Wrapping up kindly
−優しさの向こう−

作: 茉莉さま



 涼やかな風が枝を揺らす新緑が美しく映える季節。

 一ヶ月以上経つこの学園生活にもようやく慣れ忙しい日々を送っていたリョーマ。

 勉強はもちろん、父親がかつて通っていたというこの学園のテニス部部員として校内試合や大会への出場と一年生ながら活躍を見せていた。
 初めこそ不遜な態度のリョーマに対し嫌がらせを行っていた者もいつのまにかいなくなり、学年問わずかなりの部員が惹かれ始めていた。

 その中でリョーマに誰よりも早く印象づけた人物が一人いた。

 3年6組、2歳年上の菊丸英二。

 アクロバティックなプレイスタイルと明るく人懐こい性格。
 リョーマの事を“おチビちゃん”などと一人違った呼び方で、事あるごとにスキンシップだと言って憚らず抱きついたりして。

『ヘンな先輩』

 それがリョーマの菊丸への第一印象だった。

“おチビちゃん”

 そう呼ばれる事に何故か嫌だという気持ちはおこらなくて自分でも不思議に思っていた。
 嬉しそうな顔で嬉しそうな声で。
 菊丸の本当の気持ちはわからなかったけれど少なくともそう見えた。
 日が経つにつれてリョーマは菊丸の事が気になり始めた。
 無意識に視線が菊丸の姿を探していたり、あの明るく自分を呼ぶ声が聞けない日は何だか寂しいと感じるようになっていて。

 そして菊丸の言葉で自分の気持ちに気付いてしまった。

『俺、おチビちゃんが好きだ』

 初めて人を好きになるという気持ち。
 漠然とした感情は自分でも持て余していてよくわからなかったけれど。
 菊丸と部活で会えるのが嬉しかったし、相変わらず“おチビちゃん”なんて言われるのも声が聞けて嬉しいと感じてしまったり。
 どんどん菊丸が心の中に入ってきて一杯になっていったから。

『オレも先輩の事が好き、です』

 驚くほど素直にそう返事をしていたリョーマ。
『マジっ!?ほんとにほんと?嬉しすぎかも・・・・・俺と付き合って欲しいんだけど・・・ダメ?』
『いいっす、よ』

 そうして二人の関係は部活の先輩・後輩から恋人へと変化する。






********************






「おっはよ〜!おチビちゃん」
「うわっ」

 走ってきた菊丸がリョーマの背中から勢いよく抱きついたためバランスを崩して進行方向へと倒れこみそうになった。

「お、っと!」
 その華奢な体を引き寄せるように腰に腕を回し菊丸は自分の方へと抱き寄せた。
「何するんですか、もう・・・・」
「にゃははっ!ごめんごめん、ついおチビちゃん見たら抱きしめたくなって〜」
 リョーマから離れ隣に立って悪びれもせずにこやかに笑う菊丸を見ていると怒る気持ちも失せてしまう。
 ふぅ、と短くため息を吐きリョーマは肩からずれたテニスバッグを再び掛けなおし部室へと歩いていく。

「でもおチビちゃん、早く行かなきゃダメだろー?もう一年の子たち用意してるみたいだよ」
「そうっすね」
 二人共急ぐわけでもなく並んで歩いていき部室の中に入ると二、三年生が着替えをしておりその中に堂々と入っていくリョーマ。
 あちこちから挨拶の言葉が二人に投げかけられる。

「おはよう、越前くん」
「あ、おはようございます」
 にこりと優しげな微笑みでリョーマへと話し掛けたのは不二。
「もう他の一年生は用意に行っちゃったよ?」
「そうみたいですね。文句は菊丸先輩に言ってもらえます?」
「にゃんで俺なのっ!ひで〜おチビ!!」
「ほら英二。着替えさせてあげないとまた手塚に走らされるんだから」
「ああっ!何すんだ不二ぃー!」

 菊丸の腕を取りリョーマから少し離れたところに移動させた。
 そのやり取りを見ていてポツリと呟いたのは部長の手塚。
「不二・・・そういうのは本人のいないところで言え・・・」
「あ、聞こえてた?ごめんね」

 悪びれもせずニッコリと再び笑いそれに賛同するかのように菊丸が会話に加わる。
 リョーマはそれを見てほんの少し疎外感を感じてしまっていた。






 菊丸の態度、すなわちスキンシップは自分にだけじゃないものだと知った。
 菊丸と同じクラスメートの不二周介や、ダブルスのパートナー大石秀一郎にも同じように接しているから。
 それだけではなく明るい菊丸は後輩からも慕われていたりして。
 噂によると菊丸は気まぐれな性格のせいか、どれもこれも長続きしないという。

 唯一続いているのがテニスだということ。

 今まで何人か付き合っていた女の子がいたらしいがどんなに長くても3ヶ月はもたなかったとも聞いた。


 それが本当なら?


 自分達が付き合い出したのは十日ほど前で。

 テニスしか知らない自分は菊丸にとって変わった存在に映っただろう。
 実際オモチャみたいに、と言ったら言葉は悪いがお気に入りのモノを手に入れて喜んでいるだけなのではないかと。

 飽きたら捨てるだけ。

 2歳も違う自分が菊丸にとって大切な存在になるとは思えなくて。




『ホントはオレのことどう思ってるの?』




 そう菊丸に聞いてみたかった。
 菊丸と一緒にいるのは楽しいと思うからその存在を手放したくないと思う。

 でも菊丸はどうなのだろうか。
 不二や大石たちのように色んな意味で菊丸に近い存在の彼らの方がやっぱりいいのでは、と思ってしまう。
 生意気で可愛気のない自分よりも可愛い女の子達の方が菊丸に相応しいのじゃないかと。

 考えれば考えるほどそれが正しいような気がしてくる。






「じゃオレ行きますんで・・・」
 帽子のツバを下げぺこりと一礼して部室を出るリョーマ。
 菊丸はリョーマの背中を見送るように視線を向けて。

「英二、早くしないと手塚がにらんでるよ」
 その一言で慌てて着替えを再開した。

 その後特にグラウンドを走らされる者もなく穏やかに朝練を終え各自授業を受けるため片付けのないニ、三年生から先に校舎へと移動していった。

 ただ一人を除いて。



 片づけを終え着替えもすませたリョーマは部室を出ると教室へ向かうため歩き出した。
「おチビちゃん、終わった〜?」
「えっ、何で先輩がここにいるんですか」
「何でとは酷いにゃ〜。おチビちゃん待ってたんだけど・・・一緒に校舎まで行こうと思って」

 驚き顔のリョーマに困ったように苦笑する菊丸。
「校舎って・・・すぐそこじゃないっすか・・・」
 自分を待って時間ギリギリに教室に行く事はないだろうに。
 内心嬉しかったその感情を表に出す事はなくぶっきらぼうに言い返したリョーマだったが。
「少しでも一緒にいれるじゃん、こうすればさ」
 ね?と菊丸はリョーマに笑いかける。

 それを横目で見ながら歩くリョーマの隣を歩いていく菊丸にふと違和感を感じた。
 悔しいけれど2歳という年の差は体格にしっかりと反映しているにもかかわらず、横を歩く菊丸の歩幅がリョーマと同じだという事に気付く。
 20センチも身長差があれば歩幅は違っていて当然なのに歩くスピードはリョーマと同じで横に並んでいるのだ。
 こんな何気ないところで菊丸の気遣いを感じてしまってまた複雑な想いを抱える。

「って言ってるうちにもう着いたし・・・じゃあまた放課後クラブでね!」
 そう言って菊丸は3年生の教室へと走っていってしまった。
 予鈴もさっき鳴っていてかなりギリギリのはずだろう。
 リョーマ自身はまぁ遅刻してもいいと思っていたから別に急いでいなかったりするのだが。
 走っていく菊丸の後姿を見つめ軽く嘆息すると教室へと向かった。






********************






 最後の授業を終えた生徒が、クラブに帰宅にとそれぞれ用意をしている頃にはもう部室へ向かっていたリョーマ。
 何冊かの教科書やノートが入った小さなカバンだけを持っている。
 と言っても適当につめて持ってきただけなのだが。

 下駄箱で靴に履き替え部室へと歩き出そうとして、玄関の入り口に立つ人物に気付いて目を見開いた。

「菊丸・・・先輩・・・」
「いぇ〜い!俺のがちょっと早かったにゃ〜〜」

 両手でガッツポーズを取りにゃははと笑っている菊丸に驚いたまま立ち尽くしていたリョーマはハッと我に返る。

「どうしてここにいるんですか?」
「そりゃおチビちゃんと一緒に行くためだよん」



 たったそれだけの理由?

 菊丸がここに立っていたのは自分と一緒に行くためだという。
 リョーマですら他の生徒よりかなり早く教室を出てきたのにそれより早く来ていた菊丸。

 どうしてこんなに自分を気にかけてくれるんだろうかと疑問に思わずにはいられない。



 がやがやと辺りが騒がしくなり、下校する他の生徒が来た事を知ったリョーマと菊丸は共に玄関を出た。

「・・・・・どうして今日なんですか?」
「ほぇ?」
「いつもはこんな事しないのに」
「たまにはいいっしょ?」

 朝と同じく笑いかけてくる菊丸を見てまたもや複雑な想いに駆られる。
 こうして一緒にいられるのは嬉しいけれど。
 でも何故こんなに気遣ってくれるのだろうか、と。
 部室までの短い道のりを二人で歩いていると不意に菊丸が言った。

「今日さ、一緒に帰らない?」
「・・・・・どうして?」
「だって今まで一緒に帰ったことってあまりないじゃん!おチビちゃんてばいつも桃と帰っちゃうしさ〜」
 俺だってたまには一緒に帰りたいなどとブツブツ呟いている姿をじっと見上げていたが地面へと視線を移し。
「それは先輩が・・・」
「ん?にゃに〜?」
 リョーマの小さな呟きは菊丸には聞こえなかったらしくホッとする。
「何も言ってないっす」
「で?まだ返事もらってないよ」

 今まで浮かべていた笑みを消し真剣そうな表情で見つめる菊丸に何故かドキドキと鼓動が早くなってしまう。
 返事も出来ないまま部室へと到着し扉を開けようとリョーマが手を伸ばすとその上から菊丸の手に押さえられた。

「返事を聞かせて」
「・・・早く準備しないと」
 菊丸からの誘いは心から嬉しいものだったけれど、どうしても素直になれなくて返事が出来ないままでいるリョーマ。
 さっさと部室の中に入って用意をしたいというのが本音で。
 でもそれは菊丸によって遮られてしまった。

「今日、待ってるから。正門でおチビの事待ってる。一緒に帰ろう」

 菊丸は一方的に告げるとリョーマの手を一度だけギュッと握る。
 そして部室の中へと先にリョーマを入らせ後から入る。
 やがて部員が集まりだし挨拶が飛び交う頃になるとリョーマはコートへと一人向かった。

 一度も菊丸と視線を合わすことなく飛び出すように部室を後にして。

「何でそんな事いうの・・・菊丸先輩・・・」
 先ほどの自分を見つめていた菊丸の真剣な瞳が頭から離れなかった。
 いつも明るく笑う姿しか見たことなかったからあんな菊丸は知らない。

 どうして今日なんだろう。

 自分がこんなに弱いなんて思わなかったと気付いてしまった今、そんな事を言われたら期待してしまう。
 自分はふさわしくない、そう考えているのに菊丸の優しさに触れたら手放せなくなるから。

「・・・・どうして優しくするわけ?・・・・・・教えてよ・・・」
 リョーマは潤んだ瞳をゴシゴシとこするとコート整備をするべく道具を持った。






 途中ぼんやりしていたせいでグラウンドを走らされる事になったリョーマ。
 視界に入る菊丸の姿に何だか嬉しくなって見つめていると菊丸と視線が合い慌てて目をそらしたりして。
 そしてまたも心臓がドキドキと高鳴ったりするのだ。
 こんなに意識した事がなかったから今まではわからなかったけれど、自分はこんなにも菊丸が好きになっていたんだと思った。
 相手の存在を確かめる事がこんなにも嬉しくなるものだなんて思ってもみなかったから。

 でも自分は・・・自分の存在は。

 暮れてきた空を見上げて目を伏せる。
 そして何かを決心したかのように頭を振ると残りの部活に専念する。
 終了の合図が訪れるといつも通りの光景がそこにはあった。

 ニ、三年生は先に部室へと戻り、一年生に交じって片付けを初めていたリョーマはコートから出て行こうとした桃城の後を追った。

「桃先輩、今日送ってくれなくていいっす」
「え、何か用事かよ?待っててやるぜ」
「用事ってわけじゃ・・・ないんすけど・・・」

 いつものリョーマらしくない、歯切れの悪い返答に首をかしげつつもそれ以上追求する事もなく肯定すると「おう、また明日な!」と言って歩いていった。
 特に理由を聞かれることもなくて安堵のため息をつくリョーマ。
 帽子のツバを下げ自分を呼ぶクラスメートの元へと片づけをするために戻っていった。






********************






 部室を出たリョーマは校門へと向かうため足を進めた。
 気持ちはかなり重く本音を言えば菊丸と一緒に帰りたくなかった。
 いつもとは違う態度の菊丸に不安を覚えずにはいられなくて。

 付き合っているといっても菊丸からの軽いスキンシップ・・・頬への軽いキスやギュッと抱きしめられる位だったのだ。

 なのにどうして今日はこんなにも自分に構うのだろう。
 それは自分から片時も離れないとしているようで疑問が頭から離れない。
 あんな真剣な菊丸を見るのは初めてだったから余計に不安になった。
 短い道のりはあっという間にリョーマを校門へと到着させ。

「あ。おチビちゃん、お帰り〜〜」
「すみません、待たせて」
「んにゃ!全然待ってないよん。さっき一緒に終わったばっかじゃん」

 門にもたれさせていた体を起こし手をひらひらと振ってリョーマを迎えにこりと笑った。

「ね、どっか寄ってく?お腹すいったしょ」
 おチビってばいつも桃と帰ってんだからたまにはつきあってよ。
 二人並んで歩きだし、言葉を続けた菊丸はリョーマの顔を覗き込むとリョーマは地面を俯いて地面を見つめたままコクリと頷いた。






「お腹すいたにゃ〜!何にするおチビ?」
「あ、じゃぁこれを・・・」
「俺もそれにしよっと。これ2つね」
 カウンターでメニューを覗き込みながら商品の注文をし、半分ほど人で埋まっている店内の中で窓際を確保して席に着く。

「今日も疲れたにゃ。手塚走らせすぎだっつーの」
「そうっすね。でも先輩が悪いんだから仕方ないんじゃないっすか?」
「む、おチビだって今日走らされてたろ」
「あれは・・・べつに・・・」

 いつでも勝気なリョーマらしくないその口調に菊丸は困ったような表情をして。
「今日どうしたの?朝から変だったけど・・・・」
 紡がれた言葉はリョーマを気遣うような心配そうなものだった。
 ビクッと体を硬くしたリョーマは唇を薄く開けて何かを話そうとしたが再び横に結び菊丸から視線を外す。
「何があったの・・・俺には話せない?」
 その言葉にどこか淋しげな響きが感じられてリョーマははじかれたように菊丸の顔を見た。
「それとも、俺が何かしたの?・・・・・・・こっちが正解、みたいだな・・」
 驚いたような表情をしたリョーマに再び困ったような表情で軽く嘆息する。
 菊丸がついたため息に反応するかのようにリョーマは否定の言葉を告げた。

「ちがっ・・・菊丸先輩は悪くない・・・」
「でもリョーマがそんな顔してるのは俺のせいだろ」
「・・・・・・先輩は・・・オレの事どう思ってるんですか・・・?」

 リョーマは聞きたくて今までどうしても聞くことが出来なかった質問をした。

「好きだよ。いつも言ってるっしょ」
 それに対し逡巡なく答える菊丸。
 茶化すではなく放課後見せたあの真剣な表情で。
 その真剣な瞳に耐えられなくてリョーマは視線を外そうと瞳を彷徨わせたが菊丸によって引き戻される。

「こっち向いて。俺を見て・・・どう言えば信じてくれる?」
「今日先輩変だったよ。いつもしないことばかりして・・・オレに優しくしてる。どうして?」
 菊丸から投げかけられた言葉には返さず反対に疑問を返したリョーマ。
 菊丸は一瞬息をのみすぐ意を決したように口を開く。

「それは・・・おチビが不安そうだったから。朝部室を出て行く時にそう感じたんだ」
「どうして・・・先輩はオレじゃなくてもいいんでしょ・・・っ」
 じわりと瞳に浮かんだ涙はリョーマの視界を揺らした。
「こんなオレなんかより相応しい子がいるんじゃない?飽きたら捨てるオモチャと一緒で変わったモノを手に入れて今だけ喜んでるんじゃないの!?だからもう優しくしないでよ・・・」

「リョーマ!」

 強い口調で呼ばれた名前。
 菊丸と出会ってから初めてだった。
 溢れてきた涙は止まることなくポタポタとリョーマの制服を濡らしていく。

「俺はリョーマの事オモチャだなんて一度も思ったことない。俺に相応しいかどうかなんて誰にも決められないよ、例え俺自身だとしてもね。そんなの思い上がりでしかないだろ?」
 選んだ相手はモノではないから。
 完璧な人間なんてどこにもいるわけない。
 そうである以上、相応しいだなんて言葉は傲慢な思い上がりだけ。

「リョーマのいいところたくさん知ってる。何より一目ぼれだったんだけど・・・・・・でも自分に相応しいから選んだわけじゃない。リョーマに惹かれたから好きになったんだよ」
 きつく目を瞑り流れる涙は頬を伝って落ちていく。
 菊丸はポケットからハンカチを取り出すと手を伸ばして向かいに座るリョーマの涙を拭いた。
「だっ、て・・・・・・今までつきあった子とかいたんでしょ・・・でもみんなすぐ別れたって・・・それならオレもそのうち・・」
「別れないよ。今までの事言われると困るけど・・・本気じゃなかったから。誰にも本気になれなかった、リョーマ以外には。この俺が夜眠れなかったりするんだもんな」

 両頬を伝う涙を拭いても一向に止まる事のないリョーマを見て困ったような表情で。

「俺がリョーマに優しくしたり構ったりするのはオモチャを手に入れて喜んでるからじゃない。好きだから、好きな子に優しくしたいって思うのは当然だろ?不安に思ってる事があるなら取り除いてあげたい。隠してきたそんな気持ちを知ったらリョーマが負担に思うかもしれないって思ってたからずっと隠してた」
「・・・いつか離れていくのなら優しく、しないでよ。期待しちゃうじゃん・・・」
「期待していいよ。俺は絶対リョーマを捨てたりしないし、こうしてるのは好きだからなんだ。今日の俺が本当の俺だよ。いつでもリョーマと一緒にいたくて仕方ない、本当の俺。それがリョーマを不安にさせてたんだね・・・ごめんな」

 頭を下げリョーマへと謝る菊丸に慌てて返事を返す。

「謝んないで!いつも好きって言ってくれてたのに信じてなかったオレに謝ることない」
 いつの間にか止まった涙は頬に乾いて残った。
 ゴシゴシと目をこすると泣き笑いのような表情を菊丸に向ける。

「こんなオレだけどキライにならないで」
「リョーマが俺に飽きる事はあってもその反対はぜ〜ったいない!信じなって!」
「オレが先輩に飽きる事なんてないもん。先輩こそ可愛い子みたら浮気するんじゃないの」
「じゃ信じさせてやる、バカおチビ!」

 菊丸は身を乗り出して小さなテーブルの向かいに座るリョーマの唇に触れるだけのキスを落としてすぐ離れた。


「!?!!!!」

 これ以上ないほど真っ赤な顔をしてふるふると震えているリョーマ。
 文句を言おうにもあまりの出来事に上手く言葉にならない。

「信じてくれたかにゃ?ヤキモチ妬くおチビが可愛いから浮気なんてしないもんね!」

 可愛いなんていわれても嬉しくなんかないけれど否定の言葉も告げられず。
 一瞬の事で周りは特にざわめくこともなかったため気付かれなかったようでやっとのことで落ち着いたリョーマはホッとした。

「何するんですか!こんなとこで・・・先輩のバカ!」
「それ、やめない?名前で呼んで欲しいな〜・・・ほいっ、言ってみ?」
 呼び方に不満をもった菊丸は恋人ならやっぱり名前で呼んでくれなきゃ、とリョーマに言い。
「・・・・別にいいじゃん、“先輩”でも・・・」
 先ほどとは違った意味で顔を赤らめたリョーマはそう返す。
 テーブルにヒジをついてニコニコと笑っている菊丸にじっと見つめられ観念したかのようにリョーマは小さく呟いた。

「エ・・・エー、ジ」
「聞こえなかったからもう1回言って?」
「・・・・ヤだ」

 嬉しそうな表情はどうみても聞こえていたに違いない。
 そして菊丸が意地の悪い表情をして再びリョーマへと催促した。

「んじゃもう1回キスしよっか?」
「!もおっ、エージのバカっ!」
「二人っきりの時は名前で呼び合おうね〜〜好きだよリョーマ」
「呼ばないっ!オレ帰りますっ!!」

 ガタンと立ち上がって菊丸から逃げるように足を踏み出そうとしたリョーマは菊丸に腕をつかまれ。
「今日は一緒に帰るって約束だっただろ」


 だから逃げないで?


 微笑んでいる菊丸の顔を見てふぅとため息を一つつくとコクンと頷いた。
 きっとこれから毎日一緒に帰るんだろうなとどこか嬉しく思いながら。







 優しくするのは相手の事をいつでも想っているからで。
 そんな優しさに不安になるのはその想いを信じていないからかもしれない。

 相応しいとか相応しくないとか。
 そんなの誰にも決められない。

 自分が一緒にいたいと望んで、相手からも一緒にいて欲しいと望まれる事。
 それが恋人でいる理由。

 どちらかが欠けては成立しないキモチだからこそ難しいもの。






「ねー、もう1回言ってよリョーマぁ〜〜」
「言わないったら言わない!」






 初めてお互いの“本気のキモチ”を伝え合った今日。
 やっと二人の心は通じた。
 少しずつキモチを増やして時間をかけてゆっくりと育てて。













 優しさの向こうに待つ未来へ・・・・・












☆謝辞☆

茉莉さん〜Vvv
ありがとうございます!!
3つ目のキリリク小説頂きました!!

もうもう、間が暫く空いていればともかく。
連続でキリを踏むのは些か、心苦しかったです;;
何だかとても、申し訳ない気がしてしょうがなく;;
それでも、快くリクエスト受け付けてくださってありがとうございました!!

どうにも書き辛いものばかりだったかもと、冷や汗タラタラです(^^;;;)

今回も英二先輩の優しさに不安を憶えるリョーマさんを(←リク内容;;)
ちゃんと書いて下さってて、凄い嬉しかったです〜Vvvv

もうもう英二先輩がカッコ良くてVvv
惚れ直しますよ〜Vvv(←アホ;;)

本当に、3回もリクに答えてくださって本当にありがとうございました!!
どれも素敵小説で、本当に嬉しかったです!

これからも、どぞよろしくお願い致します〜(^^)

本当は、ちょこっとイラスト描いたんですけども。
英二がここ最近、旨く描けないもんで(++;)

もちっと練習してから、UPさせて頂きます〜(うにゃん;)