何で、そんなものが、そこにあったのか。 今となっては、それさえもどうでもいいのかも知れない。 True Love Act1.悪夢の始まり 「あー! 遊裏ちゃんみっけー!」 賑やかしい声が聞こえて来て、遊裏は顔を上げて、笑みを浮かべた。 テラスの上で手を振っている三つ下の少年は、いつもの明るい笑顔で手を振っていた。 不意に、手すりを乗り越えて、遊裏の側に飛び下りて来ると、開口一番にこう言った。 「おチビ見なかった?」 肩を竦めつつ、首を傾げ、 「さっきまで、ここでデッキ構築を見てたんだけど、飽きたらしくて。どこに行ったかまでは、判らないな」 「そう。朝、ご飯食べてから、オレ、後片付けの当番だったじゃん? それが、済んでから、捜してるんだけど、どこにも居ないんだよね」 「コートにでも行ってるんじゃないか?」 「そこは、もちろん一番に捜したよ」 「……それもそうか」 遊裏は苦笑を浮かべて、テーブルに広がっていたカードを集めて纏めた。 「いつもしてるの? デッキ構築」 「ああ、暇があればな。いつもいつも、同じカードでは手を読まれる」 「ふーん。そう言えば、克っちゃんは?」 「克也なら、買出しに出かけたぞ」 「えー? 買出し? 十分な食材とか揃ってるのに?」 「そうなのか?」 「朝ごはん作る時に見たけど……。一週間ぐらい持ちそうだったよ」 英二の言葉に、遊裏も首を傾げた。 カードデッキを腰のホルスターに入れて、立ち上がる。 「喉が渇いたな。英二も何か飲むか?」 「あ、うん」 彼らは、冬の休みに、どこにあるのか良く判らない(笑)南の島に来ていた。 遊裏を含めた童実野高校組みと、英二たち青学テニス部組みの、合計20人の大所帯であるが、それでも、ここは、かの海馬コーポレーション社長所有の別荘である。 まさに広さと、部屋数は豊富で、実際には、賄いをするメイドも居たりするのだが、食事の準備だけは、英二と克也、御伽と獏良、それに女性の杏子と静香も手伝って6人交替でやっている。 初日は、庭でバーベキューなんぞもやったりして、今が冬だと言うことを、忘れそうになったりしていた。 キッチンに向かうと、長身の人影があって、二人は足を止めた。 「あれ、乾。何やってんの?」 「ああ、菊丸か。いや、喉が渇いたんでね。飲み物を飲もうと思って」 「あーオレと遊裏ちゃんも。やっぱり、のど渇いちゃうよねー」 言いながら、英二は手近にあった2リットルのペットボトルを取り上げて、側の食器乾燥機から、グラスを二つ取り出した。 乾は、その間に「じゃあな」と一言だけ、言ってキッチンから出て行ってしまった。 それに手を振りながら、英二は遊裏に向かって問い掛けた。 「遊裏ちゃん、スポーツドリンク飲む?」 「いや、オレは……甘いのはダメなんだ」 「え? 甘い?」 「……何となく……甘味があるだろう? オレは緑茶で良い」 「あーだったら、麦茶あるみたいだよ。こっちにしたら?」 暑い日はやっぱり麦茶だよねーっと、英二はスポーツドリンクを引っ込めて、麦茶を取り出したのである。 確かに、その冷蔵庫には麦茶もあった。 克也が作った、自前の麦茶であるから、ペットボトルではなく、冷水用のポットに入っていたのである。 その一番少なくなったものを英二が掴んだのは、ごく自然なことだったかも知れない。 「あーちょうど二人分……だね」 グラスに二人分注いで、何となく「乾杯〜」等と言いながら、二人してそれを飲み干したのである。 「ふー、あっちーな」 「ホントに、今、12月でしたっけ?」 不二と一緒に、買い出しから帰って来た克也は車のドアを閉めて、苦笑した。 「……この辺で住んでる奴らには、12月でも暑いって意識が強いんだよな。ってか、【寒い】ってことがもう、判らねえんじゃねえか?」 克也の物言いに、不二が笑って頷いた。 克也と不二は、花火をしたいと言い出した英二と桃城の期待に答えるために、調達に出掛けていた。 暑いとはいえ、この辺りはそれでも涼しい方らしく、街中よりは気温が低い。 日本ほど湿気もないので、暑くてもカラッとしていて、それほど嫌な気持ちにはならない。 「カツヤ、不二先輩、お帰りッス」 「よう、ただいま。ってお前テニスやってたのか?」 「桃先輩と、河村先輩と。それより、エージ先輩、見かけなかった?」 ラケット片手に汗だくになってるリョーマに、克也も不二も、微笑ましく見つめながら、 「買い出しから戻ったばっかだからなー。アイツ、朝当番だったろ?」 「今頃、越前捜して、別荘の中歩き回ってるんじゃない?」 「……ちぇ。あ、オレ汗流して来るッス。エージ見かけたらそう言っといて」 先に行った桃城や河村の後を追うように、リョーマも駆け出して家の中へと足を踏み入れた。 「なまじ、無駄に広いから迷うんだよな」 「でも、そのおかげで僕たちは、泊めてもらえるんですから」 「そりゃ、そうだ」 楽しげに笑いながら、リビングのドアを開けて、克也は硬直した。 不二も普段、優しげに細めている目を見開いている。 広い、リビングのソファに、英二と遊裏がいた。 それは良い。 遊裏と英二は仲も良いし、英二は、遊裏に甘えているところがある。 それは知っている。 だが、それはあくまでも……元来の【末っ子気質】に寄るもので、克也自身も十分、甘えられていると自覚している。 だが。 それでも。 これはやりすぎだろう!! 「遊裏!!」 思わず怒鳴ってしまったのは、しょうがないと思う。 もう少しで、手に持っていた荷物を落としそうになって、不二が慌ててそれを受け取っていた。 「……城之内くん? どうしたんだ?」 血相変えている克也に対して、遊裏はのほほんと問い掛けた。 「克っちゃん、腹減ってるんじゃない? もう直ぐ、お昼だよねー」 「……そうだな」 「ねえ、チビちゃん。昼食べ終わったら、一緒に出かけない?」 「チビは止めてくれないか? 確かに高いとは言えないが……」 「でも、チビちゃん、小さくて可愛いんだもん! 良いじゃん、オレが呼ぶんだから」 「いや、それは……そうなんだが……」 仲の良い友人……もしくは兄弟のように仲が良いでも構わない。 だが、どう考えても……これは……。 克也は、何をどう聞けば良いのか判らず、ただただ、茫然としていた。 大体、その前の【城之内くん】は、何なんだ? ――だからなのか。 不二が冷静な声で問い掛けた。 「ねえ、英二。ちょっと遊裏さんに甘えすぎじゃない?」 だが、英二はあっけらかんと、遊裏の膝から少しだけ身を起こして、不満げに言ったのである。 「えー? 何でさ。自分の恋人に膝枕してもらうのって、最高の夢だろう? 不二だって手塚にしてやってんじゃないのー?」 聞き捨てならない一言を聞いた。 不二は、見えない筈の稲妻と落雷を聞いたような気がしたくらいである。 「英二。てめえ、今なんつった?」 「? 何? 克っちゃん、何怒ってんの?」 キョトンと問い掛けて来る英二に更に、イライラが突き上げる。 「遊裏から離れろ! 遊裏はオレの恋人だ!!」 「え? 何言ってんだよ? チビは、オレの恋人だ! 克っちゃんなんか、とっくに振られたくせに何言ってんだよ!」 「……なっ! ふ、振られてなんかいねえよ!!」 「でも、チビはオレのこと好きって言ってくれたし!!」 この場合の【チビ】がいつも彼が【おチビ】と呼んで、可愛がっていた本来の恋人のことではないと、克也も不二にも、判ってしまった。 克也は、英二に黙って膝枕をさせていた遊裏を見返った。 そう言うところは、遊裏は割りと無頓着である。 何かのきっかけがあれば、そう言うこともしてしまうこともあるだろうが。 とりあえず人は選ぶだろう。 英二は、その許容範囲に入っている。 だから、その行為そのものを、言及することは出来ない。 「遊裏……英二は、ああ言ってるけど……実際どうなんだ?」 「? 何が?」 「何がって……。英二のこと、好きだって……そりゃ、知ってるけど。でも、それは……恋愛感情じゃなくて……」 「英二はオレの恋人だけど? 克也とは……もう、終ったことだろう?」 心底から、キョトンとしたような、遊裏の言葉に、英二は喜び、克也はただ、茫然と立ち尽くしていた。 あっさり告げられた言葉。 ウソだと叫びたかった。 でも。 喉の奥で何かが絡んで声が出ない。 ただ、夢であって欲しいと……。 頭の片隅で願っている自分を、どこかで自覚していた。 <続く> |
☆コメント☆ えーっと……何の前触れもなく、ただ、ちょっと短い話でも……と思ったら、 何でかこうなりました……;; 前に日記で書いてたのは、克也と英二だったんですが、攻め同士ですし、 どうにも書き辛かったので……;; ……続き……書けるかしら? 楽しくない? 楽しくないですか?(滝汗) でも、これは、あくまでもコメディなので!! どんなにコメディに見えなくても、コメディです! ……出来ましたら感想など頂けるとありがたく……;; って、こんな短いので、感想なんてなー;;(滝汗) |