DRAGON MASTER #5 終結と別離 『旋風衝・壁!』 ユーリの後ろから聞こえた声に、ハッとしたように振り返った。 「何ボーッとしてんの? カツヤを助けるんだろう?」 「……え、エージ?」 「……間に合わなかったかな? まあ、あれくらいでカツヤが死ぬ訳ないけどね」 意味深に笑い、エージが駆け出して行く。 その後を、ユーリは慌てて追った。 「……てえ、ってエージ! てめえ、遅ぇんだよ!!」 燃えているキメラの横で、カツヤが振り返りながら喚いている。 ユーリは何だか、さっきまでの悲愴な気持ちをどうしてくれる? とカツヤに突っ掛かりたい気持ちを何とか抑えた。 「何言ってんだよ? 人のこと置いてったくせに」 「……状況が状況だろうが! しょうがねえだろう」 「……はいはい。でもさ、カツヤ」 「何だよ?」 「……まだ、生きてるよ。炎に耐性あるのかな?」 所々燻りながらも、キメラは大したダメージを受けていないように見えた。 「でも、内臓はボロボロだと思うけどな」 「エゲツナ〜」 「うるせえ」 肩を竦めて、カツヤは右手を上空に向かって上げた。 「しょうがねえ。今回は頼らないで済むかと思ったが……」 「……手伝いたくてウズウズしてるんだから、手伝わせてあげてよ」 「けっ!」 カツヤは舌打ちを漏らしつつ、その名を呼ぶ。 「我、契約せし者なり。我が声に答えて、ここに真の姿を見せよ…………… ――『レッドアイズ・ブラックドラゴン!』」 上空を舞っていた一羽の鷹が、カツヤの側に舞い降りながらその姿を変えて行く。 肩に載るほどの大きさだったそれが、次第にその倍以上の大きさになり、濃い茶色の羽毛は黒光りする身体に変わった。 「……レッドアイズ……ブラックドラゴン?」 呆気に取られるユーリの前に、漆黒の黒い竜がそこにいた。 「……お前に取っちゃ、ちゃっちい敵だけど……頼むな」 黒竜がその真紅の瞳を、カツヤに向けて、まるで諦めるかのように、頷きを見せて、口を開いた。 『黒炎弾!』 レッドアイズは、その口から炎の塊を吐き出して、キメラはその攻撃に消滅した。 炎に耐性があろうと、その攻撃力が上回っていれば、結果は歴然としている。 「ご苦労さん……レッドアイズ」 あっけらかんと言うカツヤの袖を、誰かが引っ張った。 「……あれ? ユーリ?」 その表情がどこか引きつっているように見えるのは、気のせいではない筈だ。 「……こうなるって判ってた訳?」 「……いや、森から出たら、エージがオレ達の場所判んなくなるリスクはあったんだけどな。でも、レッドアイズが居れば大丈夫かなーっと思ってたし」 「……エージが……来るって思ってたんだ?」 「ああ、まあ……ほら、お前もう疲れてたし、限界だっただろう?」 「……」 「だから、エージが都合よく来てくれたらラッキーぐらいの考えで……。でもマジに死ぬ覚悟もしてたぞ?」 「信用出来ない」 「……でも、でもさ? ユーリ」 「何?!」 「あそこでオレが命落としてた結果と、今の結果ではどっちが良い?」 「……っ!」 「やっぱ、仇なんだから死んでもらった方が手間省けてよかったか?」 「………………」 ガツン☆ 思い切り、カツヤの向う脛を蹴りつけ、 「あんたみたいな、性格の悪いヤツには会ったことない!!」 「……いってえ……あのなあ、オレ一応怪我人よ? その仕打ちは何?」 「……あ……」 ハッとして、ユーリは視線を返し、気まずげに俯いた。 「……え? カツヤ怪我してんの? マジ? めっずらしい〜」 「ちょっと、ドジっただけだってーかイテーんだよ! エージ」 「……手当てしなきゃダメじゃん!」 そう、言いながら、カツヤの服の破れた箇所をさらに破りつつ、周りを見回した。 「セトと、おチビちゃんは?」 「……あ」 思わず、ユーリと目を見交わして、気まずそうに苦笑した。 「…………なんか、仲良くなった?」 「は?」 「……なっ!?」 「ねえねえ、ユーリちゃん」 「な、ちゃんって何……?」 「カツヤは、ユーリちゃんを裏切った?」 「…………………いや……」 裏切りかけたのは自分で。 エージが来なければ、そうなっていた。 カツヤがエージを待っていようと、レッドアイズが実はドラゴンで、あんなキメラは一発で倒せたんだとしても―― それでも、それは……可能性の問題で、確信はしていても、間に合うかどうかは別の問題で。 こうなるとは、判っては居なかった―― だから、あれはカツヤの本心でもある……。 「カツヤ……」 「……? あ、ああ」 「あの……その……」 言葉に言い淀みながら俯いてしまうと、不意に頭を撫でられた。 「よく頑張ったな」 「……そうじゃなくて!!」 「……? 何だよ」 「あの……」 「ああ、ルーディスのことか? ああ、あれはな」 「そうじゃなくて!!」 「……何だよ?」 「あ、ありがと……助けてくれて……」 俯いたまま、真っ赤になって小さく呟くと、その返事は返ってこなかった。 恐る恐る見上げると、カツヤは笑っていた。 優しい暖かな笑みを向けて、そうして、もう一度頭を撫でられて、 「どういたしまして」 そう言った。 何でか心臓が跳ね上がる感覚を憶えて、ユーリは慌ててカツヤの手を振り払った。 苦笑するカツヤに、それでも心臓は激しく高鳴り続けることに、ユーリは首を傾げる。 「和んでるとこ悪いんだけど」 「……ホワイトドラゴンはどうなったんだ? キャッスル!!」 件の館襲撃組みが、そこにいた。 「なんかいつの間にか、外に出てるし。全然道判んなくて、迷ってたのに」 「……キャッスル! ホワイトドラゴンは居たのか?」 「やっほーおチビちゃん、怪我してない? カツヤってばねえ、怪我したんだよ〜トロイよね〜?」 「……何、おチビって?」 「ちっちゃいから、おチビちゃん。ダメ?」 「ダメ」 「ダメでも何でも、そう呼ぶって決めたもんね〜」 ムッとしたように、エージを見上げて、 「いつかあんたを追い越してやるから!」 「……!」 「な、何だよ?」 「……ふーん」 意味深に、リョーマを見つめ続けてエージは軽く笑って見せた。 「やっぱ、第一印象通り、可愛いじゃん」 「……!」 「ナマイキだけどね☆」 「あああもう! 煩い!! オレ、疲れてるんだからね!」 「じゃあ、負んぶしてあげようか?」 「……っ!!!!」 「ほらほら、お兄さんが負ぶってあげよう!」 「いらない! バカ! アホ!!」 「遠慮しなくても良いのに……」 「遠慮じゃない!!」 何故かリョーマとエージまでが漫才を繰り広げ出して、カツヤは肩を竦めつつ、その痛みに眉を顰め、ユーリは何故か笑い出していた。 「ああー! 笑ってる場合じゃないよ、ユーリ!」 「全部ことが終わってスッキリしたんだから、楽しいじゃん☆ 楽しい時は笑わなきゃ損だよ? おチビちゃん」 「だから、おチビじゃない!!」 「ホワイトドラゴンはどうなったんだーーーーー!?」 ユーリまで巻き込まれつつあるその混乱に、苦笑を浮かべながら、カツヤは自分の肩に止まっているレッドアイズに手をかけた。 と。 白い一条の光が森から立ち上った。 その光の中に、純白のドラゴンの姿が見えて、その場の全員が押し黙る。 小さく挨拶をするように、レッドアイズが鳴いただけだった。 暫くして、カツヤがポツリと言った。 「捕まえなくて良かったのかよ? カイバ」 「……しまった!!」 慌てふためくセトに、エージが吹き出して、その場の緊張が解ける。 そうして、何気なく笑いが拡がって、気持ちがゆったりしたところで、カツヤはいきなりその場に倒れ込んだ。 「カツヤ?」 「キャッスル?」 慌てるユーリと、少し驚いたようなセトとリョーマに、レッドアイズは一声からかうように鳴き、エージは苦笑して言った。 「大丈夫。寝てるだけから」 「は?」 「魔法剣使いすぎるとこうなるんだ。時々ね。結構精神力使うから……」 「……あ」 ユーリがハッとして、倒れて眠り込んでいるカツヤの髪に触れた。 「と、言う訳で! カイバさん」 「何だ?」 「カツヤの運搬よろしく〜」 「何?」 「オレは、おチビちゃん運ぶんで、さすがにユーリちゃんには無理だし……。ね? ね? ……カイバさん♪」 「…………起きんかーーーーーキャッスルーーーーー!!」 怒りにこめかみを引きつらせつつ、絶叫を上げるも、カツヤは目を覚ます気配を見せなかった。 当然、セトはカツヤを背負って帰ると言う、嬉しくない役目を仰せつかったのである。 ☆ ☆ ☆ 馬車で森まで来てて良かったと、セトはしみじみ思いながら、明け方にはドミノシティに到着した。 取り敢えず、すべては朝になってからと言うことで、カツヤたちの借りている宿が一番近いために、そこに向かうことになった。 新たに幾つか部屋を借り、元々借りていた部屋のベッドで、昏々と眠るカツヤを見下ろしながら、ユーリがポツリと呟いた。 「……カツヤ、火傷とかしてないけど、一体、どうやったんだ?」 確かに炎が噴き上げるのを見たのに。 とユーリが言った。 「……ああ。剣を突き刺してたんだろう?」 「ああ」 「キメラの中に炎を送り込んだのさ」 「え?」 「表面が魔法を跳ね返すなら、中から攻撃すればいいってね。よく使う手だよ。だから、中で爆発しても、外にはあまり影響が出ない。キメラの体が盾になってるからな」 「あ、そうか……」 「そこにオレの風魔法が到着〜☆ 更なる熱風と煙から守ったのは、そっちの魔法。ユーリちゃんがもう少し余裕あれば、水の魔法で同じことが出来たよ」 「……え?」 「まだまだこれから幾らだって、借りを返す機会はあるからね」 「……エージ」 「ところで、カツヤのこと仇って言ってたのはどうなったんだよ?」 「……それは、真実はまだ……」 「真実……何か事情ありそうだね」 「……」 「まあ、とにかく寝よう。全部明日になってからってーか、目が覚めてから、考えようぜ?」 「ああ、そうだな」 ユーリはカツヤの隣のベッドに腰掛けて、横になる。 自分の隣で眠り続けるカツヤを見つめて、そうして、目を閉じて眠りの世界へと入って行った。 ☆ ☆ ☆ 揺り起こされて、エージは目を覚ました。 「カツ……?」 いきなり口を抑えられて目を丸くする。 カツヤがエージの口を抑えながら、もう片方の人差し指を立てて、静かにとサインを出す。 頷くと口を覆う手が外された。 「でも、どうしたのさ?」 「出発するぞ」 「え? 何で?」 明け方に寝たのだから、今は夕方近い時間である。 「良いからさっさと支度する!」 「はい〜><」 眠り続けるユーリを見下ろして、カツヤはゆったりと微笑んだ。 「じゃあな。ユーリ」 「………」 荷物を肩にかけてようとして、怪我をしていたことを思い出し、荷物をエージに押し付ける。 「ほら行くぞ、早く行くぞ」 「あああ、待ってよ〜〜」 そう言って、荷物を背中に背負い、ふと、もう一つのベッドで寝ていたリョーマを見返った。 「縁があれば、また会えるさ」 「……会えるって自信あるんだ?」 「自信? そんなんじゃねえよ」 「へえ?」 「……確信だよ。何度離れたって、必ず会えるさ」 「……ハマったね?」 意地悪げに笑うエージの頭を小突いて、カツヤは笑った。 「そう言う、てめえこそ」 「オレの方はまだまだ難関だよ〜でも、会えるよね?」 「どうかな〜オレとユーリは会う可能性あるけど、ユーリとリョーマが離れてたら、会えなくなるんじゃねえ?」 「もう! カツヤってやっぱイジワルだ!!」 そうして、部屋を出て、ドアを閉めながら、隙間から、小さな声で。 「またね、おチビちゃん」 呟いて―― ドアが閉まった。 「良いの? ユーリ……。聞きたいこと、あったんじゃない?」 「……いや。急ぐこともないだろう。きっと……」 また会えるから……。 言葉を飲み込んで、ユーリは起き上がった。 「そうだ、ユウギたちを家に送らないとな。それとももう帰ったんだろうか?」 「そうだね」 リョーマは小さく答えて、やはりゆっくりと起き上がった。 窓に近付き、カーテンを開けて、通りを見つめながら、ふと、目を見開いた。 「ユーリ?」 「……カツヤ!!」 「……あ。エージ……」 その声に、通りを歩く二人が振り返った。 「今度会った時は、必ず借りを返すからな!!」 「……今度会ったら、確実に凹ませてやる」 カツヤが笑いながら手を上げて、親指を立てて、踵を返した。 大きく手を振りながら、エージは笑い、カツヤの後を追って駆け出して行く。 空に舞う、レッドアイズが一際高く鳴き、カツヤたちの行った方向に向かって飛翔した。 夕暮れ迫るドミノシティは、今日一日の仕事を終えたものたちの、喧騒が響き渡っていた。 <Fin> |
やあ、何とかかんとか終わりました! イヤもう、冗談じゃないくらい長くなってしまって、まだまだ取っ掛かりの部分なのに、何でこんなに長くなるんだよ? ってな感じです。 ってーか、そうでなくても登場人物多過ぎ;; 後半、モクバもキヨスミも出てないし;; ってか、魔法士! その姿を一度も見せてないんですが、良いんですか!?(汗) キメラの暴走も旨く書けず、暴走してないし(T-T) いや、文字だけで書くことの限界を感じましたね;; 戦闘シーンは好きなんですけど、難しいです。 この二組一度分かれましたが、きっとまた会うでしょう。 ええ、私が書く気になればね(邪笑) 良くある、冒険もののお約束。行く先々で必ず遭遇。 これを書きたいんですよ。 なので続きは書くかな〜? その前に塚不二とか、MWとか書かねば!! 次のゲストは、塚不二の予定です。 カイバとユウギくんは付き合ってるんだかどうだか……(滝汗)……………付き合ってない気がする(滝汗) 果てさてここまで読んで下さってありがとうございました! やっぱりあそこをああすれば良かったかな〜とか思いつつ、4話のラストを書きたかったんで、敢えてこっちにしてみました(笑) <2003.03.01> |