ミンミンと蝉の声が煩く蒸し暑い、夏真っ盛り──。
だが青春学園中等部公式テニス部にとっては、そんなことなど関係なく、部員一丸となって全国大会に向けて練習に励んでいる。
「あ、暑いにゃ〜〜!!溶けるー!!」
そんな中の、テニスコートの一角。
レギュラーたちが集中して練習に打ち込んでいるところに大きな声が響き渡った。
「…先輩、コートに寝転んだりして、暑くないっスか?」
叫ぶなりへたりとその場に突っ伏してしまった菊丸。
その丁度横に立っていたリョーマは、ぴくりとも動かない菊丸を見下ろして、ちょんちょんとそのつま先で突いてみたりもする。
「もう動けない〜…」 「……部長が見てるッスよ?」 「イイよ〜、べつにー」
動けないといっていたわりにはゴロゴロと身体を回転させて、リョーマの影に入り込む。
そう身体の大きくないリョーマの影は、ちょうど太陽が真上付近にあることもあり、ほぼないといっても過言ではない程だった。
だが菊丸は顔さえ隠れればそれで満足らしく、寄せていた眉間のシワをほにゃっと散らす。
リョーマはわずかばかりなれども、菊丸が影になるように、上体を少しばかり屈めた。
「仰ぎましょーか?」 「マジ?」 「ラケットで」
「………風来ねえじゃん、それ…」
ぶーっと頬を膨らすその様子にリョーマは密かに唇の端を持ち上げる。 菊丸はそんなリョーマに気付くことなく、首を逸らせて手塚を仰いだ。
「手塚〜、ちょっと休憩しようようー。オレもうダメ〜」
情けない声で強請る。
「…仕方がない。全員、15分の休憩!」
さすがの手塚もこの暑さには辟易していたのか。
いつまで経っても起き上がる様子のない菊丸に溜め息を吐くと、部員全員に聞こえるように告げた。
「良いモン、食ってるっスね」
休憩に入ってすぐに買いに走ったのか。
木陰で休憩しにきた菊丸の口には涼しそうな水色のアイスキャンディー。
樹の上で寛いでいたリョーマは、自分に気付くことなく寄って来た菊丸に、頭上から声をかけた。
「んあ?あー、おひひひゃん」
食べる?
と菊丸は今まで自分で咥えていた方をリョーマに差し出す。
「……そっちの食ってない方が良いっス」
「にゃはは〜、ごめん、ごめん」
普段よりも2割り増しの剣呑な瞳に、菊丸は軽く謝り、まだ口にしていない方のアイスキャンディーをリョーマの前に差し出した。
「はい、あーん?」
「……………」
にっこり笑う菊丸に、リョーマが脱力する。
逆らうのも馬鹿馬鹿しくなって、リョーマは素直に口をあけると差し出されたアイスにかぶりついた。
口の中で冷たく溶けるアイスに、暑かった体温が少し下がるような気がする。
「美味しいだろ?コレ、オレの1番のお気に入りv」 「……へえ」 「しゅわしゅわラムネソーダのキャンディ〜♪」
「菊丸!越前!休憩はとっくに終ったぞ、さっさと練習に戻れ!」 「はーい、はいはい!っと」 「ウィーッス」
手塚に怒鳴られ、二人は慌てて手にしたアイスを噛み砕く。
「おチビ、行こ!」 「っス」
棒を手近なゴミ箱に投げ捨てて、真夏の太陽の元へと飛び出した。 |
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