんだよ!」
「……ストレス発散に魔法を使うのを否定はしないさ。でも、魔法を使えない他人を巻き込んでるのは、見てて気持ち良いもんじゃないんだよね!」

 オレは、剣を構えて、跳躍した。
 高く跳んで、相手が後退ったのを見て取って、呪文を解放する。

「風烈破!」

 風の刃が、魔道士に向かって放たれる。
 さすがに、剣を使って魔法を使うのは見たことなかったらしく、対応に遅れて相手に効果を与える。
「このっ、ガキが!!」
 相手が地の魔法呪文を唱えたのを見て、オレは口許に笑みを浮かべて、呪文を唱えた。

「光障壁!!」
 十字の光が、オレの前に壁となって現れた。
 地面からの爆裂を全て、防ぎ切り、オレは相手に詰め寄った。
 そのまま、相手の懐に飛び込んで鳩尾に、剣の柄を当てる。
「ゲホっ!」
「光の魔法だと?」
「……何で、こんなガキが!?」

 慌てる魔道士たちの間に、どこか飄々とした風情の男が割って入って来た。

「あーあ。子供に良いように翻弄されちゃって……。情けないな〜」
「……」
「でも、君もいい気になりすぎだぜ? 大人には逆らっちゃダメって、両親に習わなかったか?」
「……時と場合に因るさ」
「ふーん。……でも、これでお前も終わりだぜ?」
「……? 何を……」
「デビル・ドラゴン召喚!!」
「……っ!!」
「エージ!!!」

 リョーマの声が、直ぐ近くで聞こえた。

「来るな! リョーマ!!」
 そう叫んで、オレは剣を横に向けて、翳した。
「……協力してくれるか? ベビードラゴン」
 オレの声に答えるように、剣が脈打った。
 正確には、剣に装備された、スパイラがだけど――

「ベビードラゴン、召喚!」


「何?!」
 現れたベビードラゴンに、相手の男は、少しだけ驚いたようだった。
「く、ククク……
あははははっ! ベビードラゴンだと? 貴様が召喚魔法も使えるとは意外だったが、ベビードラゴンか……」
「コイツは、オレにとって最高のパートナーなんだから。笑うのは、失礼だよ?」

 外見上、どう見ても可愛い感じの、ベビードラゴンがナメられるのは、承知のこと。
「だが、オレのデビル・ドラゴンには勝てまい! 攻撃しろ! デビルドラゴン!!」
「……光障壁!」
 オレは、デビルドラゴンの攻撃を、光魔法で何とか凌いだ。
 でも、そう何度も通用しそうにはない。
 ビリビリと肌に感じるその攻撃力に、オレはたたらを踏んでいた。
 心配そうにオレを見つめるベビードラゴンに、オレは軽く笑って見せた。
「大丈夫だよ。とっとと片付けて、おチビと一緒に帰ろうね?」
『クゥ……』
 心配そうな表情のまま、一声鳴いたベビードラゴンは、キッと相手を見つめて、オレの命令を待っていた。
「……攻撃だ。ベビードラゴン」
 その言葉に、ベビードラゴンは果敢に向かって行き、ドラゴンブレスを吐き出した。
「迎え撃て、デビルドラゴン!!」





 一瞬の攻防。
 両方の攻撃がぶつかり合い、爆発と爆風を生んだ。

 それに巻き込まれる形でオレも弾き飛ばされる。


「エージーーーー!!」


 リョーマの叫び声が聞こえた。


「風の精霊、シルフィード。光の精霊、リュミエール。炎の精霊、イフリート! 集いて我に力を貸したまえ!!」
 リョーマの声が聞こえた。




 そ、それは、光眷属の三大精霊……。
 まだ、契約していないはずなのに……どうして?


「リュミエール! 被害が他に及ばないように、結界を張ってくれ。シルフィード、イフリートのフォローを頼む!」
 リョーマの言葉に、よどみなく精霊が答える。
「イフリート! 相手モンスターを焼き尽くせ!!!」
 その命令は、速やかに行われた。
 デビルドラゴンは、周りに生まれた炎に因って、芥子粒の如く消え去った。
「なっ! 何だ!!? あのガキは!!?」
 炎が消えた時には、風の精霊も光の精霊も勿論、炎の精霊も消えていた。





「リョーマ!」
 オレは慌ててリョーマに駆け寄った。
 その場に膝をついて大きく喘いでいる。
「正式に契約をした訳じゃ無いから、かかる負荷が大きすぎるんだね?」
「……そう。オレの言うことはちゃんと聞いてくれるけど……オレが、それに耐えられないんだ……」
 そう言って、リョーマはオレの方に向かって倒れ込んで来た。
「ごめ……力に……なれな……」
「リョーマ? リョーマ!!」





「やってくれるじゃねえの、お子様のくせに……」
「……っ!」
「だが、これで終わりだぜ、少年。結局、勝つのはオレ達だな」
「……」
 新たに召喚されたのは、ワイバーンだった。
「攻撃しろ! ワイバーン!」
 ワイバーンの攻撃に備えようとして、オレは呪文を唱えようとして、ハッとした。
 さっき吹き飛ばされた時に、剣が手を離れてしまっていたから……。
「ちっ!」
 舌打ちを漏らして、オレはリョーマを抱き締めた。
「ベビードラゴン……ごめんね、情けないマスターで……」
『……』
 傷だらけの身体で、ベビードラゴンは、オレ達の前に立ちはだかった。
「ベビードラゴン?」
『!!』
 絶対に守り切るとでも言うように、ベビードラゴンはその場から離れようとはしなかった。
 眼前まで迫った相手の攻撃に、オレはどうすれば良いのか判らなくなった。
 このままじゃ、ベビードラゴンは死んでしまう。
 勿論、完全な死ではなく、スパイラに戻ることで回復をするけど。
 でも……目の前で倒れて、消えてしまうことには変わりはない……。

「イヤだ……! 
イヤだよ!! ベビードラゴン!!」

 オレの声に……反応したかのように辺りが光り輝いた。
「え?」
 目の前に、丸い時計のような形のモンスターが現れた。
「……と、時の魔術師?」
『タイムマジック!』
 時の魔術師はそう叫ぶように言って、持っていた杖を振り上げた。
 その効果が……ベビードラゴンに降りかかり、ベビードラゴンが変化する。
 小さな愛らしい姿から、どこかふてぶてしい姿の、でも、強さを持っていると判る巨大なドラゴンが現れる。

「……千年竜?」
 時の魔術師の魔力で、ベビードラゴンが千年竜に変身することは、かなり有名だ。
 だけど、実際にこの目で見たのは初めてだった。
 ワイバーンの攻撃をその攻撃で相殺した挙句、続けて、己の攻撃を繰り出した。
 ワイバーンは撃破され、魔道士も召喚士も、吹き飛ばされて行く。




 そうして、その場に静寂が訪れた。
 オレは、ハッとしてリョーマの様子を見る。
 疲れて眠ってるだけだと判って、幾分ホッとしつつ、改めて周りを見回した。

 一方の魔道士は居なくなったけど、今度はオレ達が何を仕出かすか、何を要求してくるか……不安に感じてるのが、ひしひしと伝わって来る。

 オレはベビードラゴンを戻し、時の魔術師に向き直った。
「オレ達を元の世界に還してくれる?」
 頷く時の魔術師に、オレも笑って見せた。
 リョーマを抱き上げて、今まさに時の魔術師が魔法を発揮しようとした時。


「待って下さい!」
 人の女の子が、駆け寄って来た。
「これ……疲れによく聞くんです。これを、この子に上げてください。……ありがとうございました!」
「……これ」
 オレの腕の中で、眠っていた筈のリョーマが、6つの玉を取り出した。
「北と東西。南と東西で、三角形を交差させるように……この村を覆うように設置して……。強力な魔法陣で、魔力を持った者を排除するから……でも、より強力な魔力を持った者には効果がない……。だから、気休めでしかないけど……」
「リョーマ……」
「ありがとう、ございます……」

 少女はそう言って、その玉を受け取った。


「結構、お人好しなんだ……リョーマって」
「……別に……そんなんじゃないっすよ。ただ……あの娘が……オレ達とアイツラが違うって判ってくれたから……」
「うん……そだね」

 オレの同意に、リョーマは軽く笑って、また眠りに付いた。
 時の魔術師は、オレ達を元に時代に戻してくれて、ちゃっかりとオレの、スパイラに入り込んだのだった。



      ☆   ☆   ☆


「エージ!」
 元の魔法回廊の塔に戻ったことに気付いて、オレはホッとした。
 と同時に、その声が聞こえて来て、背後を見返る。

「ユーリ……!」
「大丈夫か? 君たちがいつまで経っても精霊の森に来ないからって……その子が受験者?」
「うん。すっごい天才だよ? でも、能力に体力とか精神力がついていけないみたい……」
「そうか? 精霊の森には連絡しとく。回復してから向えば良いから……。その時は、また君が同行してあげると良い」
「……勿論。でも……オレも、ちょっと疲れたかも……」
「エージ?」








 オレはそこで気を失ったらしい。











 気が付いた時には、二日も経ってて。
 リョーマの方が先に気がついてて、オレが目覚めるのを待っててくれたみたいで。


「一緒に行ってくれるんでしょ? 精霊の森」
「……うん! 勿論!」
「ありがと。エージ」
「……待っててくれたんだね?」
「エージ以外と行く気なかったし……」
 少し赤面して、リョーマはオレに背を向けた。

「明後日には行くからね! その時までには、体調万全にしといてよ!」
 偉そうな生意気な口調で、リョーマはそう告げて。
 オレは寝台の上で、苦笑浮かべたまま、頷いた。
「OK〜♪ リョーマが一緒に居てくれれば、直ぐに良くなるよん♪」
「……バカエージ」


 憎まれ口を叩いても、生意気な口調で喋っても。
 でも、リョーマの目は、前とは違う。
 少しは、リョーマに認めて貰えたような気がして、オレは全開の笑顔をリョーマに向けていた。



君の傍に居たかったから、オレはここに残ったんだよって。

それから暫くして告げたら。

あの子は真っ赤になって、やっぱり悪態ついて来た。

でも、それでも、あの子はオレを見て、『エージ』って呼んで、笑ってくれるから。


オレはオレの選択に、自信を持っていられるんだよ?


<Fin>




突発、MW外伝……でした(^^)
ちっとも目立てないリョーマさんとエージの出会いと言うかなんと言うか……(汗)

本当に突発でした。
なーんも考えてなかったのに、こんな話が出来てしまったのは何故だろう?
でも、こう言う感じな短編をちょこちょこっと入れていけたら良いなっと思います。

セトとユーギとかね。ユーリとユーギとかね(^^)