王サマと王子様
in Summer Vacation<後編>
作:あやか様


 さて、彼らがバイトを始めて4日目のことである。だんだんと仕事にもなれ、それとともに仲間内以外のものたちとも言葉を交わしていく。
 越前、遊戯、遊祈はやはり背が低いことで親近感がわくのだろう。気がつけばいつも一緒にいる。あまり口数が多いともいえない越前だが、遊戯がニコニコと話を進めている。おそらく遊祈も似たようなタイプなために扱いやすいのだろう。
 大石と桃城は本田といるのをよく見かけるようになった。苦労人は苦労人を見分けるのだろうか。

 仲良くなれば、見えてくるものもある。

 たとえば、一見青学テニス部をまとめているのは手塚だが、実権を握ってるのは不二と乾っぽいとか。
 桃城は越前の下僕だとか。
 誰と誰が親密な仲だとか…である。

 それは青学テニス部レギュラーも同じことで、

「ねぇ遊戯さん。もしかして遊祈さんと城之内さん…」
「あぁうん、付き合ってるよ」

 などということもあるわけである。だがそれぞれがそれぞれの立場や意見を尊重しつつ。うまく行っている方であろう。

§  §  §

「よっしゃ〜〜明日休みの奴決めるぞ〜〜」

 どうやらバイトを休む人間はその前日のくじで決めることにしたらしい。城之内がそういってからになったティッシュの中に紙をほおりこんで行く。

「あたりって書いてあるのが明日休むやつな」
「当然テニス部は午前中はトレーニングだ」

 城之内の後に、手塚が言い、乾がその横でトレーニングメニューの書かれた紙をひらひらと振ったのだった。
 そしてそれぞれがくじを引いていく。結果は……。

「うわ…また異色の三人」
「青学愛想ナッシングズだな」
「桃先輩、いー度胸ですね」

 当たりくじを引いた4人に、青学の面々は苦笑いを浮かべた。ちなみにメンバーは、手塚、海堂、越前の桃城曰く「愛想ナッシングズ」と、

「やっぱ引きのよさってのはこういうところにも出るんだな」
「よかったな遊祈」
「でももう一人のボク、一人で海のほうへ行っちゃだめだよ?」
「……」

 武藤遊祈だった。夏の海は結構あぶない人とかもうろついてるからと、言い聞かせる遊戯と、

「ハイこれ。メニュー」
「うーっす」
「………」

 乾の渡すメニューを越前と海堂が受け取る。もちろん手塚も受け取っているので明日の午前中、三人はこれでつぶれるだろう。
 さてそれじゃオレはどうしようかな。と遊祈が考えていると、

「遊祈さん、どうせなら午後から一緒に出かけません?」
「いいが…?」
「オレ、この人たちと出かけたくないっす」

 越前がそういって後ろの二人を指差した。「どういうことだ?」と海堂が眉をひそめた。手塚は相変わらずあまり変化しない表情で越前と遊祈を見ている。

「どういうことだ、こら」
「…………この前部長と歩いてたら……お父さんとお出かけですか?っていわれた…」
「「「「「「「…………」」」」」」」」

 ムスっとした顔で言う越前にさすがの海堂も何も言えず「…好きにしろ」とだけいた。手塚もそのときのことを思い出したのか少し遠い目になっている。

「もう一人のボク、リョーマ君とあそんどいでよ」
「…あぁ、そうするぜ…」

 引きつった笑みを浮かべる遊戯に、遊祈が頷く。

「補導されなきゃいいけどな」

 桃城があ〜あというように頭を振った。翌日、桃城の言葉が現実あするのだが、それはまた別の話である。

§  §  §

 さて、それぞれ順番に休みを取ったり労働に精を出したりと過ごし始めたころ。カレンダーは八月に入り、大石と桃城がいったん家に帰り、それと入れ違うかのように獏良と杏子がやってきた。

「おぉ、そうか」
「どうしたんだい、城之内君」

 自己紹介を交わす獏良や杏子たちを見て城之内がぽんと手を打った。すぐ近くにいた遊祈が顔を上げる。「いや、よぉ」と城之内が頭をかきながら内緒話をするようにしゃがみこむ。

「不二がさ、どっかで見たことあると思ったら、獏良に似てんだよ」
「……」

 城之内の言葉に、遊祈が二人へと視線を向けた。ニコニコと柔和な笑みを浮かべある獏良と不二。顔立ちがやしげで、小柄、身長も同じぐらいだろう。
 確かに似てなくもない。特にあの……なんとも底の知れなさそうな笑みが。

 そう思ったのは城之内だけではないようで…。

「な〜〜んか、あの獏良って人、微笑が不二とにてにゃい?」
「係わり合いにならいほうがいいっすね…」

 菊丸と越前がそれぞれ顔を引きつらせていた。青学最凶の名を欲しい侭にする不二。それに根本的なところが似てそうな獏良は彼らにとってはそういう対象なのである。
 先に帰った大石がいたらきっと胃痛を起こしていたかもしれない。こういう時結構要領いいよな〜大石。と黄金コンビの片割れに菊丸がため息をついた。

§  §  §

 それは、あまりに突然やってきた。
 大石と桃城が帰った穴を手塚が厨房に入り、杏子と獏良が接客に回った。しかし初日から「かっこいい子がいる」ということでかなり繁盛していた海の家。当然こまめに買い出しに行かなくてはいけないのである。
 その日は城之内、手塚、海堂、遊祈の4人での買出しだった。

「遅いね、手塚たち」
「ふむ、あの材料だと45分ほどで戻ってくるとふんだんだが…」

 買い出しに行ったきりもうすでに一時間以上経過している4人に青学および童実野高校の面々は首をかしげた。4人が4人とも道草をするようなタイプではないので、もしや何かあったのかという不安も出てくる。

「もしかして、城之内君に何かあったのかな…」

 遊戯がお客に缶ジュースを手渡しながら心配そうに顔をしかめた。そこに、あわてたお客が一人入ってきた。

「た、大変だこの先にある商店で強盗が入って立てこもってる!!」
「?!!?!」

 お客の言葉に店内はにわかに騒がしくなった。

「すいません、人質って!!」

 杏子が駆け込んできたお客に尋ねる。

「え、えぇと、大学生ぐらいの男と、高校生ぐらいの金髪の男が一人、目つきが悪そうなのが一人と、赤毛の中学生ぐらいのが一人。それから店の人だったと」
「…手塚と海堂だな」
「金髪は城之内だな」
「赤毛の中学生はもう一人のボクだよ…」

 はぁぁと、乾、本田、遊戯がため息をつく。城之内以外年齢が当たってないのがなんとも言えず緊迫した雰囲気をしらけさせる。
 どうしようか、と顔を見わせている杏子、遊戯、獏良、本田をなんとなしにが眺めていた菊丸が、ふと隣からなんともいえない雰囲気を感じ取って振り返った。

「!!ふ、不二!?」
「ふふふ、いったい誰にどんな許可とって僕の手塚に手を出してるのかな…ねぇ英二…」
「ご、ごめん不二、いろいろ突っ込みどころがありすぎて突っ込めにゃい…」

 その近くでは乾が不気味にメガネを光らせぱらぱらとノートをめくっている。

「うむ、海堂の体に傷ひとつでもついていたら一体どんな報復をしたら一番効率がいいかな…」
「……乾先輩、殺人は犯罪っすよ…」

「大丈夫だ、越前」
「大丈夫だよ、英二」

 不二と乾がそこの知れない笑みを浮かべ、それぞれを振り返る。そんなへまはしないとでもいうんだろうかと、少々引きつる二人。先に帰った桃城と大石、それに家の手伝いでこれなかった河村を恨みそうになる。

「「立証できなきゃ犯罪じゃないんだよ」」
「「…………」」

 良心の咎めとかそういうのはどうでもいいらしい。
 こういうとき、止めに入るのは部長でもあった手塚なのだが、その本人が人質になっている今、止めるものはいない。つまりやりたいほうだいなわけだ。

「と、とにかく現場に行ってみようよ不二、ね?!」

 さすがに親友が目の前で犯罪者になるのは遠慮願いたい。菊丸はそういっておやっさんに断りを入れると不二を引っ張っていく。
 それに、越前、乾、獏良、杏子、本田、遊戯が続く。一時とはいえバイトが誰もいなくなってしまうが、おやっさんは快く了解してくれた。

§  §  §

 さて、強盗の末の立てこもり犯のいる商店にたどり着いた面々だが、すでにそこは騒然としていた。野次馬はたかっているし、報道陣はいるし、もちろん警察もいる。
 テレビの中だけの出来事ではない世界が、そこに広がっていたのだ。

「まぁ、城之内と遊祈が一緒なら最悪なことにはならないだろうなぁ」

 コキコキと首を鳴らしながら本田がいう。いい加減命の危機やら何やらに巻き込まれすぎて場慣れしてしまった自分が妙に悲しい。

「むしろ犯人に同情するわね」
「余計なこといってもう一人のボクの逆鱗に触れなきゃいいけど…」
「結構短気だもんねぇ、遊祈くん」

 杏子、獏良、遊戯もいまいち真剣みが足りないのもそのせいだろう。ぶっちゃけて言えば、強盗犯の一人や二人遊祈と城之内なら何とかするだろう。という妙な安心感まで持っていたりする。
 そうは行かないのが、たとえテニスでは人を吹っ飛ばそうと何しようと顔色一つ変えないが、突然ゲームのモンスターが実態かしちゃったり、「世界はあなたの手にかかっているのです」とか突然真顔で重大使命を押し付けられたことがない、そういう意味では普通の中学生のカテゴリーに入る青学テニス部の面々である。

「手塚〜生きてる〜?死んでたら遺体僕が引き取って腐っても愛してあげるからね〜」

 のわりにはどこまでものんきな声をかける不二であったが。ちなみに彼のこの声で、前にたかっていた野次馬がごっそり引いた。

「あれ?」

 花道かモーゼの十戒か。楽に最前列にいけることになったのだが、妙に視線が生暖かいよな。とまだ常識人の本田と杏子がこちらも生ぬるい笑みを浮かべあった。

§  §  §

 さて商店の中である。強盗は3人で、それぞれ裏口に一人、表に一人、もう一人は人質である店主、その妻、それに城之内たち4人を見ている。武器はそれぞれ手に実銃が一丁。

「手塚〜生きてる〜?死んでたら遺体僕が引き取って腐っても愛してあげるからね〜」
「……愛されてるみたいだぜ!」
「不二、あとで覚えていろ…」

 おびえる店主と奥さんをかばっていた遊祈と城之内。だが表から聞こえてきた能天気な声で、思わず手塚ががくりと頭を落とした。
 銃があるから大丈夫だと思ったのか、幸い縛られてはいない。それでも店の隅に固まるようにして座らされていた。

「城之内君、奥さんが少しまずいかもしれない」
「あぁ、わかってる。海堂、殴られたところは大丈夫か?」
「平気っす」

 遊祈が先ほど打たれた店主の奥さんの様子を見ながら城之内に小さな声で話しかける。海堂も頬を殴られ、少し腫れて来ている。
 男たちはこの近くで押し込み強盗をした後警察にわれてここに逃げ込んだようだ。そこにたまたま運悪く居合わせてしまったのが遊祈たちというわけだ。

「城之内君も、腕は大丈夫かい?」
「平気平気。いつっ!!」
「無茶はしないでくれよ」

 城之内も撃たれようとした遊祈をかばって左腕に裂傷を受けたのだ。今は止血しているが、やはり痛むらしい。
 不安げに見上げる遊祈の頭をなでてやりながら、城之内は笑みを浮かべる。

「大丈夫だって。な?」
「……うん。でもオレのためとはいえ無茶しすぎだ…」

 ぎゅぅと、城之内の腕をつかみながら、遊祈が泣き笑いにも似た表情をする。「悪い」と言いながら、押し込み強盗たちから死角になるように、そっとその頬に口付けた。

「じょ、城之内君っ!」

 瞬時に頬を赤く染めた遊祈がわたわたとするのに意地の悪い笑みを浮かべる。それから耳元で低くつぶやけば更に遊祈の顔が真っ赤になった。

「まぁ続きはこつらをどうにかしてかえらだな」
「〜〜〜〜っ!!」

 真っ赤になってうつむいてしまう遊祈に忍び笑いを浮かべ、城之内は犯人たちへと視線を向けた。人間は三人。せめて二人ぐらいなら何とかなるんだけどな…と考えをめぐらせる。

「オラオラ、さっさと車を用意しろ!!こっちはすでに人一人ばらしてんだ!!いまさらもう一人ぐらいやっちまってもいいんだぜ!!」

 リーダーと思しき男が、表に向かって叫んでいる。どうやら警察に車を用意させているのだろう。

「おい!」

 男が振り向き、城之内たちを見張っている男に何か合図する。男は頷くと、6人の中で一番小さな遊祈の腕をつかむと立ち上がらせた。

「うわ!!」
「遊祈!」

 驚く城之内に、大人しくしていろ、というように銃口を向け、男は遊祈の体をリーダーを思しき男へと突き出す。
 リーダーは遊祈のこめかみに銃を突きつけると、表に出て行った。

「警察官のみなさまよぉ、目の前でこのガキの頭をふっ飛ばしてもらいたいようだな!」
「もう一人のボク!!」
「相棒!!」

 すぐさま遊戯の声と、遊祈の嬉しそうな声が聞こえる。

「大丈夫、もう一人のボク!!」
「あぁ、城之内君が腕怪我してて奥さんがちょっとやばくて、海堂が殴られたりしてるが、大丈夫だ」

 ―――それ、ぜんぜん大丈夫といいません。

 銃を頭に突きつけられているというのに、まったくいに返した様子もなく。むしろ笑みさえ浮かべて冷静に状況を伝える少年に、思わずこれは現実のことだろうかと野次馬が遠い目をした。

「遊祈さん、手塚、手塚は!?」
「手塚は無傷だぜ!」

 あからさまに胸をなでおろす不二と、きらりと四角いフレームのメガネを光らせる乾。すっかり蚊帳の外の菊丸とリョーマが思わず身を寄せ合う。

「え、英二先輩。なんか見えるっす」
「にゃ、にゃあ……」

 すっかり涙目になっている二人に、獏良が「あははは、ネコって霊感強いって本当みたいだね☆」とのんきなコメントをしていたが、慣れた本田と杏子は丁重にその発言をシカトすることにした。
 面食らったのは犯人も同じで、目の前で人が撃たれた現場を見ていて、なおかつ今現在自分が命の危険にあるというのに、この能天気ぶりは何だと思わず唖然とする。普通、こういう状況になったら恐怖で口も聞けない状況になるのではないだろうか。

「まぁこうしててもしかたねぇし、何とかしないとな…」

 どうしようかと、話し始めた本田たち。犯人がまだ何かわめいていたがとりあえず無視する。遊祈の話では奥さんが撃たれたようでかなり危ない状況ならば早く何とかしなければいけないだろう。

「とりあえず、表にいるあいつだけでも何とかできれば後は城之内がどうにかすんだろ」
「海馬君でもいればカード投げで何とかしてくれるんだけどねぇ…」

 100発100中を誇る海馬のカード投げ。カードに特殊な加工でもしてるんじゃないだろうかというほどその威力はすさまじい。
 だがこの場に海馬はいない。遊戯が呼べば速攻駆けつけてくるだろうが、ことが大げさになりかねないので却下だ。

「ねぇ」
「ん?」

 くいくい、と腕を引かれ、本田が視線を下に移す。そこには越前が勝気な瞳を遊祈と拘束している犯人へと向けていた。

「ようするにあいつの気をそらせばいいわけ?」
「あ、あぁ。そうすればあいつらの一人二人城之内の敵じゃねぇからな」
「ふ〜〜〜ん」

 そう頷くと、越前は列の前に出ようとする。

「あ、リョーマくん、どうするの!」

 遊戯があわてて止めるより早く、菊丸がいつの間に持ってきたのか、越前のラケットと黄色いテニスボールを手渡す。

「ほい、おちびちゃん」
「「「「「?」」」」」」

 童実野高校の面々が首をかしげる前で、リョーマは何度かボールを地面の上でバウンドさせる。

「これ以上不二先輩と乾先輩の怪しいオーラと一緒にいたくないっすからね」
「まぁみてなって」

 何をするつもりだろう。と遊戯たちが見守る中、菊丸が、ニヤッと笑みを浮かべる。

「………ツイストサーブ」
「なっ!!」

 ポーンと、越前がボールを高く投げ、渾身の力を込めてそれをたたく。地面にたたきつけられたボールはそのまま犯人の腕へ向かって跳ね上がった。

「がっ!!」

 ちょうど手首に当たった、越前の手加減なしのボールに、犯人が思わず遊祈を捕らえていた腕と、銃を落とした。その一瞬の隙を、見逃す遊祈ではない。
 さらに、いつの間に持ってきていたのか、乾と不二の渾身のボールが体にめり込んだわけだから始末に悪いとも言える。

「この!!」

 ついで、とばかりによろめいた犯人の股間に、遊祈が思い切り足を振り上げた。

「げへっ!!」

 奇妙なうめきを上げて、男はそのまま地面へと倒れこんだ。思わずその攻撃のえげつなさに、野次馬の男たちが思わず己の大事なところを抑えたそうだが、それはどうでもいい話である。

「本田、担架!!」
「おう!」

 中でも城之内がどうやら二人を片付けたらしい。銃を持っていたとしても童実野町の新聞配達する無法者として各裏社会で名前を売っていた城之内の敵ではない。
 城之内の声に、本田が待機していた救急隊の皆さんと警察の皆さんに中に入るように促す。突然の展開の呆然としていたそれらの人々も、本田の声にようやく我を取り戻し、己の職務を全うするべく動き出した。

§  §  §

「やれやれ、えらい目にあったぜ…」

 一応、参考人として話をするべく警察に向かった――城之内と海堂は傷の手当ての意味もあったが――4人と、さらに手を出してしまったという理由で事情聴取を受けることになった越前、不二、乾、遊戯の4人。菊丸と杏子、獏良、そして本田はおそらく海の家のほうで現在てんてこ舞いだろう。ちなみに帰ったはずの大石と桃城が呼び出されているのだがそれはまた別の話だ。
 事情聴取は城之内と手塚、それに乾がほとんど答えていたのだが、問題ないようだ。

「でも、ずいぶんと冷静だったな、遊祈」
「あぁ、菊丸がラケットを持ってくるのが見えてたからな
 この前一緒に休みだったときに、リョーマのあのえ〜〜と」
「ツイストサーブ」
「そうそれ、を見せてもらってたから」

 この前、というと越前と一緒に小学生と間違われて補導されたときか。と、その場にいた全員が思ったがとりあえず無言で流した。

§  §  §

 翌日。
 強盗に入られた商店の奥さんはとりあえず一命を取り留めたようだ。店のほうも明日から無事再開できる話だときいて、遊祈たちが胸をなでおろす。
 ちなみに強盗犯三人は、昨日差し入れされた飲み物を飲んだとたん悶絶したらしいが、真相は不明である。
 更に5日ほど、青学テニス部はおやっさんの海で労働することとなる。

「い、乾、何作ってるんだそれ」
「うわ〜〜城之内さん、それ飲んじゃまずって!!」
「あれ、結構おいしいのに」
「ぶはっ!!んだこれ」
「…結構いけるじゃん」

 乾が新メニューにしようと乾特製野菜汁を作り、さらには菊丸が止めるのも聞かずにうっかり飲んだ城之内がしばし使い物にならなかったり。
 更にその残りを獏良が飲んだがけろりとしていたためいっそう「やっはりあの二人」と双方に思われたり。

「そこのミニモニ手伝ってくれ」
「………」

 家に帰ったはずなのに結局呼び出されてこき使われている桃城にミニモニ呼ばわりされた越前、遊祈、遊戯の3人だが、3人ともミニモニなる物を知らなかったためそのときは何もなかったのだが、夜不二と乾にミニモニを教えてもらって報復手段に出たとか。

「ふはははははははは!!」

 哄笑とともに現れた某社長様の登場に中学生たちが思わず引いたとか。

「お父さんと一緒にお買い物かしら?」
「………」
「ぼ、僕は気にしてないよ、手塚君」

 遊戯と手塚が親子に見られたりとか。いろいろあった2週間はあっという間に終わった。

§  §  §

「んじゃ、忘れ物はねぇか?」
「大丈夫だ」

 夕方ごろまで海の家まで働いた手塚、不二、乾、海堂、大石、桃城、越前、菊丸の8人は、それぞれ荷物を確認する。手塚が頷くと、親さんからそれぞれ茶封筒を渡された。

「二週間、ありがとうよ」
「いえ…お役に立てて光栄です」

 どこまでも礼儀正しく頭を下げる手塚に、おやっさんも満足そうに頷く。「国によろしくな」という声を受けながら8人は岐路へとついた。

「さ〜〜て、明日も忙しいな」
「あぁ」

 あと1週間はここでバイトをする城之内たちは頷きあうと、それぞれ片付けをするために海の家に戻った。

「なんか面白い奴らだったな」
「そうだな」

 今度はバイトなしで遊んでも面白いかも知れねぇと、言う城之内、遊祈も頷いた。

§  §  §

「いい人たちだったね、越前」
「そうっすね」
「夏休みもあと2週間あるし、今度は二人で出かけようにゃ」
「……そうっすね」

 とりあえず、今は手をつないで帰ろうか。と二人はそろそろ夕闇迫る町を仲良く手を繋いで歩いた。









§  §  §










おまけ

 強盗を退治した夜のことである。

「ところで不二、俺が死んだら死体でも愛してくれるのか」
「できれば生きてるほうがいいけど、何で?」
「いや……」

 にっこり笑みを浮かべてあっさりと返された手塚は、とりあえず不二より先に死なないようにしよう。
 と心に誓った。

§  §  §

「あ〜あ〜かわいい顔がはれちゃって…」
「男っすから、大丈夫っす」
「そういう問題じゃないんだけどね…。足や腕じゃなくてよかったけど…」

 丁寧にはれた頬の手当てをする乾が、その夜こっそり民宿を抜け出したのを知っているのは海堂だけである。

§  §  §

「まったく、君は無茶ばかりする」
「あんときゃとっさだったからな」

 きちんと手当てされた腕の包帯を触れながら遊祈がため息をついた。
 悪びれない様子の城之内に心配は減らないようだ。

「君には、助けられてばかりだ」
「それは俺も。いいじゃん、ギブアンドテイクで、俺ら対等だろ?」

 俺にできることは俺がやって、遊祈ができることは遊祈がやる。
 それぞれそうやってずっと一緒にいられたらいいよな。

 そういって笑みを浮かべる城之内に、遊祈がはにかみながら小さく頷いた。


 

☆謝辞☆

【Compression of Time】のあやかさんより頂いてしまいました!
【遊戯王】と【テニスの王子様】クロスジャンル☆

もう、すっごい乾と不二先輩が真っ黒なオーラ発していて最高でした。【M&W】についても詳しいデータを持っている乾先輩、最高です♪ 
本当にいつ寝てるんでしょうか?(滝汗)

桃ちゃんのミニモニ発言とかも楽しいし♪
後、リョーマさんと遊祈くんの補導事件とかも見たかったですね! 
リョーマさんはともかく……遊祈くん、高2なのに……;;
手塚と親子に見られたって言うリョーマさんが可愛く、敢えて気にしないと言う遊戯くんとか、ああもうすっごい楽しかったです!

読みながら笑いっぱなし☆
また、続きなどを書かれることを密やかに、楽しみにしています〜vvv

本当にありがとうございました!!