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菊丸英二誕生日カウントダウンSS

1.生まれた誤解
11月23日土曜日

「あれー? おチビちゃんは?」
 そろそろ部活が終わる頃だろうと見計らって、菊丸英二は部室のドアを開けて、開口一番に問い掛けた。
「……英二先輩? 越前なら、さっさと帰りましたよ?」
 桃城の言葉に、英二は目を丸くして首を傾げた。
「さっさと? え? だって今、終わったとこじゃないの?」
「……そうなんスけど……。何か家の用事があるとかで……後片付けしないで帰ったんス」
「……そうなんだ……」
 全然、聞いてなかったなーっと英二は頭を掻きながら、短く嘆息して、肩を落とす。
 今日は祭日だから、学校は休みで、英二は部活に出ているリョーマを単に迎えに来ただけなのである。
「……折角ですし、一緒にマック寄りません?」
「……え? ああ、いやえっと……悪い。オレ、財布忘れたんだよね?」
 苦笑を浮かべて言いながら、目の前で手を合わせ、英二はそのまま、踵を返した。
「んじゃ、またね☆」
 一緒にマックに寄るぐらいなんてことはないが、それ以上にリョーマの動向が気になったし、第一桃城だけではなく、他の部員もくっ付いて来たら……奢るのは自分の役目ではないか?

(いやでも、割り勘にしてくれたかもだけど……)

 どっちにしても、財布を持って出るのを忘れたのは確かで。
 ポケットを探ると、500円硬貨一枚と、100円硬貨が二枚あるだけだった。

「どうしよ……家の用事って言ってたっけ? 家に行っても迷惑かな〜」
 考えながら、英二は正門を出て、フラフラとリョーマの家の方角へと足を向ける。

 ふと、目に付いた自販機に、500円硬貨を投入して、リョーマの好きなファンタを購入しつつ、意を決したように、英二はリョーマの家に向かって駆け出した。


 あの角を曲がればリョーマの家が見えると言う場所で。
 英二は曲がった直後に足を止めて、思わず後退った。
「……!?」
 リョーマは、制服姿のまま、反対側の方角から歩いて来ていた。

 それだけなら、普通に声をかければ良いのであるが……。



 リョーマは、その両腕に大きな荷物を抱えていた。
 その隣には、金茶の髪の鋭い視線を持った……少し大人びた少年がいて、彼も大きな荷物を抱えていたのである。



「……克っちゃん先輩? 何、あれ……?」
 勿論、英二も彼のことは知っている。



 とても頼りになる三つ上の兄貴的存在。
 リョーマが彼を慕っていることは知っている。
 テニスをしている――しかも、強い者にしか興味のないリョーマが……テニスをしていない人間で初めて認めた人物。

 だけど。
 でも――

 彼には、恋人だっている。
 それも知っている。


 でも――
 それでも、不安に襲われるのは、自分に自信がないから?

 だって……。
 彼が持っている荷物は……。





 それほど大きくないボストンバッグ。
 それに紙袋と、何か買い物をしたらしい荷物。
 買い物袋からは、葱と大根が見えていたりして、それはまるで……夕飯の買い物をしたようで――





「……克っちゃん……おチビの家に……泊まる気なの?」




 だからと言って何かあると考えるのは短慮でしかないのであるが……。
 英二は、しっかり病に取り付かれていた。





【恋は盲目】



 冷静になって状況判断することも。
 周りを良く見回すことも……。

 英二には出来ない状態だったのである。