あけましておめでとうございます☆ |
First Kiss 吐く息が白く凍りそうな明け方。 英二はそっと家を抜け出した。 静かに静かに自転車を出しながら、ふっと自分の家を振り返る。 大丈夫。 気付かれてはいない。 とは言え気付かれたところで、本当のことを言えば、あっさり出してくれるとも思うのだが。 何となく、内緒のまま出掛けたかった。 「行って来まーす」 小さな声で囁くように言い(誰も聞いてないのに)英二は自転車に跨って、目的の場所に向かって走り出した。 目的の場所のひとつの前で、英二は携帯電話を取り出し、メモリに記憶してある名前を呼び出しプッシュする。 暫くして、本当に眠そうな大好きな子の声が聞こえて、それでも英二は笑みを零した。 「おはよ。おチビ? ちゃんと起きてる?」 『……エージ? ふああ……何? 今何時?』 「えーっと、6時半」 『……何それ? 朝のだよね?』 「勿論、決まってるじゃん」 『お休みなさい』 「こら寝るな! 良いから、寒さ対策して出て来てよ? ね? リョーマ」 暫し黙ったリョーマが、物凄く不機嫌な声で、呟くように言った。 『エージはズルイ……』 「なんか前にも聞いた気がするんだけど、それ?」 『判った。少し待って』 そう言って、電話は切れた。 携帯をポケットにしまいながら、リョーマの言った言葉の意味を考える。 時々、そう言うのだ。 【エージはズルイ】 何で自分がズルイのか。 英二には皆目見当がつかなかった。 10分ほどして、リョーマが外に姿を見せた。 コートとマフラーを首に巻きつけて、外に出たとたん身を竦ませる。 「ほいほい。ホッカイロ」 「ほっかいろ?」 「暖かいよ?」 考えながら、新しい携帯懐炉を暖めていた英二は、それをリョーマに手渡した。 「一杯あるからね、さあ、行こう!」 「ってどこに行くの? こんな朝っぱらから」 まだ夜も明けてない薄暗い中で、喋るたびに踊る息だけが白く見える。 「……本当に判んないの?」 「? 何がッスか?」 「今日は、何日?」 「……1月1日」 「夜明け前に行くとこって行ったら一つしかないっしょ?」 訝しげに首を傾げるリョーマに、ふとアメリカにはそう言う風習はないのかと思いついた。 「まあ、良いや。行けば判ることだし」 あっさりそれで片付けて英二は自転車の後ろに座るように言った。 「しっかり掴まっててよ? 飛ばすから」 言うなりガクンと自転車が動き出し、リョーマは英二の背中に頬を押し付けた。 吹き抜ける風もそれほど寒く感じないのは、英二が傍にいるからだと気付き、リョーマはそっと微笑んだ。 本当に誰も見たことないだろう笑みを浮かべつつ、英二の腰に回した腕に力を込める。 「おチビ?」 「……何?」 「……いや、なんか力こもったから。寒い?」 「決まってるじゃん」 少しウソをついてみた。 すると、自転車が止まって、英二が巻いていたマフラーが広げて頭から被された。 「エージ?」 「どうせ、誰もいないんだし、それ頭から被ってな。風除けになるよ」 格好なんか気にするなと笑って英二は言い、再び自転車をこぎ始める。 そうして、7時ごろには、目的の場所の辿り着いた。 「こっから少し登るから」 「……? うん」 駐輪場に自転車を停めて、二人で並んで歩き出す。 そうして、到達した場所は、街を一望できる高台で、今まさに昇り始めた太陽に英二が笑って言った。 「初日の出だよ、おチビ」 「はつひので?」 「そう! 年の初めに見る日の出のことだよ」 「……何か意味があるの? 見ることに?」 「え……そう言えば、意味なんかあったっけ? 去年も桃や不二と一緒に見に来たんだけど……」 「ふーん……まあ良いや」 「へ?」 「意味はともかく、一緒に来るのにオレを選んでくれたから、良いッスよ」 「……あったりまえじゃん!」 ニッコリ笑って英二は、日の出に視線を向けた。 「ね、おチビ」 「何スか?」 「手、繋ごう」 いきなりの英二の言葉に、リョーマは怪訝な表情を向けるも、直ぐにポケットから手を出して差し出した。 「んーこれ外してね」 そう言って、リョーマの手袋を外し、自分の外して、素肌のまま握り合う。 「やっぱ、こうやっておチビ自身感じられないとね!」 「何か……恥ずかしい」 「は?」 「今の、エージの言葉……」 「?」 判っていない英二はキョトンとしたまま首を傾げて、リョーマの手を握り締めた。 「来年も一緒にこうしてられますように!」 「……当たり前っしょ?」 「……そうだよね?」 判りきったことをと言ったリョーマの口調に、英二は緩く目を細めて嬉しそうに微笑んだ。 初日の出が差すリョーマの頬は赤く染まっていて、自分を見ずに昇る太陽を見つめていてる。 ほんの少しだけ、英二の胸に寂しさと不安が過ぎった。 だが、それを振り払うように、一つの言葉を口にする。 「ライジング」 「……? エージ?」 「リョーマが目指すもの……上に昇ることだよね? だから、日の出は好きなんだろうって思ってた」 「エージも一緒に……ね」 「……ああ、勿論」 リョーマの言葉に同意しながら、英二ははるか高みを目指す恋人と、中天を目指し昇り続ける太陽を見つめて、再度目を細めた。 「リョーマ……」 「……何?」 「来年も、一緒に見ようね? 初日の出」 「……良いっすよ」 「よっし、予約予約〜☆」 笑いながら英二は、リョーマの身体を抱き締めた。 「エージ?」 「予約するから……こっち向いて?」 「……バカエージ」 そっと、頬を寄せて。 初日の出の昇る中、二人は今年初めてのキスをした。 「すっげ、ドキドキした」 「First Kissだからね」 リョーマの言葉に、英二は一瞬、目を見開いて、次に声を上げて笑っていた。 <Fin> |