夢を見た。 隣には、大好きなあの子がいて。 機嫌良さそうにお気に入りのファンタを飲んでるんだ。 オレは、楽しそうに何かを話していて。 その光景を、どこか遠くから見てる感じで。 話してる内容までは判らない。 でも、どこから見ても、もう一人のオレは、幸せそうで。 隣にいるあの子も、幸せそうに見えた。 「……おチビ……ちゃん」 自分の声に、目が覚めた。 寝ていたと気付き、夢だと判って落胆する。 そんな自分が可笑しくて。 嘲るように笑って見せた。 手を放したのはオレ。 【一緒に居られるだけで幸せだから、オレを遠くにやらないで】 そう言って、泣いてたあの子を突き放したのはオレ。 だって、あの子は、オレなんかの隣にいていい子じゃなかった。 天から与えられた、そのテニスの才能に溢れて、 輝ける未来を持ったあの子を。 オレの我が侭で引きとめて良い筈がなかった。 だから、手放した。 きっと、あの子は、オレのために、自分のことは切り捨ててしまうから。 自分にもあの子にも周りにも…… 嘘をついて、酷い言葉を投げつけて、突き放した。 だって、そうしないと離れられなかった。 嘘つかないと。 手放すことなんて出来なかった。 だって、オレは今でも……あの子のことが好きなんだから。 望まなければ、失うこともなかったのに……。 それでも、手に入れたかった。 君の存在 君の笑顔 君の全てを……。 どんな未来が待っていたとしても。 |
ユメミタアトデ |
「やあ、久しぶりだね、英二」 大学の正門前に、かつての親友の姿を見つけて、オレは、驚きと同時に、笑みを浮かべた。 また、笑えるとは思わなかった。 彼の前で、笑える時が来るなんて、思いもつかなかった。 「久しぶりだね〜元気だった? 不二」 4年振りの再会に、オレは昔と変わらない態度と言葉で、彼に声をかけていた。 一緒に、大学のカフェテリアに行って、それぞれにコーヒーを注文する。 そうして、取り敢えず。 落ち着いたところで、オレは不二を見つめて切り出した。 「どうしたの? オレに会いに来るなんて……。どう言う風の吹き回し?」 「……お言葉だね英二」 「だって……あの時……」 4年前の、高校の卒業式を思い出す。 オレは、3年付き合ったおチビに別れを切り出した。 おチビはアメリカに留学する話が来ていたし。 そこには、手塚も既に行っていた。 そこで、プロになるためにテニス三昧な生活をして、華々しく世界にデビューしても可笑しくない。 おチビは、それだけの実力を持った、テニスプレーヤーだったから。 でも、おチビは、留学を断り続けていた。 プロになるとか、どうでも良いって。 それよりもオレの傍に居たいって。 公言はしなかったけど、でも、オレにはそう言ってくれた。 だから―― 引き止められなかった。 突き放さなきゃいけないと思った。 オレが高校を卒業する時。 おチビとの関係を終わらせようと思った。 そうすれば、おチビは……躊躇いなくアメリカに行けるだろう。 あの魅力的な、誰もを魅了するテニスを、世界中に見せ付けて、誰よりも輝いて見せるに決まっている。 『また、離れちゃうね。エージ』 二度目の卒業。 折角、同じ場所に来られたのに。 直ぐにエージは出てっちゃうんだ。 そう、寂しそうに言った。 『そうだね』 『……でも、何も変わらないよね? 中学の卒業の時と同じ……』 そう言うおチビの……リョーマの言葉にオレは首を横に振った。 『……もう、会わないよ?』 『え?』 『……オレは、大学部に進学しないし、おチビは……リョーマはアメリカに行く。だから、もう……会えないよ?』 『……エージ?』 『行って……本当は、アメリカ……行きたいんでしょ? 強いテニスプレーヤーと戦ってみたいんでしょ? オレのために、君の夢を諦めないで』 オレの言葉に驚愕の表情を浮かべて。 その大きな目が、更に大きく見開かれて、愕然とオレを見つめる。 『……エージ?』 その瞳から、透明な滴が流れ落ちた。 『もう……オレのこと嫌いになったの?』 『……嫌いじゃないよ?』 ――まさか、そんなことある訳がない。 『……オレが、傍に居なくても……エージは平気なの?』 『うん。平気だよ?』 ――平気じゃないよ。全然、平気じゃない。 『……そ……』 『だから……さよならだね。おチビちゃん』 『……』 オレの言葉に、リョーマは答えなかった。 俯いて何も口にせず、オレはそんなリョーマを残して踵を返した。 『英二』 『なーに? 不二』 『……君は、それで良いの?』 『……良いも悪いもないっしょ? だって、不二だって判ってるでしょ? 今のままじゃ、おチビがダメになるって』 『……君にしてみれば、英断かも知れない。でも……越前にしてみれば、これは裏切り行為だよ?』 『……判ってるよ』 『……もう二度と、本当に会えなくなるよ?』 『判ってる』 『……そう。なら、もう何も言うつもりないよ。でも、僕が何をしても、君も何も言う資格ないからね?』 『不二?』 『……バイバイ、英二。僕も、君と二度と会わないよ?』 不二はリョーマの傍に行く。 一緒に歩いて行ける、その力が不二にはある。 天才とまで謳われた不二だもん。 手塚と並んで、おチビと対等の実力と……才能。 それに、+αなものが、ちゃんと備わってる。 オレにはなかったもの。 オレには、到底見られないものを。 おチビと一緒に見ることが出来る―― 悔しかった。 本当に――二度と会いたくないと思ったのはオレの方。 全てを絶ちたかった。 おチビに繋がるもの。 全てを無に帰したかった。 なのに、大学でもテニスを続けたのは何でだろう? もっとも、体育会系のクラブではなく、俗に言うテニスサークルではあったけど。 テニスをしていれば、リョーマを思い出すのに。 それでもテニスを続けていた。 本当は。 本当の気持ちはね。 もう、ずっと判ってたけど、気付かない振りをしてたんだ。 「……知ってる? 越前くん、休養宣言したの」 「……え?」 不意の不二の言葉に、オレは現実に引き戻された。 「知らないんだ? 新聞もニュースも見てないんだね?」 不二の言葉に、オレは茫然となった。 「……何で? 何で休むなんて……。これから、シーズンじゃないの?」 そう言うオレに、不二は一冊の雑誌を広げて見せた。 そこには、二十才のリョーマの写真が載っていて、とんでもない見出しが躍っていた。 『恋愛のために休養宣言?!』 よく判らないピンぼけしたような、女の子と2ショットらしい写真も載っていて。 オレの腕は……気付かない内に震え出していた。 「……これって、ホントなの? 雑誌の記事なんて、結構適当でしょ?」 「この写真の信憑性は曖昧だけど。でも、恋愛ごとで休養宣言したのは、本当だよ?」 「……え?」 「……記者会見ではっきり言ったんだ。好きな人との時間を取りたいから、少し休むってね」 ――ムネガ、イタンダ…… 「わざわざ、それを教えに来たの?」 自分が、思っていたよりも、ずっと低い声で。 オレは不二に問い掛けて居た。 「そうだよ」 悪びれもせず、ニッコリ笑って不二が言う。 オレは、そのまま立ち上がって、コーヒーの代金を伝票の上に転がすと。 「余計なお世話だよ」 そう言って、席を離れた。 「英二」 「……何?」 「いつまで、嘘をつき続けるの?」 ゆっくりと目を見開いた。 「何を……?」 「……まあ、良いや。じゃあね、英二」 不二はそう言って、にこやかな笑顔のまま、伝票を持って、席を立った。 『ええーーー? 何で今日、会えないの?』 『……オレだって、会いたいけど、部活の用事だし。オレ、一年だし。エージだって、高校入学して一年の時は、そう言ってデートキャンセルしてたじゃん』 『でもでも、ずっと楽しみにしてたのに〜〜〜!! 何でよりによって今日なんだよ〜』 『何で、今日に拘るの?』 『……』 『エージ?』 『……もう良い。何か、女々しいし、莫迦みたいだし。もう良い』 『ちょっとエージ!』 勝手に怒って、拗ねて。 そんな喧嘩をいっぱいした。 でも。 でも、また翌日会えるから。 必ず、会うことが出来るから。 安心して喧嘩だって出来たんだ。 『おチビ? 何やってんの?』 『……エージって、アニバーサリー男?』 『……っ!!』 『全く。そうならそうと言えば良いのに……』 『……言える訳ないじゃん。オレに取っては、すっごくすっごく大切な日だけど。でも、リョーマにはそうじゃないなら、そんなこと言える訳ないじゃん!』 『……』 『クリスマスとか、バレンタインとか、ホワイトデーとか、公共の記念日はどうでも良いけど。でも、誕生日とこの日だけは、おチビと一緒に居たかったんだよ』 『……』 『……だって、オレ達が、始まった日だから……。どうしても一緒に居たかったけど。でも、リョーマがそう思ってないんなら、押しつけること出来ないっしょ?』 『でも、去年も一昨年もそんなこと言ってなかったじゃない』 『だって、去年も一昨年も、ちゃんとその日に会えたもん。別に何かをしたい訳じゃない。ただ、一緒に居たかっただけだから……』 『……ふーん』 素っ気無い振りしながら、それでも、どこか嬉しそうに笑った。 もし、感情がなかったら、君を好きになることも出来なかったけど。 でも……こんな身を切られるような辛い想いを味わうこともなかったと思う。 不意に、風が吹き抜けた。 キャンパスの中にある桜並木の桜が、一斉に花びらを散らした。 薄紅色の花びらが降り頻る中。 オレは、足を止めた。 |
夢を見たよ? 君がいつもとなりにいて、オレがいつも笑ってて。 君も幸せな笑みを、垣間見せてくれてた。 長い長い夢を見てたと。 そう言い聞かせて来たんだ。 幸せな幸せな……ただそれだけで幸せだった夢を……。 |
花びらの雨が降る中を。 ただ、眩しそうに見上げる青年の姿。 記憶にある彼より、もう少し身長が伸びて、でも、艶やかな黒髪は、トレードマークでもある『FILA』の帽子で隠されていて。 薄いブルーのポロシャツ。 白いショートパンツにテニスシューズ。 変わらない。 昔のまんまのスタイルで。 彼はそこに立っていた。 「……おチビ……ちゃん?」 オレの声に、彼は視線をこちらに向けた。 やっぱり、変わらない視線。 強気で生意気で……何よりも強い意志を秘めたその瞳。 「……久しぶりっす。エージ先輩」 また少し、声が低くなっていた。 別れたのは4年前。 正確に言えば3年前。 彼が16歳。 オレが18歳。 3月で、風花が舞っていた季節……。 今は、彼は19歳。 オレは21歳。 「何で、ここに居るの?」 「……不二先輩に聞かなかったんすか?」 「え? ……さっき、不二に会ったけど……」 「……」 リョーマは、ふっと息をついて、肩を竦めた。 「休養宣言したって聞いたけど……」 「――ああ、それは聞いたンすね」 苦笑を浮かべて、リョーマは呟いた。 「……恋愛で休養宣言って拙くない?」 「……かもね」 「莫迦にしてるって思われるよ?」 「かもね」 「テニス、どうするの?」 「……勿論、続けますよ?」 「……じゃあ、何のための休養宣言なの?」 また、風が吹き抜けた。 更に花びらが舞い散る中。 彼はゆっくりとオレに近付いて来た。 「あなたの願いを聞いて、オレはプロになった」 「……え?」 「勿論……強い奴を倒したい……色んなテニスを倒したい……。そう言う気持ちはあったけど。それ以上にあなたの傍に居たかった」 「……」 「でも、あなたが望んでくれたから……オレはオレの我が侭を貫けた。強い奴と戦うこと、強い奴を倒すこと。実現させることが出来たのは、あなたがオレの背中を押してくれたからだ」 「……リョーマ……?」 「今度はオレの願いを聞いて」 「……!?」 「オレの願いを聞いて、あなたの我が侭を貫いて欲しい」 「……リョ……マ……」 オレの前に立つリョーマは、あの頃より更に近付いていた。 「ちぇ……やっぱり、エージの方が背が高いんだ」 残念そうに呟くリョーマに、オレは茫然と呟いた。 「……どう言う意味?」 「? 今のオレ……あの頃のエージと同じ身長だから。やっと追いついたと思ったのに。エージはやっぱり先を行ってる」 「……そうじゃなくて! リョーマの願いって……オレの我が侭って……何?」 そっと、リョーマの手がオレの頬に触れた。 「……長い間……嘘をつかせてゴメン」 「……っ!」 「……ねえ、もう一度一緒に、夢を現実にしよう?」 |
視界が曇った。 何も見えなくなって、喉が詰まって息苦しくなった。 一人になって、寂しさを感じる夜に…… 思い出すのはリョーマと過ごした日々ばっかりで―― もう、オレの声は、君には届かないと思っていた。 後悔しても取り戻せない。 君の居場所は遠くて、気持ちだけが空回りして、 声も届かなくて。 それでも、思い出す日々は幸せに満ちていて暖かく…… 優しさに溢れていた……。 もう、良いの? 過去を思い出すんじゃなく、 未来を一緒に描いて良いんですか? |
「エージ。オレと、付き合って下さい」 あの頃よりも低くなった声。 でも、そこに含まれる声には、あの頃には微かにしか感じられなかった優しさを感じる。 大人になったことに気付かされた。 どこまでも子供で、その子供ゆえの残酷さと我が侭が、形を変えて、優しさと器量の深さに変わっていた。 変わっていない訳はない。 でも……こんな風に変わってるのは反則だと思った。 オレは何も変われてないのに……。 リョーマの方が、一人で先に大人になっていた。 「……エージ?」 「……好きな人……って……」 「……今、オレの目の前に居る人だけど?」 「――っ!!」 あの時と同じ。 言葉だった。 もう一度、夢を見ても良いですか? もう一度……一緒にいる未来を描いて良いですか? 「――……オレもリョーマが……」 |
……逃げて良いですか?(滝汗) ああ、もう全然! 歌のイメージなんかこれっぽちもねえ!!!(ガックリ;;) どうしてこうも、 ハッピーエンドにしたがるか、私……(T-T) この歌ってハッピーエンドな歌だったのかな?(←違うと思う;;) はい! ガーネットクロウの『夢みたあとで』です;; でもね。 ホントに全然、 歌詞とかイメージとか違いますから! ああ、もう逃げよう…… ではでは、失礼!!(脱兎) |