Your power in which you believed 

「あ〜ちかれた〜!」

 関東大会、一回戦。
 氷帝学園との試合。
 突発的な事故で、ダブルス2で桃城との急造ペアで、試合を行うことになって。
 苦手な氷帝軍団の応援の響く中。
 英二は、不安の中で、コートに立っていた。

 4ゲーム連取されて、本調子も出せないまま、相手の強さばかりに気を取られて、諦めかけたとき。
 どんな状況でも「諦めなければ、チャンスは見つかる」と言った大石の言葉を思い出した。




 まだ、自分は本気を出してない。
 テニスを楽しんでいない。

 こんな状態で、負けるなんてイヤだと思った。

『自分たちの力を信じよう』

 オレの力。
 桃の力。

 オレたちの力を……。


 ふと、強い視線を感じて、背筋に緊張が走った。



 ずっと見てる。
 ……一人離れた場所から。

 自分のことを……ただ、じっと見つめている。

 その視線の強さ。

 感じて。
 ますます、負けられないと……思った。






「おチビちゃん♪」
 観客席の上の方で座るリョーマの側に行き、その隣に腰掛ける。
「……」
「ありがとね。ずっと見ててくれて」
 英二の言葉に、驚いたようにリョーマが顔を向ける。
「……大石にも桃にも力貰った。でも、リョーマが見ててくれたから、その力を発揮出来たよ」
 静かにそう告げると、リョーマはふっと目を逸らした。

「……おチビ?」
「……オレが見てなくても、きっとエージ先輩は……力発揮してたんじゃないっすか?」
「へ?」
「……自分の力、見くびりすぎ」

 リョーマは、そう言って、立ち上がった。
 英二の胸を人差し指で突くようにして、にんまり笑う。

「エージは自分で、自分を引っ張り上げた……。負けそうな自分にエージは勝ったから、だから、桃先輩とのコンビも旨く行って、試合にも勝ったんだよ?」
「リョーマ……」
「でも……」
 そこで、言葉を切って、リョーマはコートの方に視線を向ける。
 すでに、ダブルス1の試合が始まっていて、歓声が響き渡る。
「……っすけどね」
 歓声に掻き消されて、リョーマの声が英二には届かなかった。

「え? なんて言ったの? おチビ……」
 英二の言葉に、リョーマは少し眉を顰め、半眼のまま、もう一度左手を、英二に向かって差し出した。
 そのまま、胸倉を掴んで強引に引っ張り、英二の耳に自分の唇を寄せた。
「……オレが、エージの本気の起爆剤になれたらなら、嬉しいっすけどね」

 パッと、英二を放して、再びベンチに座る。
 唇を寄せられた耳を、咄嗟に抑えて。
 英二の方が、少しだけ赤面をして。

 むぅ〜とリョーマを見下ろした。

 周りは、ダブルス1の試合だけに、注目が行っていて、こっちを見てる奴なんかいない。

 だから。
 リョーマの背後に回って、リョーマを抱きすくめると、耳元に口付けて。
 真っ赤になるリョーマに満足して、英二は笑いながら離れた。

「んじゃ、オレ下にいるから。また、後でねん♪」
「バカエージ!」

 リョーマの悪態にも、英二はただ笑って、手を振ってスタンドを駆け下りて行った。


「で? 英二。さっき越前くんに何してたの?」
「……ふぇ? み、見てたの?」
「……さあ? どうだろうね」
「だって、不二だって試合見てたじゃん〜〜〜!」
「慌てるところを見ると、何かしてたんだ?」
「……あぅ……な、何もしてない! 話してただけだもん!」
「ふーん」
 誘導尋問と言うか……不二の言葉に危うく乗せられて自分からバラすところだと気付いた。

 それでも、込み上げて来る笑みを堪えることは出来なかったりして。
 首にかけたタオルで、口許を隠して、英二は、ゆっくりとリョーマの残した、余韻に浸っていた。

■つーか、ダブルス1の試合、応援しろ! 英二!!(←自分突っ込み・笑)