君が待つ家
「おチビー! 今日、どっか寄って行かない?」

 着替えを終えた英二が、まだ着替えを続けているリョーマに、能天気に声をかけた。
 もちろん、断られるなんて、夢にも思っていない英二はニコニコ満面の笑顔である。

「……あー」
 煮え切らない返事のリョーマに、英二が少しだけ怪訝な目を向ける。
「……おチビ?」
「んー……今日は真っ直ぐ帰ります。誰か他の人誘って下さい」
「……え?」
 そう言って、呆気に取られる英二を他所に、リョーマは乱雑にジャージを詰め込んだテニスバッグを持ち上げた。
「…………じゃ、失礼します。お疲れデシタ」
 軽く頭を下げて、リョーマはさっさと部室を後にした。
 茫然としたままの英二を残して……。

「……とうとう、愛想つかされたみたいだね?」
「……!(ギクッ)」
「まあ、いずれこうなるとは思ってたけどな」
「……(ドキッ)」
「結構長く持った方じゃないか? 越前、割と飽きっぽそうだし」
「……(グサッ)」
「……みんな(滝汗) な、なあ、英二。きっと何か家の方で用事でもあるんだよ。別に今日だけのことなんじゃないかな?」

 ある意味、傷心の英二はゆっくりと好き勝手言ってる面々に視線を向けた。

 一人はクラスメートで親友(の筈)の不二周助。
 もう一人は昨年、ダブルスで一緒に全国まで行った【黄金ペア】とまで呼ばれる相棒である筈の、大石秀一郎で……。

 暫し、ショックを忘れて英二は心の中で呟いた。
(やっぱ、人間って信じられないんかもしんね……;;)


 最後の言葉は乾だが、確かに……リョーマはある意味、自分に似たところがある。
 飽きっぽいイメージもあるように見える。
 だが、しかし!!


「そ、そうだよな! タカさんの言う通り、家の方で用事があったのかもしんないしな!」
 自分に言い聞かせるように頷く英二に、不二がポツリと呟いた。
「でも、それならそう言うんじゃないかな?」
「不二〜(汗)」
 さらに不安を煽るようなことを言う不二に、河村が慌てたように声を上げた。

「と、ともかく……事情は、明日にでも越前に聞くとして、今日はもう帰りませんか? 英二先輩」
 桃城が慌てて落ち込んでしゃがみこんだ英二に向かって問い掛けた。
「……はぁ……ま、ここにいる奴らは、おチビの相手じゃないんだもんな……それだけでもいっか」
 ここにいる……不二も大石も、桃城もここに居て、リョーマが約束している相手ではないと言うことである。
 だが、リョーマは一言も、約束があるなどとは言っていない(笑)。

「せっかく、何か食って行こうと思ったのに」
 呟きながら、桃城に視線を向けて、首を傾げつつ、
「桃、付き合ってくれる?」
「オレッスか?」
「何か文句あんのかよ?」
 拒否色を出した桃城に向かって、ニッコリ笑ったまま、表情とは裏腹な言葉がもれる。
 当然、青ざめた桃城は、慌てて頷いた。
「僕たちも行って良いかな?」
「……許可しなくても来るくせに」
「何だ、バレてるのか」


 結局、不二と大石、それになし崩し的に手塚まで一緒になって、最寄のファーストフード店に寄ることになった。
 手塚は、最後まで寄り道することに、いい表情を見せなかったのだが……。
(不二の一睨みで、諦めたようについて来たのである)


 駅前にあるファーストフード店に入ろうとして、不意に不二が立ち止まった。
「不二?」
「……越前くん」
「へ?」
 車道の向こう――反対側の歩道をリョーマが一人で歩いている。
 家の方向とは逆の駅前に、何故リョーマが居るのか……。
 真っ直ぐに帰ると言っていたリョーマの手には、ピンク色の包みがあった。
 紅いリボンがかけられたそれは、どう見ても誰かへのプレゼントである。

「何だ、英二へのプレゼント買うために、一人で帰ったのか……」
「え?」
つまらないな。だが、英二の誕生日は、まだまだ先だぞ?」
「………コイツ……」
 英二は大石の言葉に小さく呟きつつ、視線はリョーマに釘付けである。
 信号待ちで横断歩道の手前で立ち止まったリョーマは、自分が手に持つプレゼントにふっと笑みを浮かべて次に苦笑する。
 空を見上げながら何事か考えていたリョーマは、青になった信号を渡って、英二たちのいる歩道に向かって歩き出した。
 そうして、こちらに背を向けて、自宅へと向かっているらしい。

「そうだね。誕生日でもないのに、プレゼント買ったりなんてあの越前がするとは思えないよね?」
「じゃあ、今日か明日辺りに誕生日のヤツがいるんじゃないッスか?」
「……越前くんは、春先に日本に帰って来たばかりで、知り合いもいないんだろう?」
「……今月、誕生日のヤツって……」
「あ、オレ誕生日っすけど」
 桃城の言葉に、その場の全員の視線が一気に向いた。
「桃の誕生日プレゼント買って、おチビがあんなに幸せそうに笑う訳ねえだろう?
 なあ?
 まるで普段の英二とは別人のような言葉遣いで、でも表情はいつも通りニッコリ笑ってた日には、恐ろしくて反論も出来ない。
「そ、そりゃ、そうっすよ。……それに、今日は、14日っしょ? オレの誕生日は23日っすよ?」
「一週間以上前に、前以て買うようなことはきっとしないよね、越前は……」
「じゃあ、あれ誰に上げるプレゼントなんだよ?」
 噛み付くように言う英二に、不二はとある提案をした。
「つけてみようか?」
「でも、家に帰る道だろ、あれ……」
「判らないよ? 近所の人かも知れないし」
「……」
 考えたのは、ほんの一瞬。
 次の瞬間には、英二はリョーマの後をつけようと歩き出していた。







 リョーマは、真っ直ぐに自宅に向かってるらしく、しかも自分の後を等間隔を持って、つけてる怪しい人物たちが居ることにも全く気がつかない様子で、歩いていた。


「ただいま」
 家のドアを開けて、そのまま入ってしまうのを見届けて、
「……あれ、菜々子さんとかおばさんにプレゼントなのかも;;」
 そう言った英二は、リョーマを疑ったことに対する羞恥心があるのか、少しだけばつが悪そうだった。
「まあ、そう考えたら英二の中では、安心出来るからね?」
「…………」
 こう言う不二の挑発めいた言葉に一々乗るのがいかんのだと、英二はリョーマの家に背を向けて、敢然と言ってのけた。

「大体、不二達が余計なこと言うから、気になっちゃったんだろう? リョーマがオレ以外のヤツに黙ってプレゼント贈ったりする訳ないんだから!!」
 英二の剣幕に、さすがに驚いたのか、面々が数歩後退った。
「……ふーん。でも、判んないッスよ?」
「ほら、おチビも判んないって……え?」
 恐る恐る振り返ると、まだ着替えてもいないリョーマがそこに居た。
「何やってんですか? あんたら、揃いも揃って……?」
 心底呆れたように、リョーマが腕を組んで、まるで見下ろすように言う。
「……いや、あの……」
「さっき、駅前でキミを見かけてさ。それで、真っ直ぐに帰るって言ってたのに、どうしたのかって話してて」
「そう、それで英二が何か心配だからって、後をつけるって言い初めてな」
「ウソ付け!! 大石!!」
「心配だった訳じゃないんだ?」
「ああああ、そうじゃなくて……っ!!」
 リョーマの一言に、慌てる英二を尻目に、桃城はリョーマがまだ手に持っていたプレゼントに気がついた。
「ああ、それそれ。それが気になって後つけるってなったんだよ」
「……はあ? これッスか?」
 リョーマは綺麗にラッピングされたそれを持ち上げて、首を傾げた。
「……いるんすか? これ……」
 思わず頷く4人にリョーマは怪訝な表情を見せた。
「…………これ、
猫缶なんすけど?」



「は?」



 周囲に真っ白な空気が(?)漂い始めた。

 4人の背後……一番目立たない場所にいた手塚が、一瞬俯いた。
 もしかしたら、吹き出したのかも知れない。
 それに、不二だけが気付きつつ(笑)だが、視線はリョーマに集中されていた。

「ちょっと高めの……今朝、慌ててたもんで、カルピンにちょっと冷たくしちゃって……。悪かったかなって思ったから、お土産買ったんだけど……?」
「で、でも、そんなに綺麗にラッピングしてるじゃんか!」
「……ペットショップの人が、気にしてくれて。プレゼントかって聞くから頷いたら……こうしてくれただけっすけど?」
 目を丸くしたまま言うリョーマに、4人は思い切り脱力した。
「ふーん……」
 不意にリョーマは冷たい笑みを浮かべて、踵を返しながら、
「……猫へプレゼントにヤキモチ妬いてオレのことつけたんだ? ふーん……」
「……や……それは……!」
 真っ赤になる英二に、リョーマは不意にニコっと笑って見せた。
「……まあ、そう言うことなら、あながち的外れじゃないし……後つけたことも見逃してあげますよ? エージ先輩v
「……うぅ〜〜〜(的外れなじゃないってどう言う意味だよ?)」
「それじゃ、お休みなさい。先輩方☆」

 知らん振りしていた不二も、困った表情を見せていた大石も、割とあっけらかんと笑っていた桃城も、そして、相変わらず無表情な手塚も、リョーマの言葉に、慌てて挨拶を返した。
「おう、お休み、越前」
「悪かったな、越前」
「じゃあ、また明日ね、越前くん」
「……」
 踵を返して、家路を辿ろうとした不二は、まだそこに立ったままの英二に向かって声をかけた。
「英二? 何やってるの?」
「ああ、不二先輩」
「……………何だい? 越前」
 大体、リョーマが何を言いたいのか察しがついて、不二はすこぶる愛想なく答えた。
「……エージは置いてって良いッス」
「……」
 やっぱりねと言う感じで、軽く溜息をついて、不二はじゃあね、と英二に向かって手を振り、大石と桃城、手塚と共に帰途についた。






「……おチビ?」
「ついでだし、夕飯食べてったら?」
「良いの?」
「……折角会ったんだし……嫌なら、帰っても良いよ」
 そう言って、リョーマは踵を返し、家の中へと入って行く。
「嫌な訳ないじゃん!」
 そう言って、後に続いた英二に、リョーマは心中にんまり笑っていた。









 実際、それから寝る瞬間まで、リョーマとカルピンのラブッぷりを見せ付けられた英二は、完膚なきまでに叩きのめされたらしい。






 教訓:無用に恋人を疑うことはやめましょう(笑)




……何て言うか……不二先輩黒いですね、いつになく;;んでもって英二が……リョーマさん以外に黒いと思ったら、大石まで〜〜〜(><)

それともこの程度はまだまだ甘いんでしょうか?
まあ、黒さ云々につきましては、それぞれ当サイト比ってことでよろしく;(滝汗)
あまりに変な話になり過ぎて、この話を書くキッカケになったサイトさまにもお知らせできない……(−−;)どうしようかな〜?(滝汗)