第1話

 英二のバイクの後部席に座って、目的の場所に到着し、そこからさらに、トレースを開始した。
 克也のかけたゴーグルに、至る所にある感知センサーが、侵入者の痕跡を告げて来る。

「このまま、東に向かってるな」
「了解〜」
 器用にバイクの向きを替え、英二はバイクを発進させた。
 暫く走って、前方にそれらしい『もの』を見つけると、克也はバイクを止めるように言って、近くのビルに駆け込んだ。
 英二もその後について行き、ビルの屋上まで一気に駆け上がった。
「遊戯?」
「え?」
 克也が、ゴーグルをつけたまま、その方向を見つめて呟くように言った。
 彼が呼んだのは、英二自身はあったことはないが、『Radius』のリーダーのことである。
「え? あれ、遊戯さんが追われてるの?」
「んなバカな! 遊戯が一人で早々、領域を出る訳がねえ!」
 だが、遠目に見える前方を逃げる少年は、どこまでも遊戯に似ている。
「方向を変えようと思ってないな。多分……道が判ってないんだ」
「遊戯さんなら、もっと確実に逃げるよな?」
「ああ。あれは……遊戯じゃねえと思う……」
 克也はそう言って、少年が逃げている方向を見定めて、先回りをするために駆け出した。
 ビルとビルの間は、せいぜい2、3メートルで、この『Millennium・Palace』では、外界よりも身を軽く感じる。
 そのため、ビルからビルに飛び移りながら、走ることも苦にはならない。

「克っちゃん!」
 英二の声に視線を向けると、少年が、挟撃されて立ち止まっていた。
 ちょうど、少年が背をついたビルの屋上で立ち止まっていた克也と英二は、互いに顔を見合わせて、英二はすっと、ビルから飛び下りた。
 克也は腰のホルスターから拳銃を取り出して、引き金部分に、指を引っかけ、軽く回した。

 少年が、首にかけてあった何かを守るように腕を上げて、ふらついた。
 そのまま、壁に背中が付いたのを見た瞬間、克也は銃口を少しずらして、引き金を引いた。

 その弾丸が地面を穿った瞬間。
 少年を襲おうとしていた連中はハッとして、こちらを見た。

「これ以上、オレの領域を荒らすんじゃねえ」

 そう、告げると、相手はびびった様子で、少し後退った。
 地面を踏みしめる足音に、そちらに視線を向けた連中は、さらに、驚きに目を見開いた。
 自分の名前と、英二の名前を口にして、さらに後退る。

(ったく、オレのこと知ってんなら、ここで悪さすんな、目障りだ)

 そうして、捨て台詞もないままに、逃げ出して行く連中を見送って、克也は拳銃をホルスターに戻した。
 ふと、倒れた少年に向かって英二が駆け寄っている。
「大丈夫か?」
「……さ、……んなっ!」
 英二の手を跳ねつける少年に、克也は短く嘆息した。
 ふわっと、その背後に飛び下りて、右手を一閃させて、その首に手刀を振り下ろす。

「これ以上、人の手を焼かせんな」
 一瞬、こちらを垣間見た……。
 少年の赤紫の瞳が……。

 克也の胸に、酷く印象的に残った。


「ねえ、克っちゃん」
「何だよ?」
 英二の声に、ハッとしつつ、問い返すと、英二が心底から驚いたように自分を見上げていた。
「これってさ……」
 少年が首に下げていた……それは、黄金色の四角錘……。
 正面に眼の紋様が施されたそれは、先ず間違いない。

「Millennium……Item?」
 このMillennium・Palaceに伝わる、7つのアイテムの一つだった。








     ☆    ☆    ☆


「で? また拾って来た訳だ?」
「……うるせえな。でも、これだけ外見が遊戯に似てるんだぜ? それに、Millennium・Itemを持ってるんだ。放り出す訳にはいかねえだろう?」

 克也たちの今、いる場所は、『Flame』の統括するB、C、D、Eブロックの中の、Cブロックにあった。
 そのほぼ中央にある、ごく普通の3階建ての建物が、『Flame』幹部の居住区なのである。

 『Flame』全てを統轄しているのは、克也だが、さらに細かく分類すれば、不二周助が統轄している『Genius』、菊丸英二が統轄する『Zephyr』、それに今は不在だが、孔雀舞が統轄する『Luna』の3つのグループが存在している。
 各グループは、この家を中心にして、それぞれの居住区を作り上げて、それぞれ生活をしていた。



 ――呆れ返ったような不二周助の言葉に、克也は少しだけ困ったように、頭を掻きながら言った。
 眠り続ける少年を前にして、周助は諦めにも似た溜息を漏らし、
「でも、似てるからこそ、気をつけないと。彼は、『Radius』側のスパイだと、勘ぐられるかも知れないよ?」
「遊戯の顔を知っている者には、それとなく伝えてくれ。コイツは『外界』から来た……普通のガキだってな」
「そうだね。一応、彼がゲートを潜った証拠もあるし……」
 周助はそう言って、肩を竦めて見せた。



 ここは、一度中に入ると、外に出ることがかなり難しい。
 銃火器や、このMillennium・Palace自体に、悪意、敵意を持って訪れれば、頑として受け付けないゲートも、それ以外の感情であれば、あっさり受け入れてしまうのだ。
 そうなった場合。
 一度、入ると外に出るためには、『Flame』、『Radius』どちらかの、リーダーの承認が必要になる。
 Millennium・Palaceの秘密(それほど大したことが、ごく一般の人間に漏れることはないが)を外部に漏らさないための処置だった。

 だが、リーダーに会うためには、数々の条件が必要になる。
 比較的、『Flame』はその辺りが簡単だったりもするが、人数の多い『Radius』では厳重な検問が用意されているらしい。

 一度、入ったこの少年を、放り出すことは、克也には容易いことだった。
 だが、少年の容姿と持っている『Millennium・Item』が気になった。

「でも、これで4つ目になるのかな? Millennium・Itemが見つかったのって」
 英二の言葉に、周助が頷く。
「そうだね。殆どがRadius所有だけど……」
「遊戯の持ってるミレニアム・タウク……それに、海馬の持ってるミレニアム・ロッド。後、獏良終の持ってるミレニアム・リング。で、コイツの持ってる……」
「ミレニアム・パズルだね」
「……パズル? 何でこれがパズルなんだ?」
 周助の言葉を聞きとがめるように、克也は問い掛けた。
 どっからどう見ても、四角錘であって、パズルという言葉が似合わない。
「さあ? 僕が見つけたMillennium・Itemについての伝承では、四角錘の形の物を『ミレニアム・パズル』と呼ぶって書いてあったからね」
「でもさあ、7つ集めたら、何が起こるのかな?」
 殊更、のんびりと英二が問い掛けた。
 周助と克也は顔を見合わせて、英二に視線を向けると、
「それは、謎だよ。誰も、揃えたことないんだから」
「……それより、そろそろ夕飯じゃねえか? 今日の当番、お前だろう?」
「あ、そうだった!」
 慌てて立ち上がる英二に、苦笑を浮かべると、ドアがノックされて、一人の少年が顔を出した。
「エージ、ここにいたんだ」
「おチビ〜Vvv」
「……ウザいから抱きつかないで」
 抱きつく寸前で、びしっと告げられた言葉に、英二がその場に撃沈される。
「でも、オレのこと捜してたんだろう?」
「だって、お腹空いたから。今日の当番、エージじゃん」
 結局のところ、空腹だったから、食事当番のあんたを探してただけと暗に告げる少年に、英二はさらに、気落ちを顕わにして、いじけた調子で戸口に向かった。
「どうせ、オレは飯炊きでしか思い出して貰えないし……」
 ブツブツと文句を言う英二に、克也が苦笑を浮かべてリョーマの頭を撫でながら言った。
「少し、手加減しろよ、リョーマ。アイツが落ち込むとそれこそ、ウザいから」
「……それもそうだね」
 そう言って、ちょっと笑みを浮かべながら、英二の後について出ようとして、ふと、ベッドに眠る少年に目を向けた。
「……新入り?」
「になると良いなってとこか?」
「……ふーん。でも、珍しくない? 新入りがここにいるの」
「ま、色々事情があってな」
 言葉を濁す克也に、訝しげな視線を向けつつ、リョーマはそれ以上は何も聞かずに、部屋を後にした。
 と思ったら、直ぐに顔を覗かせて、
「その人のご飯、オレが持って来ていい?」
「! ああ、良いぜ」

 そこに気が付いてなかった克也は、思わず周助と顔を見合わせて苦笑し合い、リョーマに向かって了承の言葉を告げると、リョーマは嬉しそうに頷いてドアを閉めた。

「心が荒んでるよなー」
「お互いにね」
 自分たちが少年の『Millennium・Item』にしか興味を示してなかった事実に、二人して呆れるしかない。

「それはそうと、どうするの? 遊戯くんに連絡する?」
「……ああ、そうだなー」

 克也は眠り続ける少年を見つめたまま、言葉を濁した。
 煮え切らない克也の態度も珍しいと思いつつ、周助は、付け足すように言った。
「ま、別に急ぐことでもないから、好きにすれば良いさ」
「……ああ」
 周助の言葉に、少しだけホッとしたように答えて、克也は椅子から立ち上がった。
「とりあえず、飯までオレは部屋にいるから。あ、さっきのこと、頼んだぜ?」
「ああ、判ったよ。あ、そろそろ買い出しに行ってた舞さんたち帰って来るんじゃない?」
「ああ、だな。ま、放っといても大丈夫だろ?」
 面倒くさそうに言って、克也は部屋を出ようとした。
 ふと、ベッドに眠る少年と、ベッドサイドに引っかけられた『ミレニアム・パズル』に目をやる。

「外界から来た奴が……『Millennium・Item』と持ってるってことは……残りのアイテムも外界にある、可能性があるんだな」
「ああ、そうだね」
「でも、まあ、実際7つを集めようって気はオレにはねえんだけどな」
「ふーん? それにしては、これにはご執心じゃない?」
「ああ、まあ、一個ぐらいこっちが持ってても良いんじゃねえってだけだ」
 克也の言葉に、周助は思わず吹き出した。
「まあ、そんなとこだとは思ったけど」
 そうして、ふっと少年に視線を向けて、
「でも、彼が遊戯くんの身内なら、Radiusに行くことになる可能性もあるんだよね」
「……そうだな」
 ふっと胸に感じた感覚を、疑問に思いつつ、克也は部屋を後にした。






 この3階は自分だけが使っている私的空間で、周助たちは二階に居を構えている。
 とは言え、克也自身が気を許した人間は、誰でも出入り自由で、克也の部屋の前の、二つ分の部屋の壁を刳りぬいた広い部屋では、子供たちの楽しそうな声が聞こえて来る。
 迷い込んで来た子供や、捨てられた子供たちを引き取ってはいるものの、『ここは、保育園じゃねえんだぞ』と、克也は良く口に出して零していた。


 もっとも、家に帰る意志のある者や、明らかにワガママで家を出たと思う家出少年は、さっさと外界に放り出しているのだが……。

 ――克也は少しだけ優しげに目を細め、その光景を暫し見つめて、ゆっくりと自室のドアを開けて、部屋の中へと足を踏み入れた。



<続く>


   







なんと言うか……アットホームですね(滝汗)
うわああん(><)所詮私には、黒城之内も黒英二も書けないんだ!!(イジイジ)
普段の克也や英二となんら変わらない気がするんですが、どうですか?(滝汗)
あ、でも不二の出番が多いね。これは今までにないパターンだ(笑)やっぱり、立場かなー。今回、不二は克也の参謀ですからね。傍にいるよな(笑) でね、遊裏はね伴侶なの!(笑)←夢見過ぎ;;;

ああ、しかし、どうしよう……。
やっぱり黒と言うからには……遊裏を引き止めるためには……今、私が考えてる展開は、今までにないものであることは確か。って言うか、ここじゃ書けないだろ? それ……(滝汗)
や、まあ逐一書くのは、無理だけどね。でも、それらしく匂わせることは可能……だけど……。今までの城闇観がーーーーーーー(滝汗) 基本的にそんな城之内って城之内じゃないし!!!!(←克也じゃなくなってるし;;)

優しさで引き止めるなら今までの克也と何も変わらんし、悪っぽいって言うならそっち方向で挑戦ってのも……いや、その前にそうだ! 克也が自分の気持ちに気付けば良いんだよ!
あああ、でも無理強いはイヤ!(←あんたが嫌がってもってか、ばらしてどうする?・滝汗)

こう言う……展開に必要な場合は、私は書くんですけど……でも、事細かな描写はしませんので(滝汗) したら、こっちにUP出来ないよ(苦笑)

あ、でもここで言ってる通りになるって訳じゃないんで。
また違う展開が浮かぶかもだし……。悪しからず……;;;;