君は僕の薬箱


 たまたま、昨夜遅くまで眠れなくて、今日は朝練も遅刻で、手塚に他のみんなより、5周多く走らされた。
 コートに戻って来て、キョロキョロ周りを見回しても、見慣れた大好きな小柄な姿はなくて、思い切り溜息をつく。


 
 何だか力が出ない。
 やる気も出ない

 つまんないし面白くない。



「菊丸! 何をダラダラしてる! 走り終わったらなら、さっさと練習に入れ!」

 手塚の怒声が聞こえて来る。
 でも、あんまり、オレの胸に響いて来なくて、でも、また走らされるのは嫌だったから、素直に従った。



 だるい、しんどい。
 大好きなテニスなのに。
 空は快晴。
 青く澄み渡って、風も爽やかに吹き抜ける……。



 なのに……。
 何も感じないし。


 ――何でこんなにやる気が出ないのさ?



 やる気なさげなオレに、手塚は苛々、大石は心配そうに、不二は面白そうに、オレを窺っているのが判る。





「英二先輩っ!!」

 聞こえて来たのは桃の声。
 面倒くさくて、怠惰に振り向いた時には、それは眼前に迫っていた。

「いぃーっ?!」
 焦ったときってのは、身体が動かないもんだ。
 普段なら余裕で躱せるそれを、避けることが出来ないで、オレは立ち尽くしたままだった。


 不意に後ろから思い切り押された。
 そのせいで、前のめりに倒れ込む。

 軽快な、ラケットがボールを打つ音が聞こえて、オレは膝と両手をついた格好で、顔を上げた。

「何やってんスか? エージ先輩」

 呆れたような、どうしようもないって感じの声――
 人のこと押し倒して、そのボールを桃たちのいるコートに打ち返して、どっか気だるそうに、ラケットを肩に載せていた。

 小さい身体なのに、態度はその辺のビルも適わないくらいにでかくて……。


 でも、その姿を見た瞬間。
 周りの景色が反転したような気がした。




 正直……。
 それまで、詰まんなかったこととか、やる気が出ないとか、悶々と考えてたことが全部、弾き飛ばされて、気分が向上して行くのが判った。


「おはよう、おチビ〜♪ でも、遅いぞ、遅刻じゃん!」
「……本当は今日は、朝練休むつもりだったんスよ」
「何それ?」
 そう言えば、おチビはジャージに着替えていない。
 白い開襟シャツと、黒の制服のズボンのまま、ラケットを手にしていた。
 しかも、そのラケットどう見ても、おチビのじゃないし――

「……今週からの読書週間。朝の予鈴が鳴るまでも、貸し出し時間になったから、そっちに行かなきゃならなくて」
「……」
「なのに。図書館からテニスコート丸見え何だけど。あんた、全然やる気ないし……。不二先輩が、このままだと、エージが怪我するかもとか言うから……」
 結局、相方に押し付けて、こっちに出て来たと、おチビは言った。
「まあ、不二先輩からの呼び出しって言ったら、早く行った方が良いよとまで言って貰えたから良いけど……」
 一緒に当番になったのは、二年で、どうやら不二のことを少なからず知っていたらしい。
 部活外の後輩にまで恐れられている不二に、ちょっと冷や汗を流しながら、歩き出したおチビを視線で追った。

「ども。ありがとうゴザイマシタ」
 棒読みでそう言って、ラケットを不二に差し出している。
「いいえ。悪かったね、呼び出したりして」
「……別に。問題ないっすよ?」
 そう言って、おチビが一瞬、こちらに視線を向けて、不敵に笑う。

「それじゃ、今更朝練でもないんで、オレは教室に戻ります」
 そう言って、さっさとコートの外に向かって歩き出す。
「おチビ!」
「……なんスか? エージ先輩」
「昼休み、迎えに行くから、一緒にご飯食べよーね」
「あ、昼も図書の当番………」
「えええええーーー?」

 オレの絶叫をどこ吹く風で、おチビは颯爽とコートを出て行った。


「おチビの馬鹿ーーーーーっ!! 浮気してやるかんな〜〜」
 どさくさ紛れに何を怒鳴ってるんだか……。











 朝練が終わって部室に戻り、服を着替えて教室に戻る。
 教室に入って、席に座ると、ズボンのポケットから携帯電話が滑り落ちた。
 何気なく拾って、何気なく電源を入れると。
 メールが一通来ていた。




『出来るものならしてみれば?>浮気』


 一行だけの短い文章……。
 とたんに、顔が引きつったのは言う間でもない。



 と、まだ、続いているらしいとスクロールすると、ずっと間を空けたところに。



『でも、したら即行、The・endってことで。
じゃあね、菊丸先輩     越前』




 …………どんなにむかついても、生意気だと思っても。
 こんなこと宣言されたら出来る訳がない。
 しかもわざと(断言できる!)『菊丸先輩』なんて書いてるし!


「する訳ないじゃん……」
 小さく呟いて、苦笑する。







 朝、全然やる気が出なかったのも、何もかもが詰まんなかった理由も――。今なら判る……。

 全部、ぜーんぶ。



 おチビが居なかったからなんて……。









 悔しいから教えてやんないけどね。



 手早くメールを打って、マナーモードに切り替えて、携帯をシャツの胸ポケットに無造作に押し込んだ。










 ――でも、さすがおチビ。
 返事を返して来るのが授業中だし。
 でも、その返事を見て、オレはホッと笑みを浮かべていた。






『……OKッスよ。エージ』

 やっぱり一行だけの簡潔なメール。
 でも、おチビの機嫌は直ってた。



 ふと、窓の外の青空に視線を向けて。
 おチビって凄いよなーっと……心の中で感心した。


 だって、あんだけ何も心動かなかった青空が……。
 とても綺麗に眩しく見えたから――




<Fin>



誰か教えて下さい……。

これは菊リョでOKですか?
……もう、もう判んない……;;;;

ってか、クロスジャンルの英二&リョーマと、何でこうも違うんだ?
クロスのリョーマって私の理想とするリョーマじゃないんですよ。必要以上に可愛くなってる。
原作に添ってる方もパラレルも。
↑これくらい強気なリョーマが、理想なんです!
でも、な、んか。
これ胸張って菊リョです!! って言い辛……;;
(可愛いリョーマも好きですけどね!!)


しかもこれ、『らいおんハート』(by S○AP)の歌詞冒頭部分。『君は僕の薬箱……』から出来たとは誰も思うまい(笑)あんまりにも判り辛いから、菊リョ祭りにも送れねえ(−−;)

しかも薬箱って言うよりは、滋養強壮栄養補給って感じだし……(涙)

でもさ、リョ菊って言うのも違うしなー……;;
本当にどっちなんだよ……;;