プロローグ

「ユーリ!! ユーリ、ユーリ、ユーリ! ユーリってばあ!!」


 ドミノ王国内に存在する『ミレニアム・パレス』は、魔道士、召喚士が集う由緒正しき場所で。
 厳粛なムードが漂う、常人には近寄りがたい雰囲気を醸し出していた……。

「ユーリ!! もう、どこにいるんだよーーーっ!!」

 そう、普通の人間であれば、用がなければ近付こうとは思わないような……そんな場所で。
 盛大に、喚き声を撒き散らし、廊下を闊歩している人間がいることなど、多分……この実態を知らない者は、想像もしていないだろう。


「さっきから、煩いぞ……浮かれ猫」
「……浮かれ……どう言う意味だよ? ドラゴンマニア!」
 もう一回、喚くように呼んでやろうと、大きく息を吸っていると、いきなり後ろから後頭部を叩かれて、あまつさえ、珍妙な渾名で呼ばれては、何とか言い返したいと思うのが人情である。

「ユーリなら、王都に行って、まだ帰ってないぞ」
「……あ、そか。ユーギとおチビちゃんも一緒に行ってたんだっけ」
「そう言うことだ」
 長身にダークブラウンの前髪を鬱陶しげに伸ばしている、その奥に見える瞳は青く、彼のパートナーモンスターと同じだと気付いて、浮かれ猫……ではなく、エージは少しだけ苦笑を浮かべた。
 セト=シーブル、18歳。
 最強と謳われるモンスター『ブルーアイズ・ホワイトドラゴン』を、パートナーにしている、超一流の召喚士だった。

 この容姿と肩書きで、このミレニアムパレスにいる女性魔道士や召喚士……。
 はては、近くの町の娘まで、彼に恋焦がれていると言う。


(知らないって幸せだよな〜)
 不届きなことを考えながら、エージは自分の外向けに綺麗に跳ねた髪に手を当てて、視線は手の中へと移動した。
「……せっかく、良いモン見つけたのに……」
「何だ、それは?」
 セトが自分の持っているものに、興味を示したのを見て、エージはきょとんとした後、意地悪く笑みを浮かべた。
「はーん……ユーギがいないんで、退屈してんだぁ……。いつも、ユーギと二人で何してんのかな?」
「……そんなこと、貴様に教える筋合いはない!」
「……んじゃ、オレも教える筋合いないね!」
「貴様……そんなにオレのブルーアイズの餌食になりたいか?」
「……うわっ! 大人げなぁ……そんな態度だから、ユーリにもユーギにも勝てないんだよ」
 エージの言葉に、セトは悔しそうに拳を握り締め、次には負け惜しみな、笑みを浮かべた。
「まあ、良い。浮かれ猫のすることなんざ、オレには拘わり合いがないからな」
「だったら、最初から聞くなよ」
 小さくツッコミを入れて、エージは窓から外を眺めた。

「あー……良い天気〜まあ、今日の夜でも別に良いんだけどね」
 そう言って、踵を返そうとして。
 正面玄関に、馬車が入って来るのが見えて、エージはそのまま、窓から飛び降りた。



☆  ☆  ☆

「許可取れて良かったね、ユーリ」
「まあな」
 馬車の中で、隣に並んで座っている双子の兄の笑顔に、ユーリも表情を和らげて頷いた。
「どうでも良いけど、何でオレまで行かなきゃならなかったの?」
 前に座る、漆黒の艶やかな髪を短くした、目つきの鋭い少年が、不満そうに声を漏らす。
「あ、それは、僕の我侭。きっと、君は王都に行きたいだろうな〜って思ったんだけど、行きたくなかった?」
 自分の隣に座っている、栗色の髪の優しげな笑みを浮かべた青年に、少年はさらに渋面を作って、唸るように言った。
「フジ先生の我侭に付き合うほど、オレも暇じゃないっス」
「でも、一応、ユーリくんのサポートはするんだろう?」
「それは、エージやセトも一緒なんじゃ……」
「セトはともかく、エージは居なかったじゃない。出掛けるとき」
 居たら、勿論連れて行ったよと、本気なのか冗談なのか、判然としない態度でフジが言う。

「でも、リョーマくん、エージくんにお土産買ったんでしょ? きっと喜ぶよ、エージくん」
「……そうかな……」
 ユーギの言葉に、少しだけ嬉しそうにするリョーマに、ユーギは少しホッとして、窓から外に視線を移した。
 長閑な田舎道を行く馬車の音が、不意に変わった。

 土の農道から、石畳に変わったのである。
「着いたみたいだね」
 ユーギが言い、ユーリも反対側の窓へと視線を向けた。

 独特の髪型をした二人は顔つきと性格以外は、そっくりな双子で。
 柔和な顔立ちと、優しく笑うユーギが兄。
 鋭い視線と、どこか毅然とした態度を持ったユーリが弟。

 馬車が止まったのを見計らって、ユーリはドアを開けようとして、手をかけて。
 不意に動きを止めて、口の中で呪文を唱えた。

「風・浮遊」
 ドアを開けると同時に、呪文を開放すると。
 ユーリの身体が浮き上がった。
 同時に、空から落下してきた物体を抱き上げて、浮上する。

「えへへ! ユーリなら、受け止めてくれると思ってたVvv」
「……何で、こんな無茶をするんだ? エージ……」
 半ば呆れたような口調で、自分の腕の中にいるエージに向かって問い掛けていた。

 そのまま、地面にゆっくり降下して、降り立ったエージは、馬車か降りたリョーマを見るなり、今度はそっちに向かって突進する。

「おっちびーーーー! お帰り〜〜〜〜!!!」
「エージは、ユーリの方が好きなんだよね。先に、ユーリに挨拶するし! オレのこと全然気にしてないし!」
「ユーリも好きだけど、おチビも好きだよ〜♪」
「じゃあ、何で、朝……寮に居なかったんだよ?」
「へ? ……えーっと……」
 困ったようにエージは視線を逸らし、それからハッと思い出したように、懐に入れてあった本を取り出した。

「ちょっとさ、移動回廊使って、実家に帰ってたんだよ。そこで、こんなの見つけちゃって!」

 そう言って、どこか嬉しそうにエージはユーリを見返った。

「ね、ユーリの研究に、これ役立たないかな?」
 満面の笑みでそう言うエージに、ユーリはキョトンとしつつ、だが、エージの隣で、拗ねた表情でオーラを燃やすリョーマに、引きつったような笑みを浮かべてしまった。

「リョ、リョーマ……」
「何?!」
「……チョコレート食べるか? オレの部屋にあるんだけど?」
「……食べる」
「それじゃあ、部屋に行こう。エージも……その本、良く見せてくれ」
「あ、オレもチョコ欲しい!」
「ダメ、エージには上げない」
「ああ、なんでえ? おチビのじゃないじゃん! 貰っちゃうもんね!」
「ユーリは、オレにくれるって言ったの! エージにじゃないもん」


 賑やかに喚くように言い合いながら、建物の中に入って行く二人を見つめて、ユーリは微苦笑を浮かべていた。
「大変だね。子供のお守りも……」
 しみじみ言うユーギに、ユーリは不覚にも笑ってしまった。
「何だよ?」
「……年齢はともかく、ユーギもあいつらと同じ、子供に見えるよな?」
「あああ!! もう! なんで人が気にしてることを、ずばずば言うかな!!」

 怒り出すユーギに捕まるより前に、ユーリは駆け出していた。


 これから、ユーリの研究室で、エージの持って来た本を見ながら、チョコレートと香茶で、おやつの時間を楽しむことになる。



 いつもと同じ。
 いつもの……日常。



 これ以上の馬鹿騒ぎは、きっと起きないと。

 誰もが思っていた。



 そう……。
 変わらない毎日が、これからも続いて行くと。
 誰もが思っていたのである。




<続く>  

 


 

☆あとがき☆

始まりました!
JUERSSにての、異世界ぱられる召喚魔法もの(長い!)
え? 誰か居ないんじゃないか?
えーっと……これが、メインメンバーですけどもね。

主人公はユーリです。
は?

Jが居ない?
ああ、あはははは;;;

彼は【もう一人の主人公】なんで;; その内出てきます;; ってか、次は彼だよね;;
あ、これは、コメディです。ハッキリ言って、無茶苦茶能天気に、ハメ外すぞって感じな、コメディです;;
気持ち的に、プレオーフェンとか、無謀編とか(あそこまで面白くはないだろうし、暴走もしないと思うけど)コメディとかギャグ苦手だしね;; きっとつまらないんだよ(さめざめ;;)

勿論、彼には暗い設定はありません;; 明るい普通の男の子です♪
多分……(;;) 
ただ、喧嘩に強いってのは、私に取っては、基本中の基本なので、格闘技してる設定になります(普段は喧嘩はしないので;;)
要するに、かなり【お馬鹿な話】になる予定。そこに、隠し味的に、シリアスもって感じかな〜;;

書いてると長くなりそうなんですが、これは、きっちり一週間連載でやりたいです。
何でか? 天狼伝みたいに止まる可能性があるから、これだけに集中して書きたいのです。
あれほど、重くはないんで、多分、ペースは早いと思いますが;;
次は、5月6日の月曜日に! アップできることを祈ってて下さい(激笑)

ではでは、お付き合いよろしくお願いします!(^^)