これから来る夏に 作:せしる様 |
夏はすぐそこまで近付いていて、真夏のような陽射しが振り注ぐコートでの部活動を終えたリョーマは1年生の部員達とともにコートの整備をしていた。 そしてちらりとグラウンドに視線を移せば、そこには先ほど部長の手塚に罰走を言い渡された菊丸がその言い渡された量をこなすべく走っている。 (オレのことかまいすぎるからだって何でわかんないのかな?) リョーマはそんな風に思いながらコート整備を続けていた。 そう、菊丸が手塚から罰走を言い渡される時の8割は自分をかまっている時で 「そんなことをしなければ走らされなくても済むじゃん」 リョーマは菊丸に何度そう言ったのかわからない。 なのに菊丸は一向に聞き入れる様子はなく、さらには 「それで走らされるなら本望だよ!だってオレがおチビのことかまう時っていうのは、オレが全身でおチビを求めてる時なんだから。だから満たされた後ならいくら走ったって平気なの」 そんなことまで笑顔でさらりと言ってのけるのだった。 (オレってすごい人を恋人にしちゃったのかな・・・?) と、内心苦笑いを浮かべると手早く整備を終え菊丸よりも先に部室へと戻った。 「あ〜、疲れた〜!」 本当に疲れているのかと思うほど元気な菊丸が部室へと戻ってきた。 そして走った後なので暑い暑いとイスに座って騒いでいる。 もうすでに部室にはリョーマしか残っていなかった。 「先輩、うるさいっス」 リョーマはそう言われることでさらに体感気温が上がりそうな気がして思わず菊丸にそう言った。 「だって、暑いもんは仕方ないだろ?あっ、おチビのタオル貸して?」 菊丸はそう言うとリョーマの元に近付き、ロッカーの中から飛び出していた 先ほどまでリョーマが使っていたタオルをひょいっと掴むと 「借りるね〜!」 と、またイスに戻り腰を下ろすとごしごしとタオルで顔を拭き始めた。 リョーマは反論する間も与えてもらえず、ただ驚いて口をパクパクとさせているだけで、そんなリョーマを見た菊丸は不思議そうに首を傾げると 「どしたん?あっ、使っちゃダメだった?」 今さらだが不安げな表情を浮かべてそうリョーマに聞いた。 「いや、別に・・・そういうわけじゃないっス」 ボソッと呟かれたその言葉にホッとしたような笑みを浮かべる菊丸。 「ちゃんと洗って返すからね」 そう言うとイスから立ち上がり着替えを始めようとロッカーへと向かった。 「いいっすよ。どうせ洗うんだし」 と菊丸の手からタオルを取り戻そうとしたリョーマだったがそれは失敗に終わる。 もう少しでリョーマの手に掴めると思ったタオルは菊丸のカバンへと入ってしまったのだ。 「ダーメ!オレが洗ってくるの!」 そう言うと菊丸は着替えを始めてしまい、リョーマはさらに本当にいいからと言い続けていたが、その後リョーマのタオルが菊丸のカバンから出てくることはなかった。 「お待たせ!じゃっ帰ろっか?」 菊丸が着替えを終え、リョーマに声をかける。 「はい」 リョーマはそう言ってテニスバッグを肩にかける。するとその横に菊丸が並び2人は一緒に部室を出て鍵をかけると、その鍵を職員室へと戻し、学校を後にしたのだった。 そしてリョーマの家へと足を進めながら 「ねぇ、おチビ。これから付き合って欲しいところがあるって言ったら一緒に来てくれる?」 戸惑いがちに菊丸はリョーマにそんなことを確認する。 「別にいいっスけど・・・いったいどこ行くんすか?」 とあたりまえの疑問を菊丸へと向ける。すると、ためらいがちに頷いた菊丸は 「海・・・に行きたいんだよね」 そうリョーマに答える。 「海っ!?」 思いも寄らなかったその言葉にリョーマは思わず驚き、声を上げていたのだった。 「そう、海。やっぱりダメ・・かな?」 「ダメ・・・じゃないけど、どうして急に?」 「ん、どうしてもこういう天気のいい日に行きたかったんだよね」 そう言いながら菊丸は頭上に広がる青空を見つめていた。 リョーマはまだ空が青く、日が高いのを確認する。 今日は日曜日で、部活はあったが終わった時間がまだ早かったためこれから海に行くにしても充分時間はある。 多分、電車に乗って少し行けば広い海を見られるところまで行けるだろう。 そして他の誰でもない菊丸の頼みとなれば・・・。 「うん、わかった。これから一緒に行こ」 リョーマははっきりとそう答えていたのだった。すると菊丸は嬉しそうな笑顔を浮かべ 「じゃっ、これから帰って着替えてから行こうね」 とリョーマの家へと向かう足を少し速める。 「でも、エージはどうするの?」 自分は着替えられたとしても菊丸はどうするのだろうと思ったリョーマの問いかけに 「実はこの中に入ってるんだ。ちょっとした着替え」 菊丸は照れたように微笑みながらそう返事をしたのだった。 本当に用意周到な人だな・・・とリョーマは思いながらも、そうっすかと頷くと、少しでも早く家に着くようにと菊丸と家への道を急ぎ、そしてリョーマの家で菊丸も着替えを済ませ2人は駅へと向かったのだった。 少しの時間、電車に揺られて2人は自宅がある駅から少しだけ離れた駅へと着いた。 そこからまた少し歩いて行くと、目の前に大きく広がる海が見えてきたのだった。 「わ〜!」 2人は同時に声を上げる。 目の中に飛び込んできた海の青さがキレイすぎて形容する言葉も出てこない。 もっと近くでその色を見たいと思った菊丸とリョーマは、あたり前のように手を繋いで、砂浜へと降りることが出来る場所まで歩いていった。 そして 「すごいね・・・」 「うん、ほんとにすごい」 波が打ち寄せる音を聞きながら、握り締めている手に力を込めた2人。 真っ青な空が、海の色をとてもキレイにしてくれていて 菊丸とリョーマはその場所でしばらく何も話さずに海を見つめていた。 それからしばらく経ったころ 「エージ。今日ココに連れて来てくれてありがと・・・すごく嬉しかった」 と、不意にリョーマが菊丸にそう言った。すると 「何言ってんの?オレが勝手に誘っただけじゃん、一緒に来てくれただけで十分だよ。感謝なんかされたらバチが当たっちゃうよ」 菊丸はそう言いながらも、とても嬉しそうにしていたのだった。 「もうすぐそこまで夏が来てるんだね」 「そだね、夏が来たらリョーマと何しようかな?」 「オレはエージとしたいこといっぱいあるよ?」 「何々?教えて?」 「一緒にテニスしたり、ファンタ飲んだり、お祭り行ったり、花火見たり、花火したり、かき氷食べたり、海に行ったり、プールに行ったり・・・」 「ちょっ・・・リョーマ。まだあるの?」 「うん!だってオレがしたいことは全部エージとしたいことなんだもん」 そう言って菊丸を見つめて笑顔を向けたリョーマは今2人でキレイだと言っていた海よりもキレイだった。 そんなリョーマをぼけっと見ていた菊丸だったがハッと我に返り意味ありげな表情を浮かべる。 「あっ・・・オレもリョーマとしたいこと見つけた」 「何?」 「ん?それはね・・・」 菊丸はその行動を言葉にせず、実行する。そして 「こうして、夏でもリョーマの熱さを感じたい」 と今、不意打ちでキスをされ驚いているリョーマににっこりと微笑んだのだった。 「・・・・・・・・・バカエージ」 「にゃははvバカでいいよん」 そんな会話を続けていた2人を潮風が優しく包んでいく。 「でも、またこうして2人で来よう?それで夏だけじゃなく全部の季節を2人で一緒に過ごしていこうね」 「そうだね、エージと2人で・・・ね」 2人は繋いでいた手の小指をするりと絡め、そっと指きりをしたのだった。 そして帰りの電車の中、菊丸は肩に温かなものを感じていた。 (やっぱり部活が終わってからだったから疲れちゃったよね) 自分の肩にもたれて眠ってしまっているリョーマをそっと見つめてそう思い (でも、本当に嬉しかったよ。ありがとね、リョーマ) 愛しさを込めた視線でリョーマを見つめる菊丸。 そんな菊丸に見つめられているリョーマはもたれている菊丸の存在に安心して、これから菊丸と過ごしていく夏の日々を想っているのか心地よい眠りについていたのだった。 |
☆謝辞☆ せしる様のサイト【Truelove Knot】にて、 【暑中お見舞い】のSSをフリー配布されていたものを頂いて来ました(*^^*) 落ち着いてて、大人で優しい英二先輩は本当に、理想! なのですが、ウチの英二には、 今現在、逆立ちしても無理なので(笑)精進して欲しい次第ですが。 それはともかく! リョーマさんの「オレのしたいことはエージとしたいことだもん」って 言う台詞が大好きです。 英二もメロメロですよねん♪ 後、帰りの電車で 英二の肩に凭れて眠るリョーマさんが可愛いです。 このシーン、微笑ましくて、もう大好きです! 素敵な暑中お見舞いのSSを、ありがとうございました! |