Reliance

「ん……」

 昼休みに……。
 テニスコートの脇にある木の下で居眠りをしていたリョーマは、不意に強烈な日の光を感じて、眉を顰めた。
 かすかに目を開けて、でも、眩しくて完全には開けられず、少し戸惑う。

 ――と。
 直ぐにその光が遮られて、リョーマはホッとしたように少しだけ目を開けた。

「……大石先輩?」
「こんなところで、よく寝るな。身体、痛くならないか?」
 苦笑を浮かべて言う大石に、リョーマはまだ寝惚け眼のまま、小さく呟いた。
「程よく日が照って暖かかったら眠くなりますよ? しかも昼飯食った後だし……」

 リョーマの言い分に、大石は苦笑を浮かべて、
「まだ寝るのか?」
「……今、何時っすか?」
「……12時50分。昼休み終わるまで後、30分ぐらいかな?」
「じゃあ、寝ます」
 そう言うなり、リョーマは再び目を閉じた。
 身体に日は当たっているのに、顔には当たらない。
 大石のお陰でそこだけ、日が陰っているのだ。

 ものの数秒で規則正しい息遣いを始めたリョーマに、大石は微笑を浮かべていた。



   ☆  ☆  ☆

「何で、ここにも居ないの?」

 昼休みになって一緒に弁当を食べようと思った恋人が、教室に行っても屋上に行ってもいなくて英二は、思わず声に出してしまった。

「あ、もう時間ない……おチビ、もう食べちゃったよね」
 どこに居るのか判らないリョーマのことを考えながら、英二は一人屋上から下を見下ろした。
 ちょうど、グラウンドとテニスコートが見える場所で、何気なく金網に手をついて、溜息を漏らした。

「あれ? 大石じゃん。何やってんだろ?」
 テニスコートの脇にある木の下で座って、本を読んでるように見える大石に、珍しいなと英二は思いつつ、次の瞬間その場に凍りついた。

「……」
 金網を握る手に、知らず力が篭っていたらしい。

 後で掌を見た時に、くっきり跡が残っていたから……。



 暫し、その光景を見詰めていた英二は、深く溜息をついてその場から離れた。



(大丈夫……別に大石はおチビのこと好きとかじゃないし)
(それに、おチビが好きなのは、オレだしさ!)
(……でも……何であんな無防備に寝るかな?)
(ってか、何でおチビの隣に居るのがオレじゃないの?)

大石、ムカツク!

 思った瞬間、慌てて首を振る。

(違う違う! 何考えてんだ、オレは!!!)

「英二。百面相なら他所でやってくれる?」
 辛辣な不二の声に、英二はハッとして振り返った。
「……不二?」
「……何かあったの?」
「べ、別に……何もないよ?」

 誤魔化すように言って、さっさと教室に向おうとする。

「……英二の動揺ってバレバレなんだけどね」
 そんな英二の後姿を見詰めながら、不二は苦笑を浮かべて呟いた。


   ☆  ☆  ☆

「何っすか? エージ先輩」

 放課後になって。
 部室に行くと、何だか不機嫌そうな表情の英二に、リョーマが面食らったように声をかけた。
 いつもは、部屋に入ると嬉しそうに自分を見つめて、呼んでくれるのに、今日は着替え終わっても声もかけて来ない。

 ふて腐れたような表情のまま、ベンチに腰掛けている。

「エージ先輩?」
「昼休みから、ずっとそんなだよ? 何があったか知らないけど、良い迷惑だよね?」
「……昼休みから?」
 不二の言葉に、リョーマは考え込んだ。

 そこへ、遅れて大石が入って来て、不意に英二が身動きした。
 ただ、ジーッと大石を見詰めて、視線を逸らさずに、ゆっくりと立ち上がる。

「英二? 何だ?」
 戸惑う大石に、英二はやはり視線を逸らさずに、じっと見詰めたまま、その前に立った。
「……」
 どれぐらいそうしていたのか。
 そう長い時間ではないと思われるが、何だか、数十分もそうしていたように感じられた。
「……ふーん。判った。もういいや」
 そう言って、英二はラケットを片手に、部室を出て行く。
「……はあ?」
 判らないのは、大石を含めてその場にいた、全員で。
 リョーマは、慌てたように、英二の後を追って部室を飛び出した。

「エージ先輩!」
「ん? どしたの? おチビ」

 いつもと変わらない反応に、リョーマは返って困惑した。

「さっきの……何?」
「へ? ああ、何でもないよ。ちょっとした……再確認……かな?」
「再確認?」
「……そうそう。オレと大石のね……」

 何となく……ムッとした。

「何すか? それ……」
「だから……秘密」
「……ふーん。別に良いけど」

 明らかに拗ねた口調でリョーマは言い、英二を追い越す形でコートに向う。

「おチビ?」
「……何か今日のエージ先輩変……だ。何で、大石先輩、来たら元に戻る訳?」
「は?」
 リョーマの言葉の意味が掴めずに、英二は首を傾げた。
「だって、オレ来た時も、その前もずっと不機嫌だったでしょ? 何で大石先輩来たら直る訳?」

 リョーマの言葉に英二は軽く目を見開いた。

「……リョーマ?」
「何?」
「……もしかして、妬いてたりする?」



 問い掛けるのに、ドキドキした。

【バカじゃない?】と言う、いつもの一言が返って来るだろうと予想しつつ。
 自分に言い聞かせて問い掛ける。


 だけど。
 自分の予想を大きく上回るリョーマの反応に、英二は思わず笑みを浮かべていた。


「何、笑ってんですか?」
 真っ赤になりつつ、それでも抗議を込めた視線を、英二に向けて問い掛ける。

「……だってさ。何か……嬉しくてさ……」
「はあ?」

 そっとリョーマの腕を掴んで、引き寄せる。
「え、エージ?」
 思わず学校で部活中と言うことを忘れて、リョーマは声を上げた。

 腕の中に抱き締めて、ゆっくりと口を開いた。




 ――昼休み、大石と居ただろ?
 ――屋上から見えたんだけどさ。

 ――でもね。おチビも大石も……オレを裏切ったりしないって思ったよ?
 ――だから、ずっとずっと言いたくても我慢してた。

 ――二人を責めることを口走りそうだから……

 ――でも、おチビも大石もオレに会った時、いつもと同じだったから……。
 ――大石は一度も目を逸らさなかったから。



「やっぱり……裏切られてないって……確信したんだ」
「……エージ……学習能力あったんだ?」
「どう言う意味だよ、それは……?」

 リョーマの言葉に、英二は思い切り脱力しつつ。
 それでも、笑みを浮かべてリョーマの頬に唇を寄せた。

「おチビがヤキモチ、妬いてくれて嬉しかったよん。ありがと♪」
「バカエージ……」

 呟いて、リョーマは英二の口付けを頬に受け、次の瞬間にはその腕から抜け出した。

「部活……始まりますよ」
「……そだね。今日も頑張ろうね♪♪」

 素っ気無いリョーマの言葉に、英二はいつもの調子で答えて、朗らかに笑った。
■……少しは攻めらしくなってますか?(滝汗)
 この前の話(今、UP予定で書いてる話)では、英二大暴走しますんで(笑)
 まあ、誤解じゃないんだけど、誤解してたりもして(←意味不明;;)

 その学習能力でしょうか……(滝汗)
 少しずつ……英二はカッコ良くなると思いたいです。

 これは、多分6月の終わりの話です。雨が降る日にの後ですね(^^;