Act.4 Festival 2


 街の外れの高台にある町長の家に着くと、すぐさま二人の青年が飛び出して来て、サクノの前で一礼した。

「お帰りなさいませ、姫さま」
「あ、まだ帰って来た訳ではないです。あの、ユーリさまのお友達の方たちと一緒に、お祭り見学させて頂きたくて」
「それは……」
 柔和な顔立ちに、優しそうな目をした青年が、困ったように背後を振り返った。
「……信用出来るんですか? 姫さま」
 静かな口調で、もう一人の青年が口を挟む。
「……ええ。全員、ミレニアム・パレスの方ですし」
「……判りました。ですが、やはり我らの同行は拒まれますか?」
「ごめんなさい。でも、ラントやシュウが一緒では、きっと皆さんが、色々と……」
 言葉を濁すサクノに、ラントと呼ばれた青年は、あまり表情が変わらないものの、眉根を寄せて黙り込み、シュウと呼ばれた青年の方は苦笑を漏らした。

「確かに……。俺たちがいたんじゃ、気後れしますね。ユーリ殿。後のことは、貴殿にお任せして良いですか?」

 サクノの後ろに立っていたユーリは、シュウの言葉に頷いた。

「それが、オレの仕事だからな。一緒に居るのは、腕は確かな一級召喚士と特級召喚士だ」
「……なるほどな。そう言うことなら、貴殿に任せよう」
「……了解した」

 玄関のホールでそんなやり取りをして、サクノとユーリは、再び踵を返して、屋敷を出ようとした。



 屋敷の中には入らず、外の庭園で、ユーリとサクノを待っていた面々は、突然聞こえた、爆音にハッとしたように、顔を上げて周りを見回した。
 再び聞こえた、爆音にユーギがその方向を指差した。
「あっちの方だ。行ってみよう」
「ああ!」
 ユーギとエージが駆け出し、その後を、リョーマと克也も追う形で、走り出した。






 屋敷の建物を回り込んで、裏庭に当たる場所に。
 大きな檻があり、その中に真っ黒な竜が閉じ込められていた。


「ま、まさか……」
「れ、真紅眼の黒竜?」

 ドラゴンは、その大きさを自由に替えることが出来る。
 だが、そのドラゴンは元の大きさのまま、檻の中で暴れて、所構わず炎を吐き出していた。
 管理でもしていたのか、男が3人ほど、その場に倒れていた。




「どう言うこと? 何でこんな所にレッドアイズがいるのさ?」
「……判らない。でも……契約している訳でも向こうから懐いて来た訳でもないモンスターを、こんな形で、捕縛することは禁じられている筈だよ」
 エージとユーギが愕然と言い合う。
 克也は、檻の中で暴れる黒い竜を見つめて、すっと足を踏み出した。
「ジョーイ?」
「……違法なんだろう? なら、逃がしてやりゃ良いじゃん。んなとこで、暴れて、自分自身も痛めてるぜ、コイツ……」
 檻にかけられた鍵を、ポケットから取り出した針金で、少しいじると、鍵が開いて、掛け金が外れた。




「何をしてるっ!!?」
 聞こえた怒号に、克也はハッとし、それと同時に鍵を開けたことによって、放たれた何かが、克也の身体を吹き飛ばした。
「ジョーイ!!」
 慌てて駆け寄る3人は、その気配ハッとして檻を見返った。
 鍵の封印に使われていたのか。
 不用意に鍵を開けると、解き放たれるようになっていたらしい、そのモンスターに。

 3人は愕然となった。







 現れたのは、【デーモンの召喚】と呼ばれる、攻撃力、レベルともに高いモンスターで、この封印を施した召喚士のレベルの高さを実感させるに十分だった。

「ジョーイ!」

 強かに木に全身を打ちつけていた克也は、それでも何とか、立ち上がっていた。
 だが、目の前にいるのは、巨大なモンスターで。
 圧倒的な存在感で持って、そこにいた。


 モンスターの存在も、その姿も、ミレニアム・パレスで散々見て来た克也には、今更驚くに値しないが……。
 何故か、自分の全身が総毛立つような感覚に、冷や汗が流れた。

「何てことをしてくれたんだ!! 勝手に鍵を開けるなんて!!」
 怒鳴る男の声に、克也は視線をそちらに向けた。
「でも、レッドアイズが貴方の召喚モンスターなら、スパイラに封じられている筈です! それを、こんな形で、捕縛することは、禁止されてる筈だ!」
 ユーギの抗議に、その男は鼻で笑って答えた。
「そんなものは、召喚士が勝手に決めた名目に過ぎない。こう言うモンスターは、力はないが金はたんまり持ってる召喚士に高値で売れるんだよ」
「なっ?」
「もっとも、これを要望したのは、ドミノ王国第二王子のケーゴ殿下だしな」
「……あんた……王族への点数稼ぎだけに、このモンスターを捕まえた訳?」
 リョーマの低い問いかけが、静かに響き渡る。




 今は、まだ檻の中にいるレッドアイズも。
 解き放たれたデーモンの召喚も。
 その場に、静かに佇んでいるだけで――






「この町の発展を願うためには、仕方がないのさ。国に媚び売ってでも、安泰を図るためには仕方ないことなんだ。ガキどもには判らんだろうがな」
 判ったように言う男に、ユーギがキッと強い視線を向けて、

「……あなた、この町の町長か?」
「ああ、そうだ。最近は、不景気でな……今日のような大規模な祭りも来年には難しくなる。後押しをして頂くのに、手段を選んではいられんのだよ」
「……」
 珍しく、怒りを顕わにするユーギに、克也は少しだけ痛みの引いた身体を、動かして前に出た。
「ジョーイ?」
「……オレは……魔道士でも召喚士でもねえ。でも……召喚士と契約を交わして、その傍に寄ったモンスターはみんな大人しくて……優しくて、可愛げがあって……何より、幸せそうだった」
 デーモンの召喚が立っている横を通り過ぎ、檻の中にいるレッドアイズを見つめて、
「でもよ。それって互いの意に添って、取り交わされた約定で……。だから、幸せそうなんだよな?」
 静かな克也の声に、レッドアイズがその真紅の眼を克也に向けた。
「自分の意に添わない契約を強いられて、しかも……てめーでそのモンスターを探すことさえ放棄して……そんな奴に……コイツのマスターになる資格なんかあんのか?」
 たとえ、そこでレッドアイズと闘って、勝利したとしても。
 それで、契約が成り立つとしても。






「金銭でやり取りされたモンスターを、自分の召喚モンスターと呼ぶのは、些かプライドに欠ける行為だな」
「ユーリ!」
 騒ぎを聞きつけて、遅れてやって来たユーリがそう言い、傍にいたサクノがキッと町長に目を向けた。
「……たとえ、兄上の命令でも……違法取引は厳罰に処されるはず。私は、このことを、父王陛下に申し立てます」
「なっ!? 姫さま!?」
「そのデーモンは、貴様のモンスターではないだろう?」
 ユーリの言葉に、町長はビクッと肩を震わせた。
「ブラックマジシャン、召喚」
 ユーリが掲げた剣から、青年姿の魔法使いが現れて、ユーリの隣に立つ。
「デーモンに攻撃しろ。ブラックマジシャン」
 ユーリの命令に、ブラックマジシャンが杖を上げる。
『黒・魔・導!』
 ブラックマジシャンの攻撃に、デーモンの姿が、砕け散った。

 同時に、克也が檻の中へと足を踏み入れる。
「ほら……お前、小さくなれるんだろう? だったら、小さくなってこんな檻出ちまえ」
 レッドアイズを見上げて、克也が言い、レッドアイズはその真紅の眼を克也に向けていた。
 暫くして、レッドアイズの身体が微かに震えると、その姿が収縮し始めた。
 そうして、翼を羽ばたかせて、レッドアイズは檻から飛び出した。
 そのまま上空へと、飛んで行くのを、克也は眩しそうに見送った。










「取り敢えず……。モンスターの違法取引は犯罪だ。貴方の身柄を拘束させて貰う」

 ユーリの言葉に、サクノの隣にいたシュウとラントが動いた。
 二人に連れて行かれる町長を見送って、ユーリは困ったように、ユーギたちを振り返った。

「このまま、祭りを続けても良いんだろうか?」
「……あ」
「と、取り敢えず逮捕するのは、明日にして、今日はさ。楽しもうよ! ね? どうせ逃げられないんだし!」
「……でも」
 リョーマが、何か考えるように口を開いてユーリに視線を向けた。
「……町長にモンスターを渡した奴は? あのデーモンのマスターは……どう出るかな?」
「……ああ。オレも、それが気になるんだ」
 溜息とともに、ユーリは呟いた。

「ところでよ。何で……リョーマたちはモンスター召喚しなかったんだよ?」
 檻の中から出て来た克也が不満げに問い掛けると、3人は顔を見合わせて、ケロッと言った。
「「「だって、スパイラ持って来てないから」」」
「は?」
「……不用意にモンスターを召喚したりしないように、オフの召喚士はたいてい、スパイラを持ち歩かない。まあ、精霊魔法は使えるけどな」
「ああ、なるほど。非番の日に、刑事が拳銃持ち歩かないのと一緒か……」
 ユーリの言葉に、克也は自分に一番しっくり来る具体例を思い出し、頷きながら呟いた。





「んじゃ、なんか食べようよ! お腹すいたし」
「折角だし、屋台で何か買おうか?」
「うん! そうしよう、ね、おチビ」
「……クレアス・ピタ……食べたい」
「あ、オレも!」
 賑やかに歩き出す3人の後に続きながら、サクノに声をかけた。
「何か食べたいものはあるか?」
「……皆さんが、召し上がるものと同じで良いです」
「そうか? だが、歩きながら食べたことはないだろう?」
「え? 歩きながら食べるんですか?」
「……食べ難い物は、そうないから、大丈夫だ」
 どこかオロオロしているサクノに苦笑を浮かべながら、克也も歩き出した。







 と、不意に影が差したと思った瞬間。
 物凄い体重を背中に感じて、同時に克也は前のめりに倒れ込んだ。


「な、なんだあ?」
 振り返ったユーリとサクノが、驚きに目を見開いている。
「ゆ、ユーリ? な、何なんだ?」
「レッドアイズ……」
「へ?」
「さっきの、レッドアイズだ」
「な? 何だよ? 一体……」

 何とか身体の向きを変えて、背後を見ると、確かに真っ黒なデッカイ竜が、自分の背中の上に乗っかっている。
「……てめえ……どう言うつもりだ?」
 問い掛ける克也を、まるで無視するように、レッドアイズは克也の首にかけられた、ペンダントに目をつけた。

「え?」
「!」

 見る間にレッドアイズの体が、克也のペンダントに付けられていたクリスタルに、吸い込まれて行く。
「ちょ、ちょっと待てよ? ああ? 何だ、こりゃ?」
「……ジョーイ……やっぱり、君は魔力を持っているのか?」
「はああ?」

 愕然としたユーリの問いかけと、自分のペンダントヘッドに入り込んだレッドアイズに、克也は混乱したように、その場に座り込んで、暫く動くことが出来なかった。





……えと、新キャラ……ラントとシュウ……って
誰か判りますか?(滝汗)
……ラントって国って意味なんですよね〜(遠い目)

さて、レッドアイズが克也を気に入って懐きました。
克也には潜在的な魔力が存在してるんでしょうか?

どうして、それが今は前面出てないんでしょうか?
ってか、異世界地球の人間である克也に魔力があるのは、何故でしょうか?

どう考えても、このシリーズ克也が主人公ですね。

変だな〜ユーリが主人公のはずなんですけどね。
ってか、最近心理描写がないな。

表面だけをなぞってる気がする。
掘り下げた方が良いかもな。うーん……;;;