雨の降る日に……3 |
『エージはオレのこと信じてくれないんだ……?』 ――違う…… 『……オレ……きあっ……のは、エージ……なのに……』 ――おチビ…… 『……じゃあ、オレは竜崎と付き合う。それで、満足なんでしょ? 先輩』 「違う――っ!!!」 「ビックリした。どうしたのよ、英二?」 聞き覚えのある女性の声に、英二は起き上がったままの体勢で、荒く息をつきながら、視線をそちらに向けた。 「あ、オレ……いつ帰って来たの?」 「……昼前には、不二くんと大石くんが一緒にあなたを連れて来てくれたのよ。後でよくお礼、言っときなさい」 そう言って、姉は英二の額に手を当て、 「熱は下がってるみたいね。お粥持って来るから、もう少し寝てなさい」 姉が立ち上がって、部屋を出て行く。 今、英二が寝ているのは、自分の部屋ではなく、普段は客室として使われている和室だった。 薄暗い部屋の中で。 ぼんやりと天井を見詰める。 リビングからも少し離れているここには、普段のこの家の騒がしさも届かない。 「おチビ……付いて来てくれなかったんだ……」 リョーマと話をしていて倒れたことは覚えていた。 でも、自分を家まで連れて来てくれたのは、不二と、大石で。 リョーマは居なかった。 「……おチビ……好きだよ」 好きで好きで、どうにかなりそうなくらい好きで……。 何であんなことを言ったんだろう?と後悔の渦に飲み込まれて、身動きが取れない気がした。 もう、戻れない? 取り返しはつかない? 「……っ……りょ……ま」 布団を握り締めて、寝返りを打つ。 唇を噛み締めて、嗚咽を堪えながら、リョーマのことを繰り返し呼んでいた。 「?」 ふと……家の中がさっきより騒然とし始めたような気がして、英二は布団から身を起こした。 「英二! これ、食べてね」 「姉ちゃん、何かあったの?」 「……家の前で、男の子がずぶ濡れで立ってて。青学の学生服着てたから、あんたの知り合いじゃないの?」 「……え?」 「とにかく。あのままじゃ風邪引きそうだから、家に入って貰って、今風呂使って貰ってるのよ。 あんたは、ともかくそれ食べなさい!」 「……見たことない子?」 「――そうよ。見覚えあれば、そう言うわよ」 付き合い始めて、一ヶ月足らずしか経っていないため、リョーマはこの家に来たことは一度しかない。 その時、家族の者には会ってないから、知らないのも当然だ。 直ぐに関東大会があったりして、家に呼ぶ時間がなかったと言うのが、最大の理由だが。 「まさか……おチビ?」 英二は、呟くように言ってから、慌てたように立ち上がった。 だが、ふらついて真っ直ぐに歩けずに、その場で膝を付く。 「……おチビ……リョーマ……!」 そこに来てるのに……。 直ぐ近くに居るのに……。 動けない自分がもどかしい。 「……何やってんですか?」 ふすまが開いて、声が聞こえた。 「……りょ……」 「不二先輩に叱られました。エージが風邪を引いたのは、オレの所為だって」 「……」 「それに今日、無理して学校に来たりしたのも、オレの所為だって」 「……そ、それは……」 「何で、そんな無茶すんですか?」 「だって……」 リョーマは、首を横に振って英二に近付くと、 「今は、そんな話してる場合じゃないっすね。ちゃんと布団に入って寝てください。あ、そうか。これ食べないとね」 「……おチビ……」 「風邪が治ったら、ちゃんと話しますから。今はこれを食べて、薬飲んで、寝て下さい」 「……」 リョーマはそう言って、お粥の載ったトレーを手に取り、英二が寝ていた布団の枕元に置く。 英二も、渋々布団に戻り、布団を太腿までかけて、座り込んだ。 「一人で食べれますか?」 「あ、うん」 お粥を食べ始めた英二を見詰めながら、リョーマは小さく呟いた。 「本当は……オレ、エージに会う資格ないんだよね?」 「……え?」 「エージ、こんな目に遭わせたのオレだし……。でも、エージのこと心配だったから……」 「そんなことないよ。会う資格ないなんてことないよ……。それに、ずぶ濡れって……それで、リョーマ風邪引いたら……」 「別に……風邪引けば良いと思ったし。自業自得だし……」 「おチビ?」 だが、それ以上、何を聞いてもリョーマははぐらかすだけで、答えてはくれなかった。 「じゃあ、おやすみなさい。そろそろ帰ります」 「え? 帰っちゃうの?」 「オレいると、邪魔でしょ?」 「……そんなことない! 来てくれて嬉しいし、会えて嬉しい」 「……でも、オレのこと怒ってたんでしょ? 別れても良いって思うくらい、オレのこと嫌になってたんでしょ?」 「違う!」 「……エージ?」 「……好きだから……リョーマが好きだから、好きすぎて、どうして良いのか判らなくなって……」 「……」 「オレも、リョーマを傷付けた。だから……お互い様だよ? リョーマだけが悪い訳じゃない……」 「……――エージは優しいね」 「え?」 「大人で優しい。もし立場が逆だったら、オレ、同じこと言えない……」 「おチビ?」 「……でも、家に何も言ってないんで、今日は帰ります。また、明日来ますから。その時に全部話します。竜崎のことも……」 「……!」 リョーマは立ち上がって、襖に近付き手をかけた。 「待って!」 「?」 「今、教えて。このままじゃ、オレ寝られない。気になって眠れないよ?」 「エージ?」 「オレとの約束、キャンセルして、何であの子と出かけたの?」 「オレは竜崎と出かけてません」 「え?」 「竜崎とは、駅で会ったんです。傘がなくて困ってた竜崎を、たまたま売店で傘買ったオレが、声をかけて家まで送っただけです」 「……え、ええええーーー?」 「全部、親父が悪いんすよ。自分の手が開いてないからって、直ぐに人に押し付けるんだから……」 「って……」 「朝の5時に叩き起こされて、負けたら使いに行けって……。約束あるからダメだって言ったんだけど、そんなの聞く親父じゃないし……売り言葉に買い言葉で、直ぐに乗ったオレも悪かったけど……」 「じゃ、親父さんの使いで、キャンセルして……」 「用事済ませて帰って来たとこで、竜崎に会ったってだけです」 「……」 かああああっと。 思い切り真っ赤になってそのまま、布団に倒れ込んだ英二に、リョーマは慌てたように駆け寄った。 「エージ……?」 「ああ、もう! 何だよ、無茶苦茶恥ずかしいじゃん、オレってば……!!」 「あ、熱上がってる。だから、話すの風邪が治ってからの方が良いと思ったのに……」 リョーマの手が、自分の額に押し付けられる。 それが、なんだか心地よくて、英二は目を閉じた。 「エージ?」 「……オレが誤解してるだけで、きっと何か理由があったんだって思ってた……。でも、朝、あの子と、おチビが一緒に居るの見たら、キレちゃった……ごめんね」 「……そんなのもういいっすよ。だから、もう寝て下さい」 「うん。安心して眠れる。おチビ……」 「なんすか?」 「好きだからね」 「……判ってますよ……エージ先輩」 そっと右手を出すと、リョーマはそれに気付いて、手を握ってくれた。 「おやすみなさい、エージ先輩」 「おやすみ、おチビちゃん」 リョーマの言葉に、同じ言葉で返して。 英二は目を閉じて、眠りの中へと入って行った。 |
■ここで終わっても良いですよね?(汗) なーんか、英リョって書いても書いても、終わらないと言うか。 延々と続きとそう言うとか……。 今、ちょっと右手首だれてます。 なのでこの辺で(^^;) 何か気になったら付け足すかも。 ではでは、ご拝読ありがとうございました〜Vvv でもさ。 これ、ホントに英リョ? リョ英の間違いじゃない?(滝汗)な気分です(^^;) |