Millennium・Palace
『Next Stage』 第3話

 Cブロックにある『first・gate』が見えて来た瞬間、克也は舌打ちを漏らしていた。
 どうやら、用意周到にgateを開ける準備をしていたらしい。
 既に、遊裏の姿がなく、先に来たはずの英二の姿もない。
 最悪の展開を予想しながら、インカムで繋がっているはずの英二に声をかけた。
「英二? 聞こえるか、英二!?」
 だが、返って来るのはノイズ音ばかりで、英二からの応答がない。
「ちっ!」
 さらに、バイクのアクセルを開けて、スピードを上げると、そのまま、gateの前にドリフトをかます形で停止した。

「……り、リーダー?」
「やっぱりてめえらか……」
 怒りを込めて、克也が言うと、そこにいた面子は、決まり悪げに視線を逸らした。

「……自分たちが何をしたのか、判ってんだろうな?」
「……で、でも、何で……何で、リーダーも英二さんも、あんな奴を構うんスか? 昨日今日迷い込んで来たただのガキを……! Radiusのリーダーの弟だって言うなら、とっとと向こうに送り込めば良い……なのに……」
「なあ? 何で、てめえがオレに指示をする?」
「……っ!」
「オレのやり方に不満があるなら、とっととミドルエリアでも、Radiusの領域でも行っちまえって言ってんだろう? なんなら、外界に出る認証、してやったって良いんだぜ?」
 凄味を利かせて言って来る克也に、少年たちは声もなく、俯いた。

「……クソ。ここの鍵は周助が持ってんじゃねえかよ。もう、パスもIDも組替えられてるよな」
 言いながら、克也は自分のハンディパソコンを取り出して、線を繋いだ。
「……英二はどうした? 来たんだろう? ここに……」
「……英二さんは……」
「そのまま、中に飛び込んで……もう、gateが閉まり掛けてて、どうにもならなくて……」

 しどろもどろ告げて来る言葉に、うんざりしながら、克也はキーを叩いていた。

「……武藤はどうした? 朝はコテンパンにやられたんだ。真正面からぶつかってねえんだろう?」
 見透かすような克也の言葉に、少年たちはやはり、視線を上げずに誰も答えようとしなかった。
「殺した訳じゃねえよな?」
「……ま、まさか……」
「そっすよ。ただ、ちょっと気絶させて……放り込んだだけっス」
「へえ、放り込んだ・だけ……か?」
「り、リーダー?」
「じゃあ、オレがてめえら気絶させて、ミドルエリアに、放り込んでやろうか?」
「…………っ!!」
「されたくないなら、しない方が良いな。因果応報……結局、自分のやったことは自分に巡って来るもんだぜ?」

 そう言いながらも、パスの組替えが旨く行かず、焦りが生じる。

「英二たちが、入ってどれだけ時間が経った?」
「……え? あ、正確には判んないッスけど」
「大体で良いんだよ!」
「……10分くらいです……」
「武藤がまともなら、そう焦ることもねえんだがな……」

 あの強さだ。
 ミドルエリアの連中でも、数人なら軽くいなすことが出来るはずだ。
 英二と一緒なら、まさに心配する必要もないかも知れない。
 だが、気絶していたとなると、話が違って来る。
 英二一人で、遊裏を守りながら戦うのは、分が悪過ぎる。

『克也? 聞こえる?』
「……周助?」
『こっちから、firstgateにアクセスしてみた。もう直ぐ開くよ』
「……また、そう言う離れ業を……』
『助かったって言って欲しかったんだけど……? それとも余計な手出しだったかな?』
「まさか。サンキュー! 助かったぜ!」
『最初からそう言えば良いんだよ』
 苦笑しながら、周助が言う。
 ゆっくりと、gateが開き始めた。



   ☆   ☆   ☆


『本当に一人で行く気なの?』
『……遊戯と二人で作り上げたこの千年パズル。それがオレに見せたビジョンを信じたい……。もし、遊戯がそこにいるのなら、助け出して、一緒に暮らす……だから、オレは行かなきゃいけないんだ』
『遊裏……』
 遊裏の腕っ節は知っていた。
 だが、不安が募ったのも事実だった。
 もう、二度と会えないような……そんな不安が胸を打つ。

『ねえ、約束して』
『? 何を……?』
『必ず帰って来るって。遊戯と二人で……必ず戻って来るって約束して。じゃないと、私、このことおばさんに話す……先生にも言うわ』
『……杏子』
 遊裏は真剣な表情で自分を見つめて来る幼馴染みに、軽く笑って答えた。
『決まってるじゃないか。必ず帰って来るさ。オレも遊戯も……』

 杏子にそう告げて、遊裏は早朝に家を出た。





 ――頭が……痛い


 家を出たのは……2日前……。
 たった2日しか経ってない。
 まだ、遊戯に会ってないし、まだ、帰ることは出来ない。

――何で、こんなに頭が痛いんだ?

 

「……気がついたか?」
 声が聞こえた。
 低い……声……。
 心臓が……跳ね上がるような感覚……。
「……か、つや……くん?」
 何とか目を開けて、自分の目に映る姿に、一瞬克也の姿を見たような気がした。
 だが――
「……英二?」
「ガッカリ……させちまって……悪かったな……」
 あからさまにガッカリしたような声を出した遊裏に、英二が苦笑を浮かべつつ言った。
 
 何で、ガッカリなんかしなきゃならないんだ?
 ……まるで、自分が克也を待っていたみたいではないか……。




 ぽたりと。
 自分の額に滴が落ちる。
「……英二? ここは……? 一体、何が……?」
 焦って身を起こそうとすると、頭に激痛が走った。
「……痛っ!!」
「無理すんな。頭、切れてんだよ」
「……え?」
 巻かれている布の感触に、遊裏は眉を顰めた。
「そうだ……確かに……朝の奴らに……」
「リベンジされたんだよな。でも、今はそれどころじゃねえぞ」
「……え?」
 このときになって、遊裏は初めて回りを見回した。
 自分たちを中心に風が回っている。
 その向こうに、こっちに手を出したくても出せないでいる人間が何人も群れているのが見えた。
「何? 英二……! 大丈夫なのか? 凄い汗だぞ!?」
「あ……ああ。ま、まだ……」
「……この能力……無限な訳じゃないんだな?」
「当たり前だろうが……。精神力を結構使う……もう、頭の痛ぇし、目も痛いし、腕も痛い……」
「……ずっと……ガードしてたのか? オレが気絶してたから……」
「……リョーマに頼まれたんだ。後、克っちゃんのお気に入り……怪我させる訳にはいかねえだろう?」

 自分の意志ではないんだと、暗に告げて来る英二に、遊裏は少しだけ苦笑を漏らした。
 ポケットを探って、パチンコ玉の数を確認する。
「何人ぐらいいるんだ?」
「さあ? 見た感じ、20人くらいかな」
「……一人頭、10人か……」
「はあ?」
「オレは、これで、英二はその能力で……取り敢えず、目の前の敵をぶっ倒そう……」
「大丈夫なのかよ?」
「……さあ? 頭がフラフラするから、狙いは外れるかも」
「……あのなあ」
「でも、英二のそれはいつまで持つ?」
「…………」
「少しでも動ける力が残ってるなら、攻撃に出るべきだ」
「……お前、本当に一昨日まで外界に居た奴かよ?」
 呆れたような英二の言葉に、遊裏は軽く笑って見せた。
「これでも、外でオレに喧嘩を売る奴はそう、居ないんだぜ」
「……なるほど……」
 何がなるほどなのか。
 よく判らないまま、英二は呟き、ニッコリ笑って見せた。
「……本当に走れるんだろうな? 歩いてたんじゃ間に合わないぜ?」
「ああ。大丈夫だ」

 起き上がって、しっかりと足を地に付けて、その手に指弾を握り締める。
「そんじゃ行きますか……」
 調子を合わせて、英二が風の結界を解いた瞬間、二人は左右に分かれて駆け出した。
 それに、相手側が多少、虚を付かれた形になったのが判った。
 走り様に、遊裏は指弾を、英二は風の刃を相手に叩きつける。

 そうして、合計4人が、動きを封じられた。
 二人が狙って居るのは当然、足である。
 足を止めることで、機動力を奪い、遊裏も英二もその懐に飛び込んで、当身を食らわせ相手を昏倒させた。

「……遊裏。分担した方が良いかも。遊裏の指弾で動きを止めて、オレが気絶さす……ど?」
「……そうだな。その方が効率が良い」
 背中合わせに立って、遊裏は英二に視線を向けないまま、頷いた。
 そうして、ほんの一瞬。
 タイミングを計る意味を込めて、本当に一瞬だけ英二に視線を向けて、指弾を放った。
 それと、ほぼ同時に、英二は指弾が当たった者たちを、当身と蹴りで、気絶させて行く。

 半分以上が倒されて、さすがに、相手側も、こちら側がただの【獲物】では収まらないことに気が付いた。

「……コイツ……風使いの菊丸じゃないか?」
 誰かがそう言った。
「へえ? オレも結構、知れてんだな」
 肯定の意味を込めて、英二が言い、さらに、どよめきが響き渡る。
 最初に、英二が風の刃を使ったときに気付くべきだった。
 ジリジリと、何人かが後ずさりを始めると、それが全体に伝染するのは早かった。
 弾かれるように全員が、倒れた者はその場に残して逃げ出したのである。

「……英二って……そんなに恐れられてるのか?」
「ああ言うのは、弱い奴に集ってエラソぶってるだけな奴らだからな」
 英二は、気楽にそう言って、両腕を頭の後ろで組んで遊裏を見返った。
 ふと、英二がこちらを振り向いた、動作の途中……英二の少し向こうの建物の影にいる何か、小さく光るのが見えた。
「英二!?」
「え?」
 気が付いた時には、それは英二の肩を掠めていた。
 紅い……液体が、飛散する。

「……カマイタチ……!?」
 英二は肩を抑えたまま、振り返り、遊裏を自分の背に隠す形で立った。
「英二?」
「誰だ? 隠れてねえで、出て来い」
「あんたが、菊丸英二か」
 長身痩躯の、目付きの鋭い青年が、タバコを咥えて、姿を見せた。
「……」
「……まあ、別に認めなくても良いけど。まさか、同じ能力を持ってる奴がいるとはね。さすが【Millennium・Palace】ってか?」
「……誰だ?」
 英二が再度の問いかけをすると、青年は唇の端を吊り上げて、笑みを浮かべ、
「最近、ここに来た新参者だよ」
「………」
「でも、ここを統轄する二つのグループ。【Radius】と【Flame】の話は聞いてるし……。その幹部のことも、それなりにな」
 そう言って、タバコの煙を吐き出す。
「……同じ能力……風を操るってことか?」
「まあ、そう言うことだな」
 答えと共に、風の刃が英二目掛けて、放たれる。
「英二!!」
 遊裏を背中に隠したまま、後ろ手に腕を掴まれて、動くに動けない。
 何とか、上半身を無理矢理に動かして、英二の向こう側を覗こうと試みた。
 だが、英二の手が、遊裏を逆方向に強く引いた。
 その瞬間。
 英二の左腕を、風の刃が切り裂いて行く。
「動くな。遊裏」
「で、でも……英二、怪我……っ!」
「大丈夫……。ほんの上辺が切れただけ。ただの牽制だよ」
 英二は小さな声で、そう答え、真っ直ぐに青年を見つめた。
「……」
「あんたは……その気になれば、オレの腕を切り落とすだろう?」
「……はっ! 良く判ってるじゃねえか?」
 さも楽しそうに、笑って見せる青年に、得体の知れない余裕が見え隠れしている。
 そんな、相手に、遊裏は背筋に悪寒が走るのを感じた。
「……英二……」
「……時計、壊れてない?」
「え? あ、ああ。動いてる……」
「今、何時?」
「…………2時45分……」
「なら、後……もう少しだ」
「え?」
 英二の言葉の意味が掴めず、遊裏は問い返したが、それには、返事をせず、英二は全然別のことを口にした。

「――遊裏」
「え?」
「gateの前に行ってろ」
「何で?」
「良いから!」
 英二が強く言って、遊裏は数歩だけ後退った。
 その背中に、触れていた手が、離れた瞬間――
 英二と、相手の青年が同時に動いていた。

「甘いぜ、菊丸!」
「何……っ!?」
 後方に、押し遣った遊裏は、完全に無防備状態だった。
 直ぐに――とは言っても、早くて30分はかかるのだが――gateが開くと踏んで、どうしても、gateの側を離れられず、ましてやミドルエリアの奥に向かうなど、言語道断だった。

 だから、gateの方に近付くように。
 自分から離れるように言ったのに……。
 相手は――跳躍した英二の、さらに上から遊裏を狙って風の刃を発動させた。


「……っ!!」
 自分に向かって飛んで来る風の刃に、遊裏は思わず目を瞠った。
 ただ、後退するのみで、常時であれば、躱す動きが取れる筈なのに、動くことが出来ない。
「……くそっ!」
 英二の身体が浮き上がった。
 そのまま、低空飛行で、遊裏に向かって飛び、刹那の差で、遊裏の身体をその腕の中に抱き締めていた。
「英二……っ!?」
 青年の放った風刃は、英二が纏った風がシールド代わりになって弾かれて消える。
 同時に、英二の風も打ち消されて、そのまま地面に倒れ込んだ。

「英二!」
 肩で息をする英二に、遊裏が焦ったように声をかける。
「……どうして? 君はオレのこと信用してなかっただろう? 何で、こんな……」
「……おチビに……泣かれたくないから」
「え?」
「克っちゃんが……切れるとこ見たくねえから……」
「……」

「オレが、後悔したくねえからっ!!!」

 そう叫ぶように言って、英二は空中に浮かぶ青年目掛けて、自分の風の刃を解き放った。

 その攻撃を、難なく躱し、青年はゆっくりと地面に降り立った。
 だが、その背後から左肩を掠めるように風が通り抜けた。

「……何……っ!?」
「油断大敵大胆不敵ってね……」
「……英二?」
 掠れるような声で、にんまり笑って英二が言う。
 自分の左肩から流れる血に、青年は暫し茫然としていた。

 だが、不意にクツクツと笑い出し、その笑い声は高笑いに変わって行く。

「面白ぇ……ゾクゾクする」
「……あんた、危ねえんじゃねえの?」
「そうかもなぁ……。どうせ、ここに入って来た時から……否、その前からか……どうせ、オレは狂ってるからな……」
 不意に笑みを消して、青年は、自身の周りに、吹き始めた緩やかな風に、身を委ねるようにして、真っ直ぐに腕を伸ばした。
「……」
「英二……」
 汗がこめかみを伝って、地面に落ちる。
 もう、精神的にボロボロになっているのは、見ていても判るのだ。


(このままじゃ……英二が……)

 風が渦を巻き、竜巻へ化して、徐々に勢いを増して行く。
 青年の意志に従うように、英二達に向かって迫って来た。
「英二、逃げないと!!」
 遊裏は英二の腕を自分の肩に回し、何とか引き摺るように動こうとする。
「……! 遊裏、伏せろっ!」
「え?」
 疑問に思う間もなく、英二は遊裏の身体に体重をかけるように前のめりに倒れこんだ。

 地面に伏せた二人の、上を……炎の奔流が疾りそれは、竜巻に打つかって、竜巻は炎の渦に取って変わられた。

「……何?」
 青年は、自分の意に従わなくなった竜巻に、目を瞠った。
 いつの間にか、gateが開いていた。

「散れっ!」
 怒鳴ると同時に、炎の竜巻は霧散して消えた。
「何だとっ!?」


 自分の横に立った人物に……。
 そのたった一言を発した声に――
 遊裏は何だか、泣きたいような感情を憶えた。
 もちろん、本当に泣いた訳ではない。
 ――ホッとする安堵感。
 もう、大丈夫なんだと、根拠なく思った。
 立ち上がろうとして、英二が動かないことに気付いて、声をかける。
「英二?」
「気絶してるだけだろう? よく保ったぜ」
 感心するように彼が言った。
「さすがだな……英二。サンキュー」
「……克也くん……」

 遊裏の声に、克也は少し苦笑しつつ、その頭に巻かれた包帯代わりの布に舌打ちを漏らした。
「怪我してるのか?」
「あ、ああ……これは……」
 言いかけて、人の気配に振り返った。
 gateの向こう――【Flame】の領域にいる、自分を襲った少年たちに気付く。
「……あいつらにリベンジされたものだから」
「ふーん……」
 克也はそう言って、視線を一瞬だけ少年たちに向け、直ぐに風を操っていた青年の方に視線を返した。
「で? 初めて見る面だな」
「……あんた、ミドルエリアの住人全部を把握してんのかよ?」
「まさか。ただ、そう思っただけだ」
「……炎使い……【Flame】のリーダー、城之内克也か」
「へえ、オレのことを知ってんのか?」
「そりゃ、有名人だからな……。どうよ? あんた倒したら、オレはFlameのリーダーになれるって訳だ?」
「オレを倒す?」
「ああ、そうすりゃ……Flame領域はオレのものだ」

 遊裏は、何気なく克也に視線を向けた。
 表面上、何も変わっていないように見えた。
 だが……。

「……本当はな。オレも面倒なんだよ、こんなとこでリーダーなんざやってんのは……」
「へえ? なら、とっとと出ていけば良いじゃねえの?」
「そうだな。でも、そうもいかねえんだよ」
「……何で? 居たくもねえ場所にいる必要がどこにある? 面倒なことなんざ、さっさと放棄しちまえば良い」
「……駄目なんだな」
「だから、何でだよ?」
「簡単だろ? オレは、オレと一緒にいる奴らが好きだからだよ」

 強い意志を持って、毅然と言い放つ。
 その目は、真っ直ぐ相手を射抜くように見据えて、揺るがない。
 ――すっと、克也は上着の下から拳銃を取り出した。
「ここは、銃火器を持って入れねえんじゃねえか? だから、機動隊だの何だのが入れねえって聞いたけどよ?」
「このMillennium・Palaceに害するものを寄せ付けない機能が……どっかにあるらしい……」
「……」
「でもな……オレは特別なんだよ……」
 克也が、引き金を引いた。
 銃声が響き渡り、遊裏は愕然と目を見開いた。
「……克也くんっ!?」
 英二が、傷付けた青年の逆の腕から、白い煙が立ち昇り、焦げた臭いが漂った。
「……っ!?」
 克也は銃口を空に向けて、引き金を引く。
 銃声は響くが、弾丸は出ない。
「……空砲?」
「ああ。これは、弾が入ってない……って言うか……。ま、エアガンに近いかもな」
「……エアガンって……オモチャかよ?」
 呆れたように青年が言う。
「ちょっと違う。エアガンに近いがエアガンじゃねえ。拳銃そのものは本物だ」
 青年が、痛みと出血に、耐え切れないように膝をついた。
「……これは、オレから英二を傷付けたことに対する返礼だ。悪く思うな?」
 そう言って、克也は英二を抱き起こし、背を向けることはせずに、後退った。
「クク……」
「?」
「……ククク………」
 先ほどと同じ。
 忍び笑いが、高笑いに変わって行く。
「……面白ぇ!!!」
 言った瞬間。
 風が一斉に襲い掛かった来た。
 まさに、そんな感じだったのである。

 ――気絶している英二には、本能的に防御機能が働く。
 だから、克也は英二をそのまま、ミドルエリアの外へと突き飛ばす形で、放り投げた。
「……英二さんっ!」
 それを、少年たちが慌てて受け止める。
「武藤っ!!」
 克也は、暴風に煽られている遊裏の前に立ち、その身体を抱き締めて蹲った。
「か、克也くんっ!?」
 そこまでの出来事は……本当に一瞬のことだった。
 遊裏は克也に覆われた瞬間。
 物凄い突風が、吹きぬけて行くのを感じた。
 風の音で、他の声も音さえも聞こえない。









 ――風がやんだ時。


 血の匂いが鼻を掠めた。

 自分も英二も、血を流している。
 なのに……この噎せ返るほどの鉄のような臭いは……何?





 自分を……包み込んでいた克也の身体がゆっくりと傾いだ。



「……克也……くん?」
 前側以外……腕も足も……真っ赤に染まっている。
 地面に倒れた克也は……身動き一つしなかった。
「克也くん!」
 慌てて抱き起こしたその背中が……生暖かい感触に、遊裏の神経が麻痺をする。
「……な、んで……?」
「……クク……
あーははははっ!!! これで、オレが、Flameのリーダーだっ!!
 青年が、高笑いをしながら何かを言っている。
 だが、遊裏には、言葉は聞こえていても、それを把握するのに時間を要した。



「……にが……リーダー……だ」





 ――浮かぶのは、穏やかなFlame領域の空気。
 始末に終えない悪ガキも居るけど、それでも、和やかな笑みがこぼれる空間を……この人が……作り上げていた。
 今、自分の腕の中で、身動き一つしない、この人が……仲間たちと一緒に……っ!!




 心臓が……煩いくらい音を立てる。
 頭が痛い……。
 もう、何も考えられない。
 目の前が沸騰する……。



 ミレニアム・パズルの……不思議な目の紋様が光を放った。




   ☆    ☆    ☆


「……手塚くん」
「何だ?」
「……海馬くんは、まだ帰って来てないだろ?」
「ああ。アイツはあれで、海馬コーポレーションの社長だからな」
「うん。あのね、ミドルエリア、Aブロックに行きたいんだ」
 突然の遊戯の申し出に、手塚国光は怪訝な表情をして見せた。
「……何故だ?」
「ミレニアム・アイテムが力を発動した。だろ?」
「終くん。うん。多分、遊裏が持って来たミレニアム・パズルだ」
 銀髪の髪を短めにした、体格の良い褐色の肌の青年が、戸口に立っていた。
「オレが連れてってやろうか? 遊戯」
「……駄目。ミレニアムリングを外して行くなら良いけど」
「………ちっ!」
 そう言う遊戯は、既に普段つけている、ミレニアム・タウクを外している。
「判った。ことは急を要するか?」
「そう。だから……ワープホールを使う。君の許可が必要だ」
「……判った」

 そう言って、手塚は歩き出し、遊戯はその後に続いた。

「拙いな……急ごう。手塚くん」
「ああ」

 その言葉を合図に、手塚と遊戯は駆け出した。
 肩を竦めて、獏良終は、二人を見送ったのである。




<続く>


    



まただよ……(遠い目)


なーんーでー



いっつもいっつも克也に怪我をさせる

んだよっ!!?



ここで止(と)めたら、【MW】の二の舞だぞっ!!



千年パズルの力が発動って言ってるけど、それはちょっと違って、判りやすく説明を省くための方便で、遊戯くんが言ったときはまだ、発動していません。
でも、嫌な感じをMillennium・Itemを持つ遊戯と終は感じたということで。
今気付きました。千年タウクの力で先を見たってことですね!そうだよ、タウクは、少し先の未来を見ることが出来るんだから(笑)
ちなみにこの獏良終。獏良くんの三つ上の兄で、盗賊王の方です。ええ、ゾークではありません!!(笑) まあ、元々盗賊王の外見でイメージしてたので。
さてさて、英二と同じ風を操る相手の青年。
誰か判りましたでしょうか? 判るよな、日記にちょっと零したし;;

彼は、言ってる通り、ミドルエリアの支配者ではありません。
新参者です。

ミドルエリアの支配者はその内、跡部様にでもなって頂こうかと。(笑)
後、橘部長か……そう言えば立海大付属って、部長誰?(滝汗)
今はまだ、バラバラと言うか……そんな感じ?

跡部と海馬が出会うシーンってあんまり書きたくないんですけど、どうでしょう?(笑)

はてさて。これから一体どうなってしまうのか?
どこに向かっているんだこの話!
……次回、請うご期待!(しなくて良いです……;;)