雨の降る日に……


「あ、降りだした」

 英二はそう言って、店の外を見ながら、とうとう降り出した雨に、慌てて駆け出す通行人を見つめていた。

「英二、傘持ってる?」
 クラスメートで親友の不二の声に、英二は首を横に振った。
「持って来なかった……何か、荷物になるから、出掛けに降ってないと持ちたくないし」
「だよね」
 英二の言葉に、不二は肯定を意を含んで呟いた。

「悪かったね。映画つき合わせちゃって」
 英二が目の前に座る不二に向かって言う。
「別に……。越前くんが急用で、他に予定が開いてる人がいなかったんだから、仕方ないさ」
 素直にその言葉を聞きながら、何気に毒が入ってることに気付いて、英二は顔を顰めた。
「……悪かったよ。今日までの映画だし。姉ちゃんも兄ちゃんも要らないって言うし。勿体無いしさ」
「……そうだね」
 ニッコリと笑って言ってるが、その真意は計り知れない。

「ところで、不二は傘持ってるの?」
「持ってるよ。近くの店で、傘、買って来ようか? さすがに相々傘はイヤでしょ?」
 含み笑いで持って言う不二に。
 英二は苦笑を浮かべて、立ち上がった。
「傘、貸して。オレが買ってくる。オレの傘だし」
「ああ、判った」

 折りたたみの傘を手渡されて、英二は喫茶店を出て、傘を差した。
 その……動作の合間。
 良すぎる視力が、垣間見せた者。



「……」
 傘が、英二の手から滑り落ちた。
 心臓が、何だかざわつくように高鳴って、凄く気に触る。



 道路を挟んだ向こうの歩道を……。
 一組のカップルが歩いていた。


 そう。
 どこからどう見ても……。
 それはカップルにしか見えなかった。


 自分の目にも。
 寸分違わず――【似合いのカップル】に見えたのだ。




 無愛想にでも、小さくても傘を持ち、ゆっくりと隣の少女に合わせて歩くその姿は、どっから見てもちゃんと【彼氏】に見えて。

 隣では、長い髪を三つ編みに編んだ、可愛い彼よりも小さい少女が笑顔で歩いている。

 微笑ましい……可愛いカップルだと。
 きっと、誰が見てもそう思う。


 自分が彼と歩いていても、誰もカップルとは見ない。
 仲良い先輩後輩。下手すりゃ兄弟だ。


「……リョ…マ……」

 知らずに呟いた、彼の名前。

 急用があると。
 今日のデートを断った越前リョーマが――女の子と相々傘で歩いているのは。

 英二にとってはかなり衝撃的なことだった。


◆Next◆