先輩って本当に『猫』みたいだよね


自他共に認める『気分屋』


だから今は一緒にいられても明日の保障はないよね


どんなにオレが先輩のことを好きでも



菊丸先輩は・・・・・・・・・・
I believe…
作: 水無瀬 鮎さま


 地区大会も終わり、次の都大会に向けて、青学男子テニス部にも、いつにも増して活気が出てきた、初夏の頃。
 休憩の時間を、コートから少し離れた木蔭で過ごす小さな影がひとつ。

「お、越前こんなとこに居たのか」
「なんすか桃先輩」

 日向よりも、まだ幾分か涼しい木蔭で休んで、いつものようにファンタを飲んでいた、リョーマの前に遣って来て、見下ろすように見ている桃城を見上げて、リョーマは一体なんのようかと無愛想に返す。

「別に何でもないんだけどよ」
「用がないなら邪魔っす」

 生意気な態度で桃城を、『邪魔』と言ってのけるリョーマの態度に、桃城は苦笑する。
 この越前リョーマという存在は、例え先輩に対してでも態度は変わらず、『生意気だ』と言って一部の部員の反感を買っていたが、それも最初のうちだけで、今では部内のアイドル的存在になってしまっていた。

「先輩を邪魔って言っちゃいけねぇーな、いけねーよ」
「どうでも良いっすよ」
「お前さ・・・・エージ先輩となんかあった?」

 リョーマの態度に苦笑しつつも、一呼吸ほどの間を置いて、リョーマの隣に腰を下ろし口を開いた。
 その桃城の言葉に、リョーマはファンタを飲んでいた手をぴくりと僅かに震わせ、すぐ隣に居る桃城へと顔を向かせた。

「・・・・どうしてっすか」

 リョーマはファンタの缶を、口から離し眉を眉間によせて訝しげに桃城向かって言った。
 桃城はリョーマに顔を向けずに、二人が座っているところから見えるテニスコートに、暑さにも関わらず元気にはしゃいでいる人物、菊丸英二へと目を遣った。

「地区大会が終わってから、全然お前とエージ先輩がじゃれあってるところ、見てねぇからさ」




 確かに自分と菊丸は、世間一般でいう『恋人同士』というものだけれども、何もいつもべたべたとじゃれ合っているワケではないだろう。
 リョーマは心の中でそう思ったが、あえて口には出さず思いっきり眉を顰めた。



「ま、喧嘩してるのか何か知らねぇけどよ仲直りしとけよ?」
「余計なお世話っす」
 桃城は立ち上がって無愛想に返すリョーマを背に、片手を上げてコートの方へと歩いて行った。
 まだ座った状態のままのリョーマは、桃城の後姿を見て、ため息をひとつ静かについた。





 そういえば菊丸先輩と最後に話したのっていつだっけ・・・・・・・。





 別に喧嘩をしたわけじゃない。
 思い当たることなんて全く無い。
 それでもリョーマと菊丸は、地区大会が終わってから2週間経つ今の間、言葉を交わしていない。
 いつもリョーマから話し掛けずとも、菊丸の方からリョーマに抱きついてきて来るし、五月蝿いくらい声をかけてくるのだ。
 しかし、菊丸は地区大会が終わってからは、自らリョーマに近づいて来る事はなかった。
 リョーマの方から話し掛けようとしても、故意に話を反らしたり、ここ1週間は目を合わせる事も無い。




 嫌われた・・・・・のかな・・・・・。




 ふいに頭に過ぎった考えに瞼が熱くなるのを感じる。
 まだ部活中だ、泣くわけにはいかない。
 目を軽く擦り残っていたファンタを飲み干すと、同時にコートの方から休憩終了を告げる手塚の声が聞こえてきたので、置いていたラケットを手に取りゆっくりと立ち上がった。







「エージ」
 翌日。
 3−6では急遽教師の都合で自習になってしまった時間を、各自クラスメートと話したり、課題として出されたプリントを真面目にこなす生徒など自由に過ごしていた。
 そこへ菊丸から少し離れた席に居るはずの不二が遣って来た。

「ん〜〜?どったの不二??」

 菊丸は欠伸をしながら不二に間の抜けた返事を返す。
 椅子に座っている菊丸を見下ろす形で、不二は菊丸のすぐ目の前に立つ。

「越前君と喧嘩でもした?」
 不二のその言葉にとろ〜んと瞼を半分閉じかけていた菊丸は、勢い良く顔を上げて目の前の不二を見上げた。

「・・・・なんで?」
「なんで?じゃないよ」
「・・・・・・・・別に」

 そう低い声で呟いて、菊丸は不二から窓の外へと目線を移した。
 不二は、そんな菊丸の態度にため息をついた。

「何も言いたくないなら無理には聞かないよ。だけど英二、越前くんを泣かしたら許さないよ」
 低い全く感情を感じさせない冷たい声で不二は菊丸に向かって言った。
 その不二の言葉にいつもの呑気な笑顔の影などみせない無表情で菊丸は振り返り不二の顔を見た。
「言いたいことはそれだけ」
 そう言い残して不二は自分の席へと戻って行く。





 おチビと話さなくなって結構経つよね・・・・・・。








 その日の放課後。
 夕方に近い時間帯になっているとはいえ気温は昼とほとんど差が無いくらい高かった。



 なんか頭がくらくらする・・・・・。


 コート内で不二とミニゲームの打ち合いをしている最中に、リョーマは軽い目眩を感じた。
 視界が霞んで見えてきたので目を擦ってみる。
 コートの向こう側に見える不二の姿が、ぼやけてきたと同時に、リョーマは身体中の力が一気に抜けていくのを感じながらも、自分の身体が崩れていくのを、まるで他人事のように冷静に感じていた。




 あれ・・・オレ倒れていってる・・・・・?



「リョーマっっ!!!」




 遠くで菊丸が自分を呼ぶ声が微かに聞こえてきた。



 菊丸先輩・・・・・・・・・・・・・・・?




 そこでリョーマは意識を失った。






「ん・・・・・っ」
 リョーマが意識を取り戻すと目の前には真っ白な天井があった。
 何故自分はこんなところに居るのだろうと考え、リョーマは自分が倒れたらしいことを思い出した。
 まだ気だるさを感じる身体を、ベットから起こそうとしたところで、足元に重さを感じて上半身だけ起こし、足元を見てみると、菊丸が椅子に座ったまま、ベットに頭を置いて寝息を立てていた。
「き・・・・くまる・・・せんぱい?」
 リョーマが途切れ途切れに菊丸の名前を口に出す。


 どうして菊丸先輩がここに居るの・・・・。



 まだ目を覚ます気配を見せない菊丸の寝顔を見ると、リョーマの胸がずきんと痛んだ。
 安らかに寝息を立てている人は、自分の大好きな人。

「・・・・・・・オレのこと嫌いになったんすか・・・?」

 心の中で思っていたが言葉には出さなかった・・・否、出したくなかった考えを眠っている菊丸に静かに呟く。

「・・・・オレに飽きた?」

 リョーマの声は、どんどん小さく掠れた声になっていく。
 頬を伝る涙を拭こうともせず、ただ菊丸の顔を見ていた。

「ん・・にゃ?」
 リョーマが流していた涙の一滴が、菊丸の寝顔にぽたりと落ちると、顔を顰めて菊丸が目を覚ました。

「あ・・・・・」
 顔をあげるとそこには、涙を流しているリョーマの姿があった。
「おチビちゃんどうしたの!?まだどっか気分が悪い!??」
 慌ててリョーマの肩に手を置き聞くが、リョーマは首を左右に振るだけで何も言おうとしない。
 ただ泣くのをやめようとしない。
「ひっ・・・・く・・・・」
「おチビちゃんどうしたの?」
 いつものリョーマの様子と違うと感じた菊丸は、優しい声でリョーマにどうかしたのかと聞いてくるが、リョーマは涙を流すだけで口を開こうとはしない。

「ちょっと待っててね先生呼んでくるから」
 そう言って菊丸はリョーマの頭を優しく撫でると、保健室から出て行こうと立ち上がる。
「・・・・おチビちゃん?」
 立ち上がった菊丸のジャージの裾を、握り締めているリョーマ。

「菊丸せ・・んぱい・・はオレのこ・・と嫌い・・にな・・った?」
「お・・・チビ・・・?」
 俯かせていた顔を上げて菊丸を見上げながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐリョーマに、菊丸は困惑した表情でリョーマを見るしかなかった。


「オレ・・・に・・・飽きちゃった・・・のかな・・・」
「リョーマ・・・・」



「き・・・くまる・・・せんぱい・・?」



「オレはリョーマのことが好きだよ・・・?」



 菊丸はリョーマの座っているベットの上に腰を下ろし、リョーマの小さな身体を腕の中に収め、優しく抱きしめた。
 リョーマの肩に顔を埋め、菊丸はリョーマにだけ聞き取れるほどの声で囁いた。

「オレはリョーマが好き」
「じゃ・・ぁなんで無視・・・するの・・?」
「オレじゃリョーマに相応しくないから」
「な・・・んで・・・?」
 そこで菊丸はリョーマの肩から顔を上げ、リョーマの目に自分の目を合わせ優しく・・・・・でも困ったような複雑な表情をしてみせた。

「この間の決勝で、リョーマが怪我した時にさ・・・・オレ何も出来なかった・・・・試合を止めることも・・・・続けさせようとすることも・・・・」
 菊丸は片手でリョーマの前髪をかきあげ、左瞼に優しく触れる。
「・・・ただ茫然と見てただけ・・・・・」







「・・・・・・・・・バカエージ」






「にゃ?」
 急に菊丸の腕の中にいたリョーマが、口を開いたかと思うと出てきた言葉は・・・

「馬鹿じゃないの!?なんでそんなことくらいで『相応しくない』なんて言うわけ!?」
「おチビ・・・?」

「たかがそんなことで今までオレを無視してきたわけ?」
「え・・・?え・・・・??」

「オレの意思を無視して『相応しくない』とか勝手に決め付けないでくれる?」

 今の今まで泣いていたとは思えないほどのリョーマの突然の剣幕に、菊丸はただ何も言えずリョーマの顔をきょとんとして見ていた。
 リョーマの目には、今は涙は無く怒りの色しか見えなかった。

「・・・・エージはオレのこと嫌いになったわけじゃないんでしょ?」
「嫌いになれるわけないじゃないっ!!」
「オレのこと好き?」
「大っっっ好きに決まってるでしょ!!!」
「じゃぁそれだけでいいじゃん」

 そう言ってリョーマは菊丸の背中に腕を回し、力いっぱい抱きしめ返した。
「オレ・・・エージに嫌われたのかと思ってた・・・」
「リョーマ・・・・」

「あの時さ、エージが見ていてくれただけでオレは嬉しかったんだよ?」





「お願いだからずっと側に居てよ・・・・」




 そう囁いてリョーマは菊丸の頬にキスをした。
 菊丸はリョーマの唇が触れた頬に手をあて思いっきり幸せそうに顔を緩めた。
「・・・・・エージ変・・・・」
「変でもいいにゃ〜〜〜v今とっても幸せだから〜〜〜vvv」
 そう言って菊丸はリョーマを抱きしめる腕の力を強めた。
「エージ痛い!!」
「リョーマ〜〜〜〜vvもう離さないからね〜〜〜〜!!!」




 
おチビ大好き!!愛してるからね!!!
 もうぜ〜〜〜〜ったいに離さないから!!!!


水無瀬さまのサイト【reverse×luck】にて
1700のキリ番を踏んでリクさせて頂きました!
【互いに誤解する二人】ってことで、
二人のすれ違いを書いて下さいました!

泣いちゃうリョーマさんが可愛いですvvv
ラブラブな二人をありがとうございました〜〜vvvv
ちょっとフォントとか色々いじって申し訳ありません〜(><)