終章 |
「おはよう」 ニコニコと満面に笑みを浮かべて、声をかけて来た不二に、リョーマはキョトンとし、英二は怪訝に眉を顰めた。 「やだなー、そんな嫌そうな表情しないでよ、英二」 「だーって……お前、何したか、憶えてる?」 「憶えてるよ。……謝って済むことじゃないけど……ごめん」 正面から頭を下げられて、英二がさらに怪訝そうにリョーマを見返った。 「裏切られたのはエージだし。エージがどうしたいか決めれば?」 どうせ、答えは判ってると言う感じに、リョーマが言ってさっさと上履きに履き替える。 「んー」 「最初から判ってたら困ることもないんじゃない?」 「は?」 「この人は、土壇場で裏切るかも知れないってね」 「辛辣だなー、リョーマくん」 リョーマに問い返そうとしていた英二も、リョーマ自身も。 ピタリと動きを止めて、ゆっくりと不二を見返った。 「今、何てった?」 「リョーマくん?」 「何で、不二がリョーマくんなんて、馴れ馴れしく呼ぶんだよ!!?」 「嫌だな。英二。君も越前、リョーマくんも越前。区別つかないじゃない」 「ウソ付けーーーーっ!! 俺のこと、苗字で呼んだこと、3年以上ないじゃないかーーーーーっ!!!」 「そこはそれ、僕の親愛の気持ちの表れってことで」 「何それ? 掌返したみたいに!!」 英二の全く持って正当な抗議に、不二はキョトンとした後、破顔して。 「やだな、英二。掌返したんだよ?」 「はあああ?」 「リョーマくんの英二を想う気持ちに感服したんだよ」 こっそり、心の中で(君がリョーマくんを想う気持ちにもね)と呟いた。 あの時。 英二はリョーマの翼の存在を知らなかったのだ。 それなのに。 その身をリョーマに任せて、一緒に落ちた。 どう足掻いても、覆せそうにない。 二人の絆を見せ付けられた。 そうして。 彼が――リョーマが、【守る】と言った以上。 何が何でもそれを実行するのだろう。 それが出来ると。 判ってしまった。 何より。 蒼い翼をその背に空を舞うリョーマの姿は幻想的に美麗で、不二の心を捉えてしまった。 (この僕がね……。ホント、参るよ……リョーマくん) 「何それ?」 照れたような呆れたような口調で問い返す。 「それとも……。もう、僕と、友達続けるのは嫌?」 消沈したような声で問われて、さすがに英二も困ったような声を発した。 「……え?」 「もう、話もしたくないって程に嫌われたんなら、諦めるよ」 「……それは、俺だって色々考えたけど……」 「不二先輩は英二が好きだから、英二のことしか考えてなかった……っすよね?」 不意にリョーマが口を挟んで来て、英二が驚きの声を上げる。 「……えええ?」 「さすが、リョーマくん。よく判ってるね」 「不本意だけど……。――どうせ、判ってないのはエージだけでしょ?」 「……って何で? だって、不二は……」 戸惑う英二に、不二は苦笑を浮かべたまま、呟くように言った。 「僕は……君にとってのリョーマくんの位置に立ちたかったんだよ」 「俺の弟になりたかったの?」 素っ頓狂な英二の言葉に、不二もリョーマもキョトンとした後。 不二は盛大に笑い出し、リョーマは呆れたように肩を竦めた。 「まあ、そう言うことにしとこうかな?」 「何だよ? それ……」 不意に不二がリョーマの方に近付き、にこりと笑ってその頬に手を添えた。 「不二先輩?」 「これから、よろしくね、リョーマくん」 そう言って軽く頬にキスをする。 「ああああああっ!!!! 何やってんだよ? 不二ーーーーーーーっ!!」 英二の悲愴感漂う絶叫が響き渡り、不二に詰め寄る英二と、それを宥めている不二に。 リョーマは肩を竦めた。 「まだまだだね」 小さく呟き。 ふと。 穏やかな優しい風を二人に向ける。 「あ」 「へえ」 「俺は先に行くよ。じゃあね、エージ。不二先輩」 「待ってよ、リョーマ!」 「友達……やめたくはないんでしょ? 不二先輩が暴走したら、止められそうなのエージだけじゃん。好きにすれば?」 「でも……」 「……別に、それで俺がエージの傍を離れたりしないよ?」 「……え?」 「裏切られる可能性を想定して対応してれば、大丈夫だよ。ああ言う人は……」 「そうなの?」 「裏切る時は、さっきと同じ。ニッコリ笑って裏切るから……」 そう言って、言葉を切り。 少し考えるように首を傾げ、リョーマは英二を見上げつつ言った。 「でも……エージのことは、二度と裏切らない気がする」 「……え?」 言うなりリョーマは駆け出していた。 「俺はエージの友達は認めるよ。エージが信じた人は、俺も信じる」 「リョーマ?」 「だって、エージ楽しそうだからね」 リョーマはそう言って、自分の教室のある階に向かって走って行った。 「……ってことだけど」 不二が、リョーマの言葉を引き継ぐように、英二に問い掛ける。 「もう、しない?」 「しないよ」 「リョーマのこと……」 「君が危険に遭いそうな気がするのは今も変わらない。でも、よく考えたら……」 「え?」 「君、誰よりも強かったよね? あの日本刀……一応、無銘とは言え、数百万はするんだけど……」 「あ、あああああっ!」 いやだけど、あれは、不可抗力の正当防衛だ! 弁償要求される理由はない〜! と英二は頭を抱えてしまった。 そんな英二を見つめながら。 「まさか、それを蹴りと拳で叩き折られるとは思ってなかったよ」 わざとらしく溜息をつき。 不二はニッコリと笑って見せて。 「そん所そこらの奴に、君は負けたりしない。それを忘れてた僕も……どうかしてるね」 まあ、普段があんまり間抜けなんでスッカリ忘れてたんだけどさ、と憎まれ口を叩きながら不二も歩き出す。 弁償云々の話ではないのかと気付き、英二はどうしたもんかと不二の背を見つめた。 そうして、大きく息をつき、その背に向かって声をかけた。 そうだね。 リョーマの言う通りだよ。 失わずに済むのなら、失いたくはないよ。 「不二!」 「……っ」 「一度だけだ。もう一度同じことしたら、その時は……」 「判ってるよ。英二」 不二の言葉に。 真剣な表情を浮かべていた英二も、再び、深く溜息をつくことでそれを解消し。 その隣へと。 親友の場所に……英二は、もう一度、足を踏み出していた。 <了> |
☆あとがき☆ |
どうも、作者の(?)保志陽都です。って今更言うこともないか?(笑) 如何でしたでしょうか? 本当にテニスそのものとは全く関係ない話ですね(^^ゞ 連載とか続き物にするほどの長さではなかったのですが、無理に6話と言う形にしてしまいました(笑)本当に連載の形を取るなら、もっと引きがいいところとあったんですけどね〜(遠い目) この話は、まだまだ続く予定です。 予定ですが、読みたいって人いるんでしょうか?(ドキドキ) なんかラストは、36、不二リョ、菊リョ混同な感じですね(笑) まあ、36に関しては純粋に友情でしかないのですが……(滝汗) 不二は別に好きな人がいます。 だから英二は驚くんですがね、リョーマの言葉に。 でも、恋愛だけが至上の感情ではないので。 あながち「弟になりたかった」と言うのは間違いではないでしょう。 強いて言えば「兄」でしょうけど。 不二の好きな人……次に出て来るかな〜ねえ、生徒会長?(笑) 要するに、この物語は菊リョに塚不二な感じになると思いたいけど、部長……じゃなくて会長、動いてくれますか?(泣き泣き) 英二がやたらカッコ良かったような気がするんですがどうでしょうか? 日頃のヘタレさ加減はどこ行ったって感じですが、本家【狂想曲】辺りでも、高3にもなればこんな感じになってるんでしょうかね?(笑) リョーマの価値基準は全て、英二によるものなので、不二に対しても、英二が良いなら別に良いやって感じです。 リョーマ自身は、不二と対極に位置する存在ですから、言うなれば敵でもあった訳で、彼が自分を傷付けようと考えても、別にショックなことではないのです。 ただ、英二を傷付けたことは相当ムカツイテたんで、ああ言う英二に選択させると言う手段に出た訳です。 英二がリョーマを選んだのは無意識ですね。 信じてくれた。そのことが嬉しかったんです。 そう言えば英二って、二の腕と手の甲、怪我してたんだよな……(滝汗) 風を操るリョーマに、翼があるなんて……どこまでも手前勝手な設定な上に、英二は空手や拳法、不二は剣道と居合の達人にしてしまいました。(さて、これが遊戯王の方で書いた【闇のエンジェリアス】に関係があるのか(ねえよ)リョーマさんは【風のエンジェリアス】なのか。謎ですね(笑)) 次は手塚と桃、それに、リョーマさんを狙う組織も出て来るかも……。 いつもいつも構成が甘くて、読み辛いかも知れませんが、これからもどうぞよろしく! 英二とリョーマさんが恋愛感情を持つに至る過程も……どうぞ、請うご期待!(ってほどのことはないよな〜?・笑) ではでは、ココまで読んで下さってありがとうございました!! |