未来への約束 |
「うー……」 「……」 「うにゃ〜……」 「…………」 「うぅ〜;;」 「英二」 隣の席で、唸り続ける親友の頭を持っていたノートで叩いたのは、そろそろ我慢も限界に来たからである。 軽快な音を弾ませて、だが、それなりの痛さを持って、英二は叩かれた頭を擦りながら、親友に目を向けた。 「いきなり何すんだよ?」 「煩いんだよ。朝からずっと唸りっ放しで……」 「……………だって、おチビの誕生日まで後、4日しかないんだよ? でも……何をプレゼントしたらおチビが喜んでくれるか判んないんだよ〜」 「何でもそれなりに喜んでくれると思うけどね」 「……………それなりってどう言う意味だよ?」 「どんなものでも、英二から貰ったものなら喜ぶんじゃないのって意味だけど?」 「何か、不二が言うと別の意味に聞こえる……」 「心外だなー。僕は真面目に言ってるのに……」 「その辺が既に怪しいんだよ!」 英二はそう言って、ガタンを音を立てて、席を立った。 「どこ行くの?」 「おチビのとこ。ちょっと補給して来る」 「……補給って……栄養剤か何かみたいだね?」 「そうだよ〜おチビはオレのエネルギー源だもん☆」 そう言って、教室を飛び出して、英二は1年の教室に向かった。 1−2の教室の入り口から中を覗くと、件の恋人、越前リョーマは、自分の席に座っていた。 その周りに、クラスの女子とそれに混ざって、春頃よく見かけていた女生徒とテニス部顧問の孫娘がいて、何かを話している。 英二に気付いた堀尾が声を上げかけたのを、英二は動作だけで黙らせた。 「リョーマさま! 誕生日プレゼントって何が欲しいですか?」 一際、明るく元気な声が教室内に響き渡る。 椅子に座っているリョーマには、何故だかしゃがみ込んでしまった英二は死角になって見えない状態だった。 「誕生日……くれるの?」 「はい! 折角プレゼントするんだったら、リョーマさまが欲しいと思うものが良いなと思って!」 「……オレが欲しいものはオレが自分で手に入れるし。……普通、その人に贈りたいと思うものを、贈るんじゃないの? プレゼントって」 「……え?」 「自分の欲しいものは自分で手に入れる。その方がずっと、楽しいしドキドキするからね」 リョーマの言葉に、英二は咄嗟に踵を返して、1−2の教室を後にしていた。 「そっか……おチビが欲しいと思うものじゃなくて、おチビに贈りたいと思うものを上げれば良いんだ……」 呟きながら、色々考えてみる。 リストバンドや、スポーツタオル。 それに、テニスシューズの紐とか、後、帽子……。 定番になってる【FILA】の白い帽子以外にも、色々と持ってるようだし、結構好きなんだと思う。 だけど、どれもありきたりで……イマイチ、ピンと来なかった。 どうせなら、飾っとくものより使えるものの方が良い。 マフラーや手袋なんかも良いかも知れない。 「いや、この手のは案外、菜々子さん辺りから貰いそうだな……」 まあ、被っても幾つあっても困る代物でもないんだしと考えるが、ふと……とある歌の歌詞を思い出した。 「そうだ!」 英二はポンと手を打って、自分の思いつきに気をよくして、3−6の教室に向かって駆け出していた。 ☆ ☆ ☆ 「あのねえ、英二」 「何?」 「今の時期にそれを探すのは……一苦労じゃない?」 「やっぱり? 何でもっと早く思いつかなかったんだろう!!」 嘆く英二に、不二はふと思いついたことを口にして見た。 「……案外、君のものでも喜ぶんじゃないかな?」 「は?」 「君が使ってたもの……使い捨てって言うか、使いまわしって言うとあれだけど……。でも、好きな人の持ち物を分けて貰えるのは、嬉しいと思うよ?」 「……………そうかな?」 「………………多分ね」 「……何だよ? その間は……」 「やだな〜別に深い意味はないよ」 ニッコリ笑う不二に、何とも言えない戦慄を覚えながら、英二は『じゃあ、今日はプレゼント買いに行くから』と、放課後早々に教室を飛び出して行った。 「桃!!」 英二は、そのまま自転車置き場にダッシュして、帰ろうとしていた桃城を捕まえた。 「英二先輩?」 「……今日……部活な……の?」 荒く息をつきながら、英二が問い掛けると、桃城は首を竦めて、 「顧問のバアさんが居ないっすから」 「……ああ、そうなんだ。ってそうじゃなくて、ね♪ 自転車貸して?」 「はあ?」 「お願い!! 今度なんか奢るからさ!!」 「んなこと急に……」 「ねえ! お願い!!」 パンと両手を合わせて、まるで拝むように言い、上目遣いに片目だけを開けて、桃城を窺うと、桃城は仕方ないと言う風に溜息を漏らした。 「……しょうがないッスね。判りましたよ、英二先輩」 「やったー☆ サンキュー! 桃」 喜ぶ英二に、桃城は苦笑を浮かべつつ、刺さるような視線に振り返った。 「え、越前……」 「へ?」 桃城の自転車のハンドルを握っていた英二は、焦ったように、桃城が向いた先に目を向ける。 あたふたと、自転車を引き出して跨ると、英二はそそくさとその場を離れようと試みた。 「じゃ、オレ行くね! バイバイ桃、おチビちゃん」 「って、英二先輩?」 リョーマが来たのに、その場から逃げ出そうとする英二に、桃城は面食らい、リョーマの様子に冷や汗が流れるのを感じた。 「……エージ」 「……な、何?」 リョーマに声をかけられて、それを無視することは出来ず、英二は漕ぎ出そうとした足を止めて、問い返した。 「……今日、HRが始まる前……ウチのクラス来てなかった?」 「………………」 あからさまに動揺してしまって、英二は返事に窮してしまった。 それでも、何とか誤魔化そうと、慌てて首を横に振って、否定して見せた。 「行ってないよ? 行ってたら、話し掛けてる決まってるじゃん☆」 尤もな言葉に、リョーマは言葉に詰まったらしく、黙り込む。 「じゃあね! また、明日〜!!」 「明日から冬休みじゃん……」 ポツンと呟いたリョーマの言葉に、英二は今日が終業式だったことを思い出した。 慌ててブレーキを握り締め、足を地面について、振り返って言った。 「……明日は、部活あるよね?」 「……有りますけど」 桃城の答えに、英二は「じゃあ、明日の部活に来れたら来るから!」と言って、今度こそ自転車をこぎ出した。 後に、泣きそうな表情の桃城と、もろに低気圧な雰囲気を有したリョーマを残して―― ☆ ☆ ☆ 「んー良いのないな〜」 色々な店を回りながら、たくさんの服を物色しつつ、ピンと来るものがなくて、英二は思わず愚痴を零してしまう。 ふと、店員の「いらっしゃいませ」と言う声に、何気に視線を向けた先に、さっき分かれたリョーマの姿を見て、英二は目を見開いた。 「おチビちゃん?」 「どうも、エージ先輩」 「何でここに? ってか、さっき分かれたばっかで、また会えちゃうなんて、やっぱ、オレ達運命で結ばれてるんだね〜」 「……何バカ言ってんスか?」 にべもなく言い捨て、リョーマは適当にハンカチを二枚手にして、レジに向かった。 別々に包装して貰うように頼み、後ろに立つエージを見上げて来る。 「何ッスか?」 「……プレゼント?」 「見て判んないッスか?」 「……判るけど……」 代金を支払い、リョーマはその二つを大事そうにカバンに仕舞うと、英二を見上げて問い掛けた。 「エージ先輩は?」 「……へ?」 「こんな所に、何を買いに来たんスか?」 「……こんなところって……」 ハッとしたように英二は周りを見回した。 そこは、どこからどう見ても女性服専門の店だったからである。 「あれ? ここってレディースもの?」 「気付いてなかったんスか?」 「にゃはは……;; 色々夢中になってたみたい。そか。じゃあ、ここじゃダメだよな。うん」 一人で頷いて、英二はさっさと踵を返した。 店を出て行こうとして、ふと、リョーマを振り返る。 「……そのプレゼント……」 「……?」 「……別に何でもない。じゃあね! おチビちゃんVv」 そう言うなり、店を出て、自転車に乗ってその場から走り去った。 (まさかあのハンカチ……。あの娘たちにプレゼントじゃないよね?) 言いかけて言えなかった言葉を、胸の中で呟きながら、英二は必死にそれを否定していた。 ☆ ☆ ☆ その翌日は、約束通り英二は部活に顔を出した。 一緒にテニスをして、日が暮れ始めた頃、送ってくと言う英二の言葉に、リョーマは素直に頷いてくれた。 「ああ、そうだ。越前」 「何スか?」 帰り際、桃城がリョーマに声をかけて来て、リョーマは面倒くさそうに振り向いた。 「これ、今朝、不二先輩から預かったんだ」 「? 招待状?」 「クリスマスパーティだってさ。今年は不二先輩の家でやるみたいだぜ」 「へえ……」 「行くだろ? あ、これ英二先輩のッス」 「………………って、ちょっと待った。クリスマスパーティなんて聞いてないぞ? おチビ……」 「何スか?」 「行くの?」 「折角だし……断る理由もないでしょ?」 「だけど……!」 「だけど?」 リョーマはキョトンとして、英二を見上げて問い掛けて来た。 英二は、言葉に詰まって、リョーマから視線を外して、肩を落とした。 「別に……何でもない」 「……はあ」 リョーマの溜息に、英二はムッとしながら見返って、 「何、その溜息………?」 「溜息は溜息ッスよ。……招待状の時間、よく見てみたら?」 「……はあ?」 呆れたようなリョーマの言葉に、英二は招待状の封を開けて、中のカードを取り出した。 【メリークリスマス! きっと今頃すっごく、ふて腐れた表情してるんだろうね。でも、安心していいよ。パーティの開始時刻は午後1時。夕方には開放してあげるから】 「……何か問題でもあるんスか?」 「……………何もないです」 英二の言葉にリョーマは苦笑を浮かべる。 「それじゃ、これから、パーティ用のプレゼント買いに行きましょうか?」 「え? プレゼント?」 英二は目を瞠って、桃城に視線を向けた。 「去年は別にプレゼントなんか持って行かなかったぜ?」 「うんうん。オレが1年のときも」 「でも、ここにプレゼント持参でって書いてあるっスよ。――プレゼント交換しないで、クリスマスパーティに何してたんスか?」 至極疑問そうに、リョーマが桃城と英二を見上げて問い掛けた。 「いや……クリスマスなんて単なる口実だし……」 「そうそう! クリスマスはみんなで騒いで楽しんじゃおうって感じで……」 「ふーん……」 リョーマは首を傾げながら、招待状をカバンに入れ、部室の出入口に向かった。 そんなリョーマを見つめながら、英二はハッとあることに思いついて、桃城の肩を掴んで引き寄せた。 「何っスか?」 「しっ! プレゼントの意味! あれ、クリスマスじゃなくて……」 そっと耳打ちすると、桃城もああっと、目を見開いて頷いた。 「……なるほど。そう言うことっスか」 「ったく、不二らしいよね。おチビ気付いてないし……」 ドアを開けて一度外に出たリョーマは、後について来ない英二に、もう一度部室に顔を覗かせた。 「エージ……」 「はっ! いや、あのこれは別に……!!!」 その声に英二はハッとしたように、自分の状況を顧みた。 桃城の肩を抱いた状態でいた英二に、リョーマの低気圧が思い切りぶつかる。 「…………桃先輩と好きにすれば? じゃあ、失礼します」 言葉、物凄く丁寧に。 だが、ドアは閉まる瞬間に、盛大な音を立てた。 「英二先輩………これ以上、越前の機嫌損ねないで下さいよ〜当たられるの、オレなんスから……」 「そ、そんなこと言ったって、今のだって別に変な意味がある訳じゃないんだし! ちょっと待ってよ! おチビちゃん!!!」 桃城にたどたどしく言い訳しつつ、それ以上に誤解を解かねばと、英二は部室を飛び出した。 ☆ ☆ ☆ 「バカエージ!」 「バカでごめん!!」 「!」 ポツンと呟いた声が聞こえて来て、英二は思わずそう言っていた。 驚いたように振り返ったリョーマを、その腕の中に抱き締めて、 「別に、変な意味がある訳じゃないんだから!!」 「…………」 「怒らないでよ……リョーマ」 「…………エージはズルイ……」 「は? 何が……」 ムスっとしたまま英二を見上げて来たリョーマに、思いっきり足を踏みつけにされた。 「ったああ!!」 「ズルイけど、追っかけてきてくれたから、見逃してやる」 「…………なんか偉そう……」 「なんか言った?」 「別に……!」 慌てて首を振ると、リョーマは苦笑を浮かべて、「じゃあ、プレゼント、買いに行きましょうか?」と言った。 「やっぱり、スポーツ用品?」 英二の言葉にリョーマは頷き、 「全員が確実に使えるものでしょ? 誰に当たっても、大丈夫じゃないっすか?」 「んー……そう言えばそうだよね。受け狙いならともかく……」 「は?」 「んにゃ。何でもないよん。んじゃ、行こうか?」 慌てたように言って、英二はリョーマの背中を軽く押して、歩き出した。 ☆ ☆ ☆ 12月24日。 リョーマの誕生日で、クリスマスイブ当日。 英二は、目が覚めた瞬間から感じていた。 「……なんか、喉痛い?」 呟きながら、二段ベッドの梯子に足をかけたと思った瞬間、踏み外して、そのまま床まで落下してしまった。 「英二? 何やってんだ?」 下段のベッドでまだ寝ていた兄が、小さく問い掛けて来て、英二は決まり悪げに笑って見せた。 「何よ、英二。ご飯、全然食べてないじゃない」 長姉の言葉に、英二はミルクを飲みながら、小さく答えた。 「うー……なんか食欲ないし……」 「あんた、なんか顔赤いけど……熱あるんじゃない?」 英二はあからさまにギクっとして、慌てて立ち上がった。 「べ、別に何でもない! じゃあ、オレ今日、出かけるから……」 「ちょっと待ちなさい!」 「何で?」 ドギマギしながら問い返すと、下の姉が、ついっと体温計を差し出して来た。 「熱測って、平熱だったら、出かけてもいいけど。微熱でもあったら、出掛けちゃダメよ」 「そうそう。風邪は引き始めが肝心なんだから」 二人で口を揃えて言う姉に、英二は不承不承、体温計を手にした。 何とか誤魔化して熱はないんだと告げようとしたものの、そんなことに騙される姉でもなく、37.9℃あった英二は問答無用に、部屋に押し戻された。 「それだけ熱があっても出かけようってくらいだから、まだ、冷やす必要はなさそうね。ともかく、安静にしてなさい!」 「……」 自室の床に布団を敷いてそこで、寝るように言い、姉はさっさと部屋を出て行った。 「……むぅ〜」 英二は、暫し布団を見つめつつ、壁にかけられている時計に目を向けた。 今日は、長兄と、両親以外は、仕事や学校が休みで、姉二人と次兄、祖父母が家にいる。 尤も、次兄はさっさと遊びに出かけたし、祖父母も老人会のクリスマス会だか忘年会だかに、出掛ける予定らしい。 姉二人にしても、それぞれ、友達と約束があるはずだ。 菊丸家で、ケーキとご馳走を家族揃って食べるのは、24日ではなく、25日の夜なのだから……。 だから、抜け出すチャンスは、きっとある。 その時まで、身体を休めとくのは、悪いことじゃない筈だ。 時計の針は、10時半を過ぎたところだった。 ☆ ☆ ☆ 「不二くんに断りの電話したから……」 「え?」 12時前に、出掛ける支度を済ませた長姉が、部屋を覗き込んでそう告げた。 「不二くんの家でパーティって言ってたでしょ? だから、断っといたから……」 「何で!?」 「何でじゃないでしょ? 今のあんたが、そんなとこに行っても風邪菌、撒き散らすだけで、ろくなことないじゃない」 「……ぅ……」 「しかも、体調が悪化したらどうするの? 折角、楽しいパーティなのに、あんたの面倒で終始しちゃつまんないでしょう?」 「……うぅ……」 全く持って正論をぶつけられて、英二は悔しげに唇を噛み締めた。 「まあ、こんな日に風邪を引いた自分を悔やむのね」 辛辣な言葉を残し、姉は部屋を出て行った。 「何でよりにもよって、こんな大事な日に風邪引くかな〜一日待ってくれても良いじゃん……」 結局、行くことが出来なくなったパーティよりも……。 大事なコの誕生日に、傍にいて上げられないことが、何よりも悲しくて悔しかった。 「おチビちゃん……誕生日、おめでと」 「そう言うことは、本人の前で言ってくれませんか?」 不意に返って来た声に、英二は慌てて飛び起きた。 「おチビ?」 「ホント、どこまでも付いてない人だね。こんな日に風邪引くなんて……」 「……ごめん」 「何で謝るの?」 「……だって、折角、おチビの誕生日なのに……一緒にいて上げられなくて……」 英二の言葉に、リョーマは不思議そうに首を傾げた。 「……今、オレがいるのはどこっすか?」 「……オレの部屋?」 「今日は何日?」 「12月24日! 何だよ?」 あまりに当たり前なことを聞かれて、英二はムッとしつつ答えると、リョーマはくすっと笑って言った。 「オレの誕生日に、オレはエージと一緒にいるんだけど?」 「……へ?」 「そうでしょ? オレは今現在、エージと一緒にいるし……」 リョーマの言葉に、英二は思わず目を瞠った。 キョトンとした表情のまま、首を傾げて、リョーマは英二を見つめている。 「あは……あはははは……」 「エージ?」 「そうだね。オレ、今おチビと一緒にいるんだよね?」 「そうだよ? 今更、何言ってんだか……」 「あ。でも、不二の家に行かなくて良いの?」 「だって、不二先輩が電話くれたんだよ? エージのとこに行ってあげたらって言ってくれたし……」 「そうなの?」 「目一杯、凹んでる筈だから、慰めてやってって……」 「不二の奴……………」 余計な一言に、眉を顰めつつ、それでも親友の思いやりに笑みが浮かぶ。 「あ。そだ……」 不意に、リョーマはそう言って、自分が持って来たバッグから、少し大きめの包みを取り出した。 「おチビ?」 「これ、クリスマスプレゼント」 「え? オレに?」 「………他に誰がいるの?」 呆れたような口調で、リョーマが言い、英二はそれもそうかと、その包みを受け取った。 「あ、オレも……誕生日のプレゼントとクリスマスプレゼント、買ったんだ」 「……え? 二つもいらないのに……」 申し訳なさそうに言うリョーマに、英二は軽く笑って、 「オレが贈りたいって思ったんだから、別に良いでしょ?」 「……………やっぱり、あの時、話聞いてた?」 「え?」 リョーマは視線を下げて言う。 「あの時、エージ教室に来てたみたいなのに、何も話もしないで出てっちゃうんだもん。……放課後も、さっさと帰っちゃうし……。どうしたのか気になってたら、あそこで会っちゃったし」 「……あ……。まあ、もう隠してもしょうがないから言うけど……。リョーマの誕生日プレゼント探してたんだよ」 「え? ……………でも、レディースのブティックにいたじゃん……」 「あれは、本当に服しか見てなくて……。リョーマに似合いそうな服を探してたから……女性物でも合いそうだし」 英二の言葉に、リョーマはむすっとしたまま、そっぽを向いてポツンと言う。 「……これでも、春から身長、伸びてんスけど?」 「……知ってる。今、154だっけ?」 「でも、エージも伸びた?」 「うん。20センチ差は変わらないね〜」 「ムカツク!」 リョーマの言葉に、英二は軽く笑って、起き上がると、机の上にあった包みを取り上げた。 「こっちは、クリスマスプレゼントね」 小さな包みを渡して言うと、リョーマは目を丸くした。 「……? これ、一緒に買いに行った不二先輩チのパーティ用のプレゼントじゃ……?」 「そうだよ。でも、不二は元々、おチビの誕生日プレゼントのつもりで、用意するように言ったんだよ」 「え?」 「だって、去年も一昨年も、誰もプレゼントなんか用意しなかったよ?」 「…………じゃ、今日のパーティ」 「そう。本当はクリスマスにかこつけた、おチビの誕生日パーティだったんだよ」 「え? じゃ、オレが行かなかったら……」 「クリスマスパーティってことに――元々、名目はそうなんだし……なるんじゃないかな?」 「………………」 「気になる?」 少し逡巡した後、リョーマは首を縦に振った。 「行って来て良いよ?」 「……でも……!」 「だって、リョーマ……一番最初に、オレのとこに来てくれたじゃん!」 「……え? でも、それは……不二先輩が……」 「それでも! 家族以外で、一番最初に、会ってくれた……。だから、行って良いよ?」 「……直ぐに、戻って来るから……」 「うん。あ、おチビ!」 部屋を出ようとした、リョーマを呼び止めて、英二は満面に笑みを湛えて、口を開いた。 「誕生日、おめでとう」 「……………Thank You.……. Merry Christmas! Eiji」 そう言って、リョーマは行きかけたのを止めて、、英二の傍に戻って来ると、その頬にキスをした。 その行動に、驚きつつ、英二もキスを返そうとして、ハタと止まる。 「風邪、移しちゃうかも……」 「別に……気にしないッスよ? それで、エージの風邪が早く治るなら、そっちの方が良いし……」 「もう! おチビ大好きVvv」 そっと、リョーマの頬に口付けて、それから、唇に触れるだけのキスをして、英二はリョーマを見送った。 携帯を取り出して、不二に今からリョーマが行くことを告げると、不二はかなり驚いた様子で、最後にこう言った。 『君も少しは大人になったんだね』 「余計なお世話だ!」 怒鳴るように言って、それから、吹き出すように笑った。 「じゃあね。メリークリスマス!」 『メリークリスマス。またね。英二』 電話を切って、英二は布団に倒れ込んだ。 熱は朝よりは下がってて、少し咳は出て喉が痛いけど、もう大丈夫のような気がする。 「おチビ効果って凄いかも」 そう思いながら、英二はリョーマが帰って来るのを、ワクワクしながら待っていた。 Happy Birthday! To Ryoma! and Merry Christmas! 「エージ! ただいま!」 「おチビ、おっかえりー☆」 一時間後。 リョーマが大量のプレゼントを抱えて戻って来て、英二はその姿に笑みを浮かべた。 「楽しかった?」 「まあね。でも、エージが居ないから、何か調子でないって感じ。桃先輩も言ってた」 「……あははは。あ、そうそう、今度はオレからの誕生日プレゼントね」 「……………」 大き目の包みを貰って、リョーマは首を傾げた。 「これ、探してた服?」 「そうだよん」 「開けても良い?」 「勿論☆」 包装紙をビリビリに破りながら、豪快に開けて中身を見つめる。 「……? 何で、半袖のTシャツがあるの?」 一つは、長袖のトレーナーで、それは判るのだが……。 もう一つあったのは、半袖のTシャツだった。 「それはね。来年の夏も、一緒にいられるようにって……オレの希望、かな?」 「…………っ!」 「へへっ☆ これって、とある歌のパクリなんだけど。それって良いなーと思ってさ。でも、夏冬逆だけど」 「……でも、何か大きくない?」 「だって、オレのだもん」 「エージが使ってたの?」 「そだよ。夏には、これピッタリになってるかも知れないよね?」 リョーマは、大きな目をきらきら輝かせて、トレーナーとTシャツを嬉しそうに、バッグに仕舞いこんだ。 「ありがと、エージ」 「喜んでもらえて嬉しいよん」 「……でも、一番、嬉しいのは……」 「……ん?」 「うん。服も勿論嬉しかったんだけど。でも、もっと嬉しかったのは……」 リョーマは、英二の胸に抱きついて、囁くように呟いた。 「来年の夏も一緒に居ようって言ってくれたこと……ッスね」 見上げて来るリョーマの視線に、英二は思わず赤面して、誤魔化すように、リョーマの唇にキスをした。 <Fin> |