Millennium・Palace
『Next Stage』 第2話

「遊裏、いる?」

 ノックの音と声が聞こえた。
 どれくらいそうしていたのか。
 遊裏は、椅子に腰掛けたまま、ただただ、ボーッとしていただけで、我に返ってみれば、既に朝の空気も喧騒に包まれている。

「朝ごはん出来たって? 食べない?」
 リョーマの声だと気付いて、遊裏は立ち上がった。
「もう、そんな時間だったのか? 気付かなかった」
「? 何してたの?」
「ボーッとしてた」
 苦笑しながら、リョーマの問いに答えて、遊裏は朝食を食べると続けた。

「料理は当番制なのか?」
「そう。一番美味しいのは、克也の料理。エージも美味しいけどね」
「それは、僕の美味しくないってことかな? リョーマくん」
 不意に背後から聞こえた声に、リョーマはビクッと肩を揺らした。
「周助! ビックリした。周助のも美味しいよ」
「ふーん?」
 クスクスと笑いながら言う周助に、リョーマはからかわれたことに気がついた。
「でも、周助の料理、辛味が強いから……麻婆豆腐とかカレーとか元から辛いのはもっと辛くなるじゃん」
「……そうかな?」
「周助の味覚、変なんだよ?」
 これは、遊裏への言葉だった。
 だが、なんと答えれば良いのか困ってしまって、遊裏は苦笑を浮かべることしか出来なかった。

 食堂では既に英二が椅子に腰掛けていた。
 だが、他に人は居ない。



「昨日の子供たちは?」
「ああ、朝はそれぞれの居住区で食べてるよ。それから、ここに来るんだ」
「遅せえ!」
 不意に割り込んだ声に、ハッとして、視線を向けると、ウェストにエプロンを巻き付けた、克也が手にお玉を持って仏頂面で居た。
「……折角の料理が冷めちまうだろうが」
「ごめんごめん。でも、今出来たばかりだろう?」
「……そうだけど」
 周助の言葉に小さく同意の言葉を述べ、不意に時計を見上げた。

「っと。もうこんな時間か」
「……今日はどこに行く気なのかな?」
「何か知らねえが、舞が話があるって言ってるから、そっちに行って来る」
「ってことは、Bブロックだね」
「ああ。何か、盗難が増えてるって言ってった。舞のトラップ掻い潜って盗みを働く賊ってのにも興味あるがな」
「……それは言える。でも……ミドル・エリアの連中に、そんな度胸があるとも思えないけどね」
 周助の言葉に、克也は少し考えるように眉根を寄せた。
「まあ、今日はお前らもそれぞれのブロックに行って様子を見て来てくれ」
「ああ、判った」
「英二も、判ったか?」
「OKOK! 了解だよん♪」
 既に、朝食を食べていた英二がそう答える。
 とたんに、リョーマがムッとして、英二の隣に腰掛けた。
「何で、エージ先に食べてるの!?」
「あああ、だって腹減ってんだよ……待ちきれなくてさあ……」
「ほんの数分のことじゃん!」
 遊裏を呼びに行って戻って来るまで、ほんの5分も掛かっていない。
 待てないのは愛がないからだと、続けるリョーマに、英二が慌てた。
「ごめん! それもこれも克っちゃんの料理が旨いのが悪いんだよ!!」
「どう言う意味だ、そりゃ?」
 突っ込む克也はエプロンを外しながら、こちらに来ていた。
「んじゃ、オレは出掛けるから。後はよろしく」

 そうして、食事を済ませた英二と周助も、それぞれの居住区のあるAブロックとDブッロクに向かうために出掛けて行った。

「あれ? リョーマは行かなかったのか?」
「……うん。エージは一緒に行こうって言ったんだけど。でも、克也が遊裏も一人じゃ退屈だろうって……」
「……それは、まあ確かに」
「これから、洗濯とかするんだけど、手伝ってくれる?」
「……ああ、良いぜ」
 リョーマと二人で洗濯物を干して、掃除をしながら、遊裏は何だか頭を抱えたくなった。
「……ここって……無法地帯じゃなかったっけ?」

 何で、こんな穏やかな空気に包まれているんだろう?
 今朝の早朝のようなことも、外界では良くあることだし(普通は滅多にありません;;)、あまり外で聞いた話とは違う気がする。
「どうかした?」
「……え? ああ……想像と随分違うから……」
「想像?」
「……外ではここは、それこそ地獄のような場所だと聞いていた」
「そうだよ」
「え? でも……」
「ここは特別……。克也がいるから、ここはこうなんだ」
「……」
 まさか、克也一人の力で、ここだけとは言え、こんなに穏やかな空気を醸し出す場所になるのだろうか?
 まだ――

 遊裏には克也の真価は判っていなかった。



  ☆   ☆   ☆

「あ、克也からメール……」
 パソコンを弄っていたリョーマがそう言って、遊裏を見返って来た。
「え?」
「遊裏にって……克也から」
「……?」
 頭に疑問符を浮かべながら、遊裏はリョーマの横に立って、パソコンを覗き込んだ。
「……あけても良いか?」
 リョーマのパソコンだから、一応、了解を取り、マウスを動かしてクリックする。
 開いたメールの文面には、

【遊裏へ
遊戯と話がついた。
午後2時に、【Cブロック・first・gateまで来てくれ】


「午後2時?」
 時計を見ると、1時半を過ぎた所である。
「このCブロック・first・gateに行くのに、どれくらいの時間がかかる?」
「……駄目」
「は?」
「first・gateは駄目。あそこは……」
「でも、克也くんの指定だし、もう30分もないんだが……」

 葛藤しているらしいリョーマに、遊裏もいつになく焦りを覚えた。


 ――遊戯と話がついた。

 その上で自分に出て来いって言うことは、遊戯に会えると言うことだ。
 心臓が……激しく脈打つ。
 どことなく緊張している自分に苦笑して、遊裏はもう一度リョーマに問い掛けた。
「……昨日の地図をもう一度見せてくれ。場所を確認したい」
 一応、頭には入っている。
 自分が昨日、行くべきか悩んだ……その方向より、少し南の方に、もう一つドアがあった。
 ここからより近いのは、【second・gate】だったために、遊裏はそちらを考えから外していたのだ。
 だから正確な位置が判らない。

 リョーマは、困ったような表情を浮かべて、
「行かない方が良いよ」
「……どうしてだ?」
「だって、克也がこんなこと言って来るなんて変だよ」
「……リョーマ?」
「……first・gateは、ミドルエリア直通なんだ。だから、いつも鍵が掛かっている。電子キーだから、ハンディパソコンがあれば、ちょっと頭の良い奴は開けられるけど、あそこに行っても意味がないよ」
「……でも、何か都合が悪かったんじゃないか? second・gateの方が使えないとか、そっちで会うのが拙いとか……」
 リョーマは頑なに首を振った。
 だが、時間が刻々と過ぎるほどに、遊裏は焦りが強くなって行く。

「……判った。じゃあ、オレが勝手に行くから……リョーマは何も知らなかったことにしろ」
「え?」
「もし……これが克也くんからじゃなくて、帰って来た克也くんが知らないって何故一人で行かせた? って君を責めたら……オレが勝手に出て行ったんだって言えば良い」
「で、でもっ!」
「……時間がないんだ。本当に遊戯と会えるのに、行かなかったら、遊戯を傷付けることになる。だから、オレは行く」
 冷静に考えれば、克也に確認のメールを送るなり、電話をするなり、思いついたのだろうが……。
 遊裏は、焦りが強過ぎて、冷静では居られなかった。
 そして、その性格のせいなのか、それが表面に出ない。
 ――冷静で居るように見えるのだ。


 そう言って、遊裏は踵を返し、リョーマの部屋を出た。

 家の前にある50ccの原付に手を伸ばし、キーがないことに暫し考え、何をしたのか、原付のエンジンが掛かった。

 その音に、リョーマが窓から顔を出す。

「遊裏!」
「……行って来る。……大丈夫だ。克也くんは君を責めたりしないから」
 軽く笑って、遊裏はアクセルを回して、走り出した。



 ☆  ☆  ☆

「……遊裏」
 心配そうにそれを見送り、ハッとして、リョーマはその後に続くように、走り出した3台のバイクに気がついた。
 そこで、やっと克也に確認のメールを出すことに思い至った。
 慌てる気持ちを何とか宥めて、克也がいるであろう、Bブロックの【LUNA】のリーダー、孔雀舞宛にメールを送る。
 書きながら電話を思いついたが、口では旨く説明出来ないと踏んで、メールを書き上げ送信した。

 気になった。
 朝はあんなことがあったばかりだ。
 遊裏が遊戯に会いに来たことは、通達されていて誰でも知っている。
 それに、克也が話をつけることになるのも。
 ふと、思いついて、克也からのメールの送信元を見てみた。
 知らないメールアドレス。
 だが、そのアドレスに使われているドメインに見覚えがある。
「フリーメール……何でもっと早く気が付かなかったんだ!」
 パソコンを持っている者は、殆どがアドレスを持っている。
 フリーメールを独自に持っている者もいるだろうが、それを仲間内で使うことは先ずない……。

 怪しいもいいところだ。

 少しして。
 舞のアドレスで、メールが届いた。

【城之内なら、さっき帰ったけど。でも、メールなんて送ったりしてない筈よ】
 その文章に、リョーマは居ても立っても居られず、立ち上がって部屋を飛び出した。

「っと……おチビ?」
 家の玄関で、入ろうとした英二とぶつかりそうになって、リョーマは今にも泣きそうな目を英二に向けた。
「どうしよう!! エージ! 遊裏が……!!」
「……は?」

 事情が全く判らない英二は、キョトンと問い掛けて、慌てているリョーマの背中を優しく擦ってやった。
「少し、落ち着けって……遊裏がどうした?」
「…………呼び、出された」
「呼び出し?」
「……克也が、遊戯に話しついたって……」
「……え? それじゃ……」
「でも! 克也じゃないっ!」
「………どう言うこと?」
 眉根を顰めて、英二はリョーマを伴って、リョーマの部屋に戻った。
 メールを見て、時計に目を向ける。
 表の原付がなくなっていたから、それに乗って行ったんだろうと推察して、腕を組んだ。
「……それで、遊裏の後に……3人……付いて行くのが見えた……。もしかしたら……あいつらが遊裏を呼び出したのかも……。それで、【first・gate】を開けたら!」
「……ミドルエリアに放り込むって訳か……」
 頼みの綱は簡単にドアが開かないことを祈ることだが、あのドアは周助や克也なら正規のキーがなくても、開けることが出来る。

「とにかく、克っちゃんに連絡しないと。バイクで走ってるときに、通信入れると怒るんだよな……」
 言いながら、英二はリョーマの部屋を出て、克也の部屋の前にある――昨夜、子供たちが遊んでいた――部屋に向かった。
 通信機の前に座り、克也の持っているインカムに周波数を合わせる。

 少しの雑音の後。
 くぐもった声が聞こえて来た。

『なんだ?』
「あ、克っちゃん?」
『英二? また、くだんねえことで通信してんじゃねえだろうな?』
「……どう言う意味だよ? ってそんなことはともかく! 遊裏が呼び出された」
 脱線しそうになる話を、軌道修正するために、英二は要点だけを伝えた。
『はあ? 誰に?』
「克っちゃん」
『……は?』
「だから、克っちゃんからメールが来て、遊戯と話がついたって、呼び出されたんだって!」
『……マジか?』
「そう。オレ、これから【first・gate】に向かうけど、克っちゃんは……」
『ファースト? Cブロックのか?』
「だよ」
『判った。先に行ってくれ……オレもこのまま、向かう』
「了解〜」

 通信を切って、英二は踵を返した。
 自分の部屋に向かって、インカムを取り出し、耳につけると、スイッチを入れた。
「克っちゃん、聞こえる?」
『おう!』
「んじゃ、これから出るから」
『ああ、頼んだぜ! オレも直ぐに行く!』
「うん」
 そうして、スイッチは切らずに、部屋を飛び出し、玄関に向かった。
「リョーマ……」
「……オレも……一緒に行きたいけど……」
「……」
「邪魔になるよね? だから……だから、遊裏……無事に……」
「判ってる。大丈夫だよ、リョーマ」

 そう言って、英二はリョーマの身体を抱き締めた。
「大丈夫。遊裏は無事に連れて帰って来るから」
「…………うん」
 遊裏を止められなかったことに対する罪悪感。
 それをリョーマは強く感じていた。
 しかも、それを拭うために、自分で出て行くことが出来ない。
 闘う術を知らないから……。
 だから……。
 だから……嫌なんだとつくづく思う。
 闘う方法を知っていれば、遊裏を一人で行かせなかった。
 自分も付いて行って、遊裏の力になれたのに……。

 自分の力量が、はるかに劣っていると判ってしまっていると、一緒に行くとは言えないのだ。
 自分の存在が足枷になる……。
 それが、容易に想像出来るから……。


 だから……見送ることしか出来なかった。
 止めれば良かったと。
 何が何でも拘束してでも、止めるべきだったと、激しく後悔に苛まれる。

「……大丈夫だ。必ず遊裏は連れ戻してくる。お前にそんな表情をさせた奴を……野放しにはしない」
 低い声で英二が告げた。
 その言葉にハッとして、リョーマは少しだけ身体を離して、英二の頬に口付ける。
「……行ってらっしゃい……」
 小さな声と、暖かなキスに送られて、英二は自分のバイクに跨った。



    ☆    ☆   ☆


(……付いて来てる……)
 遊裏は原付を走らせながら、これよりもはるかにスピードのありそうな、バイク3台に気付いて首を傾げていた。
 スピードを出そうと思えば、80キロくらいは出せる。(もちろん、外界ではスピード違反も良い所だ)
 頭の中で【Millennium・Palace】内の地図を思い描く。
 first・gateの場所は判らないが、second・gateの場所は覚えている。
 そこから、南に向かえば……first・gateに行けるはずだ。
 少し遅れてしまうだろうが、ここは仕方ない。


 今、遊裏が走っている場所は、外界であれば二車線の道路になっていると思われる道だった。
 往来は殆どなく、後をついて来るバイクなど、筒抜けで判ってしまう。
 と、一台が道を逸れた。
 裏通りに当たる道を、相手は知っているのだろう。
(……ただ、後をつけている訳じゃないのか? オレがどこに向かっているのか知っている?)

 相手の行動に遊裏は首を傾げた。
 この呼び出しを知って居るのは、自分とリョーマ。
 そして、メールを送ってきた克也だけのはずである。
 リョーマが誰かに言うとしたら、それは英二か周助であるはずで――もちろん、二人ともに言う可能性もある――それ以外の者に、安易に話すとは考えられない。

(……どうやら……)

 嵌められたことに気付いて苦笑する。

 リョーマの言ったことは正しかった訳だ。
 さすがに付き合いが長いだけのことはあるか?

 そう考え……どうするか思案する。

 ――誰かの罠であることを自覚していれば対処の方法もあるだろうと、遊裏は結局、最初の目的通り【first・gate】を目指すことにした。



 second・gateの前を、通過して、南に方角を変える。
 後ろの二台は、そのまま自分の後を走っている。

(随分、あからさまだな。隠す気はないと言うことか)
 つけていることに対して、あまりに堂々としている相手に、遊裏は苦笑を浮かべる。
 腕の時計に目を向けると、もう直ぐ2時になるところだった。
(……まあ、もう時間なんか関係ないか……。あの呼び出しはウソな訳だし……)
 いっそこのまま、ここで原付を停めても良いかも知れない。
 多分、その行動は相手に取って予定外のことになる筈だ。

 遊裏はそう考えて、ブレーキを握り締めた。
 原付を停めて、背後を振り返ると、二台のバイクはアクセルを回してスピードを上げたのである。

「!」
 しまったと思った瞬間には、バイクは目前に迫っていた。
 ぶつかる瞬間に、何とか原付から飛び下りて、道路に転がった。
「……っ!」
 あまりに咄嗟のことに、受身を取り損なって、身体を強かに打ちつける。
 立ち上がった時には、二台のバイクに挟まれる形になっていて、原付は弾き飛ばされてしまっていた。
「……何が目的だ?」
「……」
「克也くんの名前を騙ってオレを呼び出し、どうするつもりだ?」
「……何だ、バレてんのか」
 聞き覚えのある声だった。
 フルフェイスのヘルメットに顔が隠れてしまっているが、声は今朝方、自分に絡んで来た少年たちの一人だと判る。
「……どうやって取り入ったか知らねえけど、リーダーたちに、特別視されてるからっていい気になってんじゃねえよ」
「てめーのせいで、オレら、リーダーに目ェ付けられちまったしなー」
「外界から来たって言ってっけど、本当はRadiusのスパイじゃねえのかよ?」
 グダグダと下らないことを言ってくる相手に、遊裏は舌打ちを漏らした。
 少しだけ右足を動かすと、痛みが走る。
 さっき、バイクの突進を避けたときに、強く打ちつけたせいで、足を傷めたらしい。
 朝のようには行かないかと、自嘲を浮かべ、油断なく相手を見据えて……だが、背後からの殺気にハッとした。
 その刹那の間……。
 背後を振り向いた瞬間、前方にいたどちらかが、自分の被っていたヘルメットを振り上げて、遊裏の後頭部目掛けて振り下ろした。


(……そ……一人……た……やつがいた……か…………)

 倒れる瞬間、そのことに思い至り、自分の油断に内心、再度の舌打ちを漏らした……。




    ☆   ☆   ☆

 英二は、遊裏が通った道とは違う道筋でバイクを走らせていた。
 当然、遊裏より道を知っているためである。
 だが、思わぬアクシデントは付き物で、いきなりバイクが傾いた。
 そのまま、転びそうになるのを、ブレーキをかけて、何とか防ぎ、舌打ちをする。
「……ちっ! 何か拾ったか?」
 タイヤが見事なほどにパンクしていて、これ以上バイクで走るのは無理である。
「あんまやりたくねえんだけど……」
 呟きつつ、軽く目を閉じ、風を呼ぶ。
 どれくらいの風が吹こうと、人間の身体が浮き上がり飛ぶことはありえない。
 だが、英二は、その風を自分に纏わせて、浮き上がり……勢いをつけて飛行し始めた。

 スピードはそれなりに出るのだが、下手をすると建物に突っ込んでしまったりするので、制御にかなりの精神力を費やしてしまう。
 だから、あまりやりたくない上に、出来ないことなのだが。
【first・gate】が見えて来た所で、英二は少しだけスピードを落とした
 ゆっくりと地面に向かって下降し、足をつくと、傍の塀に飛び乗った。
 そのまま、塀の上を駆け出して、【first・gate】に近付いて行く。

「!」
 なまじ人より良い視力が、それを捉えた。
【first・gate】の扉が開く。
 その手前に、遊裏の姿が見えた。

「ヤバッ!」
 走るスピードを上げて、再度、風を纏う。

 だが、遊裏がミドルエリアに放り込まれるのが、一瞬早かった。
 このままでは、遊裏を取り戻してこちらに連れ出す時間がない。
 既に、扉を閉める体勢に入っているからだ。

「……しょうがないよな! リョーマと約束したし……!」
 呟き、さらに加速して、英二はその場にいた人間の間をすり抜けるようにして飛び込んだ。
 転がされた遊裏の傍に着地して、抱き上げる。
「え、英二さん!?」
 もう、ドアは半分程閉まっていた。
 このドアは特殊で、閉め始めると途中で止めることは出来ない。
 能力を使えば、この隙間から飛び出すことも可能だったかも知れない。
 だが、遊裏を抱えてる分だけ、スピードは落ちる。
 例え、障害物が間に挟まってもドアはエレベーターのドアのように戻りはしない。
 それは、このミドルエリアからの侵入を防ぐ意味があった。
(だが、正規のゲートを使わずに侵入する輩もいるため、完全な防御には、なってはいない)
 このシステムにしたのは他ならぬ周助だ。

「……よーっく憶えてろよ? オレは、お前らの顔、忘れねえからな」
 喉の奥から絞り出すような低い声で英二が言った。
 この人が、これほど、怒りを顕わにすることも珍しい。

 総毛立つ背中に、少年たちは何も出来ないまま、ただ無情に閉まって行く、ゲートを見つめるだけだった。


 閉ざされたゲート。
 英二は、そのドアを見つめて、溜息をついた。
 克也がここに到着するのに、まだ、20分くらいは掛かる。
 それから、このドアを開けるためには、さらに10分はかかるだろう。

 30分……。
 そんな長い時間をここで突っ立ってる訳には行かない。
 そろそろ……奴等が気付いて、ここに現れるだろう。
 のこのことやって来た獲物を狩るために……。

「……せめて遊裏が起きてればな……」
 だが、後頭部に手を当てると、少しだけ血が滲んでいた。
 身体の状態を確かめて、足も腫れていることに気が付いた。
 これでは、朝方の動きを期待するのは無理だ。
「ったく……頼りたくなんかないって思ってんのに……頼らざるを得ないのかよ……?」
 自嘲するように呟いて、遊裏の頭にハンカチを当てて、自分のシャツの裾を破いた簡易の包帯で縛り付ける。

 それでも。
 克也が来るまで、ここで持ち応えるしかない……。
 こんな状態の遊裏を連れて逃げ回るのはもっと不利だ。

「克っちゃん? 聞こえる? ねえ、克っちゃん!」
 だが、無線の応答はなかった。
「やっぱ無駄だよね」
 小さく呟き、溜息をつく。
 ……そうして、気配に気がついた――

 幾つのかの。
 ――視線。
 獲物を狙う……ケダモノと言う名の人間が、既にそこに集まっていた。

<続く>



    

一つだけ……ご忠告。
何か、思わせぶりに書いてますが、所詮私の書くもの。
決して大したことはございません;;;なので、敵にあまり期待はしないで下さいませ(^^ゞ

ミドルエリアを支配しているのは誰にしよう……?
誰も支配者がいないってのも変だよなー……。
RadiusとかFlameみたいに、統制が取れてる訳じゃなく……難しい;;
明確な支配者って訳じゃないけど、一番強いから、誰も手出し出来ないって奴……でも、克也や遊戯には勝てないんだよなー……そう言う人について行くかな? ……いやでも、自分が勝てなきゃ従うしかないか……;;


そもそもついて行くとかじゃないしな。
隙あらば倒してやろうって感じだろうし。
……難しい……やっぱり亜久津かなー……跡部は後から来て、ここで1グループ作りそうだ……(笑)
って言うか……亜久津なんて書けません(キャラが判んねえーーーー(滝汗))いっそ、オリキャラに……(T-T)
悩みどころですねー……(←最初から考えとけ;;)