この話は、遊戯王とテニスの王子様の合同世界です。 ☆前提条件☆ もう一人の遊戯の名前は「武藤遊祈」 遊戯の従兄弟として童実野高校に通ってます。 城闇と海表ですが、全体的にややW遊戯よりです。 バクラは消滅してます。<これ以上人数が増えるのを防ぐため 手塚と乾は幼馴染です。 乾海、不二塚、菊リョが前提ですが、海堂と、リョーマと手塚の愛想ナッシングズ(笑)が妙に仲がいいです。 全体的に3年生はやややさぐれています。 遊戯王の連中と、テニプリの連中は基本的に面識はありませんが、乾、桃あたりはM&Wを知っています。 出番がない人は本当に出番がないです…。 タカさんは家の都合で本日不参加です。 |
王サマと王子様 in Summer Vacation<前編> 作:あやか様 |
さてさて7月も半場を越えると学生にとって一番の苦行であある一学期期末テスト。そしてそれを超えれば嬉し楽しの夏休みである。 それは街規模でゲーム大会しちゃったりするご近所お騒がせ社長の海馬瀬人も在籍しているという童実野高校でも同じである。 「あ〜〜おわったおわったぁ!!」 大きく伸びをして、大げさなほど大声で終わりを宣言するのは童実野高校2年生。ついでに世界なんかも救っちゃう一人になっちゃったりもするデュエリスト、行くぜ炎の凡骨ロード。の城之内克也である。 そんな彼のオーバーリアクションに、苦笑いししつつ、それでもクラスメイト達はやはり彼と似たり寄ったりの開放感を味わっていた。 教室のあちこちで夏休みの予定などを話し合っている声が聞こえる。公立校である童実野高校にはテスト休みなどというものはない。だがやはりテストも終わり夏休みを直前にして浮かれきっているのは何も生徒達ばかりではないというかなんというか…。 テストが終了してから1週間。うち前半2日はテスト返しとその答えあわせが行われ、後半3日間は生徒会の企画するイベント――今年は球技大会らしい――が行われる。 だからこそのこの浮かれ具合だろう。 さて、そんなざわついた教室の一角で、やはり何処か浮かれた声で夏休みの予定を話し合う二人組みがいた。その二人は一見双子なのかと言うほど酷似していたが、すぐにほとんどの人間はその雰囲気の違いから二度と間違えることはないだろう。 一人は武藤遊戯。幼い顔立ちに柔和な笑みを浮かべ、目の前に立つ自分そっくりの人物に笑いかけている。 もう一人の名前は武藤遊祈。遊戯と似た顔立ちだが、こちらは若干シャープな印象を受け、切れ長な瞳が少々とっつきにくい印象を与える。だがそれでも目の前の遊戯には笑みを浮かべて頷いていた。 「遊祈君、だいぶ現代社会に対応してきたよね」 「そうだな」 なんとなしに遊戯、遊祈の二人を眺めてしまった城之内の元に、帰り支度を終わらせた獏良、御伽、本田、杏子がやってきた。 「最初のころは大騒ぎだったものね」 杏子が苦笑いを浮かべながらくすくすと笑う。そう、武藤遊祈、周囲には遊戯の遠縁のもので、幼いころから海外で暮らしていたので日本の常識がまったくないと説明している。だが実際、遊戯の中のもう一人の遊戯。 三千年前の名もなきファラオだった人物である。 「なんだかまだ夢みてぇだよな」 「バーカ、夢のわけねぇだろ、遊祈はこうやって見えるし、触れるんだからよ」 本田の言葉に、城之内は席から立ち上がると、そう言ってその腹に軽くこぶしを入れた。 あのミレニアムバトル以後。もう一人の遊戯の記憶を旅したり、バクラとの因縁に決着をつけたりなどがあった後。もう一人の遊戯は、自分のあるべき世界に帰っていった。 ……はずである。だが一体どんな奇跡が起こったのか、それとも時の神の情けなのか。 もう一人の遊戯との別れに沈む遊戯の元に、海馬から連絡があったのは、エジプトから帰って1ヵ月後のことだった。 ―――貴様らに会わせたい奴がいる。 そういう海馬に疑問を持ちながらも行った海馬コーポレーション社長室。そこで彼らは奇跡のような再会をしたのだ。 さて、そんな奇跡のような再会―――気がつけばイシズの前に倒れていたというから驚きだ―――のあと、さてもう一人の遊戯をどうしようかという問題が立ち上がった。いろいろと常識はずれな現象に立ち会っているとはいえ、彼らは基本的に高校生だ。 だがそこは、さすがは千年アイテムというべきか。武藤遊戯の従兄弟、武藤遊祈としての戸籍と記憶が、都合よく周囲の人々に植え付けられていたのである。 そして遊戯や城之内と童実野高校に通うこと数ヶ月、それは、城之内と遊祈が付き合うようになってから数ヶ月ということでもあった。 もう一人の遊戯であったころから、彼が内包していた弱さと、強さ。それを支えてやりたいと思ったときから、城之内の中で何かが始まっていたのかもしれない。 それが思いがけない現代人としての復活で箍が外れたというべきか。玉砕覚悟で告白してOKをもらったという経緯があるわけだが、それはまた別の機会で語るとしよう。 「遊戯、遊祈!」 本田の腹に一発入れた城之内は、薄っぺらい自分のかばんをとりながら、二人へと近づいた。 「あ、城之内くん」 すぐに振り返って声をかけるのが親友の遊戯で、恋人の遊祈は、城之内の登場に、嬉しそうな、それでいて何処かはにかんだ笑みを向けてくる。 それに笑みを返し、城之内は本題に入ることにした。 「お前ら夏休み、バイトしねぇ?」 二人が首をかしげたのは言うまでもない。 § § § さて、世間様が夏休みに向かって浮かれきっているころ。テニスの名門校として名高い私立青春学園中等部では、今まさに期末テスト真っ只中であった。 いくらテニスがうまくても、学校というところはまず学業が最優先である。オレは世界でプレーするから古文なんてできなくてもいいんだよ。という反論は受け付けてくれないのである。 「うにゃにゃ〜明日は数学と理科だよ」 ―――二つも計算ものがあるなんてサイアク〜 コキコキと肩を鳴らしてぼやくのは、この夏テニス部を引退したばかりの3年菊丸英二である。青学男子テニス部は全国大会出場という快挙を成し遂げた後、ベスト8まで勝ち残るが以後惜しくも敗退。三年生は引退となったのである。 現在テニス部は部長を桃城、副部長を海堂とし、1年生の新人戦に向けてトレーニングを始めている。 「そう言わないでよ英二。明日で最後なんだからさ」 ぼやく英二を嗜めるのは、やはりテニス部の不二だ。 「ちぇ」 わかってるけどさ〜と、それでもぼやきたくなるのもわかるから、不二もそれ以上は何も言わず、いつもの通り温和な笑みを浮かべるのだった。 菊丸と不二がそんなやり取りをしつつ帰路につくころだ。 「それで、国一さんはなんていってたんだ?」 幼馴染であり、テニスではライバルでもある乾の言葉に、手塚はため息をついた。 「どうしても、人手が足りないらしい…一応受験生だとは言ったんだがな…」 「信用されているということだろう。英二あたりではそうもいかない」 「…」 笑みを浮かべる乾に、手塚は深深とため息をついた。 「いいじゃないか、一応自由時間はあるんだろう?砂浜での運動は足腰を鍛えるのは最適だからな」 ―――ちょうどいいトレーニングだ。 そう言って他人事のように言う乾はきっと、誰もがうんざりするようなトレーニングメニューを持ってくるんだろうなと。手塚は乾に相談したことをちょっと後悔した。 § § § さて、某K県海水浴場。 さんさんと降り注ぐ太陽の下、その4人は電車を降り立った。城之内、遊戯、遊祈、本田の4名である。 城之内が遊戯たちにやらないか?と声をかけたのは、海の家での泊り込みのバイトだった。昼間は海の家で働き、夜はそこが経営している民宿に泊めてもらうのだという。 宿泊費がただの分多少バイト代は安いが、三食ついて光熱費がかからないと城之内は毎年そこでアルバイトをしているらしい。ちなみに彼の父親はバトルシティの賞金で城之内がアルコール依存症の病院に放り込んであるらしい。抵抗らしい抵抗も抗議もなかったところを見ると、あれはあれで気にしてたんじゃねぇのと、城之内が苦笑いを浮かべていたのも数ヶ月前の話である。 「相棒…」 「あぁ、こういう海を見るのは初めてだっけ」 どこか呆然としている遊祈に、遊戯が納得したように頷いたあと、笑みを浮かべた。 彼の故郷は砂と熱に囲まれた国だ。 城之内と命がけのデュエルをしたのは埠頭であるし、何より遊戯がさっさとパズルをはずしてしまったのであまり記憶もないだろう。デュエリストキングダムではまだそんな余裕もなかったはずだ。 だからこういう海を見るのが遊祈は今日が初めてなのだ。 「時間があったら泳いでもいいみたいだからよ」 「そうなのか!?」 どことなくウキウキしている様子の遊祈に、城之内が笑みを浮かべて頷く。とたんに顔を輝かせる遊祈に、遊戯も楽しそうに笑みを浮かべた。 王として国の滅びを目のあたりに見て、なおかつそのためにわが身を犠牲にした過去を持つ遊祈に、遊戯はできるだけたくさんいろいろな経験をしてもらいたいと思っている。 それは城之内とて同じだ。だからこそ、この夏のバイトを勧めたのだ。 「それで、お前のバイト先はどこだ?」 「あぁあれだ」 結局仲間達のうち、獏良は前半は実家に帰っているといい、杏子も前半はシフトが決まっているというので、後半から参加することになった。 御伽は夏休みはほとんどカンズメ状態で新しいゲームの原案を考えるらしい。 「海馬くんて本当にこういう時容赦ないよね」 とは、最近海馬コーポレーションと契約したらしい御伽の弁だ。 初日から参加するメンバーの一人である本田が荷物を背負いなおしながら訪ねると、城之内は頷いてある一点を指差した。3人はその場所へと向き直ると、それぞれ頷きあって指差す場所へぞろぞろと向かった。 その4人の後ろで賑やかな一団が到着していた。皆大きめのバッグを肩から背負っているのは同じだが、服装センスはばらばら、年齢さえもばらばらに見えた。 「いぇい!!」 そのうちの一人、赤茶けた髪の少年が勢い込んで一段から離れ、砂浜に駆け下りた。慌てて、一団の一人がその少年を止めようと声をかける。 「そんなにはしゃぐとこけますよ、英二先輩!」 「へーきへーき、おちゃのこさいさい!!」 だが少年は、その静止を振り返ってさっさと下りていってしまう。一団の中でも最年長と思しき人物がため息をつく。 「しかたないね、英二は」 「あいつ、場所わかってるのか?」 クスと、温和な笑みを浮かべるもの、はぁぁと、手で顔を覆うもの。それぞれだが、こうしていても仕方がないと、駆け下りていってしまった少年の後を追うようにしてついていった。 § § § 「おやっさん!!」 「おぉ、来たか、克坊!!」 店の裏口から回って厨房に顔を出した4人を迎え入れたのは一人の老人だった。どうやら彼がこの店のオーナーらしい。 「今年も来たぜ!」 「おぉ、頼りにしておるぞ!!」 バンバンと、城之内の腰を叩く老人は、まさしく「海の男」だった。日に焼けた肌に、年を感じさせない迫力があった。 「今年はのう、強力な助っ人がおるんじゃ」 「助っ人?」 ―――こっちがオレのだちで、本田、遊戯、それに遊祈 そう言って城之内が遊戯たちを紹介するのに、慌てて三人が頭を下げた。おやっさんは「うんうん」と笑みを浮かべながら3人を見た後、そういったのだ。 「わしの知り合いの孫が友人を連れて手伝いにきてくれるんじゃ 最近の若者は頼りにならんでの」 「はははは」 正直、去年の城之内もだいぶそれでイラついたのでおやっさんの言葉に乾いた笑いを浮かべるだけで流した。 それでその『助っ人』はどこですか?とたずねると、おやっさんは4人の背後に視線を向ける。 「はて、もうすぐ来るところなんじゃが…お、来た来た」 城之内の背後に視線を向けたおやっさんがそういったので、城之内たちも振り返る。 そこには高校生ぐらいの賑やかな集団がこちらに向かってくるのが見えた。先頭を歩くのは、引率者か何かなのだろうか。一人妙に浮いている。 と、いえば聞こえがいいが、要するに不機嫌そうなのだ。その後ろには温和な笑みを浮かべた青年が二人、さらに元気のよさそうな少年がいて、妙にいかつい顔をした少年が一人、メガネをかけた少年が一人、こちらに向かって歩いてくる。 集団はおやっさんの前で止まると、前にいた数人が慇懃に頭を下げた。慌てて後ろの残りも頭を下げる。 「はじめまして、国一の孫の手塚国光です」 「おぉ、国から話はきいとるよ。よろしく頼む」 国一、というのがおやっさんの友人で、その孫というからこの手塚国光という青年が助っ人なのだろう。 4人はぼんやりとあたりをつけながら賑やかな集団を見つめた。 こちらは、同じく手伝いをしにきておる城之内くんじゃ。毎年来てくれとるからわからないことがあったら聞きなさい。 そう言って城之内を指差すおやっさんに、国光と名乗った青年が頭を下げる。 「青春学園中等部、三年の手塚国光です」 「はぁ、童実野高校二年の城之内克也です」 丁寧にどうも…と、手塚につられるように頭を下げた城之内だが、ふと、今言った言葉に首をかしげた。 「中等部って…え、中学生!?」 驚いた城之内の言葉に、本田もそのことに行きあたったのだろう、軽い硬直のあと「みえねぇ〜〜〜」と叫ぶ。 「みんなボクより背が高いよ…」 「何を食べたらこんなに大きくなれるんだ?」 遊戯と遊祈もそれぞれ呆然とした様子で、自分よりも約十数センチほど高い年下を見上げた。 確かに手塚という青年…いや年齢的には少年だが…の後ろを注意深く見れば、まだ背の低いものや、幼い顔立ちのものもいるので確かに納得できる部分もある。遊戯たちが、思わず足元のほうへと視線を向ければ、憮然、とした顔をした遊戯たちとあまり変わらない身長の少年も見つけて、なんとなしに安堵してしまう。 だが大体にして遊戯と遊祈がぼやくように背が高い。唖然、とするのも無理はないだろう。 そんな反応をする4人に、件の中学生達といえば…。 「ぎゃははは、は〜〜手塚やっぱり見えないんだって!!」 赤茶けた外跳ねの髪の毛をした少年がバンバンと手塚という少年の肩を叩き、 「誰かさんがにらんでるからじゃないか?」 「んだとこらてめぇ!!」 「こらやめないか二人とも!!」 背後で元気のよさそうな少年が、目つきの少々悪い少年をからかい、変わった髪型をした少年に止められていた。 さらにそんな彼らのひざのほうでは、 「高校生でも、オレと同じぐらいっすね」 と、白い帽子をかぶった少年が遊戯たちのほうを見れば、「安心した?越前」と、温和な笑みを浮かべた彼らより少し小柄な少年が越前、と呼ぶ少年に話し掛けていた。 「むしろ逆っす」 憮然と返す越前と呼ばれた少年にさらにその背後にいたメガネをかけた長身の少年が「ちゃんと一日2本牛乳飲んでるか?」と散々好きかっていっていた。 「まぁ仲良くやりんさい」 収拾のつかない状態の中学生と高校生に、おやっさんはそう締めくくったのだった。 § § § 簡単な自己紹介のあとである。 「それじゃ、遊戯と遊祈、それから越前はジュース販売。本田と桃城と海堂、菊丸は調理場。不二と手塚と大石、それにオレは接客。乾はカキ氷を頼む」 てきぱきと配置を決めていく城之内に、皆が文句もなく頷く。何しろ中学生だ。今までろくなバイト経験もないのだから仕方がないだろう。 「よろしくね、越前君」 「よろしくっす」 ニコリと、人のよさそうな笑みを浮かべる遊戯に、越前が帽子のつばを掴みながらペコリと頭を下げた。 厨房では海堂と桃城が火花を散らしながら鍋をかき混ぜ、菊丸が朝ご飯を当番せいで作っているという腕前を披露していた。 接客のほうといえば、もともと人当たりのいい大石と不二はすぐに慣れたが、乾にも「表情が硬い」といわれる手塚は少々苦戦していた。 「手塚、スマイルスマイル」 「あぁ」 「……ぜんぜん、笑ってないんだけど…」 不二がわき腹をつつけば頷くものの、その表情はピクリとも動かない。大石が苦笑いを浮かべた。 不機嫌そうというよりは、堅物そうに見えるから大丈夫だろうと、城之内がぼりぼりと頭を書きながらそう締めくくった。 越前、遊戯、遊祈の後ろでは乾がカキ氷をせっせと製造していた。 それから夕方まで、みなそれぞれ労働に汗を流すこととなる。 「疲れたぁ…」 「練習とは別の意味で疲れたにゃぁ」 完全に客の引けた海の家の座敷で青学男子テニス部の面々がそれぞれ思いもいぐったりとしていた。 普段他者に気を使うなどということをしたことがないのだ。普段の練習とは違った疲労に包まれているのも仕方ないだろう。 「コラ、いつまで寝ている。さっさと引き上げるぞ」 「へ〜〜い」 こちらは変わらない仏頂面をしたままの手塚に促され、7人がのろのろと立ち上がる。 「城之内くん、今日はどこにとまるんだい?」 こちらもだいぶ疲れているのだろう。少し表情が暗い遊祈が、それでも変わらぬしゃき、とした態度で城之内を見上げる。 「あぁ、おやっさんの民宿に行くぜ。ちょっとふりぃけど飯はうまいからよ」 「へぇ、僕民宿とまるのってはじめて!」 「民宿?ホテルとは違うのか?相棒……」 城之内の言葉に、遊戯が嬉しそうな声をあげ、遊祈が首をかしげる。いつもどおりのやり取りがそこにあった。 「越前君は民宿泊まったことがある?」 「ないっすね。ホテルとかならありますけど」 背の低い者同士奇妙な連帯感でもあったのか、遊戯と越前はだいぶ仲良くなったようだ。あまり愛想がいいとはいえない越前に遊戯がニコニコと話し掛けている。 「おチビちゃんたち仲いいねぇ」 「うわ、重いっす英二先輩!!」 そんな三人のところに菊丸が乱入してくる。越前の背中にのしかかってくるのを、越前が不機嫌そうに押しのけている。 「そういや、お前ら一体何の集団なんだ?」 「集団…いえ、僕達はテニス部のレギュラーなんですよ」 城之内がたまたま横を歩いていた大石に尋ねる。返ってきた返事に城之内と本田が驚いた。 「テニスだってよ、城之内。どうりでお上品なわけだな」 「うるせぇぞ本田!てめぇだって場外ホームランかましてたじゃねぇか!!」 城之内の首に腕を巻きつけるようにして言う本田に、城之内がその腕をはずして殴りかかる。 「?」 「本田君と城之内くんはこの前の球技大会でテニスをしたんだがボロボロだったんだ」 突然罵りあいを始めた二人に、テニス部レギュラーの面々は驚いたように立ち止まる。が、クスクスと笑う遊祈の説明に、「あぁ」というように納得したように頷いた。 「ほれ、ついたぞ!!」 バイト先である海の家から徒歩7分。そこにおやっさんの民宿はあった。 § § § さて、その夜である。 当然といえば当然だが、バイト連中は皆同じ部屋である。 「いえい、一番乗り!!」 「英二…」 ガラ!と勢いよくふすまをあけて部屋に入った菊丸に、大石が手で顔を覆う。なんとなく、彼がこの青学テニス部で一番苦労してるんだろうなと、童実野高校の面々は苦笑いを浮かべる。 「みんな一緒か…なんだか修学旅行みたいだね」 「しゅーがくりょこう?」 大部屋に通された一同。遊戯が楽しそうに言えば、聞きなれない単語に遊祈が首をかしげる。それに遊戯が丁寧に説明しているのを横目で見ながら城之内と本田は荷物を置いた。 「おい遊祈、こっちこっち」 「?なんだい、城之内くん」 コイコイと手を振られ、遊祈が遊戯かなはなれて城之内に近寄る。残された形になった遊戯に、本田が話し掛けた。 「しかしよ、いいのか遊戯」 「?何が?」 『日本の民宿』を説明している城之内とそれをフンフンと興味深そうに聞いている遊祈を楽しげに見つめていた遊戯は、本田の言葉に首をかしげた。 「いやよ、いくら仕事バカの海馬でも夏休みぐらいとるだろ?」 「あ〜〜」 なるほど、と遊戯は手をうった。つまるところ、夏休みいっぱいバイトで海にきていて恋人である海馬をほったらかしにして大丈夫なのか、ということなのだろう。 遊戯と海馬が付き合っているのは割と有名な話である。何しろ海馬に隠すという意識がないのだから仕方がない。 「大丈夫だよ。海馬くんが会いたくなったらかってに会いに来るもん」 「……強いよなぁ…お前」 あっさりと言い切った遊戯に、本田がしみじみと呟いた。あの海馬相手にそこまで言い切れるのは、モクバ以外遊戯だけだろう。遊祈あたりも同じことを言いそうだが海馬が烈火のごとく食って掛かるのでノーカウントだ。 「そんなことないよ」 遊戯は笑って本田の言葉を受け流すが、実際自分や城之内を含めてメンバーの中で精神的に強いのは遊戯じゃないだろうかと本田は思っている。 「とりあえず風呂はいりたいぜ、体中砂でざりざり」 「あ、そうだな。じゃ案内するから準備してくれ」 ぼりぼりと身体をかく桃城の言葉に、城之内が顔を上げてそう言った。 「温泉!?」 「この辺は温泉が沸いたというデータはないな」 「にゃんだ〜」 風呂、と言う言葉に菊丸が期待に満ちた目を向けるが、乾があっさりとそれを打ち砕いた。 § § § 「風呂って…みんな一緒に入るのか?」 大浴場に向かった面々だが、脱衣所で遊祈が怪訝そうな顔をした。城之内や本田、それに青学の面々は特に気にした様子もなく脱いでいく。 いや、一人だけ、越前だけは脱ぐのを躊躇していた。 「越前?」 それに一番早く気がついたのはテニス部元副部長、青学の母、こと大石だった。越前は困ったように服の裾を握ったり離したりしていた。大石の声に気がつくと、戸惑ったように見上げる。 「おーいし先輩……やっぱりみんなと入らないといけないっすか?」 「え?」 不本意そうな口調と内容に大石がとまどったような声をあげた。小学校、中学校と修学旅行や学校行事で集団で眠ることも風呂に入ることも常識に近いものがある彼らには越前の戸惑いがピンと来なかった。 「え〜〜と、いやなのか、越前」 「いやと言うか…こういうの初めてっすから」 そういや小学校までは海外だっけ、とそこで青学の面々がぽんと手を打った。 その横で、やはり戸惑っている遊祈に、遊戯が困ったように顔をしかめる。現代に復活するまでファラオという貴位にいたのだから誰かと一緒の風呂に入るという感覚がないのも頷ける。 「そう、みんな一緒に入るんだよ」 楽しいんだよ。と、邪気のない笑みを見せる遊戯に、遊祈は少しほっとしたような顔をして、それからようやく服を脱ぐために手をかけた。 「ほら、おっちび〜〜さっさと脱ぐ!!」 「うわ、やめてください英二先輩!!」 まだ渋っている越前を菊丸が脱がしていく。それを見ていた不二が、隣で黙々と脱いでいる手塚と「手塚も脱がしてあげようか?」「断る」といったやり取りを繰り広げていた。 § § § さて、風呂も入り、夕食も食べたらあとは寝るだけである。 特に昼間なれない接客などを行った青学テニス部の面々は引かれている布団の上にそれぞれ位置を決めると早々と船を漕ぎ出したようだ。 「へへへ、遊祈」 だがその中で、城之内はまだ元気そうに遊祈へとあるものを取り出した。本田があきれたようにため息をつく。 「お前、こんなところにもデッキ持ってきたのかよ」 「バーロー、真のデュエリストはいついかなるところでもデッキをわすれねぇんだよ!」 「えへへへへ」 「あぁそうだな、城之内君!!」 そんなこんなでそれぞれデッキを取り出した遊戯、遊祈の二人とともに城之内はデュエルを始めてしまう。最もさすがにここでデュエルディスクを使ったハイテンションなデュエルをするわけにはいなかいので、卓上ノーマルデュエルだが。 「なになに?何やってるの?」 「マジックアンドウィザーズ」 そこへ、トイレから帰ってきた菊丸が窓際で何をやってるかと、4人の輪に入ってくる。本田が少し体をずらしてやると、今は遊戯と城之内がデュエルをしていることろだった。 「マジックアンドウィザーズ?」 基本的にテニス馬鹿の集団である青学テニス部レギュラー陣は菊丸の言葉になんだそれと顔を上げた。ちなみに越前、海堂の二人はすでに寝息を立てている。 チャ、と、めがねのブリッチを押し上げた乾が説明を始める。 「マジックアンドウィザーズ。 アメリカで大人気のカードゲームで現在日本でも爆発的な人気を誇る。プレイヤーは魔法使いとなり、それぞれ自分のモンスターを召喚し戦わせるといった設定となる。 現在は海馬コーポレーションが開発したデュエルディスクにより、気軽に誰でも“デュエル”できるようになっている。ちなみにデュエルとはマジックアンドウィザーズをプレイすることで、プレイヤーはデュエリストと呼ばれる」 「相変わらずだね、乾」 「お前、本当にいつ寝てるんだ……」 相変わらずの広範囲の知識量に、不二が底の知れない笑みを浮かべ、幼馴染の手塚があきれたように見つめた。 「よし、それじゃ僕のターンだね。幻獣王ガゼルとバフォメットを融合し、有翼幻獣キマイラを特殊召喚する!」 「げ!」 そうこうしているうちに城之内と遊戯のデュエルが終盤に差し掛かってきた。 遊戯が守備表示にしていたガゼルと新たに召喚したバフォメットを融合し攻撃力2100のキマイラを特殊召喚したのだ。 融合したモンスターはそのターン攻撃することができないのがエキスパートルール――ちなみにバトルシティルールである――だが、さらに遊戯は伏せて会ったもう一枚のマジックカードを返した。 「さらにマジックカード発動。速攻!城之内君にダイレクトアタック!」 城之内の前に壁となるモンスターはいない。さらにライフポイントは2000だ。 またずいぶんと早く決着がついたな。と本田がため息をついたときだ。城之内がすばやくカードをひっくり返す。 「早々簡単にやられてたまるかよ!!トラップカード発動、墓あらし!」 「え!?」 ひっくりかえった愛嬌のあるモンスターの書かれたカードに遊戯が驚いたように目を見開いた。 「まだ詰めが甘いな、相棒」 「オレは遊戯の墓地にあるマジックカード、死者蘇生を発動。さっき墓地に送ったレッドアイズを召喚する!」 遊祈が笑う。 城之内は墓地からレッドアイズをフィールドへと置く。先ほど遊戯が発動した「削り行く命」のときに捨てたカードの中に入っていたのだろう。 「レッドアイズの攻撃力は2500。よってキマイラへ反撃だ!」 「あちゃ〜〜〜!!」 遊戯のライフから500ポイント引かれた。これで遊戯のバトルフェイズは終了。遊戯はさらにリバースカードを二枚場に伏せ、ターンを終了させた。 「やるね、城之内君」 「いつまでも負けっぱなしじゃな」 遊戯が笑みを浮かべ、城之内がさらにそれに勝気な笑みを返した。 「ちなみに戦歴は?」 「城之内の253戦252敗」 「違うぞ、本田235戦だ!!」 「大して変わらないって」 乾の言葉に本田が答え、さらに反論したがばっさりと切り捨てられた。 「というか、弱いん……ですか」 思わず、というように大石が尋ねる。本田はぼりぼりと頭をかく。 「いや、弱いってわけじゃないけど…。強くもないというか…運だけで勝ってきてるというか…」 「違うぜ本田君!!城之内君は本当に強いぜ、じゃなかったらマリクやバクラにあそこまで勝てなかったぜ」 「あぁまぁなぁ」 城之内のこととなると無条件でかばう遊祈に本田は苦笑いを浮かべた。あぁと、乾がどこから持ってきたのかノートをめくりながら頷いた。 「城之内克也。海馬コーポレーションが定めるデュエリストレベルは現在6。そっちの武藤遊戯と武藤遊祈の二人は最高値の8だね」 「だから乾…」 「深く突っ込まないように」 何で知ってるのさ。と菊丸が言うのにパタンとノートを閉じた乾がめがねを鈍く光らせながら反論を封じた。 興味深そうに、あるいはなさそうに。なんとなしに眺めている中学生たちに本田が「こいつら熱中すると見境ないからさっさと寝とけ。朝も早いぞ」と苦笑いしながら促してやった。 それを合図にぞろぞろとそれぞれの布団へともぐっていく。 それから約2週間、このメンバーで海の家を手伝うのである。 |