Trouble☆Maker
Act3. モンスター迎撃?

「ったく、どうすんですか? エージ先輩」
「いっ? どうするって……そんなこと言ってもさー」
「だから、もう少し早く帰ろうって言ったのに」
「……いやでも、後で夢中になってたのおチビのほうじゃん?」
「へえ? じゃあ、俺のせいっすか?」
「いや、そうじゃないけど……でも……」

 しどろもどろに言いよどむと、目の前の少年は大きく、しかもわざとらしく溜息をついて、肩を竦めた。
「どうせ、エージが計画性ないの知ってたけど……」
「どう言う意味だよ?」
「……そのまんま」

 相も変わらず、生意気な口調と態度で、好き勝手に言ってくれる。
 でも、それさえも、この子の性格であり、何よりもこれでこそ、越前リョーマだと思うから、結局のところ、俺には異存はない。

 とは言え、久しぶりに部活が午前だけで、午後から休みになって、童実野町まで遊びに来たのに。
 ついつい、時間を伸ばし伸ばししてたら、さすがに帰らなきゃヤバイ時間になってて。
 ゲームセンターの外に出ようとしたら、物凄い雨と、雷に遭遇したところだった。
 当然、学校帰りだから――とは言え、学校は休みだったから、帰りは私服を着てたんだけど――肩に担いだテニスバッグ以外に荷物はなく。
 青春台の方は晴れてたし、こっちについてからも、曇ってはいたけど、雨は降っていなかったから、当然傘なんて持っていないし、買うこともしなかった。

 結果――これだ。



 帰ろうと思ってから二時間以上経っている。
 はっきり言えば腹も減って来たし、この場所から移動もしたい。
 補導なんかされた日には目も当てられないし、先生や大石に知られたらそれこそ大目玉だ。
「……誰かに迎えに来てもらうにも……童実野町じゃなぁ」
「あ」
 不意にリョーマがそう言って、携帯電話を取り出した。
「あ」
 俺も、同じように声を上げて、リョーマに駆け寄った。
「克っちゃん? 遊裏ちゃん?」
「カツヤにかけたら、通じなかった。今、ユーリのとこ」
『もしもし……リョーマ?』
「そう、今、大丈夫?」
『ああ、別に……。何かあったのか?』
「……今、ゲーセンにいるんだけど……」
「雨が降って帰れなくなったんだよ〜遊裏ちゃん、迎えに来てくんない?」
『……それは……すまない。ちょっとこっちも取り込んでて……客が来てるんだ。駅前のゲーセンか?』
「そう。じゃあ、これからマンションに行っていい?」
『ああ、それは構わない。風呂でも入れて待ってるよ』
「サーンキュ!」
 携帯を切ってリョーマに返すと、ニコッと笑ってリョーマの手を掴んだ。
「エージ?」
「こっから、遊裏ちゃんのとこまでダッシュダッシュ!」
「えー?」
「お風呂入れて待っててくれるってvv」
 そう言うと、リョーマは軽く溜息をついて、雨の中に足を踏み出した。




 少し走った先……繁華街から住宅街に入る十字路の手前の路地から、いきなり高校生くらいの青年が転がり出て来て、俺とリョーマは足を止めた。

「た、助けてくれよ!!」
「てめえが、やったことを棚に上げて何言ってやがる!?」
 まるでさっきまで間近で鳴っていた雷のような怒声が聞こえて来る。
「何だよ、あんた!? 大の大人が、暴力働いて良いのかよ?」
「てめえは、大人じゃねえのか? なら、ガキなら暴力働いても良いのか? そりゃ、大した理屈だなぁ?」
 茫然としている俺たちが路地の方を覗き込むと、それこそ、熊みたいな大きな人と、小柄な少年がそこに居て、周りに5人ほど、18、9歳くらいの野郎が転がっていた。
「び、ビクトールさん、もうその辺で……。僕もそんな被害受けてないですし」
「だからってな、ヴァン……。大体、お前が本気になれば、こんな奴ら5秒でたたんじまえるだろうが?」
「……いやでも、ほら……向こうも普通の人たちだし。敵でもないし、兵士とか傭兵でもないし……」
「ホント、相変わらずだな……」
 大男の言葉に少年は苦笑を浮かべた。
 そうして、不意に手を上げて、何かを呟いたんだ。

『大いなる恵み』

 周りが緑色の光に包まれた。
 同時に、それは青年たちに降り注ぎ、血を流していた筈の傷が、あっと言う間に消えて行く。
「……な、何だよ?」
「傷が……治った?」
「何だよ、コイツ……!?」
 明らかに、不自然な治り方に、青年たちは困惑して動揺を見せ、それから……恐怖した。
 引き攣るような表情を浮かべて、そのまま、立ち上がり駆け出して行く。

「……あれ? どうしたのかな?」
 せっかく傷を治してやったのに、怯えた表情をされて、あたふたと逃げ出した面々に、少年は首を傾げた。
「さあな?」
 肩を竦めて大男が答えて、ふっと俺たちに気がついた。
「……拘わり合いにならない方が良いッスよ? エージ先輩」
「でも……」

 よくよく彼らを見つめると、何か……ちょっと変わった格好をしている。
 少年の方の格好になんだか見覚えがあって、考え込むけど、思い浮かばない。
「もう、行くッスよ」
「え? 待ってよ! おチビ!!」
 さっさと歩き出したリョーマを追って、俺は少年に手を振って、歩き出そうとした。
 少年は、曖昧に俺の方を見てたんだけど。
 そこから視線を外して、少し歩いたところで、
「ビクトールさん!?」
 不意に聞こえた叫ぶような声に、俺は思わず足を止めた。
「……どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
「どうしたの? どっか具合悪いとか?」
「……」
 背後でリョーマが派手に溜息をついたのが判った。
 俺だって、そんなに日頃から行いが良い方じゃない。
 それは判ってるけど。
 こう言うのは、多分大石のキャラだろうな、と思うんだけど。
 でも、さすがに目の前で倒れられたら、それを無視したら、寝覚め悪いじゃないか?
「……腹……減った……」


 膝をついて、小さく呟かれた言葉に、俺もリョーマも、少年も……呆れたように肩を落としていた。

 まだ、雨が降り続けている。
 俺たち4人とも既に、ずぶ濡れ状態で、この季節でなければテキメン、風邪を引いてると思う。
 どうするかと考えて、自分の携帯を取り出して、もう一度、遊裏ちゃんに電話した。

 後二名、追加しても良いか聞くために……。





     ☆    ☆    ☆


 雨は小降りになっていて、マンションに着くまでに、色々話を聞いてみた。
(途中コンビニで、おにぎりとかパンとか買って、取り敢えずの腹ごしらえはした)
 熊みたいな大きな人は、ビクトールって言って、少年の方はヴァンソルって自己紹介してくれた。

「外国の人なんだ?」
「ねえ」
 俺の言葉に被るように、リョーマが口を挟んだ。
「おチビ?」
「……それ、ヤバイんじゃない?」
「ヤバイ? 何が?」
「?」
 リョーマの指差す方向にあるのは、ビクトールさんが持っている一本の剣だった。
「あ」
 俺が声を漏らして、眉を顰めた。
「……日本って許可なく、銃剣持つのは、禁止されてるんでしょ?」
「……銃刀法違反になるけど、でも、ビクトールさん、日本人じゃないし……」
「不法入国……。密入国? どっちにしても警察に捕まるよ。第一、どこの国から来たんだよ?」
 リョーマの言葉に、ヴァンソルって少年の方が答えた。
「デュナン国です。グラスランドに向かう途中だったんですけど……」
「は?」
「グラスランドから、ハルモニアに入って、27の真の紋章について、調べたいって……ユーアスさんが……」


 あの、何のことだか、訳が全く、判りません;;

 思わず、リョーマに視線を向けると、リョーマも肩を竦めた。


「グラス何とかとか、ハルなんとかって……何? どこの国?」
「……何だよ? 知らねえのか?」
 俺の問いかけに、オッサンの方が呆れたような口調で答える。
「そりゃ、全世界の国を全て網羅してる訳じゃないけどさ」
「特にエージ先輩……外国の地理とか苦手そうッスからね」
「あ、あのなあ?」
オーストラリアン・フォーメーション言えなかった人に反論の余地なし
「うー……」
 リョーマは、そう言ってから、不審げにビクトールってオッサンを見上げた。
「で? どこら辺にある訳? 聞いたことないから、よっぽど小さい国なんスよね?」
「……いや、グラスランドも、ハルモニアもそれなりにデカイ国だったと思うんだが……なあ?」
「……多分。でも、僕はユーアスさんほど、地理に詳しくないから。ビクトールさんは、あっちこっち旅をしてたんでしょう? だったら、僕より詳しいんじゃないですか?」
「……ってもなぁ」
 言いよどんでる二人に対して、俺は肩を竦めて言って見せた。
「とりあえず……。結構でかい国なら、そんな国はないと思うよ?」
「……………」
 顔を見合わせるビクトールさんと、ヴァンソルに、止めの一言になるかも知れない言葉を発して見せた。
「それに、さっき、ヴァンソル…だっけ? 君がやったこと……あれ、何?」
「え?」
「怪我が治ってチンピラの兄ちゃんたち、ビビってたっしょ? あれも、ありえないことだから」

 物凄く、不安そうな表情をして、ヴァンソルは、俺とリョーマを見比べて、
「それって、紋章がないってことですか?」
 と聞いて来た。
 紋章って……確か、外国の王家とかが、掲げてる……家紋みたいなもんだよな?
 ヴァンソルは、自分の右手につけていた手袋を外して、その甲をこちらに見せた。
「これ、『輝く盾の紋章』って言うんです。27の真の紋章の一つ……『始まりの紋章』の片割れで……」
「……」
「ただの刺青じゃないの?」
 呆気に取られてる俺とは別に、リョーマは訝しさ満々に、問い返した。
「……でもでも、おチビ? さっき、本当に怪我が治った訳だし、眉唾ものじゃないのは確かだよ?」
「……それはまあ……でも、要するにあれって、魔法でしょ? ユーリなら、そう言うの持ってそうだけど。あと、不二先輩も……」
「何で、不二が?」
「……何となく。そう言うの……こっそり使ってそう……な、イメージがある」
「……」
 そんな訳あるか! って思ったけど……。
 あながち否定出来ない俺もどうかと思う。


 どうにも気まずげな空気の中、目の端にマンションが見えて来て、ちょっとホッとした。
 何か、遊裏ちゃんか克っちゃんがいれば、大丈夫な気がするから不思議だ。

「あ、ついた! あそこだよ! 遊裏ちゃんと克っちゃんのマンション」
 そう言って、俺は駆け出そうとした。
 その瞬間。

 横合いから、青い炎が迫って来て、俺は慌てて、その場にしゃがみ込んでいた。
 俺ならではの反射神経の賜物だと思うね。
「エージ!?」
「……ちっ! モンスターか?」
「また、フライリザード?」
 危機感を高めて、ヴァンソルが言う。
 ビクトールが剣を抜き、ヴァンソルは背中に差し込んでいたトンファー(だったっけ?)を抜き放って構えた。
 もう、深夜に近いこの時間。
 人通りは皆無に近いけど、もし、これが誰かに見られたら……。
 焦る俺とは違い、リョーマは憮然としたまま、戦っているビクトールさんとヴァンソルを見つめている。

「ねえ? エージ先輩」
「何だよ?」
「これ、なんかの冗談?」
「……どうして、俺に聞くんだよ?」
「……不二先輩と組んでなんか企んでるのかと思って
 どう言う目で俺を見てるんだよ? おチビちゃん〜?


 青い背中からシッポにかけて、炎が燃えている結構大き目のトカゲ?(空飛んでるけど)が2匹。
 ビクトールさんの剣がトカゲを斬り付け、ヴァンソルがトンファーを揮った。
 翼を羽ばたかせて、空中を移動したトカゲが、リョーマの直ぐ近くで止まって、炎を吐いた。

「おチビ!?」
「……っ!」
 慌てて、リョーマに向かってダイビングして、抱きとめて数メートル先に転がる。
 リョーマの立っていた位置に、吐き出された青い炎が、地面を穿った。
「……マジみたいッスね」
「……おチビ?」
 何か、リョーマが低い声で呟くように言った。



 こ、これって……
 無茶苦茶怒ってる?


 
って何に対して怒ってる訳?



 グルグルと関係ないこと考えてた俺の隣で、リョーマは立ち上がって、カバンからラケットとボールを取り出した。
「え? って、おチビ! それは、幾らなんでも無理だって!!
 俺が止めるのも聞かずに、リョーマはボールを何度か地面について……。
 ラケットは左。
 でも、これは、関係ないだろう。
 きっと、より威力が増すようにと、左手でラケットを持って居るだけだ。

 そうして、高く放り投げられたボールは、前で戦っていたビクトールさんとヴァンソルの側に落ちると、高く跳ね上がった。
「え?」
「何だぁ?」
 驚く二人の真横を、凄い勢いで跳ね上がったボールは、トカゲの腹部に当たって、次の瞬間……トカゲの姿は消え去っていた。
 続けて、もう一匹にもツイストサーブをかまして、ヴァンソルとビクトールさんが次々に攻撃を加える。

 そうして、もう一匹のトカゲも消え去って、ビクトールさんとヴァンソルがこちらを見返った。

「……今の、何だ?」
「ビックリしましたよ……」
「……テニス」
「違うだろう!」
 もちろん、突っ込んだのは、俺だけど。

 いや、確かにテニスのサーブだけど……。
 でも……なんかそれは違う気がする……。

「でも、テニスだし」
「いや、そうだけどさ……」
 静まり返った住宅街に、俺達の声は、嫌なくらいに響いていた。
 ってか、さっきの戦闘だって、物凄い音がしたはずなのに、誰もやって来ないのは何でだ?



 色々と頭の中で疑問が回ってる中で、聞こえたのは足音だった。

「ビクトール! ヴァン!!」
「英二! リョーマ!」
 続け様に、それぞれを呼ぶ、二人の声。

 俺は本当に……何故かその瞬間、心の底からホッとした。
 見知らぬ少年の、後ろからこちらに駆けて来る遊裏ちゃんの姿を見て……。

 それは、多分……リョーマも一緒だったと思う。



 何はともあれ、ずぶ濡れの俺達は、やっと遊裏ちゃん達の部屋に向かうことが出来た。

 細かいことを考えるのは、後にしようと……。
 リョーマと視線を交わして頷き合い。
 取り敢えず、草臥れ切った精神を、お風呂で癒すことを選んだ。


 その時、克っちゃんがそこに居ないことに、まだ気付いてなくて。
 克っちゃんは克っちゃんで結構、大変な目に遭っていたことは、後になってから知ることになる。



 ――一体、何がどうなってるって言うんだよ?


<続く>







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ば、馬鹿な話……(滝汗&逃亡)