雨の降る日に……2

 翌日の月曜日も雨が降っていた。

 梅雨という季節柄……これも仕方ないことだが、リョーマは鬱陶しそうに雨の降る校庭を、教室の窓から見詰めていた。

「?」
 もう授業も3時間目の授業を終え、4時間の授業が始まろうと言う、そんな時間に。
 一人の男子生徒が正門から、校舎に向かって歩いていた。
 何だか、フラフラと頼りない足取りでこちらに向かって来るその人物に、リョーマは弾かれたように立ち上がった。

「どうしたんだよ? 越前」
 かけられた声を無視して、リョーマは教室を飛び出した。

 昨日から降り続けた雨のせいで、今日の朝練はなかった。
 だから、彼がどうしていたのか、全く知らなかった。

 一階まで飛ぶように駆け下りて、3年の使っている下駄箱に向う。
「エ……」
 声をかけようとした所で、リョーマが背後から声をかけられた。

「リョーマくん」
「……竜崎?」
「あ、あのね。昨日のお礼……なんだけど」
 可愛らしくラッピングされた、小さな包みに。
 リョーマは暫し、それを見詰めて黙り込んでいた。

「……ありがとう」
 リョーマはそう言って、それを受け取った。
 そうして、同時に背後に気配を感じて、慌てて振り向く。

「エージ先輩……」
「……いつから?」
「え?」
「……いつから、付き合ってたの?」

 いつもよりも低い声で。

 いつものような優しい視線ではなく。

 そこに怜悧な表情を浮かべたまま、英二は問い掛けて来た。

「……付き合ってなんか……」
「そう? 別に……もう、どうでも良いけど」
 英二はそう言って、カバンを抱え直して、仰々しく息をついた。
「自由にしてあげるから。越前は、越前の好きなとこに行けば良いよ」

 早口に言って、英二は3年の教室に向かって歩き出した。
「……ちょっ、ちょっと待って下さい! エージ先輩!」
「……やだ。待たない。これ以上……越前の側に居らんない」

「……っ!」

「嘘ついて、オレの誘い断って女の子とデート? 健全だよね? 普通だよね?」
「……違っ……」
「……オレなんか、越前に合わないよ」

 そんな科白は聞きたくない。

「じゃあね。越前」
「……エージ先輩……」

 リョーマは俯いて拳を握り締めた。
 英二の物言いから、昨日、桜乃と一緒に居たところを見られたのだと判る。











「……」
 気まずげな表情のまま、黙り込んで俯いたリョーマを見詰めていた。
 頭がズキズキと痛んで、視界はボーッとしている。



 ――違う

 こんなことを言うために、姉たちの制止を振り切って学校に来た訳じゃない。

 昨日のことを。
 ちゃんとリョーマに聞きたかったから。
 ただの憶測で……何もかも決め付けて、全てを壊したくなかった。




 だから、会いに来たのに……。


 せっかく会えたのに……。
 リョーマは彼女と一緒にいた。


 見た瞬間、頭の中が真っ白になって弾けたような気がした。
 何もかも、壊してしまいたい衝動に駆られて、言葉が口を付いて出た。



「……ジは……オレのこと、信じてくれないんだ?」
「……!?」
 呟くように紡がれた言葉は……英二の脳に浸透し胸を刺した。
「……何も……聞いてくれないのに……勝手に決め付けて……」

 ズキン

「言い訳もさせてくれない……」

 ズキン


「……オレが……きなのは……エージ……のに」

 ズキンズキン

 胸の痛みが増して行く。



 これじゃダメだ。



 このままじゃ……











 
確実に…………終わってしまう!!







「あ、リョーマ……」
 慌てたように、声をかけようとして。
 視界が揺らいだ。


 立っていられずにふらついて、床に膝をつく。



「エージ?」


 ……遠くで……リョーマの声を――





 聞いたような気がした……



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