Love Knot

「あ……」

 教室移動で、廊下を歩いていると、窓の外の渡り廊下を、歩いているリョーマを見つけた。
 声をかけようと、窓に駆け寄って――だけど、クラスメートと何かを話しているリョーマを見てたら、何だか声をかけそびれた。

 オレの存在に気付かないリョーマを、ずっとただ見つめていると、リョーマに対する気持ちが、どんどん溢れて来て、【好きだ】って感情が言葉だけじゃ足りない気がして来る。
 このまま、オレが真っ直ぐ廊下を行けば、渡り廊下から入って来るリョーマと鉢合わせできる。



「……あー今会うと、何仕出かすか自信ないな〜」




 オレはリョーマが校舎に入ったところで踵を返して、別の方向から目的の教室に向うことにした。







 と。
 目的の教室の手前の廊下で、壁に凭れて立っているリョーマの姿に目が点になった。
「何で、ここにいるの?」
「そっちこそ。何で、引き返したの?」
「……あー」
 気付いてたのか? と、少しだけ嬉しく思いながら、リョーマの前を通り過ぎる。

 すると、リョーマがオレの後を追うようにくっ付いて歩き出して。
 歩幅の違いで、オレが普通に歩いていると、リョーマは早足になる。
 それでも必死でオレに追いつこうとするリョーマが可愛くて、オレはわざと歩幅を広げてみた。

「エージの意地悪」
「……へ? 何が?」
 わざと惚けて問い返すと、リョーマはムスっとした表情でオレを見つめて来る。
 互いに歩調は緩めていない。






 この胸の中に募る、君への想いが伝えきれなくて。
 ありふれた言葉じゃ、足りない気がするんだ。


 だから。
 君がオレを追って来てくれると嬉しくて、わざと気付かない振りをしている。
「もう!」
 そう言って、オレのズボンのベルト通しを掴んで引っ張った。
「……うわっ」
「わざと? わざとなんスか?
「……な、何が?」
「……もう、良いッス!」
「ああ、待って待って!」
 踵を返して戻ろうとするリョーマにあっさり追いついて、抱き締めると、リョーマは真っ赤になったまま、小さく呟いた。
「ズルイ」
「何が?」
「エージは簡単にオレに追いつくのに。オレは、少し必死に歩かないと追いつけないのに」
「……でも、追って来てくれるんだよね?」
「……ムカツク!」
 そう言って、リョーマはオレの足を踏ん付けた。
「っ痛」

 そうして、オレの腕から逃げ出して、軽く駆け出し、振り返り様にべーっと舌を出して、次に小さく笑った。


「おチビ〜〜〜〜!!」
 わざと、怒ったように声を上げても、リョーマは【振り】だと判ってると、そのまま、笑みを頬に載せて、手を振った。
「昼休みにね、理由聞くからね」
「……へ?」
「逃げた理由!」
 そう言うと、今度は本気で駆け出した。
 同時にチャイムが鳴り響き、オレも慌てて、教室に向かう。






 本当にどうしようもないくらい、好きで、想いが溢れている。
 君に出逢えて、本当に良かったと。
 君がオレだけに見せてくれる、小さな微笑みが、オレをこんなに幸せにしてくれる。




 ありふれた言葉じゃ伝え切れないよ。
 どうすれば、良いのかもう、判らなくなる……。









 4時間目の授業が終わった時に、先生からプリント集めて持って来るようにと命じられて、オレはブツブツ文句を言いながら、プリントを集めていた。

「あ……」
「どうしたの?」
 プリント集めを手伝ってくれてた不二の声に、オレは苦笑いを見せて、首を振った。
「……あははは;; ちょっと、待って」
 ポケットから携帯を取り出して、待たせることになる相手に電話してみた。
【おかけになった電話番号は電波が届かない〜】
「……?」
 聞こえて来たNTTのテープの声に、オレは我慢出来なくて、そのまま教室を飛び出していた。
「英二?」
「ごめん! 不二。それ、集めといて!」
「……ったく、この貸しは高いよ?」
「……(滝汗)ツケといて☆」

 そう言って、駆け出して屋上に向う。



 ちょっと、電波が届かないだけなのに。
 何だか無性に寂しくなって、右手に携帯を持ったまま屋上に向う。
 同じ学校の、同じ敷地の校舎内にいるのに、何で、距離が無茶苦茶離れたように感じるんだろう?




「おチビちゃん!」
「……? どしたの? エージ」

 弁当箱を持って、いつもの場所に座っていたリョーマは、キョトンとしてオレに問い掛けて来た。
「……あ、あの……」
「?」
「携帯……電源切ってた?」
「あ、忘れた」
「忘れた?」
「家に……。ごめん……多分、電源切ったままだと思う……」
「な、何だ……」
「電話、くれたんスか?」
「うん。……ちょっと遅れるからって」
「……エージ、弁当持ってない?」
「――あ、慌てて来たから……。先生に用事頼まれてさ。それ、終わったら直ぐに来るから……」
「少しくらい遅れても、オレちゃんと待ってるッスよ? 後で言い訳ちゃんと聞くし……」
「……それは、判ってたんだけどね」

 オレの言葉に、リョーマは少し考えるように首を傾げて、
「じゃあ、何で慌ててたの?」
 その問いにどう、答えようか迷ってると。
「嘘。判ってるッスよ。それより、早く用事済ませた方が良いんじゃないスか?」







 オレの心の中、全部君に見せたいよ。
 もう、本当に君への気持ちで溢れて、収まりつかなくなってる。

 だから――
 オレはそのまま、リョーマの身体を抱き締めていた。

「エージ?」
 言葉だけじゃ足りない。
 この想いに、オレ自身が溺れて、収拾つかなくなりそうだ……。
 キョトンと疑問を浮かべて問い掛けて来るリョーマの頬に口付けて、
「ちょっと待っててね」
 そう言うと、リョーマは黙ったまま、コクンと頷いた。








 いつも、ずっと二人で、二人だけで居たいと思う。








 リョーマを残して、もう一度教室に戻ろうと校舎内に入ると、額に何かがぶつかった。
「……不二?」
「何やってんだか? プリントなら、集めて先生の所に持って行ったよ。君は腹痛で、保健室に行ったことになってるけど」
「……さ、サンキュ……って弁当?」
「……机にあったからね。ホント、英二って時々抜けてるよね? ああ、いつもか……」
「そ、そんなことないよ〜! でも、ホント、ありがと……」
「……別に。今度、越前くんと二人きりで出掛けるのを黙認してくれるだけで良いよ?」
「……それとこれは別!!」

 不二がリョーマのこと好きなのは知ってるけど、だからって譲れないんだ。
 これだけは……。


「冗談だよ。今度、何か奢ってくれれば良いよ。じゃあね」
 どこまでが本気で、どこからが冗談なのか……判断出来ない表情を見せて、不二は踵を返した。
「不二、ありがとねー!」

 その背中に向かって声をかけると、背中を向けたまま不二は右手を上げて、左右に振った。
 オレは、それを見届けて屋上に、戻る。



「おチビちゃん!」
「用事は済んだんスか?」
「……んーまあね」
「不二先輩ッスか?」
「……変に勘ぐってないよね?」
「……別に」


 どこかふて腐れたような拗ねたような表情で、プイッとそっぽを向くリョーマに、オレは苦笑を浮かべて、
「ね、リョーマ。ご飯食べよ?」
「……」





 拗ねる必要なんかないんだよ。
 オレが好きなのは、リョーマだけなんだから。
 それに、不二が好きなのはリョーマなんだから……ヤキモチ妬くことがそもそも間違いだと思うけどね。








 空に浮かぶ雲の隙間から差し込む陽射しに、オレは少しだけ眩しくて目を細めた。
 弁当を食べ終わって二人で並んで、座ってて。
 オレはそっと、リョーマの左手に自分の右手を重ねて、握り締めた。


「ねえ、おチビちゃん」
「何スか?」
「……明日も一緒に居ようね?」
「……良いッスよ」
「うん」







 手を繋いで、小さな約束を交わす。

 遠い未来のことじゃなくて。
 ごく近い未来(あした)のことを……。


 繋いだ手が、誓いの結び目のように――

<Fin>


Baby Booの【Love Knot】より。
もうもう、聞いた瞬間から、これは菊リョでしょ!!
って感じでした。
でも、やっぱり歌のイメージで話を書くのは難しいですね。
一つ、どうしても書きたかった場所が書けなかったです;;
でも、テーマは決め易いんで、集中力は上がるかも☆
歌、かけっぱなしだし(笑)